収束する最恐
私の行使したこの能力はその場の空間そのものに干渉し掌握する。だから私の求める結果以外は発生しない。前に魔女の集会の長であるメーディアに対して使用したことがあるけど、この状態になってしまえば私が負けるという事象そのものも発生しなくなる。
「【審査】…と、言うべき能力かな。…それで、伊弉冉と蘇芳たちを殺した奴らの情報を話しなさい。」
私は彼らに問う。彼らは私に質問の答えを口にする以外に選択肢は発生しない。私が本気を出せば例え首を落とされても死ぬという結果すら発生しないように出来る。だから、黙り続けるという結果なんて起きないんだよ?
「…伊弉冉を殺したのは、奴ら。」
「…その奴らって何者。個人じゃなくてグループなんでしょ。誰なのそいつらは。」
今までの会話の内容から複数居るのは分かっている。個人であの伊弉冉と蘇芳を殺せるなんて考えられない。…理華だって、本当に強いのに、自殺みたいな死に方をしたなんて考えられないよ…。
「…分からない。」
竜田姫さんが分からないと答える。…そんな、そんな回答なんて求めていない!誰が彼女たちを殺したのか言え!
「でも、奴らの情報なら答えられる。」
「…奴らって、直接伊弉冉たちを殺した奴らってこと?じゃあ、首謀者は知らないんだ。」
彼女たちの事情は分かってきた。彼女たちもいきなりこんな状況になって困惑し、真実を追っていたのだろう。ならやっぱり彼女たちは私の仲間だ。出来れば彼女たちとは敵対関係にはなりたくない。
「なら言いなさい。実行犯は誰?」
私は真相に迫ろうとした。しかしその時と同じくして状況が変化していく。それも悪い方向にだ。
『ミヨ!そっちで僕の能力を行使した!?しかも大規模で!』
パスを通じてアインの焦った声が頭の中に鳴り響く。…間が悪い。もう少しで聞き出せそうなのに…。でも、アインの焦り具合が尋常ではない。何か私がやってしまったのかな。
『うん、でも後で事情を話すよ。』
『そんな暇はない!こっちへ戻れる道にまで影響してしまっている!このままではミヨは戻れなくなるよ!』
「え?私のこの能力の影響で…?」
出力を上げすぎたか?それとも【多次元的存在干渉能力】が悪さしたのかな。
この能力は様々な次元に干渉する能力だけど、干渉した結果としていつも私にとって良い方向へと向かうわけではない。私の求める結果のみを引き起こすと言っても刃物と同じで、使い方次第で自分すら危うくなる危険な能力だ。
しかも性質上、効果範囲や射程距離なんてあってないものだからどれぐらい干渉してしまうのかすら本人ですら把握しきれない。
恐らくあの時間の流れにも干渉してしまうこの能力が原因で、私がここに留まることが出来なくなってしまったのだろうと思う。
『もう少し、駄目なの?あともう少しで…』
『駄目だ!早く戻ってこい!そこに居たければ話は別だが、次に繋ぎたければ来い!』
私のすぐ背後から時間の流れが漏れ出してきた。そしてその時間の流れにはアインとマザーの操る機械人形が写し出されていて、私に手を伸ばしている様子を見ることが出来た。
「…次、か。…分かったよ。」
私は竜田姫さんから聞き出すことを諦めて時間の流れへと飛び込んだ。この時間から離れるせいか音が聴こえなくなり無音の時間が訪れた。しかし私には聞こえたのだ。
竜田姫さんが私に必要な情報を口にし、私はそれを探知能力で得ることが出来た。…ありがとう竜田姫さん。これで仇が取れる。
私が竜田姫さんに心の中でお礼をし終わる頃には空間の揺らぎが消えて見覚えのある真っ白な部屋に戻っていた。どうやら無事に戻れたらしい。あの時間に取り残されなくて本当に良かった。
「…何があったのか聞かせてもらうよ。」
「我々にも情報共有を。お役に立つと約束します。」
帰ってきて早々、アインとマザーが何が起き、何を見てきたのかを問い詰めてきたので、私は簡潔に見てきたものをアイン達に説明をした。
竜田姫さんたちは生き残っていて、伊弉冉と蘇芳、そして理華や世界中の人々がある者達の襲撃で死んだこと。それに私や死神が居ればこの状況を防げたかもしれないことを説明するとアインは難しそうな表情で熟考を始めてしまった。
「…バグが人類に攻撃した歴史と酷似していますね。」
マザーがそんなことを口にした。機械のくせして中々に鋭い。私も同じ事を考えていたし、恐らくその考えは合っている。
この一連の動きが1巡目の世界で起きたバグの襲撃と酷似しているのは、1巡目の世界と2巡目の世界が似たルートを通っているからだ。1巡目の世界で起きたことは2巡目の世界でも起きるというのは私と先生の間で共有している考え方で、アインもそのことに気付いている。
つまりこの状況は起きるべきして起きた事象ということだ。だけど、今回に関しては道理が通らない気がする。だって、2巡目の世界では蘇芳が対策を講じていたからだ。
蘇芳は1巡目の世界での悲惨な結末を避ける為に私という特異点を使って策を弄したけど、特にその策の中でも重要だったのは私が子供を産めない身体にすることだったと思う。
バグは元々私の子供が能力で生み出したもので、人類が地上から居なくなったのはそれが原因だ。だから私が子供を産めない身体にすればバグは発生しない。しかし今回に関してはバグ無しでも人類は絶滅の危機に瀕していた。
ということは代用したものが2巡目の世界にあったということになる。その代用されたものは竜田姫さんから聞いたから分かっているけど、解せないのは蘇芳の動きだ。彼女は何がしたくて何をしたのかが分からない。
蘇芳は3巡目の世界へ向かうことを目的としているけど、その目的にはあの結末が必要だったのかな。単純に私と先生が居なくてなって対応が出来なかった可能性もある。しかしそれだと放置していた理由も良く分からない。すぐに対応すればこんなことにはならなかった筈だ。
「…直接聞き出すしかない。」
熟考を終えたアインが私に提案をする。私も同じ事を考えていたからアインも私と同じ所までは辿り着いたのだろう。蘇芳の動きが不自然なものであることを。
「なら私が行きます。アイン相手だと絶対に喋らないですよ。うちの妹はアイン達のことを嫌っていますから。」
「…そうだろうね。」
どうやらまた戻らないといけないらしい。そして蘇芳に聞かないといけない。どうして調整体を野放ししていたのかを。
「…戻ってしまうのですか?」
「なに、機械のくせに寂しいの?」
マザーが機械の平坦な声で器用にも寂しそうな言い方をしてきた。
「寂しい…?我々が?」
「あれ、違ったの?」
「イトウミヨが居なくなると我々の時間そのものが消え失せる可能性があります。なので居なくなられるのはとても困るのです。」
打算的な心配だったよ。マザーらしいし、アインが嫌う理由が分かる。今もアインが心底嫌そうにマザーを見ているからね。
「…僕がここに残る。だからそんな心配していないでミヨのサポートをしてくれ。それぐらいしか価値は無いんだから。」
「ーーーまさか、アナタにそんなことを言われる日が来るとは思いませんでした。」
「…なにが?」
アインは自身の言葉に変なところが無いか考えるが、特におかしな所はないと思いマザーの反応を待つ。
「この世界のことを心底嫌っているんだと認識していました。向こうへと戻りたがっているのだとも。しかし、この世界に残ると言われたので驚愕致しました。」
「…嫌いだよ。でも、この世界が故郷なんだ。まだ僕が居てもいいだろうが。」
犬猿の仲なのは相変わらずだし、私達3人は何度も争い敵対し合った仲だ。でも、同じ目標を持って歩むことは出来る。誰も人類の滅亡なんて望んではいない。だから蘇芳、貴方の考えを私に聞かせてよ。




