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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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連れて行かれた先にあるもの

一応念の為に能力増幅装置はマザーに準備してもらっている。私の出力が足りない場合にこれを使って無理やりアインと帳尻を合わせる予定だ。


「意外でした。R.E.0001が協力的なのは。」


おいマザー。敢えて触れていないのに踏み込むな。こういうのは言わなくても分かるってやつなんだよポンコツ。


「…僕も気になっていたから。アイツとの約束も果たしきれていないし、僕たちが居ないほうがより良い方向へ向かうのか確かめておきたい。」


アインが協力してくれた理由を話したせいで、私も言わないといけなくなる。私はフェアな関係が好きなのだ。


「…私も、そんな感じ。あのまま居ても多分良いことは無かったと思うけど、役割を全うせずにここで腐っていくのも駄目かなって思ったから。」


私とアインはお互いに前だけを見て顔を見合わせない。ここでお互いの顔色をうかがうような野暮な事はしない。私もアインも多分だけど、あまり人間というか社会全体が好きじゃないんだと思う。


でも、好きじゃないからってどうでもいい訳じゃない。あそこには私達の大切な思いが確かに存在する。当たり前の生活があってほしい。人が幸福を感じて普通に明日を迎えてほしい。そんな私とアインが感じれなかった幸福が、あの世界にはあってほしいという願望があるのだ。


「なるほど。後腐れなく終わらせたいという気持ちがあるのですね。」


「おい、言葉のチョイス気を付けてよ。なんか嫌な言い方だよそれ。」


「…では、心機一転の為に終わらせたいという気持ちがあるのですね。」


う〜ん…ちょい違う気がするけど、もうどうでもいいか。マトモな会話とか期待してしているわけじゃないし。


「僕が美世を2巡目の世界まで送るだけでいいの?」


「うん、別に一緒に来てもいいけどね。」


「今更すぎるよ。いきなりここを離れるわけにもいかないし。」


「そっか…。ちゃんと待ってくれる人達が出来たんだね。」


この一年間はアインにある程度の影響を与えるには充分な時間だったらしい。確かにここで消えてしまえば恐らく一生恨まれるだろうね。


「終わったらすぐに帰すから。」


「すぐに終わればいいけどね。」


嫌なことを言う。でも否定しきれないんだよな…。私としてはちょっと覗いて世界が平穏なのを確認して終わりにしたい。


「それと最初に気になっていたんだけど、その脳ってもしかしてミヨの?」


「うん、そうだけど?」


「…いや、知っていて特に何も気にしていないなら良いんだ。分かっているってことだからね。」


そうだよね気になるよね。でもあまり触れないでほしい。これが終わったら肥料になるから。


「視るのは私とアインが離れて半年から一年後ぐらいね。そこまで逆行してくれれば私の探知能力で確認するから。」


「まあ、妥当かな。パスを繋ぐけど良い?そっちから切られてそのままだから。」


ちょっと棘のある言い方だけど、私は気にしていない風に取り繕ってアインとパスを繋ぐ。懐かしい感覚に私は少し嬉しくなる。


「じゃあ、とっとと済ませよう。アインならすぐでしょ?」


「期待には応えるよ。…行こうか。」


私とアインの脳が繋がって情報が行き来する。私の脳にかかる負荷を軽減するために、処理をアインと私の脳のクローンにしてもらいながら能力を行使していく。


「マザーは置いていくけどそれで構わないよね?」


「うん、ろくな事にならないから良いよ。」


「そんな…。我々にも見る権利というものが…」


マザーが抗議を言い出すが、話している途中で止まって機械人形が動かなくなる。…時が止まった?


「…そろそろ逆行してくるよ。」


止まっていた時間は数秒程度のことで、次第に時間が動き出し、時間の動く向きは正規の向きではなく真逆の方向へと向かっていく。現在から過去へと向かうという現実ではあり得ない指向性で…。


「完全に私達以外は逆行していってますね。」


「そうだね。あの時間のうねりも出てきたし、成功していると考えて良いと思うよ。」


私達の周りには時間の流れが空間から漏れ出して過去の軌道を写し出していた。ここまでは前回と同じだけど、その速度は段違いに早い。早送りで再生されているみたいに高速で場面が切り替わっていく。


「2巡目の世界って、アインが逆行させて辿り着いた時間からだよね?」


「うん、そうなるね。」


「じゃあ、そこまで戻らないと2巡目の世界に辿り着けない?」


「そうなるね。」


「…でも、そうなると私達って1900年代まで戻っちゃわない?私達の見たい時間って2020年以降なんだけど…。」


今こうして冷静に考えると辻褄が合わない。タイムパラドックスが働いていないかな?頭の中がこんがらがって上手く因果関係をまとめられない。


「えっと、それってもしかして時間の流れを一直線で考えていないかい?」


「一直線?」


アインの話を聞きながら能力の行使をするのはかなり疲れるけど、このあとに必ず起こる事だから今のうちに知っておきたいし、アインの説明を聞いて予習を済ませておかないと。


「時間の流れを一直線で考えるから破綻するんだよ。仮にさっき僕たちの居た時間を西暦3020年として仮定して、そこから時間を逆行させて西暦1945年まで時間を遡るとする。ここまでは一直線で考えていい。」


えっと、つまりその理屈だと私が前回に単独で時間を逆行させた時と状況が似てることから、その時の私は一直線に時間を遡っていたってことになるのかな?


「で、2巡目の世界は直角に曲がった時間軸と考えて欲しい。まさに時間の軸が違うんだ。例えば道を歩いていて直角に曲がれば景色も変わるだろう?でもどの道も見ている景色は同じ世界での景色だ。道が別れて変わるのは見える景色と向かう先で、重要なのはそこなんだよ。」


「あ、そういうことか。私は曲がらないで真っ直ぐ行っていたんだ。」


アインの言う真っ直ぐの直線の道が1巡目の世界で、1945年の日本にアイン達が訪れた道が分岐した道なんだ。そこから世界は枝分かれして2つの道が存在して、曲がった道が私が居た2巡目の世界…。


「真っ直ぐ行こうが曲がろうが道は道だ。全て繋がっている。枝分かれしても起点は同じなんだよ。元々別々の世界だったわけじゃない。だからミヨは惜しかったんだよ。1945年まで逆行して曲がっていれば2巡目の世界の2020年まで行けただろうね。」


流石はアイン。私をこの世界まで連れてきただけのことはある。道順まで教えてもらったし、今度からは一人でも行けそうだ。


「…話していたら別れ道まで来たね。」


「え?もうそこまで逆行したの?」


アインの話を聞いていたら周りが焼け野原の光景が広がっていた。ここが戦後の日本…。こんな場所に人々が暮らしていたなんて信じられない。


「ほら、あそこから別れるよ。」


アインが上の方見て空を見上げる。私も釣られて上を見ると空からは光り輝く何かが落ちてきた。だけど私はその飛来物がどういったものか、という疑問よりもこの光景の視点が気になっていた。


(…この光景って、まるで誰かの見た光景をそのまま写し出したみたいだ。)


その答えを得るよりも先に場面は移り変わり見覚えのある光景へと変わって疑問が霧散していく。私の良く知る東京の街がそこに写し出されていた。


「探知能力で視れるかい?」


「…この早すぎる時間の流れが止まってくれれば多分ね。でも別にこの光景だけでも世界の状況見れるし、そこまでこだわらなくてもいいかも。」


見慣れた筈の一年ぶりの東京は酷く懐かしく、そして余りにも普通の光景だった。この世界には組織があって能力者たちを取り締まっている。だから1巡目の世界のようなことにはならない。…人がいっぱい死ぬようなことにはならない。私の子供たちが人類を滅亡にまで追い込むこともない。


「…平和そうで良かった。空は青いし、人があんなにもいっぱい居る。」


時間の流れに写し出される光景は、離れてみてやっと分かる平穏な世界そのものだった。1巡目の世界も今は平穏だけど、長い間様々なことが起きていた事は知っている。


多分どの時間でも色んなことは起きる。でも、いつかは平穏な時間が訪れる。私やアインのような特異点なんてそもそも必要なんて無いんだよ。


「ありがとうアイン。平穏な時間が見れて良かった。」


「もう良いの?もっと先の未来まで見れるけど?」


アインが私に確認してきたけど、アインも満足した表情だし、私達の出来ることはもう無さそうだ。いたずらに干渉しすぎるのも良くないし、私達は何もしないことを選択し続ければ…


その時、逆行し続ける時間の流れが写し出した光景は、私とアインの想像もしていなかった光景だった。


「…え?なにこれ?」


「…2巡目の世界、しかも僕たちが居なくなった後の時間だと思う。」


時間の流れが写し出した東京の光景は…東京の光景では無かった。あの様々な建築物が建ち並ぶ東京は跡形もなく消えてなくなり、瓦礫の山が積まれた空虚な光景が永遠と続いている。


「…止めて。今すぐに止めて!」


「もう止めているよ。この時間は…2020年ごろかな。」


アインが淡々と事実を述べていくけど、私には到底理解の出来る内容ではなかった。


「いや、私達が居た時間じゃん…一年も経たずにさ、こうなる訳無いじゃんか!!」


時間は停止し、私の能力の射程距離内に入った東京からは人の生体反応が全く感じ取れない。居ても数人のグループがいくつか点々とあるだけで、東京という狭い範囲内で生存している人の数は20人も満たない。


しかも京都も同じ様な状態で、アメリカやロシアといった海外も似た状況なのだ。つまり世界中が東京のような様相になっている。


そんなことがあり得るの…?私とアインが居なくなってから一体何があったと言うのっ!?

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