事象すら削除する
遅くなりましたが投稿出来ました。
『気が遠のきそうなぐらい遠いですね…』
殻はあちらこちらに細かく砕けて飛び散っていているし中身は半分以上無くなっている。軌道を見れば重なりすぎて最早判別不可能なレベルだ。こんなにも遠くへ感じるものが逆行なんて出来るのかな?
『【逆行】は出来そうか?』
『無理ですね。出来ても半分も戻せないですしこの場から無くなっている軌道もあります。』
卵を食べた生き物がここから離れたのだろう。軌道が途切れている所もちらほら見受けられる。
『そうか それでは【逆行】の訓練が行えないなあ?仕方ない…新しい能力の訓練に移ろう』
面白くて面白くて堪らないのだろう。声にハリがある。
『あの…【逆行】すらまだ覚えたばかりでコントロールもおぼつかないのに別の能力の訓練に移るのですか?』
その前に覚えた【削除】すらまだコントロールし切れていないのに大丈夫なのかな。しかもその影響で私の左手は殺意の禁断症状が出ている。殺意に反応して痙攣が起きるのだ。
『ミヨは能力を覚えるのが異常な程早いがそれに比べて能力の定着や成長はそこまで早くない 寧ろ遅い傾向にある 【探求】がいい例だな 幼少期から能力が目覚めていたのに能力が成熟するまでに何年もかかっただろう?』
先生が真剣な顔付きで私に語りかけてくる。
『そう言われるとそうですね…というか私って他の能力者に比べて能力を使いこなすの遅いんですねっ。』
『それは違う ミヨは勘違いしている 定着と成長が遅いと言ったが他の能力者と比べてみればそこまで遅くない ミヨの【探求】も私の能力もかなり脳の負担が大きい能力だ 定着が遅いのは仕方ないし寧ろ良く使いこなしてくれている 焦る必要はない』
そう言われると確かにかなり負担が大きい能力ばかりだ。効果範囲も射程距離も凄く広いしまだまだ成長の余地を残している。
『例えば他の能力者にパスを通じて【再現】を貸してもすぐに能力は発動もしないし理解も出来ない かなりの訓練と経験を積まないとまともに制御する事も難しい その点ミヨは凄い ものの数分で使えるようになったからな』
先生のこの言葉で私の自尊心は満たされました。やっぱり私って天才キャラだよね。
『覚えるのが早いのがミヨの長所だ だからさっさと能力を覚えてしまえば制御などは後でどうとでもなる 時間が経てば定着するし実戦を経験すれば能力が伸びる』
そうだ。覚えるのは早いんだからさっさと覚えてしまって最後に能力の制御する訓練を行えば良いんだ!
『分かりました!能力を覚える事を優先にします!』
『分かってくれて何よりだ 次の能力の話に戻ろう』
さっきまで真剣な顔付きで私に向かって話していたのに次の能力を話し出した瞬間に笑顔で卵の方向を向いた。最近の先生ちょっと私に対して雑じゃありません?ちょっと煽てれば機嫌が良くなる女って思ってませんか?
『ミヨに覚えてほしい次の能力は【再生】だ この能力は言ってしまえば死者蘇生だ』
『えっ!?し、死者蘇生ですかッ!?』
いきなりすぎてオウム返しで聞き返してしまう。死者蘇生なんてファンタジーの世界でしょ?現実世界でそんな事をしたらみんなに神様として崇められると思う………いやいや、今はそんな事どうでもいい。
……死者蘇生。……もしかしてだけど……。
(お母さんを生き返らせることも出来るのかな。)
急に大人しくなった私の態度を不審に思った先生がこちらに近付いて来る。
『言っておくがこの能力は万能ではあるが完璧ではない これから【再生】について話すが生き返らせるにも制約が存在するしあまり期待しないほうがいい』
私の事情を知っている先生が私に釘を刺してから能力の説明をしてくれる。
『生き返らせるといってもだ 能力を使用する関係上絶対に制約がある この能力の制約は軌道を辿れるものだけだ 何年も昔に亡くなった者を生き返らせる事は出来ない』
先生の口からお母さんを生き返らせる事が出来ないと断言されて私はやっぱりと思った。もし出来たなら絶対に先生から打診があったと思う。
『いえ、少しだけ思っただけで期待はしていませんでした。訓練の話をしてください。』
『ーーー分かった この能力で行う死者蘇生は簡単に言うと【削除】を使った事象の削除だ』
『…事象の削除ですか?』
『怪腕は分かるだろう?軌道を削除して軌跡だけが残る事象を あれは確定する途中の軌道を細かく削除する事で事象を省略化している』
あの能力は凄まじい。今までの仕事も大体【削除】が大活躍して能力者達をあの世に送っている。だからこそ気になる。【削除】は攻撃的な能力のイメージだから死者蘇生みたいな回復系の能力に中々結び付けられない。
『つまり軌道は削除することが出来る その影響で事象も変化する ここまでは良いか?』
『はい感覚としても分かります。実際に使っていますから。』
『それが分かれば後は簡単だ 目の前で誰かが殺されたとしよう 死因は外傷だ ついさっきまでは生きていたので生きていた軌道も殺された後の軌道も分かる この殺された軌道を削除して生きていた頃の軌道まで逆行し再現すれば生き返らせられる』
……にわかに信じ難い内容ではあるけど、理解は出来る。【再生】は今まで教えてもらった能力を総動員して行う能力なんですね。
(どうしよう……多分なんだけどこれ出来る)
正直な話この能力は簡単だ。今までの応用でしかないけど危険性が高い能力なのかもしれない。
『先生、【削除】は怪腕以外で使用する事は禁止だったはずなんですけど大丈夫なのですか?』
『軌道とはつまり時間の流れだ 死んだ後の軌道は全て削除するからその対象の時間は巻き戻るしかなくなるのだ』
そっか、なるほどなるほど分かった。先生に禁止されていたのは軌道の途中を削除すると光速に近付くからであって完全に削除すれば軌道が省略される事は無いのか。
『それなら危険性は無いですね。』
『完全に削除すればどんな結果も削除される だからこそこの能力は今回の様な場面だと良い訓練になる』
先生が周りに落ちている卵に目線を合わせる。確かに今の場面だと良い訓練になりそうだ。
『やってみます!』
左手の手のひらを軌道の開始地点まで近付ける。私の視点では軌道の開始地点である卵を放った位置から卵が地面に落ちた所までは完璧に認識出来ているけど、その後の軌道は複雑化されていて辿れない。
(でも問題ない。必要な軌道はここに残っている。)
取り敢えずは1つの軌道に集中していこう。目標は卵を1つ死者蘇生させる事。
深く深く集中し始めた伊藤美世だが彼女のベルガー粒子に変化が起きベルガー粒子が色めきだつ。騒がしく忙しなく伊藤美世の周りを飛び交うが、ベルガー粒子自体に物理的干渉はないので伊藤美世の身体を透過し軌道と伊藤美世の間を結び付ける。美世と軌道の間にパスが出来てユニゾンが行われる。
《ワタシとミヨの間にユニゾンを感じる…ミヨに共鳴してワタシのベルガー粒子にも影響が出てしまっているが……止める気は起きないな》
ユニゾンとは能力者同士の波長を合わせる行為、つまりはベルガー粒子の波長を一致させる事である。それが空間に残された軌道を残す為に注いだベルガー粒子と美世が持っているベルガー粒子の波長を合わせる事で最大限の効果を発揮される。
その効果とは能力によって現実世界に与える影響の事だ。この影響が高いほど現実世界の法則を超えた結果を生む。
今回の場合は時間操作による因果律の逆行…つまりは死者蘇生である。この現実世界の法則を無視した現象を引き起こす事こそ死神の目的でありこの訓練の意味でもある。
《ミヨにはワタシと同じくこの世界の特異点になってもらう》
この訓練に隠された死神の意図があった。ミヨの自衛の為でもある今回の訓練であったが、本来はすぐに行なうつもりはなかった。ミヨの存在が外部に知られたから早く能力を教える必要が出たが、死神がその前から考えていた事がミヨを特異点にすることであった。
その事実を知らずに特異点に近付く伊藤美世。彼女がその事実に気付くのはまだ先のことであった。
日曜日辺りに今まで出たキャラクターの纏めでもしようかと思います。




