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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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虚夢

先生と別れてから半年以上の時間が経過した。私としてはこれが最も良い選択だと思っている。私と先生は同じ道を歩むべきではないってね。


そしてその間、私は宇宙船で過ごしている。ここならば先生と会うこともないし、ここから先生やアインたちを見守れるから丁度いい。


それに私にもここでやれることがあるからね。


「ミヨ様ミヨ様。どうしたの?」


「ん〜?下界を見て和んでいたんだよ。」


「ゲカイ〜?」


椅子に座っている私の膝の上に上半身を乗せてわちゃわちゃしている2人の子供たち。この2人を同時に相手にするのは結構疲れる。子育てしてる母親って凄いんだね。知らなかったよ。


「煩わしいのなら調整し直しますか?」


「だから何度も言っているじゃんマザー。調整じゃなくて教育。あと教育にし直すとか無いから。この子たちはこのままでいいんだよ。人間らしく健やかにね。」


「分かりました。このまま観測を続けますミヨ。」


マザーは私の言葉を聞いてあっさりとした反応を示す。相変わらず淡泊な奴だ。


「2人とも寒くない?」


「寒くないよ!」


「ミヨ様は寒くな〜い?」


「めちゃ寒い。」


ここでの暮らしに不満があるとしたら寒いことだ。宇宙なんだから寒くて普通なんだけど、私としてはかなりこの寒さが堪える。


ネストスロークで産まれた子達は遺伝子操作で寒さに強く造られているから半袖で過ごしているけど、私は長袖でも寒い。


この服装もどうにかしたいものだ。ここの服は真っ白な無地のワンピースぐらいしか服がない。だから首周りが寒くて白地のマフラーをしているけど、このマフラーも正直そんなに暖かくはないから気休め程度の効果しか無かったりする。


でもしないよりはマシだから室内でもこんな変な格好をしている。長袖でも寒いから重ね着とかしたいのに物資が少ないからね。私の着る服よりもこの子たちに服を着させてあげたい。


「じゃあこれからお仕事があるから離れて。」


「え〜まだ来たばっかじゃん!」


「ミヨ様また行っちゃうのー!」


おお、なんてカワイイことを言ってくれるんだ君たちは。立ちかけたこの足が泣いているみたいに震えだしたよ。


「うん、みんなの為にお仕事しないとだから。良い子にしていたらご飯一緒に食べられるかもね?」


「うん!良い子で待ってるよ!」


「だから早く帰ってきてね!」 


私は後ろ髪を引かれる思いで天使たちと別れて真っ白な廊下を歩いていく。テレポートして移動しても良いんだけど、正直そこまで時間が無いわけでも忙しいわけでもないから能力は極力使わないようにしている。


ここでは娯楽とか無いからね。時間を余らせると地獄を見るってここでの生活で散々思い知ったから、私は日頃から無駄な移動を自身に強いていた。


「イトウミヨ。アナタが来てくれて本当に助かりました。」


廊下に付いているスピーカーからマザーの声が発せられる。電力の無駄だって言っているのにしつこく話しかけてくるんだよねこのポンコツ。


「宿代代わりに働いているだけじゃん。お礼なんて良いよ。」


「物資とエネルギー問題が改善されたのはイトウミヨの特殊な能力があってこそです。まさか他の能力者の能力を模倣し再現出来るとは。」


「よせよせ、(おだ)てられても今日のノルマ分しか働かないよ。」


「…データを取らせてもらいたかったのですが残念です。またの機会にお願いします。」


やっぱりか。このポンコツ、暇さえあれば私の能力を観測しようとするから面倒くさいんだよね。


「まあ、電気系の能力を行使している時にでもデータ取ればいいんじゃない?」


「あれは充分素晴らしいデータが取れました。我々が欲するのは我々のような機械に干渉する際のデータです。」


「あ〜認識出来なくする奴?それとも時間操作?」


「その両方です。」


強欲なCPUを積んでいるな。それに移動中に話し掛けないで欲しい。急かされているみたいで嫌なんだけど。


「気が向いたらね。」


「是非お願い致します。」


私の仕事はこのノアの方舟の電力を作り出す事と食料を何度も何度も再生する事。そして、脳と脊髄だけになった能力者を元の状態に戻す事。


さっき私をミヨ様ミヨ様って言っていたあの子達も私が元に戻して文化的な暮らしをさせている。


例え脳だけになっていても魂が残ってれば生き返らせることが出来る。容れ物の肉体があれば私の能力で問題なく生き返らせる事が出来るのは経験上分かっていた。


容れ物の肉体はマザーが用意してくれたし、装置の一部にされていた子供たちは全員元に戻してこのノアの方舟で暮らしてもらっている。


まあ、記憶とかは流石に消したけどね。生きたまま脳みそと脊髄を抜かれた記憶なんて誰だって嫌に決まっている。私がマザーに命令してあの子たちのトラウマになる記憶を調整?させて消したから誰もマザーに対しては恨みは持っていない。


もし記憶を消していなかったら今頃この宇宙船内は血みどろの光景が広がっていただろうね。


「電力で思い出しましたが、電気を有効活用しようにも金属が足りません。月まで行って鉄を持ってきては頂けませんか?」


「ええ〜月までテレポートすんのダルいんだけど…」


私は心底嫌そうにしてマザーに猛アピールをする。あそこまで行くのとんでもなく大変なのに仕事の内容が地味なんだもん。金属が無くても私は大丈夫だし、今必要なのは繊維だよ繊維。服を作れー!


「イトウミヨとR.E.0001との戦闘による被害が未だに船内に残っているのです。しかも急激に人間の数も増えて設備も道具も足りません。このままで口減らしをせざるを得ません。小さく弱い個体は食肉加工をして食料にする必要が出てきますよ?」


「なんてことを言うんだよ…。分かったよ行くよ。その代わり口減らしの件は無しね。みんな頑張って働いてくれているんだから人材は大切にして。じゃないとまたアインの時みたいになるよ。」


私は廊下に付いている監視カメラに向かってマザーに命令した。ここでは私の言葉はマザーの意思よりも重く、その事を他の子達も理解している。だからみんな私のことを様付けで呼んでいるし、私がみんなに文化的な暮らしをさせようとしていてもマザーは協力的なのだ。


「肝に銘じます。肝はありませんが。」


「はは、つまんね。」


千年後の機械にもユーモラスは搭載されていないか。普段の私の言動とか聞いて学んでいないのかい?


「イトウミヨの普段の言動を参考にしたのですが…」


え?私の普段の言動ってこんなにつまんないの?ちょっとショックだ。もしかしたらあの子達も私の言動とかつまらないと思っていたりするのかな?あ、軽く死にたくなってきた。


「スゥ…月面基地行ってきます。」


まあ、そんなこんなで半年以上ここで暮らしているけど、特に大きな問題もなく平穏に暮らしている。もしかしたら私の人生の中で最も何も無かった時間だったかもしれない。


平穏って本当に良いものだってこの半年で学べたよ。正直なところ暇過ぎて死にそうだったけど、忙しすぎて死にそうになるよりは数百倍マシだからオッケー。


こうやって鉄も運んできたし、当面の間は物資に困ったりもしない。私の能力が万能すぎて問題がすぐに解決してしまうから本当に時間が有り余る。


有効的な時間の使い方も最近ではあまり思い付かないし、ちゃんとあの子たちにもコミュニティがあるから私が干渉しすぎるのもどうかと思うし…。


ぶっちゃけ、もう私の援助というか助けが現状いらなくなってきている。それはとても良いことなんだけど、人は役割が無いと生きていけない。これもここでの生活で学んだことだ。


私が色々とやりすぎて皆の役割を奪ってしまうとバランスが悪くなる。人間関係って対等の関係が一番バランスが良くて、助けられるだけの人と助けるだけの人のような一方的な関係は本当に不健全で、この狭い生活環境では毒にしかならない。


だから私がやっていた事はどんどん他の子達がやり始めてバランスが良くなってきている。つまり私のお役目は御免というわけだ。


そうなると人は暇になってろくでも無い事を考え始めるもので、私の場合は2巡目の世界の事をここ最近ずっと考えてしまっている。


残してきた家族の事や友人、親友の事とかを中心にず〜っと考えてしまってイライラしていたりと中々に重症だ。


「では能力増幅装置を造りましょうか?」


「却下も却下、大却下だよ。材料にあの子たちの脳みそ使う時点でノーです。」


私はそんなことをしないし、もうマザーにさせたりもしない。それにあの装置があっても私は2巡目の世界には戻れないから。


「アインは肉体を捨てて脳が無いからあれだけのベルガー粒子を使って能力を行使出来たんだよ。でも、私は脳みそがあってここで能力を制御しているから無理。一週間も時間を弄れば多分脳が焼けて死んじゃうから。」


「なるほど。それでは装置があっても意味がありませんね。」


そう、意味はない。私がここに居る意味も無くなってきた。こんなことを考えて自室でダラダラしている事が苦に感じてしまう。


どうやら私の中に役割を与えられて役を演じる生き方が根深く残っているらしい。現代人としての生き方というか在り方がここでの生き方にそぐわないのは薄々分かっていたけど、私はここに残るしかないんだよね。


はあ…どうにかあっちの世界の状況だけでも視認出来ないものかな…。

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