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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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歓迎する者達

耀人たちの歓迎会はかなり豪勢なものだった。神殿に多くの人々が集まり、こぞってご馳走を持ち合わせて長くて大きな机の上に並べられていく。


皆の表情や賑やかさを見た限り、どうやら耀人たちはお祭りが大好きなようだ。


私はアインと一緒に上座に座ってされるがままに(もてな)されていたけど、アインの表情は終始硬い。こういう場に慣れていないのか、それともここの人達を消してしまってもいいのか悩んでいるのかもしれない。


(あと半日ぐらいで射程圏外に出る。そうすればアインは能力増幅装置を戻せなくなり私とこの世界に取り残される…)


私は内心ほくそ笑んでアインを観察していた。どう足掻いてもアインには選択出来ないだろうね。仲間達はどうかは分からないけど、この場所に連れてくるつもりは無いだろうし、これは決まったかな?


耀人の人達が持ち合わせてくれたご馳走を食べながら皆の表情を探知能力で観察する。今は酒が良く回って皆の表情は明るく、もう私やアインの事を忘れて楽しそうに騒いでいた。…良いな。平和だな。ずっとここに居たいよ。


1巡目の世界は辛いことも嫌なこともない。元々居たあの世界は辛いことや嫌なことと責任があって雁字搦めだったけど、この世界では平穏に過ごせそうだよ。


この辺りの周辺は私の射程圏内にして来たし、もし私のベルガー粒子に反応してバグ達が来てもすぐに対処出来る。私のせいで誰かが不幸な目に合うなんてことは私自身が許さない。


万全な準備をし、ここで暮らしていける環境を作り上げる。最低限やっておかなければならないことは済ませたし、もういつでも行動に移せる。


私がこれからの計画を立てていると、私とアインの下にものすごく急いでやって来るひとりの耀人を探知した。


…黒髪黒目が多い中で暗い茶髪に目が緑色だ。外国人っぽいけどどうなんだろう。こっちに来るってことはアインの知り合いなのかな?


私よりも年上らしきその女性がアインを見つけると、すぐさまこっちへ走ってきて満面の笑顔を浮かべながらアインへと抱き着いた。…わお、情熱的な挨拶だね。


「アインっ!!帰ってきてくれたのですねっ!!」


「ミカエラっ!?」


どうやら私の予想通りアインの知り合いらしく、ミカエラと呼ばれた女性はアインに抱き着いたまま涙を零し始めて私はひとり置いてけぼりにされる。


恐らく彼女はアインの事が好きなんだろうな〜っと感じられた。好き好きオーラが凄いもん。私が先生に対して抱いている恋心と似ているからすぐに分かったよ。


「えっと、そういえば居なかったね。あっちに戻っていたのかい?」


「うん…!ミミたちからアインが帰ってきたって伝言が私のもとに来たから急いで来ちゃった…!どうしてすぐに帰ってきてくれなかったのですか!」


ガバっと離れていきなり質問攻めをし始める彼女は、まあ…なんというか、とても可愛かった。女の子してるって感じ。あんな風に言われて嫌な気をする男って居ないよね?


「えっと、その…ちょっとね。色々とあったんだよ。戻ってくるのが遅くなってゴメン。」


「許しません!一生分待たされた気分だったんですから…!!」


ミカエラと名乗った彼女はアインの胸でまた泣き出してアインが非常に困った様子で固まってしまう。


『男ならそこは抱きしめろ!』


『なんだよいきなり…パスを通してなにを言い出すかと思えば変なこと言って…』


『いいから抱きしめろよ…っ!!こういう時は相手を強く抱きしめるもんなのっ!!思いがこもって思わず強すぎたぐらいが良いのっ!!』


『…わ、分かったよ。』


アインは私のナイスアドバイスに則ってミカエラを強く抱きしめた。勿論相手が痛く感じない程度に留めてだけどね。でもその甲斐があってミカエラは心底嬉しそうに笑ってアインに抱きしめられ続けた。


(うん…やっぱりアインってモテるんだね。顔良いし性格も真っ直ぐだから当たり前か。)


もしかしたら私に義妹が出来るかもしれない。もしそうなったら嬉しいな。


…今思うと、全く血が繋がっていない家族という形は私にとっては丁度良いものだったかもしれない。


私は少しだけ自分の人生を振り返ってみた。小学校の時からずっとあの家族と過ごしていた。喧嘩ばかりで迷惑を掛けた思い出しかないし、あの人とは血も繋がっていなかったけど、私にとっての本当の父はあの人だった。


私を見捨てずここまで育ててくれた。悪いところを悪いと言ってぶつかってきてくれたのは生涯のうちにあの人ぐらいだ。私が父のことをもうちょっと信用して相談でもしていればこうはならなかったのかな…。


父と喧嘩した事は思い出すとムカつく事とか憎たらしく思う事も多いけど、私が道を踏み外すのを防いでくれていたんだって今更ながら気付いたよ。


私が父の言うことを聞かず、先生の言葉だけを盲信し、父と言葉を交わすことを止めてから私の人生は大きく狂ったように感じる。


もし父にお母さんを殺した犯人を探しているって言ったらぶっ叩かれていただろうな…。ふふっ、3回はぶたれたに違いない。私が2回叩かれた所で反撃して殴り返し、父がそのことに怒ってキツい一発を鼻先に放ってくる。


そして私は部屋に逃げて泣き叫んで学校を休もうとしたら部屋に父が来てまた喧嘩して…そして、私は普通の生活をし始める。そんな未来があったと考えると、私はやっぱり間違えたのだろう。


今の私を父が見たらどう思うかな。怒るかな?呆れるかな?いや、殴ってくるな。うん。で、そうしたら私は避けずに殴られて謝ろう。そして普通の生活が…


「…送れるわけないよね。今まで何人殺してきたって話だよ。」


世界中の権力の持った人達から恨まれているのに、普通の生活が送れるわけがない。私は襲われても大丈夫だけど、父と誠とあの人に何かあったらと考えたら一緒には居られないよ。本当にどうしようもない。


あの家族に何かあれば私は怒り狂い敵とそいつの周辺の人やその家族すらこの手で殺してしまうだろう。しかも残忍なやり方でね。二度とあの家族に手を出せないように派手に殺して見せしめにするし、多分わたしはそういうのがとても上手い。きっと上手いことやってみせる。


そこで私はハッとなり我に返った。なんてことを考えているのだろうと。


(あれ?なんだろう。あの家に戻りたくなってきたぞ?)


まさかのホームシックに私は驚いた。あの家族をまだ家族と認識していたことにも驚いたし、妄想の末に多国籍企業共を皆殺しにするだろうなと確信したことにも驚いた。


しかし戻った所で良い事が無いのも事実。よって私はここに居たほうが良い。QED証明終了。もう論じる必要はないと決めて私はアインとミカエラの2人にうざ絡みをすることにした。


「ほらチューしろチュー。幸せなキスをして終了だろうが。」


「…最低だ。」


私の最低なからかいにアインがマジで嫌そうな反応をしてミカエラがアインの胸から顔を離して私の方を見る。


「あの…アインのお姉さんって聞いたのですけど、本当ですか?」


「ん?そうだよ。半分だけ血が繋がっている姉弟ね。」


「…複雑な家庭なのですね。」


ミカエラが少し気まずそうにして顔を伏せる。…ここはお姉さんとして未来の義妹を悲しませるわけにはいかないね。


「だからアインに普通の家庭を教えてあげてよ。」


「え?」


ミカエラが顔を上げて私と目線が合う。そしてとても嫌そうな表情で私を見るアインとは目を合わせない。絶対に目を合わせてなるものか。


「そろそろアインも落ち着いてもいい頃合いだし、ミカエラがアインのことを良く見てくれるのなら私は安心出来るよ。」


「このクソ野郎…。」


なんか日本語で罵倒が聞こえたけど私は聞こえていないフリをしてミカエラにアインをお願いし、席を離れた。伊藤美世はクールに去るぜ。


「あ、あの!分かりました!アインのことは任せてくださいお姉さん!」


良し、義妹のとびっきりの笑顔を引き出せたし、私がアインから逃げれば勝ちが確定する。とっととここを離れますかね。


私は私を認識出来ないようにし、誰にも気付かれずに地上へとテレポートした。アインが私を追おうとしたタイミングでパスを切断して探知能力を行使出来ないようにしたから私がどこに居るのかは、もうアインには分からない。


地球で鬼ごっこしたら私は絶対に捕まらない。私を認識することも追うことも出来ない。誰も私の隣には居られない。


「…さよならアイン。そして好きでしたよ先生。」


その日を最後に伊藤美世はアインと耀人の前から姿を消した。皆が彼女を探したが、一週間が過ぎ去った後も見つかることはなかった。


そして、能力増幅装置を失ったこの1巡目の世界から特異点が脱出する手段を失うことになる。

戻らない選択も人生には必要だと思います

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