迫る選択
誤字脱字警察の皆様ほんとうにありがとうございます。日々少しずつ修正しておりますので、またコイツ間違ってんよ…と思いましたらまた報告のほどよろしくお願いします。
さて、やれることは殆ど終わったしアインの所へ戻りますか。どうやら話は終わったっぽいしね。私は影から這い出て一人だけ部屋に居たアインと対面し、話し合いの結果を聞いてみた。
「話し合いは終わった?」
「……まあ、大体は。僕に任せるって言ってくれたよ。」
ここの部屋は私がマッピングしたおかげで【探求】で視ることが出来るけど、私の視点からではアインはずっと一人だった。でも、アインは別に嘘を言っているわけじゃないから恐らく心のなかで話し合ったんだと思う。
「それちょっと便利だね。脳内会議が出来て。」
「ミヨの前でも昔からしていたけどね。僕の見ている情報を皆が見れるから。」
それは初耳だった。なるほどね…。だからアネモネさんが私のことを知っていたりしたのか。
「そうなんだ…で、どうするの?アインはどうしたいの?」
「僕は……」
アインは悩みながらも私の目を見て自身の考えを口にする。
「時間ギリギリまでここに居て、それから戻るよ。やっぱり僕はここには居られない。もう僕たちは死んでるし、ここに居るのは所詮は軌道で生き物じゃない。いずれ耀人たちにバレる。」
まあ…そうなるよね。冷静に考えれば無茶な話だからね。私がアインと同じ立場なら私も同じ事を考えてその答えに辿り着くと思う。
(じゃあ…攻め方を変えますかね。)
「じゃあ耀人たちとは今晩でさよなら?」
「そうなるね。だからごめんねミヨ。君の思惑どおりにはいかなくて。」
アインは私に謝って私の思惑を理解したつもりになっているけど、私がそんな生半可な攻め方をするわけがない。例え身内が相手でも私はエグい攻め方をして心を折りに行くよ。
「ふ〜ん。じゃあ本当にお別れするんだね?」
「ああ、そうだよ。」
アインは笑顔で答える。その答えがどれほどまでに残酷なものか彼はまだ分かっていない。特異点としてその選択を取ることがどういった事象を引き起こすのかアインは分かっていない。
「永遠のお別れになっても?」
「…もともと二度と会えるとは思っていなかったんだ。こうして一晩でも会えたのは奇跡だと思うけど?」
そうだね。正に奇跡だよ。その奇跡の時間を与えた存在が奇跡を奪うんだからこの世界は本当に終わっていると思う。
「アインはさ、この世界の人達のことは嫌い?」
「…さっきから何を言っているのか分からないんだけど、説得しても無駄だよ。」
「説得じゃないよ。事実確認をしたいんだよ。だから質問に答えて。アインはミミやメメやマサくんたちは嫌い?」
ここでアインが怪訝な表情になり、私の言葉の真意を図ろうとする。しかし答えは出ないのか、私の質問の意味を吟味して考えてから質問の答えを口にしはじめた。
「…嫌いなわけないだろ。良くしてもらったし、彼らはここで平穏に暮らしている。」
「うん、そうだよね。なにも罪のない人達だよね?」
「…何が言いたい?」
「アインと私がここから離れるとどうなるか、ちゃんと考えたことある?」
「僕とミヨが…?」
アインはそこで熟考を始めながら思い付く限りの可能性の話を口にしだす。
「…ベルガー粒子を持たない彼らはバグに襲われる心配はない。だから僕たちの戦闘能力は必要ないし、あっても争いの元になるだけ。」
そこはどうでもいいんだよアイン。私達のメリット・デメリットなんて事を考える必要はない。考えるべきなのは私達がこの1巡目の世界から居なくなったらという仮定の話のみ。
「彼らは複数の同胞たちと連絡を取り合い何百年間もこの残酷な世界で生き延びてきた。だからいきなり滅びたりはしないはず。…いや、ミヨの言っている事はそういう事じゃなくて、別の事を指摘してる…?」
そろそろ気付き始めたかな?もしかしたらアイン以外の仲間達は気付いているかもしれない。私達がここを離れるとどうなってしまうのかを。
「…ごめんミヨ。これ以上は思い付かない。ここが僕の限界みたいだ。」
暫く考え込んで出た答えが分からないとは、思っていたよりもアインは自身の能力と特性を理解していないみたいだね。じゃあ先生にも出てきてもらおうかな。
「じゃあ先生と相談してみてよ。出来るんでしょ?」
先生とアインは別人格で別の存在と…私はそう認識している。先生は能力自体に宿った人格というか、プログラムみたいな存在で、そのプログラムによって再現された人格がアイン。だから相談し合えるとは思うんだよね。
「出来るけど…厄介なんだよ。僕とワタシは殆ど融合して同一人物みたいなものだから。」
今…アインが話している途中で先生が出てきた。なるほど先生とアインってかなり混ざっているんだね。まあ、アインの能力が先生なんだし混ざり合っているのは最初っからか。
「ワタシとアインとの間にそこまでの差はない。同一人物が2人集まって相談しても答えは変わらない。よって、ワタシ単体での答えを言おう。」
「…先生は分かったのですか?私が言いたいことが。」
先生単体で分かったということは、先生は能力としての特性で答えが分かるということかな。
「まあな。2巡目の世界に戻るということはこの世界から特異点が居なくなることを意味している。そこはアインも分かっているが、ミヨの言いたいことは戻る手段だろ?」
「はは、流石は先生。能力については良くご存知で。」
「…戻る手段?」
目の前で座っているアインが答えを言った直後に疑問文を言うのは見ていて割と頭がバグるけど、これでアインも気付いてくれるかな。
「アインはどうやって私と戻ろうとしたの?」
「それはマザーの造り出した能力増幅装置を使って巻き戻し……」
アインは自身の答えの意味に気付き、手を口に当てて考え込む。そして徐々に表情が険しくなり顔色がとても悪くなっていった。
「気付いた?アインが今やろうとしていることをさ。戻るって色んな意味があるよね。この場合の戻るってさ、過去改変なんだよ。この未来に向かう筈の過去を変えてしまったから2巡目の世界が実在する。つまりはこの1巡目の世界は無くなるの。この世のどこにも存在しなくなるんだよ。」
「そんな…まさか、いや現実に1巡目の世界はこうして続いている。別の世界として継続する可能性が…」
「無いよ。だって、アインは時間と事象と因果律を無かったことにしたんだから。分かる?この時間は私達が来たから存在しているだけで、居なくなれば消えるんだよ。ミミもメメもマサくんも消えてなくなる。産まれた事実すら削除されてね。」
2巡目の世界に行くことはドラゴンボ○ルのトランクスみたいにパラレルワールドの世界に来て人造人間を倒す的な話じゃないんだよ。アインはこの世界の時間を逆行させた。アイン自身がパラレルワールドに来たんじゃなくてこの世界の時間を戻したんだ。
だからミミ達は消えて無くなってしまうし、それどころか今後一切彼女たちが生まれることもない。バグはもう生まれないからね。私はもう子供を産めない身体になってしまったから、耀人が生まれる環境そのものが発生しない。
「私達がこの世界に来ておかしいと思ったことがあるの。この世界に居たはずの先生がどこに行ったんだろうって。世界を逆行させる前に私達が来たのならば逆行させる直前の先生が居るはずなんだよ。でも先生は居なかった。なんでだと思う?」
「…え、僕が居なかった理由…?」
アインはまだショックが立ち直れていないらしく、私の言葉をオウム返しで口にするのみ。だから私は先生の答えを待ってみることにした。先生なら答えを持っているはずだから。
「…逆行して居ないんだろう。1巡目に居た私達は2巡目に向かった。だからここまでの道が出来ているんだ。」
「はい。私もそう思います。1巡目の世界から2巡目の世界に向かったという因果を通って私達はここに来た。つまりこの世界に居た先生は2巡目の世界に行ったからここに居ないんです。」
私と先生はあの不思議な空間の時間の流れに乗ってここまで来た。ではその時間の流れとは何か。それは例えると雪道みたいなものだと私は考えている。
雪が積もった所に人が通れば雪が押し広げられて道が出来る。私と先生はその一度通って出来た道を通ってここまで辿り着いた。しかも特異点としての先生が通った道なんだから特異点に合わせて道が出来ている。なら私だってその道を通れる。同じ特異点だからね。
「ではそうすると別の疑問が出てきます。なんでこの世界は逆行せずに正規の流れで時間が進んでいるのか。」
私は人差し指を一本だけ立てて、また先生に質問を投げ掛ける。先生なら分かっているはずだ。どうしてこの世界が継続しているのかを。
「そんなの私達がこの世界に居るからだ。特異点が居る時間が基本的な時間軸になる。逆行するのも進むのも私達次第。決定権は常に私達にあるわけだが、単純にまだ逆行させていないから正規の流れで時間が進んでいるに過ぎない。」
大原則として時間は逆行しない。逆行するには私か先生の能力が必要になる。つまりこの1巡目の世界が正規の流れで時間が進んでいるのはここに居る特異点が逆行させていないから。ただそれだけのことだった。
特異点は時間を逆行させようとしていたし、特異点が何もしなければ逆行していた。でも特異点がそれを拒否したから時間は逆行せず正規の流れで時間が進んでいる。
「そうなりますよね。私がこの世界の情報を読み取れた時からなんとなくそうなんだろうな〜って考えていました。ここはパラレルワールドじゃなくて本当に千年もの時間が進んだ現実世界なんだって。」
私もアインもこれで気付いてしまった。なにも罪のない人達が暮らすこの平穏な時間を消し去ってしまって良いのかを。
私はアインに残酷な2択を迫ることで時間切れを狙い、この世界で心中することを選択したけど、果たしてアインはどんな選択をするんだろうね。




