迫りくる過去
私の思惑は思っていたよりも上手く進んだ。ここの長というおばあちゃんと会って話を聞き、それからアインの歓迎会パーティーっぽい催しをする流れになって、私はアインの姉として一緒に参加することになった。やったね。
それから神殿?と呼ばれる建物は思っていたよりも中が広くて色んな部屋があって、私とアインは耀人の3人姉弟の案内で前にアイン達が泊まっていた部屋に連れてこられて色々と質問攻めされることになった。困ったね。
「ーー?ーーーーー、ーーーーーーーーー?」
「…食べられない物はあるかって聞いていると思う。」
うっわ…訛が凄くて本当に聞き取れない。日本語に全く聞こえないし、津軽弁とか沖縄の言葉みたいで一個一個の単語の発音と意味が標準語とは違うせいで推測も立てられないよ。多分疑問文なんだろうけど、アインが物凄く頑張って聞いて翻訳出来るレベルだ。
「ーーー、ーーーーー、ーーー、ーーーーーー、ーーーー、ーーーー、ーー?ーーーーーー?」
「あ、それは…」
あ、これはなんとなくだけど分かる。多分アネモネさん達のことを聞いているね。なんで居ないのか、来ていないのかを聞いているけど、アインがなんて答えようか迷っているし、どう答えるんだろう。
「あーちょっとね。事情があってさ、その…」
(ここはアネモネさん達も巻き込んだほうが良さそうかな。)
「後で遅れてやって来るって。えっとミミさん?だっけか。私の言葉分かる?」
ミミというケモノ耳をした日本人っぽい女の子に私は話し掛ける。彼女は秋葉原に居ても違和感がない見た目をしているけど、実際に耳がひょこひょこと動いているせいで生っぽさが出ている。
「…君、訛が凄いね。何を言っているかちょっと…どころか結構分かんないや。」
ミミは困ったようにアインの姉?と名乗る少女と対話を試みる。えっと、私が前に聞いた話ではアインの故郷だと家族や姉弟という概念は無いと聞いていたけど、それなのに突然アインと現れたから驚いたし、そのアインもいきなりいきなり帰ってきたのも驚いた。
「う〜ん伝わっていないかなこれ。パス繋げれば簡単なのに…あっ!」
私が彼女について考えているとミヨと名乗る彼女が私に近付いてきたと思ったら…そしたら私は突然眠気に襲われた。そして目が覚めると彼女が流暢な言葉で話し始めたの。驚いちゃった。
「アネモネ達はね、遅れてやって来るって。だから彼女達の歓迎会もお願い出来ますかミミさん?」
「え、あ、うん…すっごく流暢な話し方になったね。アインよりも上手だよ。」
「そうですか?ミミさんが私の言葉を聞き取れるようになったんじゃないですかね。」
そう…なのかな?なんだろう彼女、ちょっと怖い感じがする。私とそんなに年の差を感じないのに大人の人と話しているみたいに緊張する。…なんでだろうね。気の所為だと思うけど、メメはどう感じているのかな。
私はメメの方を見るとアインとお話をしていてこっちには気が付いていないみたい。マサもアインに集中しているし、私が彼女を相手にしないとなのかな…。
(いや、アインのお姉さんのことをそんな風に思っちゃいけない!私がメメとマサのお姉ちゃんなんだから、私がお客様を持て成さないと!)
「えっと、あの、この前はミヨさんは居なかったと思うのですけど、最近こちらに来たのですか?」
「あ、今日来ました。」
「それは…文字通りの意味ですか?ミヨさんもアインと同じく宇宙から降りてきて…?」
「はい。降りたというよりも瞬間的に移動したって感じですけど。」
ミヨさんは笑顔で会話をしてくれるけど、どうしても怖さが拭えない。初めてアインたちと出会った時も怖い思いをしたけど、これはその時の恐怖とは違う。まるで大きくて凶暴なバグを見かけた時のような怖さがミヨさんから感じられる。
(まさか…ね。アインも普通にしているし、ミヨさんはそのアインのお姉さんだし気の所為よ。)
私はこんな不信感を彼女に対して抱いた事に自己嫌悪を覚えながら大人の人たちにアネモネさん達が遅れてやってくることを伝えに向かった。
そしてその時に大人たちから歓迎会の手伝いをするように言われたので、メメとマサの2人を連れて山菜採りに向かう事にし、私達姉弟はアインとミヨさんを部屋に置いて山へと出掛ける。
本当はもっとアインとお話がしたかったけど、これからいくらでも時間があるんだし、山菜を採りに行くついでにあそこにも寄らないとだね…。
ミミ達が部屋を出ていった後に美世とアインは気まずそうに部屋の中央で座ったまま部屋の出口を見続けていた。
「…行っちゃいましたね。良い人たちじゃないですか皆さん。」
「…何が行っちゃいました〜だよ。ろくでもない事を言っちゃったくせに。アネモネの事を言ったんだろ?単語ぐらいは聞き取れる。遅れてやってくると嘘をついたな。」
部屋に取り残された私とアインは座布団らしき布の上に座りながら牽制のジャブを飛ばし合う。実際に殴っている訳ではなくて言葉と言葉の牽制という形でだ。
「いや別に嘘を言ったつもりは無いよ?アネモネたちを普通に連れてくればいいじゃん。出来るでしょ?アネモネたちもミミやメメやマサ君たちも喜ぶのに。」
「…それは出来ない。」
「え?それはアインの能力が弱まっているから?」
もしそうなら悪い事をした。私がアインに対して謝ろうとするとアインが続けざまにその理由を話し始めた。
「僕は…多分仲間達の軌道を再現することは無い。」
「…することはないって事はやろうとすれば出来るって事だよね?別に再現してもデメリット無いならやってもいいんじゃない?」
「…前にミヨが話してくれたよね。人を勝手に生き返らせる事は相手の事を考えていない自分勝手な行為だって…。ミヨの昨日の話を聞いて改めて気付かされたよ。僕は仲間達をもう自分勝手な思いで生き返らせたくはない。」
「…うん、そうなんだ。でも、お仲間の皆さんってちゃんと意思があってアインに協力したんだよね?じゃないと再現しても協力はしてくれないじゃん?みんな協力的だったのなら別に気にしなくていいんじゃない?」
アインの悩みを聞いて思ったのは私とは状況が違うことだ。私は確かにあの時にそんなことを言った。でも、それはお母さんの気持ちを知らなかったらそう言っただけで、生き返らせてほしいと言われた時には私はお母さんを生き返せようとしたから参考にはならないと思うよ。
「それは僕が都合の良い情報のみを再現した結果かもしれない。僕たちの場合は魂なんてものは無いし、能力として目的を果たすために再現されている。都合の良い部分を抽出した結果が僕たちなのさ。」
「なるほど…?まあ、アインがそう思うのは自由だけど、それも結局は自分勝手な思いだよね。」
「え?」
アインが隣に座っている私の横顔を見て驚いたリアクションを取る。
「ここで実際に聞いたらいいじゃん。本人たちから聞けば済む話のになんで私に気持ちを吐露して話を終わらせようとしているのか良く分かんない。都合よく私の言葉を抽出して自分の考えを補強しているように私は感じるよ。」
「それは…!」
「そういうのが出来る能力なんだから聞けば良いんだよ。私は席を外すから話し合ってみれば。」
「ちょっと待って!急に…!」
私はアインが言い終わる前に影の中に沈み込んで部屋を後にした。これで話し合いがしやすくなるだろう。もし彼女たちの一人でも1巡目の世界に残りたいと言えばアインはその思いを無下に出来ない。
(その間に私は色々と動いてみますかね…。)




