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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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地球観光

先生が語り終わるまでに要した時間はおおよそ一時間。この間に私が話した内容は三行程度で、先生が話した内容は多分一万文字を優に超える。


「ふう……少し語りすぎたか。」


「少し……?いえ、先生が楽しそうでなりよりです。」


私は笑顔で答えて先生を労う。好きな人が好きなことをしているのだ。嬉しいに決まっている。だから途中で話を聞かずに地面の上で体育座りをしてしまっていたけど、それでも私は先生のことが好きだ。


「じゃあそろそろ戻るか。」


「あ、やっぱり戻れるんですね。そんな気がしてましたけど。」


「なんだ、分かっていたのか。例え弱体化していても1日程度ならばワタシ自身が逆行して元の時間に戻れる。ミヨの作戦は失敗に終わるが恨まないでくれよ?」


先生が私に勝った気でいるのか、とても上機嫌そうだけど別に私は勝ち負けを気にしている訳でもなければ負けてもいない。


「じゃあ少し私に時間をくれませんか?まだ時間の猶予はあるんですよね?」


「……また戦うつもりか?」


先生が身構えるけど私は先生を無視して歩き出す。戦う気なんて毛頭ない。


「言ったじゃないですか。地球を案内してよアイン。」


先生からアインへ変わった我が弟のアインを連れて私達は千年後の地球を観光する事となった。……言葉にすると意味分かんなくて草生える。でも私はちゃんと事実のみを語っているから悪しからず。


さて、千年後の地球は本当に自然ばかりで文明の名残りはほとんど存在しない。空気も濃く感じるし気温というか湿度も私の知っている日本とはだいぶ異なっているみたい。


「千年後の日本って地球温暖化とは無縁な土地になりましたね。」


「地球温暖化なんて概念は人間が作り出した造語だよ。時代が違えば気温も気候も変わる。数十年しか生きられない人間らしい勘違いだね。」


「……アインって、もしかして人間が嫌い?」


「どうかな。普通じゃないかな?」


「ふ〜ん。疑問系って時点で察したよ。」


もしかしてアインとこうやってお話するのも実は初めてのことかもしれない。お互いのことを良く知っている間柄なのに私達は世間話も(ろく)にしたことが無かったと今更ながら気が付いた。


「ミヨ、ここってニホンのどこら辺になる?」


「……さあ?地形が変わりすぎてて判別が出来ないもん。建造物の名残が多くある所が東京っぽいけど、なんか爆心地みたいだし違うかも。」


千年経っても鉄筋コンクリートの建物って残る所は残るんだね。数百年で全部崩壊するもんだと思っていたけど割と形状を保っているところもある。遺跡ってこうやって残るんだね。


「ああ……そこがトウキョウで間違いないよ。僕たちがひと暴れしたからね。」


「そうなの?じゃあ私達の居るところは京都とかになると思う。」


「キョウト?ここが…?あの古風な建物が一つも残っていないのは残念だね。でもこの景色も案外悪くないよ?」


アインは寂しそうに辺りを見回しながら私の後ろについてくる。アインもなんだかんだこの世界に愛着というか執着心があるみたい。自分が生まれ育った時代だから当然だと思うけど、過去が過去なだけに心配だったんだよね。


嫌な思いとかしていなさそうだし、このまま目的地まで向かってしまおう。


「アインって前にここの辺りに来たことある?」


「え?どうだろう。どこも似た感じだし、山が多い土地柄だからどこも似た雰囲気だしね。」


確かに自然豊かなせいか草木に目が行きがちだけど、山が四方に伸びていて日本らしい地形をしている。日本は山の多い国だからね。だからどの方向を見ても山々が続いている。


「じゃあこっち行こうか。」


私たちは森の中へ入っていき更に奥へと進んでいく。地面は日本の土質のままで少し驚いた。もしかしたらミミズや微生物などの掃除屋がまだ日本に居るのだろうか。それとも落ち葉という概念が消え去ったのかもしれない。


「アイン知ってる?大陸が違うと土壌の質も変わるんだよ。」


「へえーそうなんだね。前から思っていたけどどこからそんな知識を得てくるの?勉強しないのに変な知識だけはあるよねミヨって。」


「そうかな?あ、でね。日本にはミミズが居るから落ち葉とかは分解されてこんな硬い土になるの。私とアインとでミューファミウムを殲滅するために行ったアメリカにはミミズが居なくてね。こう落ち葉が何層にも積み重なって柔らかい土壌になるんだよ。」


アメリカ大陸の森は落ち葉がフカフカに積まれて柔らかい土壌が森の中で広がっているらしいですよ?私はあのときは結局のところ沿岸部とか砂と土のみで構成された無人島に行ったりなど、森の中に入る機会に恵まれなかったから知識としてしか知り得ていない。


一度は行ってみたかったな。フカフカの土とか踏んでみたいよ。なんかガスが溜まってそうで怖いけど。


「役に立つか分からない雑学を教えてくれてありがとう。それで、何で僕を連れて森の中を歩いているのか理由を教えてもらってもいいかな?」


「ん?え、さっき言ったじゃん。観光だよ観光。千年後の地球なんて来たくて来れるものじゃないし。」


「それで時間切れを狙っているのなら無駄だよ。人間じゃないんだ。何かに集中してうっかりなんてことは有り得ない。」


「だろうね。でも、忘れるというか、思い出せないっていうのは有り得るみたいだね。」


私の言葉を聞いて怪訝な表情になるアインを無視してどんどん森の奥へと進んでいく。私の読みが合っていればアインと賭けが出来る。戦わずしてアインをこの時間軸に縛れるかもしれないジャックポットを狙えるかもしれない…!


「日本の土だと色んな植物が育つんだよ。木とかだと針葉樹とか広葉樹とか生えているし、花になると物凄く種類が多いよね。外国から持ち込まれた種類も多いけど、それだけ日本の土が色んな植物が育つのに適していることを裏付けている証拠だよね。」


「いや、ベルガー粒子を保有している植物なんてミヨの言うニホンの植物とは違うんじゃ……」


「いや、それ言ったら終わるから。知ってるからそんなことぐらいさ。私って最近だと色々能力使うけど、本業は探知能力者ですから!探知能力で分かっていますから!」


森の中をどんなに見回しても私の知っている植物は一つもない。なんというか別の星の植物を見ているみたいだ。葉っぱの形状がちょっと違ったり、色合いがカラフルだったりと、「おい、奥ゆかしいあの日本の植物の面影どこ行った。」ってレベル。変わっていないのはこの硬い土のみよ。


「良い?私の言いたいことはね、日本の植物と言えばコレ!っていうのがこの先にあるってこと!世界から見たらこの植物から日本を連想するようなメジャーな植物がさ!さあ言ってみて!?」


私はアインに手を差し伸べて求める答えを待つ。アインなら分かるよね?アレだよアレ。色々と加工しやすくて食べたりも出来る植物だよ!


「……桜?」


「……あ、うん。ごめん例えが悪かったよ。確かに桜のほうがメジャーかも。良く考えたらアインも外国人だもんね。外国人であるアインが桜って言えばそりゃあ桜だよ。」


自分が思っていたよりもアインが日本慣れしていることを再認識した私は、落ち込みながらトボトボと歩き目的の植物が()る自生地に辿り着く。私達の目の前に現れたのは家屋すら崩壊させるヤベー植物(プラント)こと“竹”だった。


「……ああ、そうだね。竹もニホンっぽいね。でもチュウゴクにも竹があるし、アジア大陸には結構自生している植物だよね。でも確かにニホンのイメージもあるかな。」


フォローが痛々しい。無理してコメントしてもらっている感が凄くて思わず時間を逆行したくなる。


「うん、もう良いよフォローなんて。私のことよりもアインのことだよ。前に私に話してくれたよね?アインたちは森の中を進んで竹林にたどり着いたって。……アインは()()()()()()()()()()()?」


私はアインの目を真っ直ぐと見て私の求める反応を待った。だが待つ必要は無かった。アインの反応を見ればすぐに思い出したことが分かったらからだ。


「……耀人(ひかりびと)。まさかここは……!」


「うん、そうだよ。ここはアインの話してくれた耀人が暮らしている地下を守る竹林。やっと思い出してくれたね。」


ふふっ、ドッキリが成功したみたいで良かった。ここまで来るのにかなり苦労したけど、ようやくアインを足止め出来る方法が現実のものになってきたみたい。

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