馴れ合い
PV数が30万を超えました。凄いです。本当にありがとうございました。これからも毎日投稿で頑張っていきたいと思います。
初めてこの世界の食べ物を食べたけどやっぱり美味しくはないね。これならアインたちが反旗を翻すのも仕方ない。味が全く無いし香りも舌触りも良く無いよこれ。ディストピア飯って実在したんだね…。
「イトウミヨ。我々はアナタとの対話を望んでいます。これからの予定が空いているのなら我々に時間を割いてはくれませんか?」
でもコーヒーもどきは結構美味しい。安っぽい缶コーヒーみたいで中々だ。ここにシュガーとミルクを入れたら及第点を上げてもいい。
「…なんで一晩でそんなことになっているのか理解出来ないんだけど、説明を求めてもいいかな。」
対面に座っているアインが私に説明を求めてきたけど、私としては特に説明する内容が無いから聞かれても困る。
「何を?特に話すことは無いけど。」
「イトウミヨ。我々のこれからを話し合いませんか?非常に有意義な時間の使い方だと愚考しますが。」
なんか機械人形が横からせっつくけど、私のモーニングタイムを邪魔することは愚行だね。私は朝食を摂ることに関しては誰よりも集中して行なっていると自負している。私にとってはこの時間はタイムアタックなんだよ。
「そうか…説明しない気か。なら聞くのは止めとくよ。良く考えると面倒になりそうだからね。」
「なら話しちゃおうかな。昨日の寝ている途中で押し掛けてきて人生相談に乗っていたんだよ。」
「聞かなきゃ良かった…」
アインは私と同じくコーヒーの入ったなんかよく分からない材質で出来たコップを口に運んで私との会話を強制的に終了させる。
「イトウミヨ。」
「煩すぎだから。今日の予定はお前の解体作業だから話す暇なんて無いの。」
この世界から脱出する唯一の手段であるマザーを破壊すれば私とアイン達はこの世界から脱出が出来なくなる。そうすればもうあんな役割から解放されて晴れて自由の身になれるってものだ。
「そんなことはさせない。ミヨは私達と一緒に戻るんだよ。」
アインはまだ諦めていないらしく、私の解体作業を妨害するつもりのようだ。ならまた昨日の続きになるのかな。もしそうなるなら別に今は放置で良いか。アインは私と一緒に戻ることが目的らしいしね。
「我々の解体をする理由を尋ねても?憎しみですか?それとも腹いせですか?」
「ん〜?別にムカつくけどそんな理由で壊さないよ。私は戻りたくないからお前を破壊するって話。」
「話が見えてきません。イトウミヨはここではない時間軸から来たのですよね?それと我々にどんな因果関係があるのですか?」
「お、因果関係って所は鋭い。あんたのあのベルガー粒子の増幅装置?が時間軸を越えるのに必要らしいよ。知らんけど。」
私も良くは分からないけど、千年前の時間まで飛ぶには相当な出力が必要になるから、アインたちの自前のベルガー粒子では足りないんじゃないかな。ただでさえ今は弱体しているし、戻れても昨日ぐらいじゃないかな。
「なるほど。逆手に取るとはこのことですね。ならばワタシの方で破棄しておきます。」
「は……?今なんて言ったマザー。破棄すると言ったのか?」
アインが驚いた様子でマザーに聞き返す。まさかあの装置を破棄すると言い出すなんて予想もしていなかった。
「はいR.E.0001。イトウミヨを元の時間に返すわけにはいかないので破棄しました。」
「…破棄しました?つまりもうあの装置は…」
私は探知能力であの半壊したフロアを見ると白い煙を出して壊れている装置が視えた。どうやら本当に壊してしまったらしい。でも脳とか脊椎は無事そうだ。多分機械の部分のみを破壊したのかな。
「…壊れてるね。」
「お前……自身の身を削ってでもミヨに拘るのか?拡張するのがお前の目的だろう?」
「特に問題はありません。こちらに敵意が無いことを示すにもこれが最善の選択だと実行したのみです。」
私とアインはそれ以上なにも言えずにただコップに残ったコーヒーを胃に流し込むしかなかった。アインも相当困っているというか戸惑っている。過去が過去なだけにマザーの行動に驚いているみたいだ。
そして最後の一口を口に入れ終わったアインが立ち上がり……
「……直す。僕の能力ならば簡単に戻せる。」
まあ……そうだよね。そうなっちゃうよね。だからゴメンね。この時をずっと待っていたんだよ。あの装置を破壊してもアインに直されるのは分かっていた。だからもし機械が壊れたらこうするって決めていたことがある。
「地球を案内してよアイン。」
「え?」
私は両手の指を使って四角を作った。人差し指と親指を直角にして左右を合わせると縦に長い長方形のような形になり、私がその長方形を覗くとアインが丸々とその長方形の中に入った。まるでカメラで切り取ったみたいに。
そして私は能力を行使する。両手をスライドして長方形を狭めていき、一瞬だけアインと私の指が重なって見えなくなり、そのままスライドし終えるとアインの姿は消えていた。
「ふう……世話になったね。そのお礼として見逃してあげる。」
私はマザーにお別れの挨拶をして席から立ち上がる。もうここには用は無い。アインをこの宇宙船から排除出来れば後はどうでもいいからね。
「またお会い出来ますか?」
「さあね。でも、暫くの間は地球へは何も送らないでね。逆行してアインがここに来れちゃうからさ。」
私はマザーに忠告だけ言い残しテレポートして地球へ向かった。アインを一人にすると別の方法で宇宙船に戻れるかもしれない。だから目を離すわけにはいかないんだよね。
「……直接見てみるとやっぱり結構変わってるね。空が虹色なんだけど今の天気って曇り?それとも虹?アインは分かる?」
「……やってくれたな。」
地球にテレポートしたアインと私は自然豊かな大地の上に立っていた。あの機械のみで構成された宇宙船の中と比べると差がありすぎてまるで別世界のようだけど、同じ世界の光景であることは変わりない。
「アインってあそこ嫌いだったんでしょ?感謝してくれてもいいのに。」
美世はアインの反応を伺いながら微笑を浮かべる。こんなTHA・自然の中で高校の制服姿の彼女は周囲からかなり浮いているのにも関わらず、不思議とこの風景に良く似合っていた。
「……どうやってここまで私達をテレポートすることが出来た。美世はこの1巡目の世界に来てまだ1日も経っていないだろう。」
「テレポートするにはその場所に行ったことがある必要があるっていう制約ですか?」
「そうだ。ずっと衛星軌道上に居ただろう。そこからここまで目測で来られるわけがない。」
アインが警戒して表層に【多次元的存在干渉能力】がちょっとだけ出てきた。でも先生自身は警戒して出たんじゃなくて私がどうやってテレポート出来たのか気になって出てきた感じがする。いや絶対にそうだ。
「先生、私って地球生まれ地球育ちですよ?」
「……そうか。盲点だったな。世界線が違っても記録したものを読み取れるのか。」
「はい。時間が千年も経っていようとも私はどうやらマッピングをし続けているらしいです。この世界の私は死んだあとの筈なのに、因果関係があれば読み取れるんですね。」
1巡目の世界の私がマッピングした範囲を2巡目の世界から来たこの私が読み取れるってことは、世界線が違くても1巡目の私とこの私って完全に同一人物っぽいね。
「面白い……とても面白い事を知った。まさかこの世界に来てから分かっていたのか?」
「はい。絶対に先生に悟られないよう気を付けて立ち回っていました。そのおかげでこうして先生と2人っきりで地球観光ですよ。」
マザーとの会話の際に宇宙船を借りたいとか適当なことを言い、アイン達に私は地球へは宇宙船無しでは向かえないと思い込ませた。実は私はいつでも地球へ逃亡することは出来ていたんだよね。
じゃあなんで私がすぐにそうしなかったかと言うと、アインも地球へテレポートさせたかったから。だからアインが一瞬でも私から意識を逸らしたタイミングでそこに私が同席しているっていう状況を待っていたんだよ。
一瞬だけでも時間を確保出来れば私は能力者相手でもテレポートさせることが出来るからね。
「くそっ…ミヨがこういう企みが上手いのを失念していた。どうりでミヨがワタシのことを殺せていなかったわけだ。最初からワタシを殺す気はさらさら無かったんだな。」
「殺すわけないでしょ?家族は絶対に殺したくないんです。アインも私の弟だし、先生は私の夫ですから。」
私は胸を張ってドヤ顔を決める。ふふふっ、全て上手くいったね。計画通り過ぎて自分の才能が怖くなるよ。
「だが不思議だ。能力者が死んだあとも継続する能力なんて聞いたことがない。どんな理屈でマッピングが継続し、2巡目のミヨが情報を読み取れたんだ…?」
「あ、スルーすね。いや、分かってましたけど少しぐらい反応してくれても……」
(…でもそうだよね。改めて考えるとなんだこれ。)
先生の言うとおり意味が分からないというか理屈に合わない。そんなのは私が特異点だから!って脳死で受け入れていい内容でもないし、ちょっと考えないとかも。
私は久しぶりに先生と能力談義をすることになった。絶対に今のタイミングですることではないけど、絶対に見て見ぬ振りをしてもいいような内容でもない。かなりヤバげな匂いがぷんぷんする。
それに先生のエンジンが一度かかったら語り終えるまで止まらないっていうのは長い付き合いで分かってるつもりだし。
「そもそも今の私ってこの世界ではなんなんですかね。どういう扱いをされてどんな法則のもとに能力を行使しているのか意味不明なんですけど。」
探知能力ではなくサイコキネシスとかなら何も問題無いのに、私のこの出鱈目な射程距離のせいでややこしくなっている。世界線を越えて千年も時間が経ち、しかも死後なのに能力が行使出来るって意味が分からない。
「そんなことはワタシのほうが聞きたい。ワタシが2巡目の世界へ行った時と状況が似ているが、ミヨの能力が特殊過ぎて推測も立てられない。」
見た目はアインなのに喋り方は先生だからちょっと違和感があるけど、でも能力の話になると饒舌になるのは私のよく知る先生そのものだ。
私もノリノリで意見を述べる。
「少し気になったのですけどタイムパラドックスとかどうなってるんでしょう。私達ってタイムスリップ……したんですよね?でも1巡目と2巡目って別世界って勝手に思い込んでたからこの結果にちょっと違和感があります。」
「ああ、ミヨの言っているのは現在から過去へは行けず、行くとしたら枝分かれたパラレルワールドというやつか。確かに過去は変えられないし、変わるのは別の世界の現在で、その考えは正論だ。しかし私達の能力はそもそも理屈として成立していないもので物理的な法則を無視したものだ。テレポートなんてものそもそもこの世界には存在しないのに、今こうして地球に居るのは私達能力者が別の法則で……」
(あ、これ結構長くなるやつ。)
私は先生の熱弁をうんうんと頷き、先生が満足し終えるまで赤ベコのモノマネを披露し続けるのだった。




