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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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心の指標

さて、何から話したら良いのかな。ここには私以外に()は居ない。ここに居るのは私と能力と機械しか居ないのに、私は私の指標を話そうとしている。しかも過去の時間軸でだ。


自分でも何をやっているのか訳が分からないような状況に正直なところ辟易としているけど、この2人?が私をみすみすと逃してくれるとは到底思えない。何故自分を酷い目に合わせた奴らが造った機械に身の上話みたいなことを話さないといけないんだよ全く…。


「アインは私が他者を優先するのが聞きたいんだよね?ママのこと知りたいんだ?」


私は頬杖をついてニヤニヤした表情でアインを見る。これでやる気が削がれるかなと思ってね。


「早く話せ。」


「イトウミヨ。R.E.0001の製造にアナタのDNAを使用したので血縁関係は存在しますが、親子関係とは言えません。R.E.0001はイトウミヨのクローンに近いのでどちらかというと弟と表すのが正しいです。」


「え、そう…なの…?アインって私の弟ってこと…?」


マザーから驚愕な話がされた。アインって私のクローンなの?でも、私はこんな白髪じゃないし純日本人だから外見に関しても日本人標準だ。アインは日本人以外の要素が外見に反映されているから信じられない。


「そうなりますね。ですが純粋なクローンというわけでもありません。イトウミヨともう一人の能力者のDNAを掛け合せているので半分は弟…ということになります。」


「…また、半分ね。私の血って、もしかして呪われている…?」


私は頭を抱えた。なんなんだ私の家族構成は、一体どうなっているっていうの。血が半分しか繋がっていない姉妹と姉弟が居すぎでしょ。


それに…、全く血が繋がっていない弟も居るけど、誠は書類上でしか関係無いし、あの子は私みたいな姉なんて居ないほうがいいだろうからカウントはしない。


「それは良いことを聞いた。ハハオヤ面されるのが苦痛だったんだ。」


アインは仕返しとばかりにさっきしていた私の表情と似たムカつく笑顔を浮かべて私を見下し始める。


「弟なら姉を敬いなさい。」


「そんなルールなんてものはない。」


クソっ、言われっぱなしは性に合わない。…仕方ない。禁止カードを出すか。


「…それだとアインは蘇芳とも姉弟になるけど?」


「ぐはッ…!」


強烈な一撃だったらしく机に突っ伏すアイン。蘇芳ちゃんって私達のきょうだいの中でもこういう扱いされているから少し不憫に思える。だからこのカードは切りたくはなかったけど、効果は抜群だったみたい。


「スオウ?スオウというのは確かモミジの元となった能力者の名前だったと思いますが、イトウミヨとも血が繋がっていたのですね。彼女のサンプルはこのノアの方舟に持ち込めなかったので調べられなかったのです。」


マザーはマザーで変なことに気付くし面倒だな。コイツに情報与えても2巡目の世界には何も影響が無いにしても、あまり良いことではないよね。


仕方ない、話題を変えて本題に入るか。


「私の価値観を話すからマザーは私に寝泊まり出来る部屋を貸して。」


「承諾しました。部屋は余っているので好きに使ってください。後で案内致します。」


良し、宿も確保出来たところだしさっさと語って寝させてもらおう。正直疲れちゃったし、あとでマザーはいくらでも破壊出来る。向こうが対策として出力をいくら高めても時間操作と因果律の操作で対処出来るし、私の脅威にはなりえない。


「じゃあ一回しか話さないし、話している最中に質問とか受け付けないから。」


私はアインが机から起き上がったと同時に自身の価値観を語り出す。


「私は別に他者を優先して生きているわけじゃない。自己中心的な考えの持ち主だし、最終的には自分の意志で動いているから。」


そうだ。私はアインの言うような考え方を優先して生きてはいない。だけど別に他者を蔑ろにしている訳でもない。状況とかその時の心理状態で色々と自分の中でも優先順位が変わるだけだ。


「でもその答えじゃアインは納得しないでしょ?言っている事とやっている事が矛盾しているように見えるかもしれない。」


「…まあ、そうだね。その通りだよ。」


アインは私の言い分を肯定し、自身の考えも肯定した。


「昔の話になるけどさ、お母さんが死んでから色々と経験したり考えたりもした。時間が有り余っていたからね。それしかやれることが無くて、何もしていない時間が罪なものだって、そんな脅迫観念に長年襲われていたんだよ。」


小学校、中学校の話をしてもこの2人には理解出来ないだろうから詳しくは話さない。共感が得られない話をしても時間の無駄だ。


「だからね考えたよ。アイン…じゃなくて先生に話したけど、お母さんを生き返らせないかって聞かれた時に私は自分の意志よりもお母さんの立場と意志を尊重したの覚えている?」


「ああ、覚えているよ。感銘を受けたし、耳が痛くなった覚えがある。」


そうか、先生はアネモネさんや仲間達を生き返らせたというか、軌道を再現していたもんね。それが良い事だと思っての行動だったかもしれないけど、別に本人達に了承を得ての行動ではなかったわけか。それは耳が痛いだろうな。


「私はお母さんの立場で物事を考えた。ずっとね。お母さんはもっと生きたかったと思うし、死にたかったわけじゃ無かっただろうし、殺されたかったわけでもない。残された私には自分の事を考えることは出来ても、死んでしまったお母さんは考えたり選択する事すら出来なかった。未来を奪われたんだよ。」


だからお母さんを殺した奴を許せなかった。お母さんを殺されたという事実に対して私自身が怒りの感情を持つのは普通なことで当たり前な権利だ。


でも、死んだお母さんは?殺されたお母さん自身の怒りはどこへ行く?どこに存在する?そこで私は考えて考え抜いた。そして考え抜いた末に出た答えは…


「死んだんだから怒りの感情を持つ権利すら無い。アインには分かる?お母さんは当事者なんだよ?あの事件で殺されたお母さんは誰よりも当事者である筈なのに、その当事者には何も権利が与えられない。何も無いんだよ。これっておかしい?私が他者の気持ちを思って行動することってそんなに変なの?」


私は純粋な疑問をアインにぶつける。私は間違っているのかもしれない。いや、間違ったのだろう。その結果がこれだ。あの時から私は間違い続けている。お母さんをこの手で殺して他者を思いやったあの選択は間違いだった。


「当事者であるお母さんの尊厳、権利は奪われて、当事者とも言えない人達が権利を持っていた。私はお母さんの殺人事件に対して何も権利を主張出来ず、たまにしか家に居ない、最近では家にも近寄らなかった旦那が出てきて全ての権利を持ったんだよ。…恨んだよ。すごくね。」


本当の父では無かったあの人を私は心底恨んだ。逆恨みの部分も大きかったけど、あの家では私とお母さんしか登場人物は居なかったのに、脇役ですらない父に自分の物語の展開を全て書き換えられた錯覚を覚えた記憶がある。


でもこんなことを話しても誰にも分からないだろうし伝わらないだろうね。


ぽっと出の人間に大切な事に関しての権利書を奪われたっていう方が分かりやすいか。決定権を第三者に委託しないといけないみたいなね。


「だからなのかな。当事者が何も権利を与えられない事が心底許せない。人の尊厳を奪う奴は絶対に存在してはいけないって考えに取り憑かれている自覚はあるよ。そのためならと私は人を殺し続けたし、今まで殺してきた奴は皆、人の尊厳を奪ってきた奴ばかりだったしね。」


逆に人の尊厳を尊重した人には何もしてこなかった。魔女達も見逃したし、ただの脇役の人達も狙わなかった。その判断をする為に私は標的を調べ上げて己の指標に沿う人間かどうかを測ってきた。


「お母さんが人を殺したって聞いた時はどうしようもなく怒りが湧いたよ。お母さんが人を殺したことに対してじゃない。なにも悪いことをしていない罪もない人を殺した事、人の尊厳を奪って平気で生きていることが許せなかった。だってそんなのいらないじゃん。そんな存在いらないよ。人の尊厳は尊重されるべきなんだ。奪われたら取り返しがつかない。…一生その人の周りの人間を苦しめることになる。」


尊厳を奪われれば私みたいになる。この1巡目の世界でも元居た2巡目の世界でも私の尊厳は奪われてきた。


そしてお母さんは私を一人にしてしまったことを悔いていた。なのにお母さんはあの時に私みたいな人間を作り出してしまったんだ。それが到底許せることではなかった。お母さんは私の気持ちを全く理解していなかった。その事が凄くショックだった。


「私は最初から他者を優先して生きてはいない。道を歩いていて横に並んで歩いている中学生たちを蹴り飛ばしたくなるし、幸せそうな人間を見れば恨めしそうに見るよ。人間だもん。だから私は良い人間の部類には入らない。」


「ミヨ…」


アインが私を心配そうに見てくるけど、ここまで来たら話し切る。私は私の考えを肯定されたいわけじゃない。知ってもらいたい訳でも共感を得たいわけじゃない。これはずっと昔から主張していることだ。


人それぞれの主張があって当たり前だと考えているから私は私の主張を肯定しているだけ。それだけなのに人は私の主張がおかしいと感じ、その主張に正当性を求めてくる。


でも。そんなのは誰だって無理だ。逆に誰にも否定されない主張をお聞かせ頂きたい。そんなものなんて無いのに、私には正当性を求められる。私が人の主張に正当性を求めても世界は無視し続けた。だから私は()()()()()んだ。


「でも、優先順位があるじゃんか。最も優先されるべき立場ってあるじゃんか…っ!その立場の人達が尊重されないならっ、この世界では人の命を奪うことが肯定されているみたいじゃんか…!お母さんを殺された直後の私の怒りと主張は間違っていたっていうのッ!?」


間違っているって言うのならお前の大切な人を殺されても文句は言うな。お前が何も権利を所有していないような幼い頃に、お前自身を唯一大切に扱ってくれた人を失ったとしても、その事実を肯定し続けろ。


でなければ何も主張せず、何も権利を保有するな。間違っているなんて言葉を簡単に使って、幼い子供にただ静かに良い子にしていろって言うんじゃねえよ。


私はそんな主張を許さない。絶対に、絶対に許してなるものか。私が長年積み上げてきた時間を、考えを否定するのなら天秤に釣り合う主張(もの)を私に差し出してみせろ。


ネットやアニメ・マンガ・ドラマなんかの創作物で得たような造り物の価値観で私の主張を汚すな。私はお前達の主張なんて興味もないし、釣り合おうとも思わない。


私はね、私の指標でしか物事を測れない壊れた子供のままなんだよ。

作者が思うヤンデレって常識人であることが前提です。何かが足りない人間ってただの頭の足りない馬鹿としか感じられなくてつまらないからですね。


なのですごく前にも前書きか後書きで書いたのですが、美世は人に比べてあらゆる点でパラメータが高くしています。そんな彼女がある時に何かに傾倒して偏ってしまう時がヤンデレらしくなると勝手に思ってます。

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