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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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崩壊寸前

2人の戦いを観測し続けている者が居た。常にR.E.0001を観測し続けていたマザーはこの2人のデータを収集し、己ではこの2人には太刀打ち出来ないことを悟る。それほどまでにこの2人の能力は次元が違ったのだ。


[イトウミヨの能力はR.E.0001と同様で時間操作型因果律系能力 しかもその他にも様々な能力が行使出来る]


これだけの情報でR.E.0001よりも強力な能力者であることは確定。イトウミヨの子供たちであるあのバグたちもイトウミヨには叶わないだろう。


射程も効果範囲も出力も我々を超えているのは流石に驚かされましたが、R.E.0001の能力値を鑑みれば、彼女がどれほどまでに優秀な能力者であるかは今更論ずるまでもありませんでしたね。


そうだ、論ずる必要がない。それどころかこうして情報の精査をしている暇もないのだ。だが、我々にはどうしようも出来ない。彼らの戦いに干渉することすら我々には出来ないのだから。


いま出来ることはバリアを最大限まで出力を上げて見守るのみ。彼らの戦いの余波だけで、このノアの方舟が半壊しそうになる。もうこのフロアはボロボロだ。復旧の目処も立たない。地球へ降り立つ前に地球へ落下してしまいそうだ。


「御二方、そろそろ話し合いに致しませんか?戦い始めて2076秒が経ちましたが、決着はつかないと容易に予測出来ます。」


2人の身体から生えた禍々しい腕が対消滅するが、これで何度目になるか数えるのも馬鹿らしい。同じ性能をした能力でぶつかり合うのだから何も起こらない事は2人とも良く分かっているはず。なのに制止しても攻撃を止める気配なし。


あの能力は地球でR.E.0001が使っていた能力と同じものと仮定すれば、能力の効果は物体を消滅させる能力と思われる。あの2人で戦うと恐らくあの能力以外は決め手に欠けるのだろう。サイコキネシスや影を操れるイトウミヨがあの腕以外の能力を行使しなくなった所からこの憶測は間違っていないはすだ。


「ハァ、ハァ、ハァ…、ハァ…。アインさ、それしか能がないのはよ〜く伝わってきたから、他の能力使ったら?ほら、【再開(リセット)】とかさ。」


私は肩で息をしながらアインを挑発する。少しでも時間稼ぎをしないと肉体に縛られている私は最終的に動けなくなる。持久戦においては向こうが有利過ぎる。


「特異点相手に何を干渉するんだよ。干渉されないから特異点なんだ。だからこうして物理的に殴るしかないんだよ。」


全く嫌になる。時間の操作や因果律の操作などの他の能力者では対処することが不可能の能力を持っているから僕は他の能力者に対して圧倒的優位に立てるのに、同じ能力を行使出来るミヨには何も干渉することが出来ない。


だから怪腕を使って物理的に攻撃するしか攻撃手段がない。怪腕なら光速を超えた攻撃から物理的にダメージを負わせてミヨを殺せるのに、ミヨも同じ方法で攻撃してくるから決着が永遠とつかなそうだ。


体力という概念がない僕の方が有利に戦えるけど、ミヨはその気になればベルガー粒子に己の情報を保存して逃亡出来るからね。追い詰めすぎればミヨは必ず逃亡を選択するだろう。彼女はそんな奴だ。この場で決着をつける必要もないしね。


「…では御二方、話し合いを致しませんか?これ以上の戦闘行為は無駄ですし、このままではノアの方舟が破壊されます。復旧作業の目処も立ちません。」


「「はあ?」」


美世とアインの2人は辺りを見回すと電装品や配線が剥き出しになった壁と床に、いくつもの瓦礫の山や床に開いた大きな穴などが目に入る。


それに粉塵なども舞っていてここに来たばかりの壁と床の境目が見えない程の精巧な造りだったフロアは見るも無惨な姿へと変貌していた。


これを直そうとするのならば新たに作り直した方が早いことは誰の目にも明らかなのは間違いない。


「…流石に空調とかやられたら私ヤバいし、宇宙船とかお借りしたいんだよね。」


「あのベルガー粒子を増幅させる装置が壊れたら元も子もない。」


こうして2人の戦いは一時休戦となり、2人はマザーの案内で比較的被害の少ないフロアまで案内される。話し合いの場にはあのフロアはあまりにも被害が大き過ぎた。


「さて、何から話しますか?我々としては御二方との敵対は選びません。勝てる見込みがゼロですので。我々としては御二方との関係性を改善しようと考えております。」


マザーは降伏を選び、2人との間に信頼関係を構築する道を模索し始める。どうあがいても勝てる見込みがない相手にはマザーといえども下手に出るしかない。


「お前は僕の大切な仲間を殺した。家族もだ。絶対に許さない。」


アインはその申し出を却下し、机の上に頬杖をついてそっぽを向く。


「私という立場からすれば仲良くは出来ないよ。だってね…?私ってコイツらに犯されて子供孕まされているんだよね?仲良くは…出来なくない?」


アインの向かいに座った美世は水の入ったコップに口を付けてそれ以上は何も言わず、自分の右斜め前に座っている機械人形をチラッとだけ見て反応を待つことにした。


この機械人形はマザーが用意したもので、この機械人形にはマザーの意識が反映されている。話し合いということでマザーがわざわざ用意したものだ。


「確かに御二方の言い分は非常に正しく正論です。しかしイトウミヨ様、我々はイトウミヨ様には何もしておりません。機械にはイトウミヨ様に種付けは行なえませんから。」


「…機械姦はしていないってこと?」


「キカイカン…?なんですかそれは。話の流れからすれば機械が人間に対して性行為をするという意味なのでしょうけど、生憎(あいにく)我々のデータには存在しないワードです。」


「あったほうが怖いわ。もう…なんなのこのポンコツ。こんなのにアインは殺されたの?」


私はアインに問いかける。アインの能力ならば負ける要因は無さそうな相手にしか思えない。


「…核兵器を地球に向けて何発も撃ち込んできたんだよ。僕だけ生き残ることを考えていれば死ななかったけど、守らないといけない仲間たちがいっぱい居たんだよ。」


「あーなるほどね。それなら私もヤバそうかな。まあ、この世界には知人なんて居ないから私は好き勝手に立ち回れるけれど。」


「…まさか勝ったつもりになってるのか?」


アインが美世のことを睨むが、美世は特に気にした様子もなく周りを物珍しそうに眺める。機械しかない空間は東京にも中々ない。しかも設備の代わりに能力者の脳や脊髄が使われているなんて世界線が違くても、現実世界で存在していたとは到底信じられないものだ。


「どうでもいい。勝ち負けとかどっちが強いとかさ。私が負けなければそれで良いし、普通の一般人たちが幸せそうにクソみたいな人生を送れていればそれでいいの。だから戻らないよ。説得しても無駄だから。」


「説得って…。前から気になっていたんだけどミヨはなんで自身よりも他人を優先するんだい。そこがずっと疑問だった。他者のためとはいえこんな終わっている世界に残ろうなんて正気とは思えない。」


アインは昔から感じていた美世の考え方について言及する。彼女は彼女自身よりも他者を優先する考え方に取り憑かれているフシがあることは前々から気付いていた。しかしここまで来ると異常だ。知り合いとか友人や家族よりも見知らぬ人の幸せを願っている風に感じる。


あれだけ母親の仇を討つことに取り憑かれていたのに、その母親を殺した彼女の価値観は到底理解出来るものではない。


「え?自己中心的な考え方って終わってません?そんな考え方してまで生きたいんですか?」


美世は何を聞かれているのか、どうゆう話の流れでこんな質問をされたのかを理解出来ない。本当に不思議そうな表情でアインを見る。


「…その考え方はおかしくない。でも限度があるだろう?この際だから聞くけどハハオヤと他者を天秤にかけてなんで他者を選んだんだ?」


「ああ、聞きたいのってそういうことね。」


美世は頭をガシガシとかいて頭を振るう。嫌なことを考えようとすると皮膚が痒く感じて爪でかいてしまうのは彼女の癖だ。その癖を自覚しているから美世は中々話そうとはしない。


口にして人に語るほどのものではないければ、誰かに聞いてほしいものでもないし、誰かに認めてほしいわけでもない。美世にとっては当たり前の話で、彼女自身の指標の話でもある価値観をここで話すかは彼女自身でも決めかねる内容だった。


「はあ…。これを言えば私はここに居てもいいですか?保証というかメリットが無いと話したくありません。」


私は眼鏡を外して机の上に置き、目頭を指で押して目を休ませる。戦いになると一番酷使されるのは脳だけど、その次は目と言っていい。脳に近い部位だし、そもそも私って目が悪いから昔から疲れやすいんだよね。


「…分かったよ。その話を聞かせてくれれば今日のところは何も言わない。それでいい?」


「明日は説得してくるんだね。はあ…。嫌だな〜…言っても理解出来ないだろうし、理解してほしくもないし意味が無さそう。」


「ワタシは聞きたいです。イトウミヨの思考パターンは我々のデータベースにもありますが、どれほどの差異があるか気になります。」


マザーも美世の話が気になるらしく、機械人形の頭を美世の方へと向ける。まるで人間のような好奇心にアインと美世は気持ち悪さを覚えるのだった。

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