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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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研究機関

昨日の放課後に私は調整体と出会って戦闘行為にまで発展した。私があの場に居たから起きた戦闘だけど、アレは私ではないと対処は難しいと思われる。だから早々に向こうの戦力を減らせたのは、結果として見るとあながち悪くなかったかもしれない。


そして、その次の日に私は蘇芳に呼ばれて私・伊弉冊・理華の3人で第二部ビルにある地下研究所に訪れていた。白一色の通路は無駄が一切ない造りに、消毒液のような臭いがするせいか病院みたいに思えるけど、ここはれっきとした組織の研究施設で、様々な能力者の研究が日々行われている…らしい。正直良く知らないです。


「いきなりじゃない?私、予定あったんだけど。」


「イザ(ねえ)の予定はこっちで調整したから心配しないでいいよ。」


伊弉冊が中学生の妹にスケジュール管理をされていることに文句をたれながら蘇芳に圧をかけ始める。しかし蘇芳は徹夜明けでふらつく身体で上手く伊弉冊の猛攻を躱し、今日の本題に話題を変える。


「今日来てもらったのは昨日の一件で、計画を推し進めないといけなくなったの。」


「ああ、美世から聞いていたけど調整体のこと?」


今日の伊弉冊はオフモードらしく、口調がかなり崩れているし服装なんかはパーカーとジーンズという軽装も軽装な装いだ。周りには私達しか居ないからといってダラケ過ぎな気がする。


それに対して蘇芳はきっちりと決めて組織の制服に着替えている。昨日の着ていた制服とはデザインが違って今日はカジュアルなボレロの制服だ。明るい紅葉色で可愛らしい。


それに対して私と理華は昨日と同じく放課後にそのまま来ているからブレザーの制服だけど。


「うん、ここには理華さんが倒した調整体のサンプルがあって、色々と調べてもらっているの。先ずは敵を知らないと対処しようが無いでしょう?」


「…初耳だけど?」


「調整体が第二部ビルの地下にあるよなんて話に上がると思うの?他にもここにはイザ姉の知らない物が沢山あるから。」


伊弉冊も知らないんだ。私も知らないけど、理華も知らないのかな。


「理華は知ってた?」


「えっ!?え、い、いや、知らない…。」


何、今の反応。凄く距離感を感じる反応だった。昨日のことを引っ張ってるのかな?朝も少し変だったけどさ。でも、別に私は間違ったことは言っていないし、今はもう特に思うところもないんだよね。だからいつものような感じに戻ってくれないだろうか。


「ねえ理華。昨日のことを気にしているのなら私の言葉をちゃんと聞いてくれていたんだって分かるし、色々と考えているんだと思う。でも、正直な話をすると昨日のことなんてもう私としては気にしていないよ?だから理華も普段の感じで話してくれると助かるかな。」


私は後ろをついて歩いていた理華の隣に行って心の内をぶち撒けた。昨日は被害が大きくなりそうだったから気が立っていただけで、終わってしまえば正直どうでもいい。罪のない人々が何もなく過ごせていればそれで。


「う、うん。美世がそう言うなら…。」


…まあ、言質は取ったしお互いこれでいつものように振る舞えばいいか。女子はこういうの得意だし、何もなかったかのように関係性を持っていくのも理華なら器用にやってくれるだろう。


今は蘇芳の話に集中しないとね。


通路を進んでいくと厳重そうな扉が進路の先に現れる。扉の厚さはざっと5cm程度かな。そんなに厚くなさそうに思えるかもしれないけど、私の小指の第一関節ぐらいの長さがあるから相当厚い。能力者に対しての対策なんだろうね。


「この先が研究者の皆々様方が日付の感覚を失いながらも日々邁進してくれている研究施設だよ。」


どんな説明だよ。とても分かりやすかったけど。


「それで、私達に説明してくれるのは蘇芳か?それともここで働いている研究者なのか?」


施設の厳重な扉がゴゴゴッと重そうな音を鳴らしながら開いた瞬間に背筋がピンと伸びて仕事モードに切り替わるイザ姉。やっぱりあんたは私の姉だよ。猫をかぶるのが上手いもん。


「あ、お待ちしておりました皆様!ようこそ第二部研究所へ!」


入口の横に立って私達を歓迎したのは眼鏡をかけた天然パーマのお兄さん。年は恐らく30代後半で若々しい顔立ちをしている。少し目を凝らせば大学生風に見えるが顎に蓄えた無精髭のせいで年相応の風格を持ち合わせている惜しいオッサンだ。


そしてよく見ると背が高い。伊弉冊と同じぐらいかな?ヒョロっとしていてあまり身長が高くなさそうだけど、伊弉冊と並ぶと頭の位置が同じぐらいになるから180cm以上はある。


「今日は世話になります。」


「いえいえ!蘇芳さんが来てくださいましたのでこちらとしても大歓迎です!」


オッサンからさん付けで呼ばれる我が妹の蘇芳にはコードネームはない。コードネームは創設者が付ける習わしがあったんだけど、創設者さんが亡くなったせいで誰も蘇芳にコードネームを付けれていないのだ。


「そうですか。では調整体の所まで案内をお願いしますね。」


「はい、分かりました。…あ、自己紹介を忘れておりました。本日の案内役を引き受けました堂本(どうもと)と申します。短い間かもしれませんが、精一杯案内をさせていただきたいと思います。」


私達は堂本と名乗る研究者さんに連れられて地下の奥の奥の方まで向かっていく。その間、堂本さんから色々な話を聞かせてもらったりして観光バスツアーのような感じだったけど、もしかしたら堂本さんは私達に地下研究所を見せるために回り道をしてくれたのかもしれない。


正直あまり専門的な話をされても私には理解出来そうにない。伊弉冊と理華は興味深そうに聞いていたけど。


「じゃあ最後になりますが、ここが目的地である調整体の保管場所となります。」


観光ツアーの最後は本日の目的地である調整体の保管場所は地下三階の角にある金庫のような扉が付いた部屋だった。堂本さんが腕につけているスマートウォッチで操作してこの扉を開けてくれる。ここの施設の扉はどれも頑丈そうな造りでお金が掛かってそうだ。


(うん…あるね。ここら辺は全てマッピングし終わったからどこに何があるのかすぐに分かる。)


「では、中へどうぞ。」


私達が保管庫に入ると自動的に電気がついて内部が明るくなる。中はかなり暗くて電気の光が白いせいか、全体的に冷たい印象を受ける造りだ。


「コレが?」


「はい天狼様。これが天の川様が捕獲しました調整体のサンプルでございます。」


部屋の中央に鎮座していた調整体は火の中に焚べた燃えカスのような見た目をしていて、これが調整体と言われても知らない人からすれば納得はしづらいビジュアルをしている。


「えっと、前は鎧のような見た目をしていて、溶かすことでどうにか活動停止にまで追い込めたんです。」


理華の補足説明に伊弉冊は興味深そうに調整体の周りを歩き出す。まるで大型犬が興味のある物に尻尾を振って回っているみたい。口に出したら寝るときにイタズラされそうだから言わないけどね。


「はい、天の川様の言うとおり活動停止の状態で中は殆ど空洞になっております。色々と調べてみたのですが金属であること以外は特に目ぼしい情報も無く…」


まあアレはベルガー粒子が本体でこれはただの容れ物だからね。容れ物を調べてもあまり意味は無いかな。


「活動停止って言いましたけど、何を定義して活動していると言うのですか?」


ここまで特に何も話していなかった私は適当な質問をして存在をアピールすることにした。じゃないとここに来た意味が無いからね。


「あ、あいの風様。良い質問です!」


そんな嬉しそうな顔をしないで欲しい。どうせ話が長くなるんでしょう?観光ツアー中に堂本さんの話は基本的に長くなることは分かっているから、聞く立場としては苦痛なんだよね。だからここまで特に話しかけなかったのに、やぶ蛇だったか?


『なにやら楽しそうな事を話しているな ワタシも是非混ぜてくれ』


私がウンザリとした顔で堂本さんを見ていると、突然私の後ろから私が現れた。久しぶりでビックリしたけど、これは先生が私の軌道を使って現れたということだ。


『先生っ!』


まさかこの場に先生が来るとは思いもしなかった。だって、蘇芳と私が居る場に現れることなんてあの事件以降は無かったもんね。


(あ、あれ。これまさかヤバいやつかな?)


先生と蘇芳の組み合わせなんてヤバい雰囲気しかしない。これ…私はどっちかの味方をしないといけないのかな。出来れば中立の立場から事を荒立てずに終わらせたいよホントに…。

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