共演者
今日は来て良かった。かなり貴重な話を聞けたし、私以外にも先を見通している人が組織の中に居るってことも分かったしね。
「最後の一人を殺して今日は終わりにしますか?」
「ああ。さっさと終わらせて明日に備えねとな。3月まで予定がビッシリで嫌になる。」
私たちはそう言い終えて走り出す。最後の一人はかなり別方向に走り出していたからね。相当遠くまで行ったはずだ。
「…蒸し返すようで悪いんですけど蘇芳が組織のトップに興味がないって言いましたよね。根拠はあるのですか?」
蘇芳の目的は分かっていたつもりだけど、視点が違えば蘇芳に対しての認識も違ってくる。炎天は何かを感じ取っている?
「あぁ〜?そんなのてめえの足場の固め方で分かんだろ。」
「足場…?」
「地盤でもいい。アイツはそこまで今の地位に固執してねえ。権力を持っている奴は下剋上されねえように自分の地位を確立しようとする。だがあのガキ、それがポーズでしかねえ。他にやるべきことがあってそれに固執してる風に見える。」
鋭いな…。蘇芳の目的は3巡目だ。だからこの2巡目の世界そのものに固執していないと言えるかもしれない。
「炎天さん…それ多分当たってますよ。凄いですね。」
「俺如きが分かるぐらいなら他の奴らにも分かると考えろ。お前が思っているよりも能力者の集まり、その集団はおっかねえ。だから自衛出来るように立ち回れ。」
「ウッス。」
あれ?師匠かな?物凄く色々と教えてくれるんだけど!
「というかお前、勝つために派閥作ったんだろ?面子を見れば一目瞭然だがよ。」
「…そう、ですね。勝つために派閥を作りました。」
元々は先生に勝つためにだけどね。だから私達の派閥は実力派揃いなのだ。
「天狼を誘ったのは正解だ。勝つつもりならあの女は絶対に敵に回せねえからな。味方にすれば敵対しなくて済む。」
「確かに天狼さんとは敵対したくないですね。」
「あと天の川も中々だな。お前の世代どうなってんだよと言いたくなるレベルだ。良く見つけてきたな。」
「向こうから突っかかってきたんですよ。まあ、そのおかげで今は大の仲良しですけど。」
理華の実力にも気付いているのか。理華の能力は知らない筈なのに凄いな。
「あと色々とおもしれえ奴も仲間に入れてるよなお前。縁が良いんだろうよ。」
「…炎天さんも私の仲間になりますか?歓迎しますよ。」
「ぜってえ入らねえ。俺は派閥争いとかゴメンだからな。」
即答…。炎天らしいっちゃ炎天らしいけどね。
「月一でみんな集まって美味しいご飯食べますよ?」
「どんな誘い文句だよ行かねえよ。さっさと敵を見つけて殺すぞ。」
「チッ…わかりましたよ。敵は…一時の方向です。このまま200メートル先に居ます。」
私の探知能力で敵を捉えた。…通信して連絡を取っている?
「無線でどこかに連絡してます。」
「あいの風撃てッ!!情報を外にもらさせるなッ!!」
私は返事をする前に腰のベルトからセミオートピストルを取り出しすぐさま引き金を引いた。弾丸は発射され男の元へ飛んでいく。しかしこのまま進めば男には当たらない。軌道を修正する必要がある。
私は引き金を引くと同時に弾丸にベルガー粒子を纏わせていた。弾丸は軌道を創り出しながら直進し、私はその軌道を操作し弾丸の軌道を修正する。
弾丸は空中で曲がりながら突き進み男の首に命中した。血管を傷付け喉に風穴を開ける。もう彼は声を発することは出来ない。喉に激痛が走り空気が口からではなく喉に空いた穴から漏れるからだ。
「…仕留めました。出血多量で間もなく死にます。」
「…いや、今すぐに殺せ。プロは最後までプロフェッショナルに仕事を全うしようとする。何か最後に残そうとするかもしれん。」
「確かにそうですね。今すぐに殺します。」
私はもう一回弾丸を撃ち込み男の頭に致命傷を与える。これで間違いなく死んだ。これで今日の私達の仕事は終わりになる。
「周辺に隠れた敵とかは居ねえよな?」
「居ないです。彼らは目立たないよう行動していた筈なので伏兵の類いとかは居ないと思います。」
私の射程圏内には敵の姿おろか動物の影もない。冬だから冬眠しているのかな。
「…あの通信機を調べるぞ。」
私達は敵の使用していた通信機を調べてみた。私はあまり使ったことがないから使い方はおろか、炎天が現在進行系で行なっている操作の意味すら分からない。
「…繋がんねえ。多分だが向こうが切ったな。特定課に渡してどこの誰と通信していたか調べねえと。」
「特定課に連絡を取りますか?私がスマホで連絡を取って、ついでに処理課の3課に連絡して死体を回収してもらいます。」
「そうだなそれがいい。頼んだ。俺はもう少しこいつと遊んでいるからよ。」
私はスマホで待機していた松岡さんたちに連絡を取り通信機の解析?をお願いした。そのあとに処理3課の清掃員を手配し私の仕事を終える。
「私は戻りますけど炎天さんはどうします?」
「あ〜〜俺は朝から仕事あるからな。適当にホテル探してそのあとにまた仕事だ。だからおめえは一人であのガキに報告してこい。」
「嫌ですよ。始末書を書きたくないんです。洋館壊しましたよね?」
「うるせえ。始末書ぐらい一人で書くわ。単純にあのガキの顔を見たくねえんだよ。だから学生はさっさと帰れ。明日も学校だろうが。」
「…学校の話は無しですよ。頭痛くなってきた…。」
そうだよ明日学校じゃん。最悪だ…。今日は仕事があって放課後一緒に帰れなかったけど、明日はマリナ様たちに付き合わされるだろうな…。理華は予定空いていたかな?何もなければ巻き込んでやろうっと。
「…勉強が出来る時間がある内にしておけ。この先なにがあるか分かんねえからな。」
…親戚のお兄ちゃん?私には親戚付き合いとか分からないけど私に年上の従兄とかいたらこういう人なのかな。
「にいにぃ…」
「殺すぞ。」
「あ、はい。お疲れ様でした。お先に失礼します。」
駄目だ。炎天には軽いノリや冗談が通じない。だから私は即時撤退を選択する。これはいつか勝つための戦略的撤退なのだ。決して面倒くさくなったわけでも寒くて帰りたくなったわけではない。
私はその場を離れて炎天の気付かれない範囲外まで移動した。ここならテレポートしても大丈夫だろう。えっと蘇芳は…まだ第一部ビルに居るね。
(【再発】act.テレポート。)
私の身体はベルガー粒子に保存され、ベルガー粒子は物理法則を無視した速度で山梨県から東京都まで移動する。大体2秒ほどで私のテレポートは完了した。
「うわ〜〜暖かい〜〜。」
テレポートした先は蘇芳が居る第一部ビルの最上階、その中で一番豪華な装いの部屋の中だ。暖房が行き届いていて最高だね。
「おかえりなさいあいの風。任務は無事に終わったようですね。」
あいの風…ね。監視カメラはこの部屋には無いから盗聴器でも仕掛けられたのかな。まあ後で聞こうかな。
「どうする?射程内だけど。」
「ん〜〜お願いしようかな。」
蘇芳は少しだけ迷った風に見せかけて私にお願いする。かわいい妹の為だ。これぐらいなんてことないよ。
「オッケー。これで普段通りに話せるよ。」
「うん、ありがとうお姉ちゃん。」
「どういたしまして。」
「お姉ちゃんのその能力ちょっとズルすぎるよね。お姉ちゃんの射程内にある事象なら機械ですら観測させないし、誰にも干渉も出来ない。現代だとチート過ぎるよ。」
「プライバシー保護の観点からなら健全な能力でしょ。因みに私はこの能力を【個人的範囲】って呼んでるけど蘇芳も使ってみる?パスを通じて貸し出せるよ。」
私はそう言って笑い今日の仕事で起きたことを蘇芳に報告し、その後に一緒に帰宅した。蘇芳の安全を考えると私の傍に居る時間を少しでも多くした方がいいからね。
それに、我が妹があまり余計な事をしないように私がしっかりと干渉しないとだからね。私知ってるんだからね。蘇芳ちゃん、またよからぬことを考えているよね?お姉ちゃんには分かってんだよ。
炎天も気付いていたっぽいし確信出来たよ。だから…次は負けないからね?




