表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
468/602

観察からの考察

私は炎天を置いて先行し、敵の殲滅に動き出した。しかしそんなことをすれば後ろにいた炎天が驚き、慌てて私に追従してくる。


「おいっ!いきなり過ぎんだろうがっ!バレんぞっ!」


「2階の奴らをすぐに殺せば問題ありません。」


手前の部屋に男が2人居るのは分かっている。ドアを開きっぱなしだしここで間違いない。私は左手に持ったサイレンサー付きの半自動式拳銃を構え、部屋のドアからピストルの銃口を男たちの頭と胸に向けて1発ずつ撃ち込んで殺害した。


後ろ姿しか見えなかったけどその場に崩れて灰色の有機物に変化したのを【探求(リサーチ)】で視認したので私はすぐさま部屋を出る。


「うお、今のはえぐいな。ちゃんと死んだか?」


「はい。能力で死んだかどうか分かるので。」


「…お前天狼と天の川と組みすぎじゃないか?たまには俺と組め。仕事が快適で楽すぎる。」


「嫌ですよ。帰りにラーメンを奢ってくれたりしないと私は組みません。」


「…コスパ良いじゃねえか。」


こんな話して声を出していれば奥の方に居る男も気付く。向こうも拳銃を携帯し、部屋のドア入口の手前から少しだけ顔を覗かして私達を視認しようとしている。


通信機は持っているらしく小さな声でマイクに呼び掛けをしている。恐らく同じ階にいる2人に通信を送って彼らの状況と状態を聞こうとしているのだろうけど、その機械じゃあの世までは通信は出来ないんじゃないかな。


私はすぐにもう一人の男を殺害しようと足を踏み込もうとしたが、そのタイミングを見計らって炎天に腕を引かれる。


「ちょい待て。残りは俺がやる。」


「炎天…?」


「見てろって言ったろうが。何もせずに仕事を終えられるかってんだよ。」


(…なるほどな。天狼や死神が気に入るわけだ。とんでもねえ才能だからな。)


俺はこいつの動きを近くで見ていたが本当に幼少期から訓練を受けていないのか疑問に感じる程に凄まじいものだった。


コイツの全体的な動きを良く観察し、いくつかの事が分かったことがある。まず基本的にこいつは物音を立てねえ。案外夜の静かな空間において物音を立てないのは意外と難しい。特に冬になると小さな音でも良く響くからだ。だがこの女は近くで見ていないと本当にそこに居るのか分からねえぐらい静かに動く。


別にコイツが全く物音を立てないというわけじゃねえ。衣服が擦れる音とかはするが呼吸音が全くしねえのが不気味だ。なんせ緊張してねえってことだからな。


建物内部が暗く視界が悪い環境下で、敵が複数人も居る建物に入って誰にも気付かれないよう徹底的に物音を立てないようにすることがどれだけ難しいのかはよく知っているつもりだ。だがコイツはそれを自然とやってのけている。


意識的にそうしているんじゃなくて自然体でだ。そんなことはありえねえだろ普通。プロでも完璧には出来ねえ。


しかもまだそれだけじゃねえ。コイツの気配がまた妙なんだ。殺気が漏れたりコイツ自体には人よりも存在感はある。それも道を歩いていれば多くの視線を集めるようなオーラがある奴がだ。全く気配を消して敵に気付かれないように後ろを取れるわけがねえんだよ。


だがな、敵は周りに気を張って敏感になっているの筈なのにコイツは後ろから奇襲し、あっという間に2人を殺してみせた。


ここからは俺の推測だが、恐らく男2人は気配には気付いていたとは思う。


ではどうやって存在感の塊みてえなあいの風が奴らの後ろを取れたのか。それはコイツ自身の特異性にあると睨んでいる。コイツはまるでその場に居て当たり前みたいにその場に居たんだ。男2人はもしかしたら同じ階に居る男と勘違いして注意を向けなかったのかもしれない。


あれだけ殺気を漏らしていたあいの風だが、殺る時はまるで殺意なんか無かったみてえに引き金を引きやがる。だから男2人は自分たちの敵が後ろに居たことに気付けなかったと俺は考えた。


まあ敵がもし直前で気付けても回避や防御は間に合わなかっただろうな。あいの風は自身の目で視認するよりも前に壁越しで銃口を男達の頭の位置に合わせていた。探知能力で敵を見ることが出来るあいの風にしか出来ない芸当だが、そこから先もヤバかったな。


銃口が壁からドアの縁に移動し、銃口がドアから覗いたタイミングですぐにあいの風は引き金を引いた。相手からすれば銃口がドアから見えた瞬間に弾丸が飛んできたようなものだ。避けれるわけがない。しかも4発撃ち込むのに2秒もかからず、しかも外さなかったことから銃撃のセンスもありやがる。


探求能力で相手の位置が見えたにしてもあの暗闇の中でだぞ?もちろん相手は懐中電灯やライトを使っていたからドアから覗けば光源で視認も出来るだろう。それでもあの場面は暗かった。五感が優れる俺でもヘッドショットを狙える自信はない。


(…そうだ。ここまで来るのもアイツは異常だった。)


目の前で起きた事に意識が引っ張られていたが、あの雪道でもあいの風は異常だったな。俺はガタイがいいからその分、歩幅がデカい。つまりあいの風と普通に歩いていれば俺が先行するはずだが、アイツは普通に付いてきた。普通にだ。


アイツは確か東京生まれ東京育ちだろ?なんで雪道をあの靴で俺のペースに付いてこれんだよ。俺は雪国育ちだから雪の積もった道には慣れている。なのに俺よりも小柄な女が男の異形能力者のペースに合わせてくる…?舗装もされてねえ山道だぞ。


天狼と死神のお眼鏡にかなう理由が本当に、本当に良く分かったぜ。コイツは普通じゃないのに普通なんだ。一緒に仕事をしていて普通に俺に合わせられる。つい一年前までは女子中学生だったガキがだぞ?信じられねえ…。


初めて人を殺したのは半年前で、それまでは普通に一般人として過ごし、しかもどの勢力にも見つからなかったとか作り話にしか思えねえが、コイツほど目立つ奴も居ねえからな。半年前まで噂にも聞いたことがねえから間違いなく一般人のなかで普通に生活をしていたのだろう。


それがこの半年程の期間で幼少期から組織に関わっていた処理課の俺と一緒に仕事が出来るだぁ〜?成長速度が異常か、俺と同じ才能で来たタイプだろうな。まあ見た感じでは両方な感じがするぜコイツからは。


(チッ…めんどくせーが、才能で潰れるガキを見るのはゴメンだからな。ちーと勉強させてやるか。)


「才能があるくせに常識に囚われてるんだよお前。俺の動きを見て学べ。それだけで世界が変わんぜ?」


「…いや、ここには世界を変えに来たわけじゃないから。」


「うるせえ、黙って見てろ。」


「ふぁい…。」


口答えするのも面倒くさいから炎天のやりたいようにさせるしかなさそうだ。先輩風がビュービュー吹かせているこの男から何を見て学べば良いんだろうか。自分よりも弱い能力者から学べることは能力をコピーすることぐらいしかない。


だけどその時、炎天の雰囲気が変わった気がした。ムカつく顔から真面目な顔に変わり、この階の奥の方へと向かっていく。…敵は拳銃を構えて私達を待っている。しかも敵が居る場所までは一直線の廊下を進む必要があるのが難点だ。射撃が下手なやつでも身体がデカい炎天を狙うのはそう難しくない。


(さて、炎天はどうする…)


私が炎天の動きを見ているといきなり壁に向かって炎天が突っ込んで破壊した。一瞬呆けてしまったがすぐさま意識を取り戻して私は心のなかで絶叫する。


(妹の家を破壊しやがったなこの男っ!?)


「どっせいッ!!」


鉄筋コンクリート造ではないとはいえ、そこまで薄くない壁を筋力だけでぶち抜いたのは流石は異形能力者と言えるが、あまりにも脳が足りない戦法だ。だが敵は明らかに動揺し廊下へと出てきた。…そりゃあ出てくるよ。とんでもない爆音が隣の部屋からするんだもの。


「オラよッ!」


炎天は敵の居るところまで壁を打ち抜き、その衝撃で壁の破片が敵の方まで飛んでいき、男はズタズタに引き裂かれた。拳銃を使う間もなく男は廊下の壁に叩きつけられて絶命する。


「いやオラッ!じゃねえ!!下の階に居る奴らが異変に気付いて逃げようとしてますけどっ!?」


私は炎天に問い詰めようとするが炎天は特に気にした様子もなく私にとんでもないことを言ってみせた。


「ああ、そのために派手にやったんだ。俺がお前に教えるのはここからだからな。」


炎天はそう言って凶悪そうに笑ってみせる。…コイツ絶対に後で殺すからなマジで。私があとで妹に怒られるんだぞ?分かってるか?


蘇芳が私に仕事を頼んだのコイツに家を壊されない為だったでしょこれ。多分炎天的には蘇芳は上司認定していないから平気で壊したんだろうけど、お前絶対に蘇芳から敵認定されたからな。私は今回の仕事に関して全くなにも悪くないからあとで始末書はお前が一人で書いておけよっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ