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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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王を討とうとする者達

敵が蘇芳を狙うのは当然の流れだろう。蘇芳が組織のトップに立ち始めてから敵対勢力は窮地に立たされた。どれだけ隠密に動いても蘇芳に見つかってしまう。どこに誰がどの時間に居るのかが分かる彼女は正に非接触型探知系能力の究極系と言っていい能力者だ。


蘇芳が居る限り敵に安息の場所も時間も存在しない。敵対勢力も馬鹿ではないので何故自分達の情報が筒抜けになっているのか疑問に思い行動している。蘇芳の情報を組織内でどれだけ秘匿しても限界があり、敵対勢力たちは蘇芳の存在に気付いた。


彼女の能力によって自分達が窮地に立たされたとなれば第一目標は蘇芳ただ1人になるのは自然な流れだ。まあ、蘇芳もそれぐらい知っていて準備を整えている。我が妹様は私と先生を相手に完封した女、普通の女の子として見ると痛い目にあうのは間違いない。


しかも伊弉冊・先生・理華・私のような対能力者戦において最強の駒も動かせる立場だから最早敵が居ないような状態だ。特に私と伊弉冊と理華は蘇芳を自分の意志で守ろうと動いているのが大きい。


私という探知能力者が蘇芳をカバー出来るよう常に射程内に入れていて、伊弉冊が蘇芳や私が眠っている間などに一緒に居て守り、理華がその能力によって初見殺しを図る。もしこの布陣が崩れても先生を私が呼べば全てを消失させられるから本当に無敵だと思う。


だから敵が来るのも何人が居て、その中に能力者が居ないことも私は知っている。全て蘇芳の指示通りに敵も味方も動いている状態で、私という特異点が蘇芳の求める方向へと持っていく。それが今の私の役割になる。


「……来ました。私達が見たワゴン車のナンバーです。」


「……最近のカメラはこんなに暗くても見れるんですね。」


特定課の人達が設置した暗視カメラの映像には洋館の前に停まった車のナンバーもくっきりと映っており、一文字ずつ正確に見ることが出来た。……停まった車は1台で乗っているのは6人ね。


「最新のは凄いですよ。東京のほうがもっと良い設備を持っていると思いますが。」


「私はそこらへん良くは知りませんが、ここまで見れると私達としてもとても助かります。」


「そんな、これぐらいお安い御用ですよ。」


些細なことでもちゃんとお礼を言う。これで私のイメージアップに繋がればお安い御用だよ。


「あいの風さん。敵が正面入口と裏口の二手に別れたようです。」


松岡さんと同じ特定課の人達が別のモニターに映った情報を教えてくれる。私の能力で全て視えているけどこうやって教えようとしてくれるのは有り難いね。


「敵の武装はどんなものでしょうか。皆さん分かりますか?」


「……スマホで洋館を撮ってますね。」


「えっと……敵は荷物を抱えていますね。バック類が多いので何かを仕舞っているか、もしくはこれから仕舞うのだと思います。」


「情報を得るために来たようですね。戦闘要員なのかどうかは分かりかねます。」


皆の報告を聞いていると炎天がテントの中に入ってきた。入るなって言っただろう。


「来たか……。」


「……雪が付いていないですね。」


テントの中に入ってきた炎天には雪がまるで付着していない。つまり彼の体温は雪をすぐに溶かすほどに高温になっているわけだ。


「お前がテントに入るなって言うから体温を上げるしか無かったんだよボケ。」


炎天がテーブルに置いてあったコーヒーメーカーから紙コップにコーヒーを入れて一気に飲み干した。喉が乾いていたのかな?寒いと意外に身体の中にある水分が飛ぶ。


「これ……飲みます?」


私は水の入ったペットボトルを差し出す。コーヒーでは水分補給にはならない。コーヒーで水分補給をし続けると尿結石になるリスクが増えるからみんな止めようね。人が最も痛みを感じるのは目を潰されたり神経に酸を流し込んだりすることよりも身体の中に結石が出来て排出しきれなくなった時らしいよ。


「……何を企んでやがる?」


何故警戒するの。普通に喉乾いてそうだから水を手渡そうとしただけでしょ。因みに特定課の人達は私達の動向を緊張した面持ちで見守っている。


「これから一緒に仕事をするんだからコミュニケーションですよ。他意はありません。」


私は変わらずに水の入ったペットボトルを炎天に差し出す。さっさと受け取ってよ。敵はもう来ているんだからさ。


「……チッ。」


炎天はまた舌打ちをして私から奪うようにペットボトルを掴んでそのままの勢いで飲もうとする。お礼も無しとか大人として駄目じゃない?


「それ私の飲みかけですので間接キスです。」


「ブフッ!?」


口につけたペットボトルの水を吹き出して炎天が咳き込む。良しやり返せた。


「……お前ガキかよ。」


「動揺したくせに。ほら、仕事の話をしましょうよ。」


私は炎天に背を向けてモニターに目を向けると炎天も私の隣に来てモニターを見始めた。もうお互いにからかいあったりなどはせずに仕事をする者の顔になっている。


「……なんだ。色んな人種がいんな。どこの国の者か分かりづれえ。」


「……多国籍企業の者達かもしれません。昨日襲われましたから。」


「おい、報告にねえぞ。」


「蘇芳は知っているので話す必要が無かったのでしょう。」


「あの餓鬼……。」


口が悪いけどそこまで怒ってはいなさそう。炎天は蘇芳のことをあまり良くは思っていないっぽいけど、だからといって蘇芳のことを全て否定しているわけではない。彼はこの業界に子供が関わっていることに忌避感というか嫌悪感を覚えている節がある。


だから私の年ですら彼は前にこの業界に居るべきではないと言ったのに、私よりも若い蘇芳が組織に所属しているのが嫌なのだろう。しかも自分の上司とか許せないだろうね。


「あの……あいの風さんは昨日襲われたのですか?大丈夫だったからここに居るのでしょうけど……」


松岡さんがおずおずと話に参加してきたけどまさか心配されるとは思わなかった。本当に良い人だねこの人。


「松岡さん、良くあることです。私にとっては月一で発生するイベントみたいなものなので気にしないでください。ご心配ありがとうございます。」


「よ、よくあるのですか。東京って怖いところなんですね……。」


「おい、東京に住んでいるが普通は月一で襲われたりはしねえよ。この女が異常なんだ。」


「え、炎天さん襲われたりしないんですか?処理課の人達は全員が頻繁に襲われたりするものだと思っていたんですけど。」


「どこの世界に頻繁に襲われたりする課があるんだよ。ねえよそんなことは。」


襲われそうな見た目しているのに……生意気な。いや、炎天は逆に襲ったりは多そうだ。そんな見た目をしている(偏見)


「あ、あの。敵が洋館内に侵入したのですが……」


「どこだ?正面からか?」


「いえ、裏口から入ってきました。」


映像の様子と私の能力による映像にほとんどラグは見られない。ならそろそろ行こうかな。あの子が過ごした家に土足で荒らされたくないしね。


「炎天、行きましょう。私達の仕事は彼らの排除です。」


「わーってるよ。だが1人ぐれえ捕まえなくてもいいのかよ。蘇芳の餓鬼なら全ての情報を持っているとは思うが、俺達が聞き出せばあの餓鬼の負担も減るだろ。」


私は炎天の蘇芳の負担を減らすという発言を聞いて思わず炎天の顔をじっと見つめてしまう。炎天はそんな私を見て心底嫌そうな顔をして睨み返してきた。


「んだよ気持ちわりい。」


「いえ……蘇芳のことを考えて理解しているだなーと思いまして。彼女は全てのことを知っていますけど言語化したり文書に情報を書くのは時間がどうしても有しますのでその配慮は助かると思いますよ。」


蘇芳も人間だ。人の言葉を使い人の言語で指示書を書く。なので彼女1人ではどれだけ頑張っても一日で周りに伝えられる情報量には限界がある。炎天はそのことを理解しているみたいだ。


「あんな餓鬼に頼るのは嫌なだけだ。多国籍企業なんてめんどくせー相手の情報を早めに知っておきてえんだよ。」


「ええ……ツンデレじゃん。」


私の感想に特定課の皆が顔を背けて肩を震わせた。炎天が怖くて必死にみんなが笑いを抑えているけど、炎天にはバレバレのようでこめかみに血管が浮き出ている。


「おい、先にテメエをやっちまうぞ。」


「おい、あんまり強そうな言葉を使うなよ。弱く見えるぞ。」


「マジで殺す……!」


炎天の怒りがピークになりそうなので私は無視してテントの外へ出ていく。


「おいっ!無視すんじゃねえっ!」


「仕事を終えたら構ってあげます。早く行きましょうよ。」


「……ぜってえ後で殺す。」


炎天が私の後を追って付いてきた。これから一緒に仕事をしようってのに殺気を向ける相手を間違えていない?


「ならさっさと終わらせましょう。私の仕事はあなたのサポートですから。年下にケツを持ってほしくなかったら炎天さんの力を見せてください。」


私は挑発混じりに炎天の仕事のやり方を見せてほしいと頼んだ。炎天は私の言葉の裏を読んで笑みを深める。


「はっ、最初からテメエの助けなんざ必要ねえんだよ。今日は黙って見ていなクソガキ。」

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