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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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洋館

やっぱり嫌われているよね。炎天と会ってちゃんと話したのはこれで3回目だと思うけど、向こうはまだ私のことを信用していないように感じる。私もあなたのことを信用しきれていないけどね。


「お前どこから来た。いま山の中から歩いてきたよな?ゲートはどうした。」


まあ流石に変だと思われるか。異形能力者って勘が良いから変なことを言われると嘘を看破される可能性が高い。だったら真面目に答えなくていいかもね。


「トイレに行ってました。察してください。」


「……チッ。」


なんで私はこんな最低な言い訳をしたのだろう。他のエージェントたちが咳払いしたりしてスルーしてくれているけど、みんなからは私が雪が降る山の中で用を足す女だと思われてしまったみたいだよ。


「それで首尾はどうですか?敵は見つかりましたか?」


「……ああ、それらしい奴らがこの辺りをうろちょろしていやがった。」


「そうですか……もう少し泳がせたほうがいいかもしれませんね。敵が何人居ていくつのチームで来ているのか分からないうちは。」


蘇芳の読みどおりここに敵が来ているみたい。でもこんな山の中でも少し降りていけば人里にたどり着く。人目があるところでは仕事が出来ない。もう少し待って敵が目的地まで来るのを待たないといけないね。


「そこはお前と同意見だ。だがな……そのためには目立たねえようにしねえといけねえ。なのになんだその格好は?仮装パーティーにでもこれから向かうのかテメエは。」


ド正論すぎて言い返せない。でもね。私には心強い味方が居るのですよ。


「これ和裁士さんたちが作ってくれたんですけど、それは彼女たちにケチを付けるってことですか?これ彼女たちの趣味ですよ?」


「………。」


おおー!あの炎天が黙るなんて和裁士さんたち強すぎるでしょ!これが力か……。


「では待っている間に他の人達に挨拶しに行きますので。」


「……チッ。」


舌打ちをするな舌打ちを。どうにもこの男とは反りが合わないみたいだ。悪人ではないことは分かるけど歩み寄りが無いから親しくはなれないだろうな。


私は他のエージェントに話しかけ状況の把握に務める。ここには十人以上も入れそうな巨大なテントや機材が積み込まれた車が停められていて、今日私が一緒に仕事をするメンバーは私と同じ所属の炎天と特定課の男女5人。つまりこの場にいる7人でチームを組み仕事をするってことだ。


そうなると最初の印象が大事だ。この人達は私のことはある程度は知っている筈だけど、私には色々な噂が立っているし悪い印象を抱いている可能性だってある。だから丁寧に真摯に彼らに向き合わないとだね。


「お会いできて光栄ですあいの風さん。」


「……会ったことは無かったでしたっけ?すみません人の顔や名前を覚えるのが苦手で。」


あれ?私とは完全に初対面なの?ということは東京支部の人ではなさそうだ。


「私達は東京支部の者ではありませんので、あいの風さんとお会いするのはこれが初めてになります。」


そう説明してくれるのは松岡と名乗る男性。年齢は30ぐらいで昔は好青年だったんだろうなーと思わせる見た目をしている。なんか結婚して幸せな家庭を築いていそうな雰囲気。でも黒いスーツに拳銃を携帯しているから私と同じ組織のエージェントなんだよね。ギャップが凄い。


「そうでしたか失礼しました。改めて自己紹介させてもらいますあいの風です。今日はよろしくおねがいします松岡さん。」


「はい。こちらこそお願いします。私達の為にわざわざ山梨まで来ていただいて恐縮です。」 


うわ……受け答えからすっごく良い人だって分かる。この仕事で死んでほしくないな……。


「いえ、自然豊かで良いところです。……雪が多いのが難点ですけれど。」


足首辺りまでは雪が積もっているのでかなり肌寒い。出来ればそちらに設置されたキャンプ場のような拠点の中に入れてくださいな。


「それはそうですよね。ではこの暖かいテントの中へどうぞ。温かい飲み物もありますよ。」


それは有り難い。是非お邪魔させてもらおう。


「これぐらい寒くなんてねえだろ。」


「なら裸でいろよ。テントの中に入る必要なさそうだし来ないで。……ああ暖かい。」


炎天がぼそっと嫌味を言ってきたのでさらっと毒を吐いてあの放牧民が使っていそうな大きなテントの中へ入っていく。すると特定課の面々がドン引きした表情で固まってしまった。……ごめんね?これから一緒に仕事をするのにこんなんじゃ不安だよね?


「えっと、敵は全員私が殺すから心配しないで?」


「……あいの風さん。」


あれ?またドン引きさせてしまった。なんでだ?


「……あ、そうだ。あいの風さんに見せたいものがあるんです。参考になればいいのですけど。」


松岡さんが同僚の人から手渡されたひとつの図面テーブルの上に広げてを見せてくれた。


「ここが敵が侵入しようとしている洋館の図面になります。恐らく敵が侵入しようとするなら正面か裏口と思われます。」


松岡が見せてくれた洋館は見覚えがある構造をしていた。それもその筈、ここは蘇芳が住んでいた洋館だからだ。敵は蘇芳の情報を集めようと彼女が住んでいた洋館を狙っているらしい。


本当は皆が集まる前に一度洋館の中へ行きたかったけど、どうしても準備に時間がかかってしまい行くことが出来なかった。一番最後に訪れたのは確か理華と一緒に行った時だったかな。


その時には館内のマッピングは終わっていたから私の探知能力で洋館内は既に見れる状態なんだけど、能力で見るのと実際に訪れて見るのとは情報量に大きな差が生まれる。だから一度見て回りたかったんだよね。


探知能力で見る情報量は一般人が実際に見て得る情報量よりも多いけど、私が実際に見て得る情報量は更に多い。今回のような失敗が出来ない仕事の場合は出来るだけ情報が欲しいんだよね。


「それとこれは洋館の周りに仕掛けた監視カメラの映像になります。」


複数のノートパソコンのモニターには監視カメラの映像がLIVEで映されていて見ることが出来た。暗い中でも見れるから暗視カメラで撮っている映像だね。


「洋館内は映せますか?」


「はい。見渡しのある通路と扉の前に仕掛けてあります。」


本当は監視カメラが仕掛けられていることは知っているけど、私が蘇芳の住んでいた洋館に訪れたことは秘密にしなければならない。私と蘇芳が昔から繋がっていたなんて事実は私達姉妹にとって不利益になる危険性がある。組織内部にも蘇芳を認めていない人達が居るからね。


8割ぐらいの人達からは好意的に見られている蘇芳も残りの2割からは敵視されている。そこに悪い噂も立っている私と前から繋がりがあったなんてことになれば今の組織の体制にヒビが生じてしまうかもしれない。


こんな大事な時期に蘇芳の邪魔になるような事はあってはならないんだ。だからここは無知のふりをして皆に印象付ける必要がある。私が初めてこの山梨県に訪れたってことを。


「では敵が侵入し洋館の奥の方へ向かった時に私と炎天で敵を処理します。皆さんはこのテントの内か、あの車の中で待機していてください。無線による連絡は傍受されると面倒なので最低限に留めておくように。」


「了解致しました。流石はあいの風さん。本当に高校生とは思えません。」


松岡さんが感心したように私を持ち上げてきたけど、これぐらいは現場に何回か出たことがある者ならすぐに思いつく。


「ただ指示を偉そうに出しただけです。必ず結果を出しますのでそれで私を判断してください。」


「はい、確かにご命令承りました。」


特定課の人達が私に敬礼をして茶目っ気を見せてくれた。でも彼らからは信頼と尊敬の念を感じる。高校生相手でもこうして対応してくれるからありがたい。なんとしても彼らに被害が及ばないように立ち回らなくては。

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