トラブル対応
はー朝からキツい説教食らっちゃったな……。冬休み明けなのになんであんなに元気なんだろうマリナ様。
「久しぶりに美世に会えて嬉しかったんじゃない?」
「嬉しいと人は人格否定するの?」
理華はなんか私分かってます〜みたいな顔で言うし訳が分かんないよ。は〜疲れた疲れた。始業式終わったらお昼寝タイムかな。
「校内では寝ないでよね。」
「なんで?」
「美世が寝たら暴走するかもしれないでしょ。」
あ、夜だけじゃなくて昼間の時もあの夢を見てしまう可能性があることを失念していた。なら私が学校に来た意味とは……?
「勉強でしょ。」
「学校は寝るところだよ?」
「私と一緒の学年で卒業出来るかな……。」
理華がまるで可哀想なものを見る目で自分の席へと戻っていく。分かったよ理華。学校は周回するところだよね。最近はログイン勢だったけどたまにはイベント回らないと。
私が半日を有して素材を回収しているともう下校の時間だ。今日は午前上がりでラッキーだよ。ふふん♪でもこの後に仕事があるから急いで現場に向かわないとだけどね。だからマリナ様たちを理華に任せてある。じゃないと今日一日ずっと付き合わないといけなくなるだろうから……。
私は仕事に向かうために廊下へ出るとハーパーとエンカウントした。おー久しぶりだね。今年初じゃないかな?
「ハーパー!」
「アイ!」
私達は女子特有の磁石めいたひっつきを交わしてお互いの近況を報告し合う。ハーパーは私の癒やしだよ。彼女を見ていると人生どうにかなると思わせてくれる。悪い意味でじゃないよ?
「あけましておめでとうハーパー。」
「ハッピーニューイヤー!アイ!背伸びましたか?」
「みんなから言われるよ。成長痛が辛くてさ。」
ハーパーと並ぶと完全に私のほうが目線が上になる。マリナ様たちとも並んでみると私の方が高かったりするんだよね。クラスメイトの男子でも私のほうが背が高いパターンがあったりなど私の成長度Aは伊達ではない。
「……前よりも目の隈が酷いですよ。眠れてますか?」
「目の隈はデフォルトだよ。それに先生としては生徒が居眠りしないほうがいいでしょ?」
私が冗談交じりで話題を逸らすとハーパーは困った笑顔を浮かべて私を心配そうに見てくる。
「私は非常勤講師ですのでなんとも……。アイは最近忙しそうでしたが大丈夫ですか?」
「私はいつもどおりだよ。ハーパーこそ人気だよね。学校でも組織でも。」
「はい……お陰様で気が付いたら年を越していました。」
ああ……社畜になってしまったかハーパー。でも少し意外かも。ハーパーはあまり仕事には向いていない性格かと思っていたけど社畜適正が高かったんだね。
「私も似たような感じだよ。……やっぱり見られるよね。」
ハーパーと廊下で話しているとやはりというか注目を集めてしまう。ハーパーも人気のある英語教師だし私も良い意味でも悪い意味でも目立っているからね。でも会話の内容は英語で話しているから聞き取られることは無いだろう。英語を話せる高校生がこの高校に通っているわけない。(偏見)
「ごめんなさい。最後が日本語でよく聞き取れませんでした。」
あ、口に出してしまっていたみたい。いけないいけない。
「いや、ハーパーは偉いな〜って言ったの。英語教師ともうひとつのお仕事も上手くやっているからさ。日本語で言うと二足のわらじを履くって言うのかな?」
「それならアイもでしょ?本当に凄いですよ。みんなアイのことを褒めていました。」
「お金もらえるからね。稼がないと今のマンション追い出されるからさ。ハーパーはなにかモチベーションがあるの?」
「ふふっ!アイらしいですね。私は3月まで頑張って仕事を終わらせればママにまた会いにいけますから!そのためにお仕事も頑張りますよ!」
「……そっか。それは頑張らないとね。」
ハーパーは私が肉親を殺したことを知らない。あの事を知っているのは伊弉冊・理華・先生・蘇芳と蘇芳が動かした手駒たちだけで、伊弉冊と蘇芳が姉妹だということは公表されているけど、私に関しては情報が伏せられていたりと少しややこしい。
「はい!でもお手紙は出しても良いと言われたので先週ママ宛に書いて送ったんです!」
「いいね。返信来たら教えてよ。」
「はい!」
これ以上話していると寝てもいないのにお母さんの夢を見てしまいそうだ。学校で暴れ出すわけにはいかないからここで話を終わらせないと。
「あ、私これから仕事があるからまたねハーパー。」
「そうなんですね。お気を付けてアイ。」
ハーパーの笑顔は精神にとても良い効果をもたらす。これで論文を出したらハーパー賞とか貰えないかな。探せばありそうだよねハーパー賞。
「うん。ハーパーも危険だと思ったら逃げるんだよ。仕事がもし失敗しても私みたいなトラブル対応専門だっているんだから。」
「ふふふっ。なら、もしもの時は頼らせてもらおうかしら。」
ハーパーが口元を手で押さえて大人っぽい笑みを溢した。……彼女も少し背が伸びたかなと思う。丸まっていた背筋がいつの間にか凛として伸びている。どうやら自信がついて彼女の内面を良い方向へと成長させたみたいだ。もう私がついて守るような女性ではない。
「……じゃあまたねハーパー。」
「ええ。また学校でも向こうでも会いましょうアイ。」
私はハーパーに別れを告げてその場を離れて現場へと向かう。今日の仕事は蘇芳直々にお願いされた仕事だからかなり大変そうだ。恐らくこちらに被害が出ることになるから特異点の私が派遣されたんだと思う。
私なら確定した未来も変えられる。私がしっかりと仕事をこなせれば怪我人も出さずに仕事を終えられるはずだ。
こういう任務が失敗に終わりそうな時に私はトラブルに対応出来るよう派遣されることが多い。というかほとんどがこのパターンで呼ばれる。
そして今回の仕事では私だけではなく他のエージェント達も立ち会う。だから私の能力が露呈しないように使う能力にも限度があるので、私も慎重に慎重を重ねて準備に時間を割いた。
だから本当は一度現場を見てから仕事に移りたかったけど、今回はその時間も取れなくてぶっつけ本番で仕事に当たらないといけない。
私は第三部から用意してもらった服に着替えてから装備一式を携帯し、テレポートで現場へ向かう。テレポートして訪れた場所は周りが山々と雪に覆われた林の中で、まだ夕方なので空は薄暗い。日付が変わる前には仕事を終えたいものだ。
「さて……約束の場所まで歩いて向かいますか。」
今回は私の能力でテレポートして向かったから誰かに見つかるわけにはいかない。特に組織の人達には決して。
私は自然豊かな林の中を歩きながら服と装備の着心地を確認していく。服は黒一色のゴシックなドレスでペストドクターみたいなデザインだ。街中で歩けば皆の視線を集めるに違いない。映画の撮影でしか見られないような格好だからね。
完全に和裁士さんたちの趣味だけど着心地が良いしデザインも凄く良いから着ていて正直なところ気分は上がる。悔しいけど。
そして装備の方も服装に合わせてシックなものになっている。腰のベルトには拳銃や暗器が付けられていたり、太腿の付け根辺りに付けられた弾倉をしまうホルダーも上手いことドレスのデザインに落とし込んで違和感がない。
後ろからは拳銃や暗器も見えないし正面からはアクセサリーにしか見えないだろう。……なんて拘りなのだろうか。作るの凄く時間が掛かっただろうな。裏生地とか暖かいように保温性のある素材だし芸が細かい。
この履いているブーツにもフワフワな素材が内側に縫われているし最高の出来だ。最近冷え性気味の私には物凄く有り難い。
「……やっぱり居るか。はあ……嫌だな〜。あの人とは仕事したくないんだよね。」
気分良く歩いていると視界に組織から派遣されたエージェント達が集まっていた。全員武装していて今回の仕事がハードなものであると物語っている。
さっさと仕事を終わらせるためにも挨拶をそこそこに終わらせますかね。私はふてぶてしい顔をした筋肉もりもりマッチョマンの変態に声をかけることにした。
「どうも。今夜はよろしくおねがいしますね。」
「……来たか問題児。」
私の挨拶に対しとても失礼な返しをしたこの男。私と同じ東京支部に所属する処理課の殺し屋で、私とはあまり親しいと言えるような関係性ではない。だからこの人とは仕事をしたくなかったんだよね。向こうもそう思っていそうだし。
「随分な言い草ですね炎天。」
「新人が遅れて現場に来てんじゃねえあいの風。」
今回一緒に仕事をすることになったこの男こそ私と同じ異形能力者であり私の手を焼いた実績のある能力者である炎天。一回マジで殺そうとしたことがあるから二度と顔を合わせたくなかったけど、今日の仕事はこの男と一緒にやらないといけないんだよね……。今日もお仕事がんばるぞい




