多国籍企業の刺客
さて、どこに雇われた奴らだ〜?アフリカか?ヨーロッパの辺りかな?それともアジア諸国のどこかから雇われたか?国内は結構片付いているから国内の線はなさそうだけど…。
「ミヨ、流石だな。周囲の者達が気付いていない。」
先生は周りを見回しこの状況でも気にした様子のない通行人を見て私が行使した能力に気付く。
「誰にも私達に関わることを探知出来ないようにしました。…お母さんがやっていた能力の応用です。私は探知して認識した能力はコピー出来るので。」
「いや本当に大したものだ。昼間からでも誰にも気付かれずに仕事が出来るからな。」
今の先生には能力にしか意識が向いていないっぽいな。戦闘モードに入ると結構視野が狭くなるんだよね先生って。
「監視カメラにも映らないからとても便利です。今の私達は軌道の身体に入った先生みたいな感じですね。」
「特異点にしか探知出来ないなそれは。」
「そうなるんですかね。これ使う機会無かったので分からないです。蘇芳にも効くのかな?」
「さあな。アイツの能力は私達の能力に寄っているからな…。」
「あ、私も思いましたよ。蘇芳ってどちらかというと先生に似ている能力ですよね。私よりもよっぽど特異点っぽいんですけどあの子。」
先生が多次元に干渉出来るという能力、確か…【多次元的存在干渉能力】っていう名前だったかな。それに対して蘇芳の能力【ラプラス】は複数の世界を知ること。これって蘇芳も多次元に干渉する能力ということになる。
つまり蘇芳は特異点に近しい位置にいるのだ。まあ私の妹だしね。姉妹同士だと同じ能力を行使することは多い。私が伊弉冊と同じように異形型電気系能力者であるように私が幼い頃に蘇芳と同じ能力だったという事も踏まえると蘇芳は私と同じか、それ以上に特異点に近い位置にいると思う。
「だが特異点にはなれなかった。アイツは知ることだけなのだ。決定権を有していない。」
「未来を知っていても回避出来ないんでしたっけ。1巡目の蘇芳が殺されたのは確定した未来だったからで、2巡目のこの世界で生き残っているのは先生と私が居るからなんですよね?」
「そうだ。彼女は特異点ではないが、特異点を操り自身の望む未来へと変化させようとしている。…忌々しい。ミヨの邪魔になるのならこの手で…」
おっと、地雷を踏んでしまった。蘇芳の話題を出すとこうなってしまうんだよね。
「私は先生が好きですし蘇芳は私の大切な家族です。私はどちらの味方でもありますが、どちらとも敵対はしません。私は2人の架け橋になりたいんです。争いはしないって前に私と約束してくれたの忘れましたか?」
「…覚えている。だから好きにさせているだろう?」
良かった。先生は私との約束を覚えていてくれたみたい。私と先生が仲直りした時に私が先生へひとつ提案したのがこの約束。先生と蘇芳の2人が敵対しても恐らく決着がつかないから不毛な戦いは止めてお互いに不干渉であろうという内容を私から双方に提示した。
先生も蘇芳もそれに納得してくれて今は停戦状態になっている。だからこの男たちを蘇芳が雇ったわけではないと思うんだよ。私を狙ったしね。
「あ、こいつらどうしましょうか。忘れていたわけじゃないんですけど、もうどうしようも出来ないので意識から逸れてました。」
周りには動きが固定され呼吸すらままらない男たちが顔を真っ赤にして固まっていた。呼吸するには多少なりとも胸とお腹を膨らませないといけない。だけどこいつらはそれが出来ないから空気を肺に吸い込むことが出来ずにいる。
窒息死させても良いけど情報を得ないと勿体ない。…あれ、情報といえばこの襲撃のことをなんで蘇芳は教えてくれなかったんだ?一応聞いておこうかな。
「ちょっとマイシスターに確認取ります。」
「…分かった。」
先生が少し気まずそうな顔をしていたけど私は敢えて気付かないふりをして蘇芳とのパスに意識を向けて連絡を取る。スマホで通話するよりも速くてコストもかからず誰にも傍聴されない。
『もしもしマイシスター?私達の状況知ってる?』
『はいはいこちらマイシスター。ノイズが混じって見えませぬ。』
どうやら見えていないらしい。ということは私の能力で蘇芳の能力を妨害出来るのか。ええこと知った。先生のボイス収録の時にこの能力を使おうっと。
『蘇芳ちゃんなにしてた?仕事?』
『蘇芳ちゃん紅茶飲んでた。お仕事は絶賛サボり中。』
おお〜組織のトップがサボりか…。3月いっぱいで終わるのかな仕事…。
『ねえ今なんか襲撃あっているんだけどどうしたらいい?情報はそっちでなんか持ってる?』
『あ〜多国籍企業からの刺客かな。日本に侵入していたのは知っていたけどあとで一網打尽にしようとしていたのに。』
『蘇芳ちゃん?あちしそんなこと聞いてませんが?襲撃されておりますがな。』
蘇芳にしては杜撰な考え方だ。しかも蘇芳の知っている未来から外れちゃってるし。
『お姉ちゃん死神と居るでしょ。そのせいだよ。』
『姉がデートしているのがそんなに悪いの?良いじゃん恋したって!私も女子高生したいもん!』
突然ヒスが入る厄介な姉でも蘇芳はなんなく対応してみせる。
『特異点2人が一緒に行動したら私の知っている未来から外れちゃうの。お姉ちゃんは何があっても平気だと思うけど、そこで死神が何かあっても私のせいにしないでね。』
あれ、もしかして蘇芳やっぱり先生のことを殺ろうとしていないか?ちょっとこうなる展開読んでいたんじゃない?
『蘇芳駄目だよ。先生とは争わないって約束覚えているよね?』
『私は関与していないからね。私の能力が射程長くてありとあらゆる事象に干渉出来るけど基本的に知ることしか出来ないからね私。』
あ、ちょっと不機嫌そうな声だ。いけないいけない。たった一人の妹を疑うなんて私はお姉ちゃん失格だ。
『ごめん疑っちゃって。お詫びになにかひとつお願い聞いてあげるから。』
『はい言質いただきましたー。』
あれ?もしかして蘇芳ちゃんここまでの流れまで把握していない?私がこう言うのを待ってなかった?
『その人達は殺してもオッケーだよ。あとで情報が得る機会があるからすぐに殺しても良いし、今すぐに情報が欲しかったら聞き出してもいい。お任せするよ。』
『え?あ、うん。分かったよ。』
『じゃあバイバイお姉ちゃん。デートの件は理華さんには黙っててあげるね。』
アイツなんて恐ろしいことを言うんだ。理華に知られたら私もって言うに決まっている。しかもデートの写真を取ってマリナ様たちにラインで送りつけるだろうしそんなことになればこの世の終わりだ。
妹に出来た貸しがどんどん増えていく件について誰か速く助けてください。
「話がつきました。殺してもいいらしいです。」
「スオウに言われなくても殺すつもりだ。どこで殺る?」
「そうですね…」
通行人は気付かないといっても流石にこんな所で殺すわけにはいかないよね。…あ。あれを使おうかな。
「こっちに連れてきてもらえます?」
先生が怪腕を生やして男たちを掴み私の後ろに付いてきてくれた。私は人が通れそうにもない建物建物の間の前に立ち能力を行使する。
「【再発】act.イマジネーション。」
私は魔女の能力を再現し異空間を建物の狭い間に創造した。あの夏休みの任務中に使われたものと同じような空間だ。あの空間は現実的には全然大きくないけど空間内は広いという特性を持っている。
その性質を利用しこの人が入れそうにもない隙間に異空間の入口を創造した。これなら一般人が誤って入ってしまうことは無いだろう。
「素晴らしい。あの魔女たちの能力だな?」
「はい。ここなら好きに出来ますからね。」
私は異空間に足を踏み入れる。普通ではこの狭い隙間には入れない筈なのに私の身体はその隙間へと入り込んでいき、そして先生も私に続いて多国籍企業からの刺客達を引き連れ異空間へと続いていく。すると私達の存在はその場から消失し、まるで通行人たちが私達の居たという形跡を消し去るように隙間の前を歩いていくのだった。




