進路阻害
さて、注文した物も胃の中に入れたしそろそろ帰りますか。先生との楽しい時間も終わりか〜〜悲しいよ〜〜。でもお互いに忙しい身の上だし仕方ない。今日のところは解散になるかな。
「今日はありがとうございました。先生のおかげで心がぴょんぴょんして楽しかったです。」
「ぴょんぴょん……?まあミヨの負担が減ったのなら良かった。」
先生と一緒に席を立ち店の外へと出る。すると通行人たちからの視線が向けられて少し居心地が悪く感じてしまう。……そうだよね。みんな私達を見るよね。私も目立つ容姿をしているけど先生というかアインの見た目も目立つせいか、私達2人が歩くと通行人の視線を集めやすいんだよね。
「あまり気にするな。1分もしないうちに皆が忘れる。人間の記憶力はそんなもんだ。」
顔に出ていたのか先生がフォローしてくれた。そのことが凄く嬉しく感じて私は先生の腕を取る。
「帰りの駅までこうしてください。」
「片腕が使えないといざという時にミヨを守れないのだが……」
「私が守られるような女だと思います?」
「いや全く思わないな。寧ろミヨに守られるような立場にいるなワタシは。」
そこは嘘でもいいから否定してほしかったと思う女特有の面倒くさいムーブをかました。これ普通にウザい行動だし女って面倒くさいな〜と思っていた側の人間だったけど、好きな人の前だと女は本当に重くて面倒くさい奴に変わるね。やっと心理を理解したよ。ごめんよみんな。君たちもこんな気持ちだったんだね。
私達はイチャイチャしながら駅までの道を2人で歩いていく。完全にデートですよこれ。脳内麻薬ドバドバ〜〜。
「さっきの話の続きだが……」
「共通点の話ですか?」
先生はどうやらまだ話し足りなかったらしい。なので私は先生の気が済むまで付き合うことにした。
「1巡目から2巡目の世界へは私達が能力で導いた。それは特異点にしか出来ない。」
「はい……そうですね。」
先生の言いたいことがなんとなくだけでこの時点で分かった。私も同じことを考えていたから。
「ここで2巡目から3巡目の世界へ導くとしたら誰がやると思う?」
「……同じ特異点である私になると思います。」
「未来の話になるがこれも共通点だな。スオウが3巡目の世界を知っている時点で彼女の能力の射程圏内にあるということだ。つまり3巡目の世界は間違いなく存在する。ミヨが3巡目へと世界線を移すのは確定した未来だとワタシは考えている。」
そうか……蘇芳が3巡目の世界を知っているということは、3巡目の世界が存在していることになるのか。
「えっと、それだとモミジちゃんが1巡目の世界に居ても2巡目の世界を見れたように、蘇芳が2巡目の世界に居ても3巡目の世界を見ている。……ということになりますね。」
「そうだが、おそらくモミジは1巡目の世界に居ても3巡目の世界を見ていたと思う。」
「モミジちゃんが……?」
もしそうならモミジちゃんの能力は蘇芳に勝るとも劣らないものじゃないか?2つ先の世界を見て、しかもアインたちには気付かれずに先生をここまで導いたんでしょ?
「私達がこうしているのも知っていたと考えるべきだろう。そしてずっと先の事も見通していた。……スオウとモミジを同一人物と考えていたが、もしかしたら2人は別の目的で動いていた……?」
ん?どういうことだ?先生は何かに気付いたようだけど、私には情報不足で何も分からないよ。
「モミジは僕に謝っていた。あれは間違いなく心の底からの謝罪だったと思う。だからもしかしたらこの展開は彼女が望んだものではないのかもしれない……。」
今度はアインが表面に出てきて悩みだした。私も先生に抱きついているのか、それともこの場合は子供に抱きついているのか、又はその両方なのか悩んでいる。
「モミジちゃんは話に聞く限り蘇芳とは似てないと思いますけどね。物凄く良い子に思えます。」
「それだとスオウは悪い子って言っているようなものだよ?」
「無かったことにしてください。今の発言は無しです。私の妹がこんなに悪い子なわけがない。」
失言だったね今の。蘇芳に知られていないかな?私達の会話は知ることが出来ない筈だけどあの子ならどこからともなく聞き出して来そうだ。マキマ並に耳が良いからな……。
私は辺りを探ろうと探知能力に意識を向けてみる。すると私はあることに気付いてアインの腕を引っ張って人気のない狭い路地へと誘導する。別に息子を怪しげな所へ連れて行こうとしているわけではない。
「ミヨ……?」
「先生、ちょっと出てきてください。」
「ーーー了解した。」
私の真面目な声のトーンで先生も臨戦態勢で出てきてくれた。別にアインでも良いけど一般人が周りに多すぎる。もしものことを考えて先生には出張ってもらう。
『先生、パスでお願いします。』
『能力者か?ミヨから探知能力を借りているがワタシには探知出来ていないが』
先生も探知能力を使って周りを探知しているが気付いていないらしい。私ほど使いこなせていないのかな。
『私がやりますので先生はもしもの時を考えてスタンバっててください。……来ます。』
どうやら向こうは一般人が居てもここでやるつもりらしい。周りには通行人たちが行き交い人口密度はそこそこあるのにだ。それでも来るのだから向こうは最悪一般人をも巻き込むつもりなのかもしれない……。
(なら殺すしかないよね。)
後ろにも前にも人は普通に歩いているし全員が無能力者たちだ。でも私には分かる。ただの一般人の中に私達の同業者が混じっていることを。
「はい。お前終わり。」
前から歩いてきた男がすれ違いざまにジャケットのポッケからナイフを取り出し私を刺そうとした。私は男のナイフが私に触れた瞬間にナイフもろとも軌道を固定し動けないようにする。これでコイツはいつでも殺せる。次は……。
『ミヨ』
『分かってます。』
後ろから来た別の男が拳銃を取り出して引き金を引こうとした。すると彼の手から拳銃が消え去った。男は何が起きたのか分からなくて地面を見たりなどをして拳銃を探そうとする。だが見つかるわけがない。拳銃はお前の手の中にあるからだ。
『影の中へしまい込んだな?』
『はい。男の手と拳銃が密着したところには光が通っていません。つまりは影が出来ていることになります。その影の中に拳銃を落としてやりました。』
私の影を踏んでいる時点で射程圏内に入っている。無能力者には理解出来ない間合いがあるんだよ。それにこの男は拳銃がまさか自分の手の中にある影へと落ちたなんて気付きもしないだろう。拳銃が手の中へ入る感触も無ければ音もしないからね。
「お前はこんなところで発砲しようとしたからあとで必ず殺す。」
私は後ろから撃とうとした男の腹に目掛けてエルボーを打ち込む。私の肘は彼の腹にめり込み男はその場で蹲り吐瀉物を地面へと吐き出した。
『あと3人か。』
『良く分かるな 大したものだ』
横から挟み込むように詰め寄ってきた敵を私は怪腕で迎撃する。3人の顎先を擦るように怪腕で殴ると脳が揺さぶられて3人全員がその場に倒れ込む。意識までは狩れなくてもしばらくは動けない筈だ。
「……喋らないところを見るとあなたたちプロだね。」
無駄なことは一切しない。攻撃を食らっても叫んだり暴れたりもしないから相当の手練だ。こういうのに慣れた人間特有の行動に私はこいつらを雇った者達を探ることに決めた。
だが向こうもそれは分かっているから動ける奴はすぐに逃げ出そうとする。しかしそんなことをさせるほど私達は甘くない。
「おい。いきなり襲ってきて逃げるとはどういう了見だ?」
先生が男たちの軌道を創り出して固定した。私が対処しているうちにベルガー粒子を辺りに纏わせていたのだ。これでもう私達の勝ちが確定したも同然。あとは好きに煮るなり焼くなり蒸したりしてから処分するかな。
久しぶりに戦闘描写を書きましたがこの2人だと一方的な展開しか書けません




