【再現】の応用
早め投稿頑張りました。
『良し 先ずはその卵を一つ持て』
先生に言われた通りに卵を持つ。さっきはこれもう最終回じゃない?って雰囲気だったのに今では卵を持って構えている。空気の差が激しくて同じ場所で行われているのが信じられない。
『その卵の軌道に意識を向けろ そして放物線を描く様に地面に落とせ』
ヤバいもう意味が分からない。いや“意味”は分かるのだ。簡単な部類ではあるけれども、これをやる事で新たな能力を3つ覚える事に繋がるの?全然イメージが湧かない…。だって卵だよ?スーパーに置いてあるようなパックに入った卵だよ?生卵で能力覚えましたとかさ嫌じゃない?
(これはちょっと…何故卵を使うのか聞かないと覚えれるものも覚えられないよ。)
『先生何故この卵を使って訓練を行うのですか?』
『今までの対象は物体や軌道ばかりだっただろう?今度は生命に対して能力を行使する感覚を身に着けてほしいのだ 卵は手っ取り早く手に入って罪悪感の感じない命だからな』
割とちゃんとした理由であり残酷な内容だった。なるほどなるほど確かに手に入りやすい命だね。
あれ?そもそも無精卵って生きてるのかな?
『しかも固体と液体で構成されているのが素晴らしい。中身のほとんどは水なので言ってしまえば人の頭と似た構造なのだ。』
殻が頭蓋骨で白身や黄身が脳味噌か…食欲の無くなる話だけど目標の為には仕方ない。先生って絶対に私より情操教育の環境が悪い所で育ったよね。サイコパスの私でもかなりこの訓練方法には気味が悪いと思うところがある。黄身だけに。
「ふふっ。」
自分のしょうもないダジャレに笑いながら手のひらに卵を乗せて軽く転がす。軌道とは手から離れて地面にまで落ちる放物線の事だろうけど、さっきの話のおかげでそういう事だけではないという事が分かった。
この訓練で伝えたい事が少しだけ見えてきたように感じる。命に対して云々のところではなくて放物線のところだけど。
こうやって手のひらでくるくると回していても軌道は描かれていく。放物線は別に真っ直ぐじゃない。昔、理科の教科書で何枚もの写真を使って放物線を表していた図があった。軌道とは一直線に続くものだけではなくて断続的なものでもある。
《何か掴んだな》
どんな物体も動けば軌道が描かれる。今と昔の位置関係の差異を認識する事こそがこの訓練の本質だと思う。私の肉眼と【探求】の視界を統合する事によって卵そのものの動きと軌道を視認する。
すると私の視点では複数の卵が重なって回っているように見えてきた。
『そっか。軌道は重なってもいいんだ。いつも真っ直ぐの軌道を描いていたせいでただの一直線のイメージだったけど、もっと自由なのかも。』
卵を宙に放つ。卵は回転しながら放物線を描くけど真っ直ぐでも無いし卵は正確な丸でもないから回転すれば別の形にも見える。
地面に落ちれば割れて殻が放射線上に散らばって中身は黄身と白身がグチャグチャに混ざり合う。この一つ一つの動きにも軌道がある事を私はしっかりと認識出来た。今までの私の軌道の捉え方は雑過ぎたと実感出来たよ。
『何が視える?』
卵の軌道が空間に残っている。残像と言い換えてもいい。連続撮影されたみたいに数十個の残像が放物線を描く。
『残像が視えます。軌道にも種類があるんですね。』
空中に残った残像の周りをぐるりと歩きながら観察しているとある事に気付く。空中にある卵は【探求】のおかけで黄色の枠で囲まれているように視える。これは動物をマッピングで視る時に起こる現象だ。それが地面に落ちて割れた卵は灰色の残像で表されている。
(この卵はここで死んだんだ。)
この現象は良く知ってはいるけど、どのタイミングから死んだのかを残像で観察したことが無い。
『この残像を増やせるか?』
先生が私が創った残像を覗きながら割と難しい事を言ってくる。出来るかな…そもそもこの残像もなんで出来てるのか分からないのに。
『先生もうちょっとヒントください。この能力がどんな方向に向かうのか分からないので、せめて残像の増やし方は教えてほしいです。』
先生が目線を少しだけ私に向けると先生とのパスから情報が流れてくる。そのおかげで何かが分かったような分からないような?
結局はベルガー粒子で起こした現象なのでベルガー粒子をぶち込めばいいみたいな認識が生まれる。なので取り敢えずベルガー粒子を注いで残像の密度を上げれないか試してみよう。
『…先生まだ残像必要ですか?』
『この倍は欲しい。』
私が創り出した残像はもはや残像と呼べるモノでは無かった。残像が重なり合いすぎた結果、黄色く光った卵が引き伸ばされて現代アートみたいな見た目になっていた。美術館に置いてあっても違和感が無いと思う。
『残像から軌道線になりますけど?』
『問題無い』
先生は相変わらず私の残像を見ている。辺りは暗くなり始めて何処からともなく電球が光り出した。恐らく非常灯のようなものだろう。時刻も19時を回ってるから訓練を始めて2時間弱は経ったのかな。この時期の夜は蒸暑くて嫌いだ。
『ベルガー粒子を注いでも残像が増えなくなってしまいましたけど…』
もうこれ以上残像が増えなくなってしまった。もう残像同士が重なり合いすぎて増えたかどうかも見た目では分からないけど、私の【探求】では完璧に捉えている。
『そうだな』
先生がニヤリと笑ったままで私の残像を視続けている。これはノーヒントですね。分かります。
《フフフ…あのミヨが訓練で苦戦するのはもしかして初めてではなかろうか いつも想定外の結果を出しているからな 困っている若人を見るのは楽しいものだ》
先生がとても楽しいそうにしているから別に良いけど、いつも順調に訓練を進められていたから、ここで躓くのは少しだけプライドを刺激させられる。
(まずこの先の展開が分からないと中々能力を上手く行使する事が出来ないし、色々と情報を得たいけれど先生はこれ以上は何も言わなさそうだよね。)
もしかして言えないのかな?正解を言ったら訓練にならない内容なのかも…チラリと先生を見ると少しだけニヤッと笑って現代アートを鑑賞し続ける。
私の熱い視線を気付いているのに無視するなんてっ!これが恋の駆け引きなのっ!?
(…ふ~~いやいや落ち着け私、クールになるんだ…いつも何だかんだ最後は能力を身に着けただろう?必要なのは認識と発想と観測だ。いつもそうだったでしょう私!)
先ずは情報の整理からしよう。先生が準備したんだから訓練に必要な物は揃っているはず。
「……ん?」
私は先生が用意した卵を見ていたらある疑問が浮かんだ。卵しかないけど…そういえば何でこんなに卵あるんだろ。この訓練のやり方なら要らなくない?
私は美術の道から逸れて第一次産業の道に進路変更した。やはり堅実こそ最強。美術なんかで飯食っていけないよ。私が進む道は畜産だよ!
《そっちに目が行ったか ミヨがどんな成長を見せてくれるか是非ワタシに見せてくれ》
いつもいつもブクマしてくださりありがとうございます!増えるたびにニヤニヤしています。




