シナリオ
私がデート気分を楽しんでいると先生が私に話しの続きを催促し始める。おっと脱線していたね。いけないいけない。
「共通点の話の続きだが、ワタシが1巡目から2巡目へと世界を逆行させた。これに共通点があるのか?」
この世界は2巡目の世界だが実はこの話には続きがある。
「あります。蘇芳が言っていた3巡目の世界です。」
「3巡目…?まあ1巡目も2巡目もあるのだからあっても不思議ではないが…。」
先生はいまいちピンとは来ていなさそうだけど、私は3巡目の話を蘇芳から聞いている。彼女がわざわざ口にするのだから意味はあるに違いない。
「ーーーそういえばモミジが前にそのようなことを口にしていたような…?1巡目、2巡目の世界が…と言っていたな。」
話している途中で先生からアインへ移り変わる。アインの記憶を再現している…?私も忘れ物をしたときに記憶を再現してみたいかも。
「モミジが言ったのなら蘇芳も同じことを言っている…。これも共通点にならない?」
「ミヨの言うとおり1巡目と2巡目には酷似した点が多いけど、それはモミジとスオウが同じ人物だからだ。彼女達は同じ能力で同じ目的で動いている。」
私はほうれん草を口に入れながら反論する。同一人物でも生まれも環境も違えば他人だ。同じとはいえない。
「じゃあその目的は?3巡目に導くことが目的だとしたら…全てが繋がる。」
「…確か「この1巡目にも2巡目にも君の幸せはない」…前にモミジが言っていた。つまり3巡目には僕の幸せがあるってことにならないか?」
「どちらも3巡目の世界を示唆しているとなると間違いなく3巡目に世界を導くのが蘇芳たちの目的です。」
3巡目の世界は恐らく彼女が欲するものがあるのだろう。それはどんなものかは分からないけど、1巡目から準備し続けていることを考えると…
「狂っているな。」
「私も同じ事を思ったよ息子よ。」
「…」
「その顔止めて。その顔を再現するの禁止。PTSDが悪化しちゃう。」
どうやらアインは私に母親面されるのが相当嫌らしい。反抗期なのかしら?子育て本買って帰ろうかな。
「…嫌われているな。」
今度は先生に変わったか。うちの息子が引きこもりで困っています。
「まあ、先生ってアインの生み出した能力だから…つまりは先生ってアインの子供ってことになりますよね?母親が孫に色目を使っていたら嫌なんでしょう。」
「なにを言っているんだ?」
おっと、素で返されたよ。私のこのパーフェクトな理論が理解出来ないのかな?だってそうだよね?先生ってアインに生み出されたんだから親子関係みたいなものだよね?なら先生はアインの子供になる。あ、そうなると私は自分の孫に恋しているやべーババアってこと?女子高生なのに孫に手を出そうとしているなんてポリコレどうなってんのよこの物語。
「能力に親子関係があるわけないだろ。ミヨにしては荒唐無稽な発想だな。」
先生がドリンクを飲みながらバッサリと私と先生との血縁関係を断ち切った。即ち合法である。やったね美世ちゃん家族が増えるよ!
「まあ少し発想が気持ち悪かったのは認めます。こちとら働き詰めで結構ハイになっているんです。許してください。」
「まあ3月までは忙しいだろうがな。私達もそこがタイムリミットだ。」
…この話には触れたくなかったんだけど、先生と話す上で絶対に避けては通れない話題だ。
「能力の制約ですよね…。先生は前に言いましたよね。『私達のような者達が生まれないような世界に導いてくれ』って…。そこで能力は行使し終えるのは確定なのですか?」
先生は特に気にした様子もなく淡々と事実だけを語り出す。
「スオウが私達の代わりに1巡目への可能性を消し去っているからな。こうしている間も私達は弱体化し続けている。これは能力が行使し終えるからだ。」
「…1巡目の世界には私が子供を産んで、その子供たちに私のお母さんが殺意を植え付けて世界をメチャクチャにし、千年後には私の遺伝子でアインが産まれてネストスロークと戦う…。これで合ってますよね?」
「大体な。ではこの2巡目の世界と1巡目の世界との相違点を上げれるかな?」
先生は私がちゃんと理解しているか確かめようと問題を出す。共通点は挙げたけど相違点はまだ言っていなかったね。
「私が先生と出会ってから全てが違います。その中で1巡目の世界へ繋がるだろう点は蘇芳が全て消し去りました。」
「具体的には?」
「私と先生がネストスロークの土台となるミューファミウムを壊滅させ能力者たちを皆殺しにした。多分その中には私が産むはずだったレイ・セルシウス・ストーム・モミジ・グラ娘たちの父親も居たでしょう。それに私は子宮を失いました。…もう私の子供が産まれることは無い。」
1巡目の世界で起こった事件の根底が根こそぎ消失している。本当に大した手腕だよ私の妹は。彼女が能力に目覚めた時から準備していないと絶対に成立していない。
「ーーー正解だ。あまり口にして気分の良いものでは無かっただろう。すまない。」
「謝らないでください。一度も会ったことが無いですし、その子達の目的が先生の目的なのですよね?」
先生が申し訳無さそうに話すから私は慌ててフォローに入った。私からすれば実感がない話だから気にしようがない。アインはこうして目の前に居るけど他の子供たちに関しては話にしか出てこないしね。
「ああ。その証拠に彼らは再現出来ない。私達の能力の効果で消え去ってしまった。…ただ安らかに眠っていてくれればいいのだが。」
「…どんな子達だったのですか私の子供たちって。」
性格などは先生からは聞いていない。能力も簡潔に聞かされたぐらいの情報しか私は自分の子供を知らないのだ。
「…そうだね。いま思うとミヨと似ていたと思う。能力も強力で戦い方もミヨに似てとても上手かった。戦いになると非常に凶暴で手がつけられなかったけど、仲間や家族にはとても優しかったよ。」
「…アインにも優しかった?」
「優しかったよ。でもレイとセルシウスには殺されかけたというか一回殺された。」
「あ、私の子供っぽい。」
こんなことで自分の子供と思うのは間違っていると思うけど、それでも繋がりを感じるエピソードだ。だからわざわざアインはこの話を私にしてくれたんだと思う。
「最後はきょうだい達とはろくにさよならの挨拶も出来なかったけど、託された願いだけは叶えようと思っている。」
「そうですか…なら、私も母親として彼らの最後の願いは叶えてあげないとだね。」
アインがきょうだい達の思いを引き継ぎこの時代までやってきた。そして私と出会いこうして同じテーブルで食事をしている。これはもしかしたら死んでいった子どもたちが望んではいなかった未来なのかもしれないけど、私はこうして私の子供から子どもたちの話を聞けて大いに満足しているよ。
「もう殆ど叶えているけどね。ネストスロークはもう誕生しない。私達も生まれない。あとはこの世界を平穏な未来へ導くだけだ。」
「うん…そのために徹夜してでも働いているからね。分かってるよ。」
蘇芳が組織で掲げている目標のせいで忙しい日々を送ることになったけど、別に蘇芳は悪い事をしているわけではないし、寧ろ世界の平穏の為に動いているから私は年末年始から仕事をしていた。
蘇芳の目的には先生の弱体化も含まれているんだけど、そのために組織のトップに彼女が座りそこで行なったことは単純なものだった。未来予知をして皆に能力を認めさせ、自分の言いなりになるように立ち回る…それだけだ。
彼女が3月までに超能力を世界に公表する準備を終えると言い切り行動を開始した。かなり無茶な話でも彼女の能力は組織の全員が理解しているから不平不満は出てこない。どこで何が起こるのか全てを認識し、蘇芳が仕事を振り分けてから作戦の成功率は100%になったからだ。
死人どころか怪我人も出なくなった。現場からの蘇芳への信頼度は凄いことになっている。
だけど普通に考えて中学生が組織のトップになるのは無理だ。周りの反発が絶対に起きるし他に候補者が居る。でも蘇芳は組織のトップになることが出来た。それは彼女の血筋による要因が大きい。
父親は言わずもがなだが、母親が組織の創立者の家系だったのだ。組織の創立者は優秀なテレポーターでその子供や孫たちもテレポーターが多い。その中でも一際優秀なテレポーターが蘇芳の母親で、あの洋館で働いていた新垣さんが蘇芳の母親だった。
これには驚いたけど確かに顔立ちが似ているなと思ったよ。でも体つきは似ていないかな。
あとこれも大事な話だった。私は会ったことが無いけど創立者が亡くなったのだ。これがもしかしたら蘇芳が組織のトップになれた大きな要因かもしれない。
蘇芳は創立者が死ぬタイミングを知っていてここまでの計画を立てていたと考えると本当に狂っていると思う。私と姉妹なだけあるよ。
でも彼女は私とは違い創立者の血筋であり京都の血も継いでいる。それにあの能力は実力主義の組織の中でも一線を画している能力だ。彼女は私なんかよりもこの世界の主人公をしているよ。




