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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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犠牲

何故か今日の仕事が免除されたので私は第二部ビルのカウンセリングに受けに行くことになった。マイシスターズから念押しされ必ず行くように言われたからだ。理華は「私も一緒に行くっ!」って言っていたけど伊弉冊に腕を捕まれそのまま引きずられていった。彼女の死を無駄にはしない。


「おーいあいの風さ〜ん。お〜い。」


「あ、はい。すみません物語の冒頭を語っていたのでボーッとしていました。最近はあまり語っていなかったような気がして久しぶりだったもので…」


「ボーっと生きてんじゃねーよ!」


うん、今日もこのカウンセラーは絶好調そうだ。年始からの勤務、お疲れ様です。


だけど普通に考えてこの人が年始から働いていて元気な訳がない。そう考えるとこのテンションはから元気なのかもしれないね。


あ、因みにだけど私のカウンセリングを担当するのは五十嵐(いからし)反亜(そりあ)さん。薬降るさんの同期で結構良い加減な性格をしているお姉様だ。


私みたいに眼鏡をかけて知的そうな外見をしているが、私みたいに中身がポンコツな部類の残念な人である。


「それで…今日来てもらったのは身体と心の状態を見る為だったけど、どっちから知りたい?」


このカウンセリングを受ける前に蘇芳が手配していたのか、第二部ビルに入った瞬間にレントゲンを撮ると言われてビックリした。まあそうだよねってすぐに納得したけど。


「じゃあ身体の方で。」


「おっけ〜い。えーっと…ふむふむ。」


検査結果が書かれた紙を目で流し読みながら五十嵐反亜は何から口にしようか迷っていた。検査結果もそうだが女性のデリケートな部分に触れる内容だからだ。


「…うん。君なら真正面から言ったほうがいいね。君と私の仲だし。」


どんな仲だよ。思わず口に出そうだったけど私は自制した。偉いよ美世ちゃん。


「術後の経過は問題無いよ。()()()()()()()あとに不調は感じなかった?」


「寧ろ好調でした。あの臓器絶対に欠陥品でしょ。毎月あったブラッディデイが消えたのは最高です。」


「う〜〜ん…そう感じか〜〜。まあ〜〜君ならそう言うかもな〜って思ったけど、実際に口にされるとね〜。」


五十嵐反亜は右手に持ったボールペンの先で自身の頭を掻きながら診断書とにらめっこする。いくら睨んでも書いてある内容も彼女の回答も無かったことにはならない。五十嵐反亜は彼女の言葉を否定はしない。それが彼女がこの仕事に対して常に気を付けている事だからだ。


「今どきの娘はそうなのかな〜私は女子高生の知り合い居ないから分からないけど〜あいの風さんは普通の女子高生じゃないしな〜。」


さらっと普通ではないと言われた私は悲しかったけど、それを顔には出さなかったよ。否定出来ないしね。


「はあ…、まあ〜そうだね。良い点に目が行くのは良いね。寧ろマイナスな点ばかり目が行く子よりは良いかな。」


「ポジティブ思考なんです私。」


「でもね、これから話す内容はポジティブな内容ではないかな。」


眼鏡をかけている五十嵐さんがクイッとかけ直して佇まいを正す。これから話される内容が重い内容であるのは間違いない。


「そもそも子宮を摘出しないといけなかったのが子宮が壊死していたからなんだけど、摘出した子宮から短期間に何度も出産したと思われる形跡が見受けられたんだよね。子宮が壊死していたのもこれが原因だと考えているけど、それ以上の情報はここには載っていない。この内容を話すことにも制限が設けられているし、かなり機密性が高い案件だね。」


多分蘇芳が色々と手を回してくれたんだろうね。


「因みに私にも能力が掛けられている。自己暗示みたいなものかな?話せる内容も相手も限られているんだけど凄いよね〜。あいの風さんに話すまで本当に誰にも話せなかったもん。」


自己暗示…多分竜田姫(たつたひめ)さんかな。それとも常世さんかも?あとでお礼を言っておかないと。


「ふぅ~…、まあプライベートなことだしこれ以上は言わないし聞けないけどこれだけは聞かせて。術後の経過は本当に大丈夫なの?」


「…あ、手術痕ですか?綺麗に治してもらったので大丈夫です。痛くも痒くもないですし。」


「君の傷を治したのはあやせだけど、彼女が君を治した理由は…分かってるよね?」


「…はい。」


あの時に薬降るさんと話した内容は忘れもしない。あれは私があの家から飛び出した後で体調不良を覚え、そのまま第二部ビルへ行って見てもらったらそのまま手術する流れになって…そして確か目を覚ましたら薬降るさんが居たんだよね。


「あいの風さん。気が付きましたか。」


「え、な、なんで薬降るさんが居るんですか?というかここって…」


知らない天井だごっこをする暇もない。突然目を覚ましたら薬降るさんが私が寝ているベッドの横に座っていた。相変わらず姿勢がとても良くて美魔女な人だ。因みに子持ち未亡人。


…いや、今はそんなこと考えているところではない。えっと…確か腹痛を覚えて第二部ビルに来たんだっけか。それで多分ここは病室。手術が終わってここに運ばれたみたい。窓から月明かりが見えるからまだ深夜のようだけど…


「その様子だと麻酔が切れたばかりでまだ頭が回っていないようですね。お腹の痛みは取れましたか?」


「え?あ…そう言われると痛みが無いような?」


私はお腹を擦ると少しだけ違和感を覚える。布団を退かして入院服の上着を捲るとお腹の辺りに手術痕が残っていた。かなり目立たなくはなっているけど明らかに何かで切った跡だ。


「私の能力で無理のない程度に治しておきました。」


「えっと、ありがとうございます…。」


確かに薬降るさんならこれぐらいの傷は治せそうだけど、なんで居るのかが分からない。だって私は急に痛みを訴えてこの第二部ビルに来たのに…。


「話は天狼から少しだけ聞いています。」


その言葉を聞いて私は動揺を顔に出すまいと努めるが、そんなことも彼女にとってはお見通しだったみたい。


「組織に所属する能力者が9人も殺されたのは知っています?その中には子供もいたの。…顔見知りの子だったわ。」


「…知ってます。」


良く知ってる。だって、私のお母さんが殺したから。出来れば生き返らせてあげたいけど、彼女のように事実を知っている者が居るせいで生き返らせることが出来ない。死者蘇生なんてものが知られれば私のように過ちを犯してしまう。


私がお母さんを生き返らせてしまったせいで罪のない人々が死んでしまった。死者蘇生なんてこの世界にあっちゃいけないものだったんだ…。


「…他にも知ってそうですね。…まあ私はその犯人を探していたのですよ。必ず見つけ出してこの手で殺すために。」


薬降るさんから殺気が放たれる。…個室で良かった。周りに一般人が居たら卒倒していただろう。


「だけど結果は惨敗。気が付けば全てが終わっていました。…関わることすら出来ませんでしたよ。まるで全てが計算され仕組まれたみたいにです。」


そうだろうね。私の能力と蘇芳の策略で外部の人間が関わることは出来なかったはずだ。


「でもこれはあり得ないことなんです。私にもそれなりの目と耳を組織内のあっちこっちに忍ばせていますが、そのどれにも引っ掛からずに事態が収拾するなんて考えられません。」


「…」


まあ…引っ掛かるわけがないよね。私の能力は相手から探知出来ないように出来る。組織の包囲網にも引っ掛からないんだから薬降るさん個人の包囲網になんか引っ掛かるわけがない。


「京都が停電したというニュースを見てこれだと思い京都へ向かいましたが、私が京都に着いた時には全てが終わったあと、まさか京都支部長も殺されていたとは思いませんでした。そこで天狼に会いに行き話を聞こうとしましたが…あんなにも迷っている彼女を見たのは初めてで驚きましたよ。」


「天狼さんが…?」


「彼女が迷っている姿なんて見たことがありません。小さい頃から知ってますけどあの子はこれと決めると迷いません。しかし天狼は何を話せばいいのか迷っているようでした。天狼のお父様が死んだ事とあいの風さんが今回の件に関わっていそうなことは聞けましたが、それ以上のことは何も聞けずに彼女は京都支部のほうへ向かっていってそのままです。」


「そう…ですか。」


天狼さん、黙ってくれたのか…。


「なので今回の件は私にも話せない内容だったとは察しがつきます。それに天狼、あいの風さんが事態の収拾に努めていたのも分かりました。」


…違う。この事態を招いた元凶が私なんだ。収拾出来たのは先生のおかげで、私はとても悪い奴なんだよ薬降るさん…。


「だからこれはそのお礼と謝罪です。」


薬降るさんは私のお腹を見て悲しそうな表情を浮かべた。


「私たち大人がやらなければならないことを若人にやらせてしまった。そのせいで貴方の当たり前にあった未来を奪う形になり本当にごめんなさい。」


「…子宮、のことですか?それならいいんです。これで良かったんですよ。」


薬降るさんは私が事態を収拾するために犠牲を払ったと考えているけどこれは自業自得だ。やってはいけないことに手を染めたツケを払ったに過ぎない。


「良くはありません。だって、これは…あまりにも酷い。私以外にも手を差し伸べられる大人たちが居たのに、誰も貴方に手を差し伸べられなかった。貴方一人で解決させてしまったのです。その代償すら貴方一人に押し付けて…そんなの理不尽ですよ。」


「…私一人ではありませんよ。天狼さんや他にも色んな人たちが動いてくれたおかけでこの程度で済みました。安いものです。」


そうだ。これぐらい安いものだ。寧ろ安すぎる。いっそのこと私の命ぐらい代償として払わせれば良かったのに。…いや、私なんかの命も安すぎるか。

本物の家族と偽物家族、そして子宮を失った彼女が手に入れたのは残された家族でした。


最悪なキャッチコピーかもしれん。

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