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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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二巡目への道筋

本当はこの話で終わりにしようと考えましたが、もう一話だけ書かせてください。ここで終わっても良かったのですが、どうしても書きたい部分があるので次回でこの章は終わりになります。

地球から遠く離れた銀河系に存在する一つの惑星、そこに新たな生命が生まれようとしていた。海底にある火山活動によって生まれた熱が物質に干渉し、生き物の素になるアミノ酸が生み出される事によってこれから更に進化が続くかと思われた……。


だがアミノ酸は分解され元の無機物へと向かっていき、この星から生命は消え去った。


地球から何百万光年も遠く離れた場所に存在するブラックホールが、一度吸い込まれれば光すら脱出することが不可能となる重力を発生させていたが、吸い込まれた光がブラックホールから排出され宇宙空間に戻っていってしまう。


更に遠く遠く離れた宇宙の最果て、光速の速さを超えた速度で膨張していた宇宙空間そのもの動きが止まり、少しして動いたかと思えばなんと宇宙空間そのものが縮小していき宇宙そのものの大きさが変動していく。


それから場所は移り変わって地球へと変わる。地球に暮らしている耀人のミカエラ・ミミ・メメの3人が半年以上前から消息を断っているアイン達の無事を願って今日も祭壇にて祈りを捧げていた。


だが、その願いも時間すら逆行し消え去っていく。彼女たちの思いは無かったことにされ、時間は更に1日前へと逆行していくが留まるところを知らない。


彼女たちが日課として続けていた毎朝の祈りそのものが何度も何度も消え去っていく中でアインたちとの出会いそのものまで消失してしまう。


地球の自転は逆方向へ進み公転も逆行していく中でノアの方舟にも異変が起きる。急遽(きゅうきょ)マザーが増設し壁一面に並べられた能力者たちの脳に能力者本人たちの軌道が重なるように現れた。


まるでホログラムのような不透明な軌道だったが、その目からは意思を感じさせる。この状況をまるで理解しているかのように能力者たちはユニゾンを行使し続け、彼の者にベルガー粒子を供給していく。


マザーはそれらの事象を観測することすら出来なくなり逆行する時間の波に飲まれていった。ノアの方舟の内部はいくつもの時間軸が交差し合い、現在・過去の軌道が重なってどの時間が正規の時間なのか定まらない。


艦内では時間の定義が曖昧となり、時間の流れがまるで水の流れのように視認が出来るようになっていた。現実世界とは隔絶とした空間へと変質した証拠だ。


そんな時間の濁流にある軌道が映し出された。それはある少年少女たちが輸送用の宇宙船に乗って地球へ向かうシーンであったり、白い髪の少年が赤髪の少女と他愛もない話をしていたりなど様々な時間が映し出されては消え去っていく。


そして初めて少年と少女が出会い言葉を交わした時間が空間に現れた。彼の者はそれを眺めて手を伸ばしてもう一度その少女に触れようとしたが、一度放たれた能力は止められない。少年と少女が出会ったという事象は消え去り、この世界に生まれたという時間も逆行して無かったものとして確定されるが、それでも逆行は止まらない。


幾人もの能力者が生まれたことも消え去り、ノアの方舟が宇宙へ打ち上がった時間を通り過ぎても尚、時間は巻き戻っていく。


バグと呼ばれたきょうだいたちが人類を襲った事実も人類と彼らとの間に起きた戦争の時間も消失し、そしてある少女がその子どもたちを産んだという事象も消えていった。


その少女が幼い頃に母親を失う事実も、その母親が少女を産んだ時間も、母親が能力者を憎む感情も無かったことになり、時間は更に逆行していく。


時間はある国で起きた高度成長期まで戻って更に悲惨な戦後処理に追われる時間まで逆行し終え、その地点が正規の時間軸へと移り変わる。


その地点にある国の名前は日本。日本がアメリカとの戦争に敗れて第二次世界大戦の終戦が行なわれた1945年8月15日。


親も家族も友人たちも失い生きる希望を失った少女が焼け焦げた大地の上に立っていた。彼女のみが特殊な力で生き残り、故郷に暮らしていた人達は全員居なくなってしまい少女はただ夜の空を眺めるばかりの日々を送っていた。


彼女は能力を使い生存者を探し回ったが、どこに行っても焼け焦げた死体のみ。友人が住んでいた家も焼け落ち、それでも少女は諦めずに捜索活動を続けたが、虚しくも瓦礫の下から友人が着ていた服と骨が見つかるだけでどこにも生存者は存在しなかった。


それからも少女は捜索活動を続けて自身の家と思われる焼跡からは家族らしき者の骨を見つける。この辺りから少女の記憶は混濁し、ただただ辺りを彷徨うこととなる。


少女の能力ならばここから遠く離れた安全な場所へ行けるのにも関わらず、少女は故郷を離れないで焦げ落ちた果物を食べて食いつないでいた。


だが身体に栄養が取れても心に栄養が行かなければいつかは心が死んでしまう。彼女の心を生かしていたとすれば星が輝くこの夜空があったからだろう。彼女は夜になると上を見て星を眺めた。下を見れば辛い現実が嫌でも目に入る。少女にとっては夜空しか癒やしになるものは無かった。


そして少女がいつものように星を見ていた時、衛星軌道上に彼の者は居た。彼の者が行使した能力は自身が逆行するのではなく、自身以外のもの全てを逆行させる能力。おおよそではあるが千年以上もの時間を巻き戻し、この年代まで宇宙規模で逆行させたのだ。


これ程の能力を行使して無事で済むわけもなく彼の者は大量のベルガー粒子を失い宇宙空間で漂っていた。能力の反動で意識を失い、ただそこに存在するだけのベルガー粒子の塊だった彼の者は徐々に地球へと向かっていく。


ベルガー粒子は物理干渉を受けないが、唯一重力には影響を受ける特性がある。彼の者は地球の引力で引っ張られて大気圏へ突入していった。


その時、星を見ていた少女は光を発しながらこちらへ落ちてくる彼の者を視認する。最初は流れ星か隕石かと思いただ眺めていただけだったが、少女の居る地点からそう遠くない場所にある山と山の麓にその光は落下した。


少女は音もなく落ちてきたその光の正体が気になり能力を行使してその地点へテレポートする。彼女はこの能力を使うことで空爆から逃げおおせて生き残ることが出来た。そしてこの能力があったからこそ彼の者と出会うことにも繋がった。


そして彼の者は少女と出会いここが千年以上前の日本であることを知り、少女は未来でおこなわれる悲惨な末路を知る。


2人は共通した願いを持って協力し合い、先ずはこの国の立て直しに掛かることにした。少女は能力で国に情報と物資を運び、彼の者は少女のような能力者を探し回る。


その中で戦争で家族を失った子供たちが多いことを知り、少女と彼の者はそんな子供たちを集めて一つの集団を作り出す。その集団は団体となり会社となり組合となり“組織”となった。裏稼業として殺しなどを受け持つ組織は日本の治安改善・治安維持に尽力し、後に多大な権力を手に入れることとなる。


それから時は更に進んで21世紀の現代になってもその組織は続いていた。その組織内にてオリオンというコードネームで呼ばれることになった彼の者、白髪の青年アインは長年協力関係であった少女の下へと向かっている途中だった。


蘇芳との戦いに敗れた後に組織の創始者として務めていた少女が今日で寿命を迎えそうだと連絡が入り、彼女が入院しているこの病院へと訪れて彼女の待つ病室までの道中、アインは彼女に訪れる死を思いながらも頭の中では他の事を考えていた。


(今思えば全ての始まりは美世だったんだな。)


ここに来るまでの間にアインは己の過去を思い出し、蘇芳が話した内容と照らし合わせることで美世と自身との関係性に気付いた。


(レイ・セルシウス・ストーム・モミジ・グラ娘……そしてアインは美世の子供だった。)


モミジの母体となった能力者が蘇芳だということは分かっていた。だが蘇芳に姉妹、きょうだいが居なかったせいで美世とは血の繋がりが無いと思っていたが、母親が違うだけで父親は同じ。つまり彼女たちは姉妹の関係性で……私達とも血が繋がっていることになる。


道理で美世が強力な能力者な訳だ。その子どもたちの能力を見れば優れた能力者であることは明白。しかもその母親は怪異点でレイたちに能力者へ憎悪を与えた張本人……。整理してみると分かるがなんて呪われた家系なんだ。


蘇芳……いや、モミジはこの展開を一巡目の段階で知っていて私達に黙っていた。特異点に知られると困るからだろうが、そうなると一巡目の蘇芳もこうなることを知っていたことになるのか。……狂っているなあいつら。


モミジに関しては一巡目の段階で自身が死ぬことも分かっていて、二巡目の世界では彼女が生まれることはない事も知っていたのだから驚きだ。恐らくミューファミウムの能力者を皆殺しにしたから彼女の父親となる者はもう死んでいる。


それを母親となる美世と私達に殺らせたのだから彼女の覚悟は凄い。並の精神力では遂行出来なかったはずだ。それでも彼女は「私達のような者達が生まれないような世界へと導いてくれ」という願いを叶えてみせた。


そう考えるとなるほど……道理で蘇芳に勝てない訳だ。


能力は目的を達成すればどれだけ強力な能力、出力であっても消え去ってしまう。私達という能力に込められた願いは私達という存在が生まれない世界へと導くことだ。もう殆ど叶えられているといって良い。


モミジたちの父親は死に、ネストスロークの母体となったミューファミウムも壊滅し、人類滅亡の元凶たる怪異点は特異点の美世が完全に消し去った。


……どうやら蘇芳とモミジ達には上手く利用されたみたいだな。これは完敗と言わざるを得ない。千年以上の時間を使った仕込みとは恐れ入る。


「はぁ……チヨにどんな顔をして会えばいいか分からんな。」


世界中から死神として恐れられた青年はたった2人の少女に上手いこと出し抜かれたことを千年以上経った今になって気付き、これから会う少女の名前を口にしながら病室の扉に手を掛けるのだった。

はい、ていうわけでアインと美世の関係性が明言されました。一応設定として2人には血縁関係があることを示唆する描写や伏線どの章でも書いていたですが、昔のこと過ぎて誰も覚えていないですよね。


例えば美世が死神は生き別れた兄かもしれない〜的なことを言った場面とかですね。


あと美世が母親に固執するところと死神が美世に固執するところとかも親子の関係性として一貫性があったりなど色々あります。美世が母親の仇を取ろうとするところもレイたちが母親の願いで能力者たちを殺すところも同じですね。


この物語のテーマとして血の繋がりや親子関係とかが挙げられますが、作者的にはそういうのを書けて満足しています。

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