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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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終わりへの段階

アインは周囲の気配に気付き目を覚ますと、先ずは腹部の激痛に苛まれて思わず再び目を瞑り、そこで耳に入ってくる爆音で周囲の状況に気が付いた。


(そうだ……、アネモネは?みんなはどうしたんだ……!)


意識が覚醒し目を開けたらそこは正に地獄絵図。巨大な巨人の腕が自身の周りを囲み、その巨大な顔が自分を斜め上から自分を見つめ、更にその上からは凄まじい速度で落下してくる弾丸の軌跡が見えてくる。


弾丸の速度はアインの位置からだと宇宙から地上まで1秒程度に見え、着弾すると少し遅れて振動が骨まで響き、爆音が更に遅れてから鼓膜を振動させる。


それがある一定の間隔で断続的に行なわれるものだから弾丸が着弾した際に舞った粉塵が雲の高さまで上昇し、辺りを灰色に染めていた。


「ぐ、グラ娘……?」


見たところ周囲にはグラ娘しか居ない。彼女から話を聞ければみんながどうなったのかが分かる!


『……やっと起きたか。昔から起きるの苦手だったとはいえ遅すぎだぜ。』


『ディズィー?どこに居るっ!?みんなは無事なのかっ!』


脳内にディズィーの声が聞こえてきたのでディズィーの姿を探す。グラ娘の頭を見るが遠いからかディズィーの姿は見えない。


『……落ち着いて聞いてくれ。先ず目の前に居るのが俺だ。グラ娘の身体に乗り移っているんだよ。』


『……え?どういうこと?ディズィーが?グラ娘の身体に乗り移っているって……。』


ディズィーが何を言っているのか分からない。乗り移っている……?そんな能力を僕たちの中で持っている者は居ない筈。僕が気を失っている間に何があったんだ?


『俺も良く分かんねえよ。ぐっ……!』


話している間も空から飛翔体が降り注ぎグラ娘の身体を削っていってる。そうだ、僕の能力なら元に戻せる!


『待ってろ!いま治すから!』


『……それが最善なのか?』


この状況下でひどく落ち着いた声が頭の中で聞こえた。今のディズィーはどう見ても異常だ。とにかく元に戻さないといけないのに、何故か彼がそれを望んでいないように聞こえた。


『ディズィー……?どうしたんだ?何があったんだ?』


『……後ろ、見てみろよ。』


『後ろ……?』


上にインパクトのあるものがありすぎて地面の方の確認が疎かだった。その為、後ろで倒れているモミジの姿に気付かず僕は慌てて彼女の下に駆け寄る。


『モミジっ!?大丈夫かっ!?』


身体を揺さぶっても返事はない。……これは、気を失っているわけじゃない。……恐らく死んでしまっている。彼女のベルガー粒子の量が極端に薄い。能力者もバグも死ぬとベルガー粒子を失っていくから……。


『俺かモミジか、それともみんなを生き返らせるのかはアインが決めてくれ。』


『みんな……?』


振り返ってディズィーの方を見る。彼の言い方ではみんな死んでしまったみたいに聞こえるが、それはあり得ない。レイ達と約束したんだ。彼らが約束を破るわけが……


モミジに触れている手に違和感を感じる。まるで身体から腕が生えているみたいだ。しかも一つや二つじゃない。


「あ、ああ……!」


うつ伏せで倒れていたモミジの身体を引き起こすと衝撃的な光景が目の前に現れた。彼女の胴体には様々な人間の部位が取り込まれていて、しかも見覚えのあるものばかり。間違いない。みんなの身体の一部だった。自分よりも小さなモミジの身体の中に仲間たちの身体が取り込まれていた。


『……生き返らせるのは誰か。それともアインが昨日へ逆行させるのか。それはアインが決めてくれ。お前が起きるまでの間に俺も色々と考えたけど正解なんて分かんなかった。どこから間違っててどこを直せばいいのかなんて俺には分かんねえ。』


ディズィーの言葉には重みがあった。本当に色々と考えたのだろう。そして考えついた先は分からないということだった。これは決して彼が頭が悪かったとかそういうことではない。誰が考えても分からないことなんだ。彼はそれをすぐに見抜いて僕に答えを託したんだと思う。


『……僕も、分からないよ。1日戻ったところで結果は変わらない気がする。またこうして考えることになるになるだろうし何を正せばいいのか……。』


『アイン……。』


みんな死んだ。多分アネモネも死んでいる。僕を助けるために死んたんだ。じゃないとここに居るわけがない。彼女は僕に時間を与える為に自分の命を……


『なあアイン、モミジが言ってた本当の意味が分かった気がする。俺がこうしているのは時間稼ぎの為なんだ。』


『時間稼ぎ……?』


『ああ、多分アインに選択させる時間を作るために俺はここに居る。それは俺が生まれる前から決まっていたことなんだよ。』


生まれる前から決まっていた……。モミジの能力を考えればみんなが今日死ぬことも決まっていて、そのことを彼女は知っていたのだろう。今思うとあの時モミジから聞かされた話の意味が分かってくる。彼女がずっと謝っていたのは、こうなることを言えなかったからだ。そんな事を今更ながら理解出来た。


『それってまるで死ぬために生まれてきたみたいじゃないか……!僕たちはここで死ぬために生まれてきた訳じゃないだろっ……!!』


『いや、いつかは人は死ぬだろ。それが今日だったわけでさ、アインにはその日を変えられるかもしれないかもしれないけど、俺にはどうしようもないんだよ。』


この時にはディズィーは理解していた。何故自分がここに居て、仲間たちの中で最後にアインと話すのが自分なのかを。


『あのさアイン。』


『……なんだよディズィー。』


ディズィーは自分という存在が消えていくのを感じ取り、最後の言葉をアインへ伝える。


『俺は自分の人生に満足したよ。最後はもう少し頑張りたかったけどさ。……だから、俺は良いや。俺は戻さなくていい。』


『なに言ってんだよ!』


『まあ聞けって。時間がない。言えることは言わせてくれ。……友達と最後の会話がこれとか嫌だけどな。』


アインは脇腹を押さえながら立ち上がり、グラ娘の身体に憑依したディズィーと最後の会話を試みる。


『俺は良いんだ。スッゲー楽しかったよ。ネストスロークに居たときに想像もつかない人生を送れた。大変なことのほうが多かったけど、みんなと同じテーブルでご飯を食べれただけで幸せだった。』


『……あそこはテーブルが小さいから、みんなで囲んでは食べれなかったからね。』


『ああ、だから俺は良いんだよ。でも、他のみんなはどうなのかな……結構楽しんだとは思うけど、やり残したことはあったかもしれない。ユーとかは冬支度の準備をやり残していたな。』


『……うん。ユーの作る服、楽しみにしてたよ。』


アインは自然と涙を流しディズィーといつもと同じような会話を続ける。これが最後だと分かっているから。


『それで思ったんだ。モミジ達はネストスロークに残った俺たちだって。したくもない事を延々とやらされるかもしれなかっただろう?モミジ達も本当は人を殺したくは無かったと思う。なのに千年以上も人を見つけては殺していたなんてどうかしてる。』


『うん……みんな、優しい人たちだったよ。』


『1日戻ったところでモミジたちは変わらない。だからさ……思ったんだよ。そもそもネストスロークが無ければこんな未来にはなってなかったって。』


『……どういうこと?』


ディズィーがこんな話をしてくるなんて思わなかったから面を食らってしまった。ディズィーは何を言いたいんだろう?


『ネストスロークのせいで死んでいった人達がいっぱい居るんだろ?そういう人達が居たと考えると自分が無関係とは思えないんだよな……。』


『それは……分かるけど、それこそ俺たちにはどうしようもないだろ?』


『なら未来は?俺たちのあとにも未来があるよな?未来にも俺たちみたいな奴らが現れる可能性だってあるはずだ。それもどうしようもないことなのかな……。』


そう言い終えると空から降ってきた弾丸に右肩を貫かれて右肩から先が崩れていく。


『ディズィーっ!!』


『……痛覚はねえんだなこれが。だから大丈夫だ。最後は何も痛くないって分かってるからな。』


『お前の言っている意味……分からないよ。なにが、大丈夫なんだよ……!』


アインは溢れる涙で何も見えなくなり、残っている片方の手で涙を拭く。その姿はいまのディズィーと同じで、それを見たディズィーはアインに最後の言葉とベルガー粒子を渡す。


『使ってくれ。俺にはもう必要ねえからアインが使ってくれよ。そしてどう使うのかはアインが決めてくれ。』


『……嫌だ。それってお前が死ぬことになるだろっ!?』


『もう死んでるもんさ。だから生きているアインに託す。これが俺の最後の選択だ。……へへ、久しぶりちゃんと自分の意志で決めれたぜ。いつもみんなの後ろをついて行ったからな。』


ディズィーから特大のベルガー粒子がアインの下へ向かっていく。アインはそれを抵抗し戻そうとするが、量が膨大でどうしようもない。


『嫌だ……嫌だよ……!ディズィー!ひとりにしないでよっ!』


『……ずっと一緒さ。アインがベルガー粒子を受け取ってくれたし、俺を覚えてくれるだろ?俺はアインの中で生き続けるから。』


『訳の分からない話をするな!勝手に決めんなよ……!』


粒子と共になにかがアインの中へ入っていく。それは魂なのかどうかは分からない。だけど不思議と暖かく感じるもので、それがただの粒子ではないということだけは分かった。


『ーーー俺たちの未来は頼んだぜ。じゃあな……俺の親友。』


『ディズィー……!』


元は土塊だったグラ娘の身体が崩れて目の光が消えていく。それは身体の中に誰も居ないことを表していて、もう誰も僕以外にはここに残っていないことを意味していた。


そして仲間たちの最後を見送ったアインの元にレールガンが発射された弾丸が降り注がられる。雲が散り人影が捕捉されたからだ。


「……【停止(リメイン)】」


アインは能力を行使して弾丸は停止させた。この弾丸には何も事象を引き起こさない。急にストップすれば起こるはずの慣性も何も起きず空中で停止した。


だが敵の攻撃は続く。弾丸が急に止まればそこにアインが居ることを言っているようなものだ。マザーはすぐに全弾数を発射しアインの居る地点へ運動エネルギー爆撃を仕掛けた。


「【円環(ループ)】!」


次に落ちてきた弾丸が地面に振れる直前で消えて、再び落ちてくる。それを何周もループさせて弾丸が落ちる未来への軌道を消し去った。


「ふぐぅ……ぐあぁ……!」


頭に凄まじい負荷が掛かり脳内が沸騰していく。これだけの事象を操作するには今のアインには非常に負担の大きい行為だった。


なので最早逆行し昨日へ戻ったり、後ろに居る仲間たちを生き返らせることもままらない程に脳のリソースを割かれてしまっている。鼻や耳、目からも出血が起きて立つことも出来ないアインはその場に膝をついてしまう。 


[ーーー良く頑張っているようですが あなたに会って余力が残っていないことは分かっていますよ 最後の水爆も落としました これでこの作戦は終了になります]


ネストスロークのノアの方舟から水爆が発射され大気圏内に到着。重量弾を防いでいたアインの頭上に凄まじいエネルギーを秘めた水爆が核融合を始めて……爆発した。


その光景を目の前で見たアインの最後の選択は……呪いの言葉を口にすることだった。


「……許さない。お前たちの存在だけは決して……!お前たちの存在を必ず全て消し去ってやる……っ!!!」


アインを放射能が混じった何万℃もの空気が包み込み彼の身体を蒸発させ、その後ろに居た仲間たちの身体も蒸発しきり、辺りある全ての物質を消し去っていった。


これが一巡目の世界でのアインや仲間たちの最期であり、全ての始まりに繋がっていく。

恐らくですがあと数話でこの章は終わりになります。是非ラストまでお付き合いください。

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