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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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多対個

マザーが機械人形を操り地球へ降下してきた際、アインたちはそれが攻撃が目的によるものだと考えていたが、実際は違う。マザーはちゃんと目的を話していた。


「私の本体は来ていませんがね。もう一度R.E.0001を見に来たかったので無理して来ましたよ。」


そう、マザーはR.E.0001と会うためだけに降りてきた。攻撃が目的ではなく接触することが目的だったのだ。なのでマザーの操る機械人形も戦闘用に設計されたものではなく、試験的な運用を目的として製造されたものだった。


マザーがわざわざ直接自身の手でアインたちと戦う…そんな選択肢を選ぶわけがない。人間ではないのだ。機械がそんな感情を持つわけがない。


そして、マザーが千年間も無駄に時間を過ごしているわけがないのだ。


例を出すとディズィー達を襲った運動エネルギー爆撃が最たる例になる。人工衛星に搭載されたレールガンは非常に小型でコンパクトな造りになっているが、これは敵から視認しづらくする目的と、技術の発展で弾丸そのものを小さくすることが出来たからだ。


弾丸の直径は800mm程度であっても、このサイズの弾丸でグラ娘の身体を貫通するほどの威力はある。このとき撃ち出された弾丸の速度は秒速7万km。これは光速の約4分の1という驚異的な速度になり、その破壊力は大地そのものを砕くといっていい。


この速度が出せるのはレールガンという発射装置のおかけでもあるが、直下させて撃つために重力の力を最大限に利用した運用方法が一番の要因になっている。


[ベルガー粒子があの巨大な対象に集まっている?]


マザーは対象近くに存在していたベルガー粒子が塊となって集まり、その影響で凄まじいエネルギー量となったベルガー粒子を感知した。それはまるで太陽を観測しているかのようだった。


マザーはすぐさま作戦を開始し、旧人類が残していた人工衛星に取り付けていた降下装置と爆薬を起動させる。宇宙ゴミとなっていた昔の人工衛星を再利用したこの攻撃は、人工衛星自体の質量と取り付けた爆薬によって凄まじい威力を発揮した。


使われなくなった金属の塊を大気圏外から落下させるだけで充分な威力を発揮するこの攻撃は、グラ娘の身体を操るディズィーにとってかなりの脅威となった。なにしろ人工衛星の自爆の他に重量弾による攻撃も並行として行なわれるので、貫通と爆風による2種類のダメージが襲ってくるからだ。


どの攻撃も簡単にグラ娘の身体の一部を消し飛ばし、その巨大な身体をみるみると削っていく。だがディズィーも黙って攻撃を食らうだけではない。削られた身体の箇所から次々と元通りに再生させて反撃に打ってくる。


「グオオオオオオッ!!」


咆哮が空気のない宇宙空間まで響き渡りその衝撃で人工衛星に取り付けられた爆薬が起爆する。それはまるで音というよりエネルギーの爆風だった。


[…太陽フレアと似た事象を確認 ノアの箱舟から特殊重量弾を発射]


マザーは標的が非常に危険な能力を持つ存在と認知し、特殊な弾丸を発射する。この弾丸は初速で秒速7万kmにもなり、標的に到達する段階で秒速10万kmにも達した。これは光速の約3分の1の速度になる。


弾丸は標的に衝突すると凄まじい運動エネルギーを周囲に撒き散らしながら砕け散った。その砕けた破片は地面まで一直線に落ちていき地面に深く突き刺さる。


この驚異的な破壊力をもった弾丸には能力者の背骨と脳が組み込まれていた。その能力は2つ。重力を操作する能力とサイコキネシス。この2つの能力を組み合わせることで弾丸全体にバリアを張りながら弾丸そのもの重量を重くし、レールガンによって発射されれば最早セルシウスですら止められない運動エネルギーを発揮することになる。


[やはりコストパフォーマンスが素晴らしい 能力者を弾丸に詰めるだけでこの威力 量産化も視野に入れてみましょう]


マザーは特殊重量弾の威力に満足そうに観測していた。それもその筈、こちらはたった一人の能力者でこれだけの結果を生んでいる。コストパフォーマンスの観点から言えば充分すぎる結果だ。マザーにとってはこれ以上ない結果に思えただろう。


(…今のはヤベー。アインたちに被害が行かねえようにセルシウスの能力でエネルギーの指向性を変えたけど…。)


ディズィーは苦戦を強いられていた。セルシウスの能力も使える状態であっても、いきなり上手く能力を行使出来たりはしない。能力の処理はディズィーではなくセルシウスたちに任せきりだが、それをどう使うかはディズィー次第なのだ。勝手にセルシウスが判断して能力を行使してくれるわけではない。


それに彼にとってはこの戦いは勝つことを目的としていない。勝つことではなく別のことに意識が回わしていた。それはアインの安全確保、ディズィーにとってはこれが最も優先されることであり、勝つことは考えていない。


では何故セルシウスたちの能力を使うことが出来る彼が勝つことを考えていないのか、それはモミジとの会話にあった。彼女は時間稼ぎのためにディズィーの協力を仰いだ。つまりモミジはディズィーが勝てないと分かっていたことになる。彼女の能力は過去・未来を知ること。半年以上一緒に生活していたディズィーはその能力を良く知っていた。


なのでディズィーは勝てるとは微塵も考えていない。実際ディズィーはネストスロークの攻撃で瀕死の重傷を負い、自分よりも強いレイたちは身体を失っている。これで勝てると考えれるほど彼は馬鹿ではない。


(…確かレイたちって探知能力を持っていたよな?これでアインたちの位置を探れないか?)


ディズィーは身体の再生よりも探知能力でアインとアネモネの位置を探ることにした。頭部が吹き飛んでも即死していない時点でこの身体は生き物とは構造が違う。なのでディズィーは自身よりもアインたちを探すことを優先して能力のリソースを割いた。


そのおかげかすぐにアインの居場所を探知し、彼の周りに被害が出ないよう大気圏内に雲を発生させて敵から観測出来ないよう妨害工作を施す。そして彼の周りに津波が発生してこのままでは海に飲まれそうだったのですぐに両手で囲んで津波を遮断した。


このとき足元で敵の撃ち出した弾丸が地上に着弾し、その衝撃が津波に形を変えていたことを知る。彼からすれば足元の水たまりに波紋が出来た程度のことだったが、普通の人間サイズからすれば高さ100メートル以上の津波は脅威以外のなにものでもない。


ディズィーは改めて自分たちのサイズの差を理解する。


(危ねえ…。このまま戦い続けていたら絶対に後悔してたわ。)


盛り上がった地形の上に仰向けで寝ているアインを見ながらアネモネの位置を探る。しかしいくら探してもアネモネの姿を捕らえられない。アインはすぐに見つかったのにアネモネが見つからないということは…


(…くっそ。生き残っているのはアインだけなのか。)


ディズィーは自身のことはもう死んだものと捉えて考えていた。自分の本当の身体、つまり脳は存在しない。残っているのは意識のみ。これを生きているとは言い切れないだろう。


だがその時、ディズィーの頭の中に別の反応を探知する。…生き物でない。しかし生き物にしか存在しない筈のベルガー粒子を探知した。


(これは…モミジの身体?)


現在のディズィーは両腕を地面につけ、しゃがんだ状態。そんな彼の視界の隅にヒラヒラとモミジの身体が降ってきた。良く良く観察してみると彼女の身体に纏わっているベルガー粒子が作用してアインのもとまで運んでいるようだ。


これはセルシウスの能力で、身体を失う直前に行使した能力が今も継続していることを意味している。ディズィーはその光景を静かに見届けて体を再生しようと能力を行使しようとした。


だが上から降ってきた重量弾に身体を貫かれてしゃがんだ体勢を維持出来なくなり、上体と腰から下が別れてしまう。


(…俺ももうすぐだな。)


ディズィーは己の死期を悟っていた。いくら再生出来ようとも元々は別の存在。意識だけがこの身体に乗り移っているだけで定着はしていない。彼の意識がこの身体から離れれば、この身体はただの土塊になる。


だからディズィーはアインに被害が及ばないよう出来るだけ身体を膨張させ、狙いを絞らせないよう妨害工作に移る。もうそれしか彼に出来ることは残されていなかった。

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