命を賭す時間
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ディズィーは微睡みの中で身体の感覚を感じないことに気付き、それは死ぬ直前に感じる感覚だと思いながら己の死ぬ瞬間を待っていた。だがいくら時間が過ぎようとも来たるべき死は中々訪れない。
(……なんだ?なんの時間だこれ。死ぬとずっとこんな感じなのか?じゃあ、今まで捕まえて食ってきた生き物もこんな感じで……)
ディズィーは哲学的な思考に陥り生命の神秘に浸っていたが、そんなことをしている時間を彼女たちは許さなかった。
『死んだら無だよ。だからさっさと覚醒しなさいディズィー。』
突然頭の中に響いたひどく懐かしい声でディズィーはこうなってしまう直前の記憶を思い出す。突然視界が白くなったり黒くなったりしたと思ったら、全身に激痛が走って……
『……俺、もしかして死んでない?』
『死に損なったね。だから能力貸してくれる?結構お姉さんたちピンチなんだよね。』
ピンチ……?レイやセルシウスたちが居るのにピンチ?寧ろピンチなのは身体の感覚が無い自分では……?
『……レイはもう身体を失った。死んでいないだけで生きてもいない。ストームも身体を失ってしまったよ。』
『……なにがあった?』
モミジと話していると次々と記憶が蘇ってくる。仲間たちと地上の景色などを見て回っていた。それから……多分敵の攻撃で負傷した。……みんなは無事なのか?
『ディズィー、これはみんなの未来の為に必要な時間稼ぎなの。だからお願い。仲間のために戦って。』
モミジの言葉でみんなは死んだんだと分かった。だけどモミジの声は悲観したものではなく、寧ろ希望を感じさせるものだった。なら……
『俺、頭がわりーんだから最初からそう言ってくれ。俺なんか使い潰してくれて構わない。仲間のためなら好きに使ってくれ。』
ディズィーは選択した。これしか選択肢が無かったが、選択肢が残っているだけでも十分だと思っている。ネストスロークでは選択肢はまるで存在しなかった。そんな人生の最後に最高の選択を選べるなんて恵まれていると思う。むしろこっちから申し出たいほどだった。
『……そう言うと思っていたよ。じゃあグラ娘、お願いね。』
『ハイは〜イ ディズィー!よろしくね!』
『うん?よろしくお願いします……?』
突然グラ娘まで出てきて話が見えなくなってきた。一体何を俺にさせようとしているんだ?
『じゃあ今の君の状態を説明するね?君は瀕死の重傷を負って今にも死にそうだった。だから君の身体をグラ娘に吸収してもらったの。』
『……はい?』
『吸収したじゃ分からないか。食べてもらったの。』
『いや、言葉は分かってるし意味もなんとなく分かります。……なんで食べられたの?』
ディズィーは考える。そしてもしかしたら考えるのに必要な頭も吸収されているんじゃ……と気付き、ディズィーは非常に混乱した。どういう状況なのかもっと分からなくなったからだ。
『アノね!キミってワタシと同じ異形能力者デショ?だからキミの能力ヲ使イタクテ吸収したの!!』
『俺の能力って……再生力?』
唯一自身の能力で誇れるものがあるのならば、それは再生力だ。これのおかげで自分の身体能力によるダメージすら治せていた。だから身体に疲労が溜まらないという特性があったりするが、能力による負荷はどうしようもない。
『正解。君と私の能力ならば敵の攻撃を受けれるって考えてね。私の増殖と君の再生力、そしてグラ娘の身体そのもが組み合わせれば……?』
『……スゲーことになる?』
『……うん。スゲーことになるね。』
モミジの説明をスゲーの一言で完結させてしまうディズィー。彼には少し難しかった内容だったかもしれない。
『じゃあ……俺はもう特に何もすることが無いってことか?もう俺はモミジたちに使われていて、俺の能力だけが必要だったっていう話なんだろう?』
本人の言うとおり頭は鈍いが、話の本質を己の勘の良さだけで見抜いた彼にモミジとグラ娘は驚き、彼に対する認識を改める。人は最後の時にこそ、その者の本質が見えてくるというが正に彼の本質が見える具体例だった。
『……いえ、寧ろあなたが頑張るの。』
『うン ワタシたちはキミのサポートをスルヨ』
2人は計画を急遽変更し彼に託すことにした。恐らくそれが一番良いと2人の中で決定したからだ。
『俺が……なにすんだ?身体が無いとなんも出来ねえよ。』
『ワタシの身体ヲ使っテヨ』
『……グラ娘の?』
『ウン 主導権はキミに託すカラ ジャア〜そういうコトで〜〜』
グラ娘の反応が消える。ディズィーは意味が分からず辺りを探ろうとするが、首も目も無い状態では探るという行為すら成り立たない。
『じゃあ私も消えますか。身体の方はセルシウスの能力が運んでくれるし、残った私のベルガー粒子は君が使って。ここにはレイ・ストーム・セルシウス・グラ娘……そして私を入れたきょうだい達のベルガー粒子が残っているからスゲーことが起こる……かも?』
『ちょちょちょ!そんなベルガー粒子あっても俺の脳みそじゃパンクするって!!』
一人だけでも処理しきれないのにそれが5人分!?どんな脳みそなら使いこなせるんだ!?
『だから私達でサポート・カバーをするよ。私達きょうだいは誰も死んではいないけど身体は全員が失うことになるからさ、君が身体を操ってベルガー粒子は私達が受け持つ。だから心配しないで大丈夫だよ。』
『へ、ちょっと!!』
『あ、因みに私達は死んでいないだけで生きてもいない状態だから、もうこれで君達とはサヨナラになるけど、半年間一緒に過ごせてすっっごく楽しかったよ!!』
モミジの反応が薄くなり、本当にこのままサヨナラになることが分かってしまう。
『おいっ!そういうのは直にみんなに言えって!!直接言わねえと意味ねえだろッ!!』
『……私はシャイだからさ〜。……それに私にはみんなになにかを言える資格無い。だけど本当にこれが最後になるから君には伝えておく。ありがとうね〜〜!』
『お前っ!待てって……!』
モミジの反応が無くなり、本当にこれで彼女たちとの最後の会話になってしまった。……いや、本当にこれで終わり?モミジが最後に話したかったのは俺じゃなくて別に居たんじゃないか?本当に俺で良かったのか?
……モミジはまだ生きていたかったんじゃないかって、頭の中でぐるぐるして気持ち悪い。
(……頭の中?)
そのとき急に身体という概念が生まれ全身の感覚が頭の中に入ってくる。……先ずは音だ、轟音が聴こえてくる。そして身体を揺さぶる振動と肌に感じる温度がハッキリと感じた。
そして目を開けると地球を見下ろしていた。……ああ、そうか。もうみんな行ってしまったのか。この景色はさっき仲間たちと見ていたものと同じだ。どうやらあの話はそのままの意味だったらしい。
グラ娘の身体に俺の意識が乗り移っていた。本来の持ち主の気配すら感じない。身体の奥まで気配を探っても膨大なベルガー粒子しか無くて、人の意識らしきものは何も残っていなかった。
だがその時突然視界が半分無くなり頭の中から轟音が鳴り響いて思わず声が出てしまった。
「おわっ!?」
聞き慣れた自分の声ではない声が出てビックリしたが、それよりもその声量に驚いた。頭の中に鳴り響いた轟音なんか目じゃない。大気そのものが震えたような感覚を覚える。……これ近くに生き物が居たら声だけで殺せてしまうな。グラ娘が大人しく眠っていた理由が良く分かる。
(……敵の攻撃かこれは。)
身体が大きいせいなのか衛星軌道上の人工衛星が良く見える。そこから青白い光がチカっと光ると身体の一部が消し飛ぶ。恐らくだけど俺はこれで死にかけたんだな……おっと?
自分の身体ではないのに、自分の身体では当たり前だった懐かしい能力の感覚が顔面の辺りで生じる。これは……再生してる?腕を上げて顔面の辺りを触ると内側から地面のような皮膚が盛り上がってきて元通りに再生した。
この一連の事象を人工衛星の光学カメラが捉えるとすぐにマザーの下まで情報が送られ共有される。明らかに今までにない能力だったからだ。
[ーーーこれはモミジの増殖?それとも元々備わっていた能力か?なら何故すぐに能力を行使しなかったんだ?]
マザーは不信感を抱き作戦を変更する。標的の完全なる殲滅を目指し、予備として待機していた人工衛星の全てを作戦に参加させることにした。
つまりアイン達への意識が一時的に外れたことになる。これがモミジたちの狙いだった。敵のヘイトを一番集めやすいグラ娘を囮として活用し、アインへ攻撃が及ばないようにする。
この作戦が成功すれば一時的にとはいえ時間が生まれる。その時間をどう活用するかはアイン次第だが、もうこれしか彼女たちの取れる選択肢は無く、モミジたちはこの作戦に全てを賭けること選択した。
生きるという選択肢すら捨てた彼女たちの思いがどのような結果を生むのか、それはこのあとすぐに分かることとなる。




