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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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崩れ行く者達

下に居たアネモネは一瞬なにがあったのか理解で出来なかった。遠くの方で轟音が鳴り響き、音のする方へ顔を向けるとグラ娘の頭部辺りが欠けているではないか。そしてその欠けた破片がぶつかり合って轟音を何度も何度も鳴らしながらこちらへ向かってくる。


最初はその破片も小指の先程度の大きさにしか見えず危機感が無かったが、その音の響きや徐々に大きくなる破片の大きさにやっと頭が理解し始めて、あれは一つだけで何百メートルもある破片だと気付く。


それも数えるのが馬鹿らしく思えるほどの量の破片が自分たちの下まで…!


「アインっ!」


自分の傍に寝ているアインのことを思い出し彼を背負ってその場からすぐに離れる。自分たちの周りには大きな影が生まれてここにあの何千トンもの質量のある破片が落ちてくるのは分かった。あんなものに踏み潰されたら圧死は免れない。


アインが起きていれば彼の能力でどうとでも出来たが、私の能力ではあの巨大な破片の軌道を逸らすことが精一杯だ。


私はすぐに能力を行使して突風を起こした。竜巻のように強烈な防風が破片に干渉しても軌道をほんの少し動かすことしか出来ない。それでも私は諦めずアインを背負いながら駆け出した。


そして破片の一つが私の居る所まで落下してきて…地面と衝突した。その時の衝撃波は凄まじく能力で空気の振動を制御しなければ鼓膜が破れていたと思う。それ程の衝突が前後左右の至るところから発せられる。


衝突した際に砕けた破片はまるで弾丸のように私たちを襲い私の左足の太腿の肉を削いでいった。外腿に私の親指ほどの溝が生まれ激痛が更に私を襲う。


「痛っ!」


そこから出血が起きバランスを崩した私はアインと一緒にその場で倒れ込んでしまうが、私は必死にアインが怪我をしないようと自身を下にした体勢でろく受け身も取れずに転倒し、顔の右側を大きく損傷させてしまう。


地面に破片やら小石が落ちていたのだろう。それが皮膚を突き破り右目の眼球を深く傷つけてしまった。だが痛みに気を取られる暇もない。今でも上から降ってくる破片の一部が気になり私はすぐに起き上がって走り出した。


いまは先ずここから逃げ出さないと…!


「アインお願い起きて…!みんなが、みんながっ!」


パスを通じて呼びかけても誰からも返答がない。向こうはそれどころじゃないのか、それとも私が上手くパスを繋いでおける精神状態ではないのか。どうして誰からも連絡が無いのかは分からない。


なら私に出来ることはこれしかない。彼が生き残っていれば何度もやり直せる。彼だけが希望なんだ。私達の未来を託せるのはやっぱりアインしかいない。


右目から流れ出る水のような血が唇の端から入ってきて口の中に血の味が広がり、走れば走るほど息を吸わないといけないので肺の中が血の香りで満たされる。はっきり言って最悪の気分だ。


一歩遅ければ死ぬ。一回でも判断を誤れば死ぬ。一瞬でも迷えばそれでも死ぬ。なにを間違えても私とアインは死んでしまう。そんな中で能力を行使しながらこの坂を降るのは無茶だとしか言えない。


そもそもここは走りやすい形状なんかしていないからだ。地面が自立して立ち上がっているからどこも傾斜がキツくて足を取られればそのまま海まで真っ逆さまに落下してしまう。風を操り姿勢を制御していても巨大な破片が落下すれば地面は揺れ暴風が私を襲いかかる。


「うあああっ!!!」


彼女は叫ぶ。脳が焼き切れる程の負荷を掛けながら半径50kmの空気を全てを掌握。それでも気流や気圧を操作し破片の軌道をほんの少しだけずらして自分たちへ向かわないようにすることしか出来ない。


彼女は走り背中に背負ったアインを目的の場所まで運ぶ。


「お願い…!私達をっ!未来まで…っ!」


アネモネは崖のように切り立った場所まで走り切り、背中に背負っていたアインを放り投げた。そんなことをすればアインは何kmも真下へ落ちて落下死してしまう。


だがアネモネには狙いがあった。破片が海へと落ちた際に大量の水飛沫が上がり、その水が蒸発して上昇気流が発生していた。アネモネはそのことを能力で感知し、なんとかここまで走ってきたのだ。


彼女の能力と組み合わせればアインを気流に乗せて安全な所まで運べる。2人同時は難しくても1人だけなら今の彼女でも可能だろう。アネモネは自分の命とアインの命を天秤にかけて彼の命を選択した。これが彼女の最後の選択になる。


「…好きだったよ。アイン…」


彼女はアインを投げた時に力尽き、前のめり気味の姿勢のまま崖から落ちていく。彼女は重力に引かれた速度で落下していき、アインはアネモネの能力による気流に乗った影響で緩やかな速度で滑るように落ちていった。


それは彼女が死んだ後も同じで、生前に行使した能力は死後も継続し、彼は落下した破片の上まで目を覚ますこともなく辿り着く事が出来たのだった。


そして時間は少し戻り、場面はグラ娘の頭頂部まで移動する。初めの飛翔体が衝突した際、彼らはろくに迎撃することも出来ずその衝撃で半数近くが死亡した。


アネモネがパスを通じて連絡が取れなかったのは彼女たちの間に形成していたパス自体が崩壊したからだった。2人だけのパスがあった場合に、1人が死ねばパスの意味を失うように誰かが欠ければパスは瓦解して消失してしまう。


『…クソ 間に合ワなかッタか…』


セルシウスは身体の4割を失いながらも能力を行使して衝撃を分散させていた。もし彼が能力で運動エネルギーの指向性を変えていなかったら全滅していただろう。


「せ、セルシウス…レイが、みんなが…」


モミジはこのタイミングで敵の攻撃が来ることを知っていたがどれぐらいの損害なのか、誰が死ぬかまでは確定されていない未来だった為に、まさかこのような惨劇が引き起こされるとは考えもしていなかった。


『レイ…』


モミジの傍らには身体の左半身を失ったレイが倒れていた。能力で敵の攻撃を迎撃しようとしたが失敗に終わり、生物としての身体を保有していたレイは生命活動の機能を失う形となって、そのまま停止してしまっていた。


能力によって死ぬことは無い彼であっても脳の8割以上を失えば意識も自我も消失してしまう。つまりは廃人に近い状態になってしまっていたのだ。


『ストーム…』


レイだけではなくストームも生命活動が停止していた。身体を失いベルガー粒子のみとなってしまってはいくら不死の能力者であっても何をすることも出来ない。実質死んだ状態となにも変わらないだろう。


「う、うぅ…」


モミジたちから少し離れた遠くのほうにディズィーが倒れていた。目や鼻、口や耳など全身から血を流しうめき声を上げる。手足はあらぬ方向へと曲がり、首は圧し折れて身動きが取れない。異形能力者だからこそ生き残れたが、あとそう長くはないだろう。


「生き残ったのが、これだけ…?」


モミジ・セルシウス・ディズィーの3人だけが声を出せる状態で他は沈黙、または身体の一部しかその場には残っていない。しかも一部といっても血痕や服の切れ端などしか残っておらず、当の本人たちは敵の攻撃で消失してしまっていた。


『…敵ノ攻撃 アレはナンダ?見たコトもナイ攻撃だった』


核弾頭でもミサイルでもない。アレ自体にはそこまでのエネルギーは無かったはずだ。しかし状況はどうだ?今までにないダメージを負っている。しかも攻撃が速すぎた。オレの能力で止める暇もなかったなんて信じられない。


『ーーーみんナ…だい…ジョウブ…?』


『…デケエの イキテたか』


頭部が欠けてしまったグラ娘もダメージがあり、声にいつもの覇気がない。彼女にとっても敵の攻撃は予想外で防ぐこともままならなかった。


『ウン…ナンダッたの今ノ?』


グラ娘は自分たちを襲った攻撃が何だったのかが気になりセルシウスたちに聞いてみた。するとモミジが今の攻撃がなんだったのか答えが返ってくる。


『…運動エネルギー爆撃。重量が極端に重い弾丸を超高速で撃ち出したもの。爆発もしないし誘導もしないけど、その威力・貫通力は原爆と遜色ない。寧ろ衝撃の範囲を絞った分直撃すれば原爆以上だよ。』


モミジが(よど)みなく説明するので、セルシウスとグラ娘はモミジがこのことを知っていたと気付いた。セルシウスはブチギレて声を荒あげる。


『オメエ…知ってタナ?コウなるコトヲ前もって知っテて黙ってイヤガッたな…!!』


セルシウスはモミジに掴み掛かろうとしたが、彼女の身体を良く見ると人間の一部らしきものが飲み込まれていた。


『…あの一瞬じゃ全てを回収出来なかったけど、これならアインの能力で生きかえらせる事が出来る。』


アインの能力は軌道を読み取る関係上、生き返らせたい人間の身体の一部が必ず必要になる。モミジは増殖の能力で死んだ彼女たちの身体を増殖させることが出来るが、記憶までは再生することは出来ない。ただ肉の身体を増殖させるだけだ。


『…なにヲ考えてイル』


『…私は、私が取れる選択肢と私のしたい選択肢のことを考えている。セルシウスは?』


彼らを監視しているネストスロークの人工衛星が照準を合わせて先程と同じ弾頭をレールガンにセットし、発射の準備を終えた。まだ敵の攻撃は始まったばかり。攻撃は継続している。セルシウスには考え悩む時間も残されていない。


『…デケエの』


セルシウスは視線をモミジに合わせたままグラ娘に話しかける。


『…ウン セルシウスが何を考えテいるのカも何ヲしようとしているノカモ分かるよ ダカラ…ワタシはいいよ』


ここまでモミジの思惑通りならば、それは2巡目の世界へ向かう為に必要なこと。彼らにとってそれは望むべき未来である。


『…モミジ オマエに言いタイコトは山のようニあるかガ 恨み言や文句ハあの世で聞かせテヤル ダカラいまはナニも言わず協力してやるよ』


『ワタシもガンバる ダカラお願いネ ワタシたちの願いヲ托したカラね!』


『ありがとう…お兄ちゃん。それにグラ娘もありがとう。』


セルシウスはお礼を言うモミジを掴み上げて、アネモネがアインを放り投げた時と同じ様に、彼もモミジを下へと放り投げる。


そしてその後すぐにレールガンから重量弾が発射され、セルシウスの身体はガラスのように割れて爆風と共に消えていくのだった。

多分そろそろ終わりそうです。

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