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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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最後の別れ

アインとマザーが戦い始める前、アネモネ達は迫りくる機械人形の軍勢と相対しようとしていた。とはいえ軍勢と言っても8体だけの小隊分の数だけなのだが、1体1体がベルガー粒子を有しているので能力者8人の小隊と変わらない戦力ということになる。


『オレがやる』


『ワタシ〜〜!!』


『ワタシで充分』


『お任せします〜〜。』


セルシウス・グラ娘・ストームの3人は自分ひとりだけで相手にすると宣言し、モミジはその展開を長く生きてきた経験則から予測し辞退を宣言した。そしてその話を聞きながらも分散し包囲するように近付いてくる敵を視認し続けていたアネモネ達は独自の判断で動くことを決める。


「早くあの人形たちを倒してアインに合流しようみんな!」


「オウ!」


「うん!」


「オッケー!」


「任せて!」


「いっちょやってやりますか!」


「こんな雑魚達には負けないんだから!」


アネモネの掛け声に皆が反応し、事前のやり取りもなく陣形を展開していく。布陣としてはユーとディズィーが前衛に立ちその後ろに他のメンバーが待機するような形だ。


『オイ オレタチが話し合っているウチに向こうはチャントしてんぞ』


セルシウスはアネモネ達の動きを見て感心したような感想を述べる。


『ねえモウ来るケドワタシがやっていいの?』


『アンタが動くと彼女タチが動きづらくナルから大人しくシテなさい』


『は〜〜い』


ストームはグラ娘に大人しくするよう指示を出し単独で動き始める。敵が間合いに入ってきたので、もはや話し合いで決めるような段階を過ぎたからだ。


「じゃあ私も大人しく……」


モミジはグラ娘と同じくレイ達に戦闘を任せようとしていたのだが、敵はまるで優先順位が決まっているかのようにモミジを一番最初に狙ってきた。


敵の機械人形の1体に搭載された自動小銃から弾丸が放たれモミジの右肩を貫く。射出された弾丸の口径は大きく彼女の細い肩は容易く吹き飛ばす。


「キャッ!」


悲鳴が重なる。フェネットやナーフは声にならない悲鳴を上げ、ユーやアネモネは反射的に出る悲鳴を上げた。それほどにショッキングな光景だったが、更にショッキングな事が起きる。


モミジの肩から指先までの腕の一本が宙に舞った……。間違いなく肩から先がモミジから離れたのだが、モミジ本人の右肩から先には腕があり、弾丸によって切断された腕はグラ娘の上へ落ちて血溜まりを作り出す。


モミジの肩には血らしきものが付着しているし、実際に切断された腕が落ちている。だがモミジの右肩から先には間違いなく腕が存在していた。あまりの出来事にアネモネ達は何も言うことが出来ずその場で固まってしまう。


「……はあ?これってマザーの指示?ちょっとさ……舐め過ぎじゃない……!」


モミジの右腕は()()()()()()()()()()()()。人間の皮膚の色でも質感でもなく本物の金属で構成された腕に変質していたのだ。


「私なら簡単に殺せると思った?」


モミジの両足が膨張しディズィーのような太さになる。そしてその場でしゃがみ込んで一気に駆け出すと急加速し、その速度はまるで異形能力者のようだった。


一瞬で間合いを詰められた機械人形の1体が方向転換してモミジを避けようとしたが、その前にモミジの右腕が襲いかかりフレームを凹ませ地面へ叩きつけられる。


「……戦えるって本当だったんだな。」


ディズィーの呟きに皆が頷く。だが当たり前なのだ。彼女も人類を絶滅させる寸前まで追い込んだ内の一人。彼女の保有している能力の増殖はその名の通り増殖することだが、その増殖速度はまるで機械でコピーをしているかの如く一瞬で行なう。


失った身体の部位は失った直後には元通りになるし、弾丸の物質を読み取り貴金属であろうとも増殖させてしまうのだ。有機物だろうが無機物だろうが関係ない。彼女が触れたりするだけでその物質を増殖させられるし、自身の身体に取り込んで再構成すら行える。


現在のモミジの右腕は弾丸の金属と元々あったタンパク質の腕を再構成させて作り出したもので、これが彼女本来の能力の一端であり、レイ・セルシウス・ストーム・グラ娘と並ぶ最強の能力者の一人なのだ。


「私はその気になれば脳みそだって増殖させられる。私を殺したかったら水爆で蒸発しきるしかないよ。細胞一つからでもこの身体を作り出せるからね。」


制約があり寿命が存在する身体ではあるが、寿命以外は特に弱点のない肉体を有した未来の記憶がある生命体であるモミジをマザーは見誤っていた。モミジを殺すことはアイン以上に難しいのだ。髪の毛ひとつ残っていれば一瞬で増殖する生き物を殺す装備をマザーは用意してきていない。


『……ココはモミジに任せてイイな ストームはアイツらを面倒見てやれよ』


セルシウスはこの中で最もエネルギーを有している個体に興味を抱きアインと合流しようと考えていた。おそらく向こうが本命なのだろう。


『ナンでワタシが……』


『撃ち漏らシタだろ?』


『……ハァ 行ってコイ』


ストームも責任を感じているので了承しアネモネ達の下へ向かう。その途中で背後から襲ってくる敵を次々と落雷で撃ち落とし、残る敵が4体になった所でアネモネに話しかける。


『アンタはセルシウスと一緒にイッテキテ アイツがやり過ぎナイよう監視役ネ』


『え?私が……?』


『ココハワタシが居るカラ レイのトコロへ応援いかないとかもダシ』


レイの方は苦戦しているようで、光がたまにこちらまで届くが敵の航空機は未だに飛び回っていた。ストームは機械人形を倒したらレイの方へ合流するつもりだとアネモネ達に伝える。


『アンタは見込みガある セルシウスを止められるノはアンタしか出来ない 他はワタシとモミジと居残りネ』


『呑気に喋ってる場合かっ!』


敵の銃撃と能力の攻撃が四方から飛んできているのでモミジは金属の巨大な服を作り出し、皆をその中に避難させた。擬似的なバリアの役割を担っているが、敵の能力次第では看破されてしまう。


「行ってきなよアネモネ。アイン一人だとやっぱり心配だよ。ああ見えて結構抜けてるところがあるからね。」


フェネットはアネモネの背中を押しアインの元へ行くよう気持ちを伝える。この大事な場面だからこそ2人は一緒に居るべきだとフェネットは2人の友達としてのお節介を焼くことを選んだ。


「フェネット……。」


「俺も心配だから頼むわ。いつも大事な場面はアイン一人に戦わせてきたから誰か付いてやんねえと。」


「そうよ。アインの隣なんてあなた以外考えられないんだから行ってきなさいよ。」


「私達なら大丈夫。みんな付いてるし、アインにも誰か付いてあげないと。」


ディズィーとナーフとユーからもアネモネがアインのもとへ行くよう提案される。


「ディズィーやナーフ、ユーまでも……。まさかエピやマイもそんなこと言うの?」


「おい先に言うって。……でも言うぞ。行ってこいよ。」


「うん。行ってきて欲しい。これは私達のお願い。アインを一人にしないであげて。」


エピもマイもみんなと同意見で、一緒にいてあげてほしいとお願いされてしまう。アネモネもアインのことは気がかりだったので皆の言うとおりにすることにした。


みんなに甘えるようで少し申し訳なかったが、みんなの言うとおりアイン一人で戦わせるのはなにか違う気がしたのだ。これは彼女自身の意志で選び選択したことで仲間に言われて選択したことではない。 


「……うん、行ってくる。モミジ、ストーム。みんなを頼みます。」


『ナニを言っているカは分からんガ イイ顔をスルようになった 早くワタシのキョウダイたちのところへイッテこい 特に一番下の弟を任せたぞ』


ストームは一番下の弟、つまりアインのことを気にかけアネモネを送り出す。彼女もアインが特異点であることを知っている。だがそれだけで心配しているのではなく血を分けた弟としての心配がありアネモネを送り出したのだ。


『はい。任せてください。』


大きく頷き、その場を後にしようとする。その姿をモミジは眼に焼き付けるだけで声を掛けようとはしなかった。本当はこれで彼女とは最後になるだろうと思い、一言でも声を掛けたかったのだ。


しかしアネモネは1秒でも早くアインのもとへ向かわなければならない。そのことをモミジは知っている。ここまでの会話の内容から自分の知っている未来の出来事と繋がったと。ここで呼び止めることは許されない。


(さよならアネモネ……。アインのことは任せたよ。)


モミジは自身の最後の役割を終えた。ここまでが自分の役割だった。あとは自分の意志で行動し選択しなければならない。それがどれだけ嬉しく誇らしいものか。自分には皆を守る意志と選択肢が残されているからだ。


「……よし!あと4体なんてへっちゃらでしょ!さっさと倒しちゃおうよ!」


モミジは最後の最後に与えられた自分だけの時間を堪能する。それはまるで生きていると実感するような体験で、彼女にとって本当の意味での生きるという行為そのものだった。

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