怒り心頭
遂にこの地球上において最強の存在達が勢揃いした。一人ひとりが超常的な能力を持つ能力者で、死という概念すら克服しているこの5人の能力者は自ら身体を作り出し、そこに寄生するようにして新たな生命として活動することが出来る。
モミジの能力も凄いが彼女の適性能力も凄い。身体というか依り代があればそれに乗り移って生きれるなんて人間の域を脱している。
『話はモミジから聞いてイタよ ヤットこの日がキタ』
表情もある程度動かせるのか、不敵な笑みを浮かべて全員を引かせた。思っていたよりも肉肉しくて怖い。
『サッソクでワルインダけど私にも名前ツケテヨ』
彼女はアネモネの顔を正面から見てお決まりのパターンに入る。アネモネも慣れたのか、それとももうこの展開を読んで考えていたのか、すぐに名前を口にした。
『ストーム。嵐みたいな人だなって思ったから。』
『ストーム…前の名前ヨりマシか』
彼女の名前も決まりみんなの呼び方が決まった所で再び上空から敵の攻撃が降り注いできた。…どうやらこちらに考える暇も与える気は無さそうだ。
空から降ってきたのは巨大な宇宙船で、前に降りてきた宇宙船とは違う目的で運用されるものだった。装甲も分厚そうで、空の上を巡航している様子からあのまま飛び続ける事が可能そうに思える。
『あれ航空機っぽいな。あんなものまで用意していたなんて…。』
『エピはあれがなんなのか知ってるの?』
どうやらエピにはあの飛んでいる機械の知識があるらしく説明してくれる。
『あれがどういう性能なのかは分からないけど、物資や人員を運んだりするのに空を飛ぶ乗り物があるんだよ。』
『…大きさは結構あるぞあれ。』
『ていうことは武器も装備していると思う。戦闘機とかはミサイルとか積んでいたりするしアレにも搭載されているだろうな…。』
ディズィーが目を細めて目測で大体の大きさを測ってくれた。全長100メートル程の航空機はゆっくりと思える速度で僕たちの周りを飛び続けている。僕たちとの距離はおおよそだけど1〜2kmぐらいか。
『アレ潰してイイの?』
グラ娘にとっては自分の周りに飛び回っている羽虫程度の認識なのだろう。手を伸ばせば届きそうだ。
『イヤ ワタシがやろう』
レイは僕たちを掴んでいた触手を弛めてグラ娘の頭頂部の一番上まで跳んでいく。2回の跳躍で数十メートル先まで簡単そうに上がっていった。
『オワッタラ食べていい?』
『腹コワスぞ』
レイは触手の一本を横に振るう。すると光の刃が光速の速さでネストスロークの航空機に向かっていく。僕たちは航空機が真っ二つに切り裂かれる未来を予想した。だが結果は…
『ーーーヤルじゃないか…』
航空機に光の刃がぶつかる前になにかの障壁に妨害された。薄い光の刃が散らされて虹色の光に変わり水飛沫のように拡散していく。まさかレイの能力を防いだのか…っ!?
『オオー!向こうもレイの言うトオリヤルじゃんカ!』
『ダッサ カッコつけたワリに防がれテンヤンノ』
セルシウスとストームからの煽りに近い言葉を言われてレイの黒いベルガーがドス黒く変色する。その様子をまじまじと見ていた僕たちは危険を感じて突起した岩肌の後ろへ避難することにした。僕たちの居る場所は真っ平らというわけではなく凸凹とした地面…?皮膚…?まあ、どっちでもいいか。人が隠れられる程に隆起した箇所が沢山ある。
そしてレイはたとえ味方であっても危険な存在であることは変わらない。兄弟喧嘩に巻き込まれて死にましたなんて笑い話にもならない。だからこうして隠れるのは戦略的撤退なんだよ。うん。
『…沈めてくる』
レイはそう言うと身体が光そのものになり一瞬にして敵の航空機の上へと移動した。
(やはりバリアか…だがなんだこのベルガー粒子は?)
レイは間近で見たベルガー粒子に違和感を覚える。これまで何十人ものサイコキネシスを相手にしてきた経験があるからこそ気付けた事で、人間が操っているというより機械などで精巧に操作されているとレイは感じた。
そしてレイはバリアの上に着地しそのまま能力を行使する。
『墜ちろ』
レイの放った一閃は密着距離で放たれてバリアに衝突した。この距離ならと考えての攻撃だったが、バリアにまたもや防がられて光の刃は虹色に散っていく。
これを見たレイは本気を出すことにした。彼の能力の持ち味はなんといってもその速度にあるが、光の刃の光速の攻撃だけのことを言っているのではなく、彼の能力を放つ前動作の隙の無さにある。レイは触手を目にも止まらない速さで振るって光の刃を出すが、この動作自体の速さも相当なもので人間に反応するのは不可能であろう速度になっている。
しかし能力というのは前準備に時間を掛けることも大切なのだ。能力の出力を上げるためにもベルガー粒子の操作に時間を掛ける必要がある。レイは前準備に時間を掛けずにあれだけの出力を出していた。なら前準備に時間を掛けたら?
『耐えられるのなら耐えてみろ』
片手を天高く掲げて8本の触手を持つレイの右手が光を帯び、ライトのように触手の先端から光が放たれる。その光量は相当のもので1km離れているアイン達にも視認することが出来るほどだった。
「…おい、なんか下の方から何か出てきたぞ。」
グラ娘の頭頂部まで登り、目を凝らして見ていたディズィーがネストスロークの航空機の下から何かが出てきたと報告する。
『なんかヤベーの出てきたぞっ!!早く落とした方が良いッ!!』
『ワタシも急いだホウがイイと思う〜〜』
異形能力者特有の勘が働き早く撃墜するようレイに伝える。レイもそれを聞きながら下の方から溢れるように出てきた何かを視認しすぐさま能力を行使した。
レイが掲げた右手を勢い良く航空機に向けて振り抜くと8つの巨大な光の刃が放たれてバリアと衝突する。レイの繰り出した光の刃は先程までの刃物のような形状とは違い杭のような形状で、そんな8つの光の杭がバリアを貫こうと光速で放たれた。
バリアに衝突すると杭の先端は裂けるように拡散していき、バリアの表面を滑っていくように攻撃をいなされた。なんと航空機を守るように張られたバリアはレイの本気の攻撃をも防いでみせたのだ。
バリアは航空機を包むように丸みを帯びていて光の杭がぶつかると光がバリアの表面を滑るように拡散させる。拡散された光の杭はそのまま地面へと向かっていき海と海底の硬い岩盤をも切り裂いた。
その様子を見ていたアイン達はその攻撃の破壊力に驚きを隠せない。海底の岩盤に深い切れ込みが入った影響でその切れ込みに水が浸水していき、海面に8つの切れ込みが見えるからだ。
そんな攻撃を真正面から受けて壊れないバリアを見たレイも流石におかしいと気付く。まるでアインの能力で固定されたバリアのような頑丈さだと…。
(ベルガー粒子の揺らぎが無さすぎる。間違いなくこのバリアは人間が行使しコントロールしているものではない。)
レイはバリアの表面を観察し答えに辿り着く。恐らく機械制御の能力によって航空する機械だと。しかも出力が相当なもので自分の能力を3度も防いでみせた。
『悪いがコチラはコチラで集中サセてもらう 飛び散った奴らは任せるぞ』
レイはそれだけを伝えて目の前の敵だけに専念することにした。そしてそんなことを伝えられた残りの面々は迫りくる黒い点達を迎撃しようとベルガー粒子を操作し始めるのだった。




