多次元的存在干渉能力
アインの能力やベルガー粒子のことなどが分かるような分からないような……?的な話になっております。
さあ、楽しいサイエンスの時間が始まりますよ。
ネストスロークが保有する人工衛星に弾道ミサイルが搭載されているのは1機のみで、その人工衛星は常に地球を監視しマザーの指示を待ち続けている。
最新の装備を搭載した人工衛星を造るだけのエネルギーと物資を費やすよりも人類の存続に力を注いでおけば今回のような戦争は起きなかったかもしれない。
しかしマザーは人類の保存・繁殖よりも戦力増強に力を入れた。これはマザーが元々軍事用に開発されたこととアメリカで設計・製造されたことが起因している。アメリカは元々社会保障制度よりも軍事にお金を注ぐ傾向があり、それがマザーが設計・製造される過程に反映されているからだ。
例え自己で成長し拡張させることが出来るAIであっても根本の部分は変わらない。人類により良い生活を与えることよりも自身の平和を継続・運営していくことこそマザーの本質なのである。
そして、そのマザーが指示を出し弾道ミサイルを発射させた人工衛星に向かって飛翔体が追従していることを人工衛星のレーダーがキャッチした。光学カメラに映し出されたのはバーニアを正面に向けて超高速で軌道修整しながら確実に距離を縮める弾道ミサイル。人工衛星に搭載されたAIはその映像を最初は理解出来なかった。
間違いなく自分が発射した型式の弾道ミサイルである。だからこそ何故こちらに向かってくるのかが分からない。先ず燃料の量の関係上ここまで飛んでこれないし、そもそも地上から大気圏外まで飛べる設計がなされていない。しかも推進力を生むバーニアがこちらに向いているのだ。
[マザーへ緊急連絡 マザーの指示により発射した弾道ミサイルがこちらへ接近中 あと54秒で衝突する可能性98.908% 指示を請う]
人工衛星に搭載されたAIがマザーへ連絡を取るが返答はない。この通信がマザーへ届いていないからではない。マザーはこの能力を良く知っている。ここまで来ればもはや誰の手にも止められないことを。なのでマザーは人工衛星に計算を割く事を止めて別の作戦へと切り替えたのだ。
[ーーー当機の生存確率は極めて低いと自己判断 衛星軌道上が外れます]
人工衛星が衛星軌道上から外れてルート変更をし始める。だがそれに反応するかのように弾道ミサイルの軌道も修整され直撃コースに入った。
[そんなまさか……何を推力にして飛んでいるんだ?]
熱源は感じられない。つまり燃料を燃やして進んでいる訳ではないのだ。しかも軌道を逸れたにも関わらず弾道ミサイルもそれに追従してくるのだから対策のしようがない。
AIは自己判断で迎撃ミサイル使用することを決めてすぐさま発射して弾道ミサイルへぶつけた。この距離ではこちらにも被害が及ぶが致し方ない。迎撃で撃ったミサイルは弾道ミサイルに直撃し爆破。その破片など人工衛星に衝突し甚大な被害を受ける結果となる。
[被害状況確認…………機内でガス漏れが複数確認 引火の可能性が高い為にガスを機外へ排出します]
燃料と機内の温度調整に使用されるガスを失うのはかなりの被害ではあるが、AIの維持に必要な回路は無事なので致命的な問題ではない。
人工衛星に搭載されたAIはこの状況を乗り切ったと思考した。だがレーダーに再び反応があり、未だ危機的状況であることを知る。弾道ミサイルは表面がドロドロに溶けているように見えるが健在で、軌道も逸れることなく超高速で飛来し続けていた。
[ーーー直撃コースであることは変わらず 衝突した際の被害は甚大なものになると推測……………エラー発生 ハッチが開閉されるが止めることが不能]
弾道ミサイルが入っていたハッチの蓋がAIの命令を無視して開閉される。これはアインの能力による現象で人工衛星自体に干渉した結果起こったものだった。
[まさかR.E.0001の能力……?地球から遠く離れた衛星軌道上から更に離れたこの地点までもR.E.0001の射程圏内だというのか?]
ハッチが開いてミサイルの保管庫が顕わになり、そこへ目掛けて弾道ミサイルが飛来してくるこの状況は理解するにも多大な計算による負荷が掛かる。
空気のない宇宙空間で音もなく近付いてくる弾道ミサイルは恐怖そのもので、人工衛星に搭載されたAIは自身の機能を停止させ観測することを止めた。それはまるで死期を悟ったものが目を瞑るような行為だった。
そして弾道ミサイルは人工衛星に直撃し機体を貫いた。弾道ミサイルは減速することもなく激突したので人工衛星の耐久では耐えきれず大破する。
その情報を遠く離れたネストスロークのマザーも確認し、地球に居たアインも知覚していた。アインの能力がベルガー粒子を纏っていない対象すら射程圏内に入れることが可能という結果に終わったこの攻撃は両者とも気付き思考を巡らせる。
そして両者ともに同じ結論に至った。この能力はベルガー粒子の本質に関わる能力だと。長年謎にされていたベルガー粒子。その性質を理解するにはあまりにも困難な特徴を持っている。なんせ物理的に干渉出来ない。装置や容器の中に入れてもすり抜ける。質量はあるのに沈下しない。他にも様々な性質を持っているが干渉出来るのは能力者の脳のみで未だ不明なことの方が多い。
そんなベルガー粒子が何故能力として世界に干渉するのかが最大の謎とされているが、アインの能力はまさに干渉することが能力と云える。時間や因果律に干渉出来ている時点で次元を飛び越えて干渉しているのだが、その手段に使われるのがベルガー粒子。つまりベルガー粒子は多次元に存在でき、法則を世界に追加する性質を持っていることになる。
アインはそのことを感覚として、マザーは観測としてその結論に辿り着いた。能力者は次元を超えられる存在だと。
ここでアイン達が存在している次元の定義を説明しようと思う。この世界の要素として縦・横・奥・時間の4要素を含んだ4次元だと云われているが、5次元だと提唱されることがある。それは素粒子が消失するという観測結果があるからだ。
そして素粒子が消失したように見えたのは縦・横・奥・時間の4方向以外の方向へ向かっていったからだというのがこの世界が5次元だと提唱される理由になっている。
つまり5つ目の要素こそベルガー粒子の通る道に繋がると仮定出来るのだ。そうするとベルガー粒子を使い瞬間移動が行なえるのもその道を進んでいるからであると推測ができ、アインの能力が数百kmも先にある人工衛星に干渉出来たのも5次元という次元を利用した結果なのだとも仮定することができる。
マザーはそう結論付けアインの価値を再認識し、確実なる方法で確保することを決めて、アインは特異点という言葉の意味を真に理解した。
(この能力は危険だ……、あまりにも簡単に世界に対して法則を追加することが出来てしまう……。)
因果律を操作することで普通はありえないような事象を繰り返し何度もこの世界に再現が出来てしまう。こんなことが何も代償もなく行なえるはずがない。いつか世界のどこか、又はどこかの時間軸にて綻びが生じてしまう。
この世界の法則は一体なんのためにあって、誰が決めたのかは誰にも分からない。物体があることも時間があることも空間があることも因果が発生することも、もしかしたら神様が創り出したものなのかもしれない。
そんな誰にも干渉を許さない領域へ脳と粒子があれば簡単に踏み込んでしまえる。6次元・7次元……そのもっと先にある次元に居るかもしれない神のような存在に手が届くこの能力が危険なはずがない。
あってはいけない能力を持った一個人の存在をこの世界では“特異点”と言うのだろう。この点はどの次元にも存在する。1次元は点として、2次元にすら広がる線の断続的な要素として存在し、勿論この5次元にも存在する。つまり6次元・7次元・8次元にもその先のどの次元にも特異点は干渉出来る。
……僕の能力である時間操作型因果律能力。これはほんの一部分のことを示した言葉でしかない。この能力本来の能力として命名するのであれば……そう、【多次元的存在干渉能力】……。
どの次元にも存在しどの次元からでも通過・干渉を可能とする能力。これこそが僕が特異点としての性質をもたらす能力の実態だったのだ。




