収束する最恐
お久しぶりです。3日ぶりの投稿です。今日からまた投稿を再開させますね。
僕たちは取り敢えずレイやモミジ、かつては人類を絶滅に追い込んだ存在である人型バグ達と共闘する流れになった。レイは話してみれば案外悪くない性格?で、いきなり人を襲ったりはしてこない。僕たちを騙している様子もないし、そもそも彼にとって僕たちを騙すなんて小細工をする必要もないから逆に信用出来る。その気になれば僕たちを一瞬のうちに殺せるからね。
それにしてもネストスロークがあと数十分で攻めてくる状況下でレイという能力者の存在はありがたい。正直僕たちの出番あるかな?って感じだ。あの兵士達なんて1分もかからず殲滅してしまったからね。能力が強すぎて敵の装備では防げていなかった。
僕の能力で良く防御出来ていたと強く思う。あの時はかなり手を抜いていたのかな?その気になれば僕のベルガー粒子に干渉出来るから相当手を抜いていたのは間違いない。
「……次男が来るみたいだからそろそろ行こうか。」
モミジの言葉を聞き僕たちは外へ出た。空を見てみると雲がとてつもない厚さになっており、空が重たく感じる。まるでこのまま雲が地面に落ちてきそうだ。
『どうやらアイツも殺る気のヨウダ 久しぶりに兄妹でアバレられルな』
……これは本当に僕たちの出番は無さそうだ。レイ1人でも戦力としては十分なのにあのエネルギーの指向性を操る次男と未来を知るモミジ。それに雲を操る能力者と島そのものの姉。……こうやって説明してみると意味が分からない。過剰戦力だろこれ。
「これさ、俺たちいらなくね?」
「しっ、言うなって。」
ディズィーが言ってはいけないことを口にしてしまったので黙らせる。本当のことだけど言っちゃ駄目なんだよ。
「いや必要だよ。ここにみんなが居ることが重要なの。だからみんなはお互いを守るように固まっててね。」
「んーー……そうするしか無さそうなのは分かってるよ。でも一応さ、念の為に聞くけど大丈夫なの?相手も馬鹿じゃない。マザーは何も対策無しで宇宙船を出すわけがないよ。戦力を比較し計算して勝算があるから行動してる。モミジはそのことについて何か僕に言うことはない?」
数時間前に僕と彼女との間にあったあの話のことを暗喩して伝えたつもりだ。僕たちの時間はもう間もなく終わりを告げる。でも彼女は僕たちに必要なことを言った。ここにみんなが居ることが重要だと。
「アインはみんなと居て。それだけでいい。それだけを考えてみんなを守ってて。」
「……分かったよ。」
それが彼女の意思による選択なら僕は精一杯応えるだけだ。モミジは言いたいことを言い終えるとあるき始めたので僕たちはモミジの後ろをついて行くことにした。恐らく次男との合流地点に向かっているのだろう。
『ーーーアイン』
レイからパスを通じて声が聞こえたけどみんなの反応はない。まさか僕だけしか聞こえていない……?もしかして個別で送れるのか?
『……急にどうしたのですか?』
やっぱりレイと話すとなると緊張する。なんか勝てないって事が分かるからかな。自分よりも上位の存在だと本能で理解出来る。
『特異点……ムカシあいつに言われたコトを思い出した』
特異点……、またこのワードだ。まさかレイまで知っていたとは思わなかった。モミジは兄妹に対しては結構話しているのかな?それだと僕に話した事も納得がいく。
『……モミジにも言われましたけど知っていたんですね。』
『アア それがオマエだとイウのは解る この地獄をオワラセル者がクルノをズット待っていたように感じる』
レイの横顔を覗くが顔の形が人間とはかけ離れていて良く分からない。表情筋なんて無いし甲殻類や昆虫のような外骨格に守られているから顔を見ても感情を察する事が出来ない。出来るのは黙って聞くことに集中することのみ。
『アイン オマエに伝えておきたいコトがある』
……このタイミングで?一体何を僕に伝えたいんだ?
『コレから起こるコトは私達が生まれるよりも昔から決まっている コレからというのはこの先全て……という意味でだ』
『この先全て……?』
『だが特異点ならその先を決められる この世界で唯一の存在だ そんなオマエだからこそ頼みたい』
『……頼みを聞くだけなら出来ます。叶えられるかは分かりませんが。』
一応無理難題を言われた場合に備えて叶えられないと一言前もって言っておく。特異点なんていう自覚は無いし急に話題に出されても困る。これから何が起こるのか僕にも分からないから。
『それでいい こういうことはムリして叶えるものでもナイ ではアイン ワタシと同じく呪われた兄弟よ』
……話が分かる奴なのにいざ戦いになると容赦ないから困る。問答無用で襲ってきた経験が2回もあるせいでイメージが固まってしまっている。
『私達のような者達が生まれない世界へ導いてくれ』
声の発音とか実際に口を動かして言っているわけではないからこれは僕の主観に過ぎない。パスを通じて送られてきた言葉は願いだった。千年も願い続けた呪いの言葉……。レイがこの言葉に掛けた思いが伝わってくる。
パスは脳と脳を繋ぐと同時に心と心を繋ぐみたいでレイの心の声がスッと心の中に入ってくるみたいだ。
『ーーー言いたいコトは言った 心残りはミューファミウムのザントウのみとなった カンシャする』
『……それは、良かったです。』
あれ?なんだろう……、なんか……、今の会話ってまるで今から死にに行く前みたいじゃないか?レイ程の存在が死ぬなんて考えられない。
……いや、でも考えてみるとそうだよな……。ネストスロークを殲滅するってことは能力者の絶滅を意味する。僕たちネストスロークで生産された能力者は自身で個体を殖やせない。生殖機能が無いからだ。
だからネストスロークが滅んだ瞬間には能力者が滅ぶことが確定する。そうなった場合レイやモミジたちに作用している能力者を絶滅させるという能力を行使し終える。能力は行使し終えるとその効果を失う。
物理法則すら無視する能力の効果は生物に千年もの寿命を与えた。もし能力が解除されればレイたちは本来の寿命を迎えて死に至る……。だけどレイたちはそれを望んでいるって言っていた。
そしてその結果を僕は無かったことにも出来る。ネストスロークが滅んだことすら……。そうか、やっと特異点って意味が分かってきた。僕の能力は他の能力の効果にも干渉出来てしまうんだ。
能力同士が衝突して干渉することは戦闘の最中よくあることで、分かりやすいのがユーのバリアに能力で攻撃する場合。普通はどちらがより強い出力を持っているかで勝敗が決まるけど僕の能力は勝ち負けの土俵にすら入っていない。
どんどん分かってきた。僕の能力は向こうの能力に合わせる必要がない。能力という枠の外から干渉出来る。でも他の能力はその枠の内側にいる。レイの能力は確かに枠の中では最強かもしれないけど僕の能力はレイの能力の結果を無かったことに出来る。レイが能力でネストスロークを壊滅させても僕の能力で戻せてしまう。
だからモミジは僕に何もさせたくないんだ。ネストスロークに干渉してほしくない。だからレイたちをここに呼んだ。僕が動かなくてもいいように。
もしそうならモミジ達の決意は凄まじい。絶対にネストスロークを壊滅させるという意思を感じる。僕の能力で事態を引っくり返さないようレイたちを僕の周りに置いて射程圏内に入れた。だからあの夜中に呼び出して話しておいたのか。念には念を入れたって訳か……。




