未知との対話
僕たちはレイ(仮称)とパスを繋ぎコミュニケーションが図れるようになった。そのせいかみんなは緊張しきってガチガチに固まりながらの対話になる。
『あ、あの……すぅーー……、わ、私は、私の名前は、あ、アネモネ、です……。』
しかもみんなの声が聞こてくるから緊張しきっている事が伝わってくるから非常に恥ずかしい。アネモネなんて顔を赤らめてレイに対して果敢に話しかけている。
『ーーーマエは殺してワルカッタな』
『私こそ殺そうとしてごめんなさい。あの時は完全に殺ったと思ってたから、殺されたと教えられて驚いちゃった。』
『ワタシもまさか生き返るとはオモワズ驚いた』
『これからは仲良くしましょう。共通の敵はネストスロークなんだし上手くやれると思うの。』
『ナマエをツケテモッタからナ 考慮シておこう』
パスを繋いでの会話だとレイの声がクリアに聞こえてくる。しかし内容はクリアとは程遠く非常に気まずい内容であった為にしばらくお互いが無言となり静寂になる。
そして僕が堪らず間に入り沈黙を破る。アネモネが中々にコミュニケーション能力に難があることをこの会話で思い出したからだ。
ネストスロークでの暮らしの中でもそうだったし、兵士達が攻めてきた時もマザーに対してかなり危ない発言をかましていた。僕以上にアネモネのコミュニケーション能力には問題があると言ってもいいだろう。
『ちょっと関係の無い話は止めようか。今はモミジの話を聞いて気になった点があるってことだったじゃん。』
初めてパスを通じて会話を試みたけど割と出来ているのに驚く。まるで能力を使うみたいにしっくりくるのが奇妙に感じるな……。なんでこんな簡単に出来るのに今の今まで出来なかったんだろう?
『ーーーあ〜あーあー聞こえる?私もパス繋いでみたけどこれでみんなとコミュニケーション取れるね。』
モミジまで参戦したせいかより収集がつかなくなった感があるけど、当人しか知らない情報を話してもらわないと困るから何も言わない。
『えっと、三女だったよね。三女はこの島そのものだよ。』
『……しま?』
『島って、あの島?』
『雲の次は島?アインの兄妹おかしくない?』
『僕に言わないでよ……いま知ったし僕が生まれるよりも前から居るんだから関係ないでしょ。』
みんなからひどい言われようなんだけど?知らないからね。いきなりこんなことを言われても困る。
『まだネテルのか?相変わらずダナ』
『う〜〜ん百年は寝てるかな〜。』
百年……?そんな長く寝てるの……?僕の姉が……?
『そんなに寝てるのには理由があんのか?』
『性格とか能力のせいもあるけど、島なんだから起きてるとか寝てるって概念自体薄いんだよね。もしかしたら起きてるのかもしれないけど、人間が自分の上に居ても何もアクションを起こさないから寝てるんじゃないかな?』
『へーそんな奴も居るんだな。』
エピは不思議そうに下を見ながら返事を返す。まさか自分たちが半年間も暮らしていた所が生き物だったなんて驚きだ。しかも島だったのか。敢えてここがどこかモミジから聞かなかったから大陸のどこかかと思っていた。ニホンではないことは分かっていたけど。
『……レイとモミジ達の話は分かったわ。次は何故レイがここに居るのか話してくれる?』
本題って言っていい内容だ。あまりにもタイミングが良すぎたしモミジが呼んだのは間違いない。でもどう言って呼んだのかは分かっていないし気になる。
『最初はネストスロークの兵士達が居るから来てって呼んだんだけど反応が薄かったの。』
『地球のハンタイガワにイタンダ それにウルサイからなオマエは』
『それで紅茶があるよって言ったら乗り気になってね。』
『ソレヲ早く言え たかだか地球のハンタイガワだ』
『まあそんな感じだよ?』
『……説明、どうもありがとう。』
こんなにも気持ちの入っていないお礼は中々聞けない。聞いた本人のアネモネは目をつむり眉間を揉んでいる。
『じゃあ次は僕から。まだレイが残っているってことはまだネストスロークからの攻撃はあるってことでいいんだよね?』
あの深夜での話を信じればこれだけのはずがない。まだ襲撃があるはずだ。
『うん。もうネストスロークから宇宙船は出てるからあと一時間もしないうちにここに来るね。』
モミジは落ち着いた様子で答える。もう覚悟が決まっているのだろう。淡々と事実を話し始める。
『分かっていると思うけど一応言っておくね。敵はネストスローク。私達兄妹はネストスロークを壊滅させることが第一目標。何百年もの間に向こうの情報と物資を手に入れながらこの日を待っていた。だからみんなにも手伝ってほしい。』
『そもそも敵はオマエたちをコロソウとしていたんだろう?ならキョウリョクするしかない』
レイは青い目を僕たちに向けながら語る。いかにネストスロークが悪の諸悪で自分たちが苦しんできたのかを。
『宇宙にニゲられてはワタシたちの誰もオエナイ そのせいでワタシたちはずっとこの地球でサマヨッてきた』
『ネストスロークを壊滅させるまで私達は死ねないの。それが制約だからね。能力は一度放たれればキャンセル出来ない。その能力を行使し終わるまでね。』
『……でも敵は能力を解除させる装備を持っていたけど?』
そのせいでこの左腕を失うことになった。だからモミジの話には頷けない。
『解除はしていないよ。したと思うほどに能力が弱められていただけ。ベルガー粒子を拡散されたせいで本来の能力を行使出来なくなっていたんだよ。』
『それなら相手のベルガー粒子を利用して能力を無力化させるのは?次男にはされたけど?』
今度はアネモネが質問をする。確かにあの時はベルガー粒子を奪われて能力が使えなかった気がするな。
『あれは能力がその効果を発揮しきって能力を解除させたんだよ。能力のコントロールを奪ったってイメージかな?みんなも能力を行使し終えたらなくなるでしょ?フェネットが作り出した炎が役割を終えたら消えるのと同じだよ。』
なるほど……。色々と合点のいく内容だった。
『聞きたいのはそれだけ?それなら続きを話すね。私達は能力のおかげで長命を手に入れているけど、能力の効果が切れれば私達も死ぬ。』
『……ナガク生きすぎた そろそろこの呪いも終わりにしたい 望まぬ憎悪をウエツケラレた人生なぞ千年も過ごす価値はなかった それがワタシたち兄妹の結論だ この共通の思いでワタシたちはここに来た 全てをオワラセルために』
語り終えた2人はそれ以上なにも語らず僕たちもそれ以上なにも聞かなかった。千年掛けて出した答えなら何も言う気は起きない。ちゃんと考え考えて出した結論なんだろうから。




