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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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ベルガー粒子の特性

ネストスロークで生産された能力者には様々な薬品が投与されている。その中には痛覚を鈍化させる薬も含まれており、薬を体外へ排出しきったアインにとって腕を吹き飛ばされる激痛は今の今まで感じていた痛みとは比べものにならないレベルだ。


意識を失った方が楽なのだが痛みと状況がそれををさせてはくれない。意識を失えば仲間達に施した能力も解除されてしまう。能力者としての感覚に優れているアインはそれだけは出来ないと必死に能力の維持を無意識で行ない、目や耳から入ってくる情報で現在の危機的状況を理解しようと努める。


敵は僕に近付いてきている。手にはショットガンが握られて銃口を向け続けていた。だけど空気が弛緩している……?もう僕との戦闘は終わったつもりか?


……あまり舐めるなよ。僕が何かあれば仲間達に危険が及ぶ!!こんな痛みなんか気にしている暇なんて無いんだよこっちはッ!!


「い、痛み、は……痛覚の伝達で、おこなわれる……。」


「……何だ?」


兵士達はアインの呟きを聞き取れず足を止めた。獣は手負いの時が一番危険だ。兵士達は獣を狩ったことはないが、勘と本能が働き警戒すべきものと判断した。


「……マザーへ要請。この場にてR.E.0001の殺処分の許可をいただきたい。」


「申請を却下。薬を投与し生きたまま連れてきなさい。実験に使います。」


しかしマザーに却下され生きたまま連れて行かねばならなくなる。このまだ意識がある時間操作型因果律系能力者のR.E.0001を……。


「……了解。麻酔を投与します。」


外での吸引による麻酔投与は確実性がどうしても低くなる。確実に意識を奪うには静脈に麻酔薬を流し全身を麻痺させるしかない。先ずはR.E.0001の左手の出血を止めなければそこから麻酔が流れてしまう。兵士の1人が止血剤を取り出した所でR.E.0001のベルガー粒子に動きが見れられる。


「因果だ……そこを削除すれば痛みは痛みとしての事象を失う。」


痛覚が神経を通して脳へ信号を送る。これだけのステップを踏むのなら、その一つでもその事象を消してしまえば痛みは消える!


「【削除(リボーク)】……!」


痛覚の信号が神経に乗るという事象が消え去り痛みが急激に引いていく。左手を見ればどう考えても痛いのにそこから何も起きない。そして血が滴る挙動にも異変が起きた。


「……マザーへ至急要請を、R.E.0001は危険な能力者です!此の場にても射殺許可を!」


兵士達はマザーの命令に背けないよう調整されている。背くような者はネストスロークでは利用価値が無いからだ。そしてそれが兵士達の弱点でもある。突然の状況に対し上の指示待ちをする事はどの時代において愚策でしかない。


「射殺されるのはお前達だ。」


アインの左手には()()()()()()()()。だがアインの左手は千切れて地面に転がっている。だがアインの千切れた箇所からは血とベルガー粒子が混ざりあった左手が存在し、その手にはベルガー粒子の固まった銃が存在した。


そしてアインはその左手で銃の引き金を引いた。ハンマーは振り落とされて銃弾の雷管を叩く。だがハンマーが雷管を叩く音はなかった。しかし間違いなくその現象を再現していた。その証拠に薬莢内の火薬が燃えて衝撃波を生み出し弾丸を射出する。


その一連の現象は音も無ければ光情報も無い。あるのはベルガー粒子と軌道のみ。兵士たちにはアインがベルガー粒子で創り出した左手で拳銃の引き金を引いた所までは視認出来たが、撃ち出された弾丸の軌道は視認することは出来ていない。弾丸を知覚出来るのは特異点のアインとその弾丸の軌道上に居る者のみ。


「な、何だ!?」


突然衝撃を覚えた兵士はアインの拳銃を見るが発砲された様子は伺えない。だが間違いなく衝撃があり、モニターで確認すればスーツにダメージがあったことを示していた。


「コイツ……!」


撃たれた兵士はショットガンを構えようとした。だがその前にアインが能力を行使して兵士に攻撃を仕掛ける。


「【再現(リムーブ)】」


アインが能力を行使すると空間に残った弾丸の軌道上を再び不可視の弾丸が走った。そしてまた兵士に衝突しスーツにダメージを蓄積させる。


「おわっ……!?」


撃たれた兵士は前方から来る衝撃で一歩後退る。その様子を見ていた兵士達は何が起こっているのか理解出来ない。R.E.0001がベルガー粒子で腕と拳銃を形作っているのは分かる。だがそれだけだ。R.E.0001と見合っている兵士が1人で後ずさっているようにしか見えないのだ。


「S.L.0324……何をしているんだ?」


「何をって攻撃されているんだ!!援護しろッ!!」


ショットガンを構えようとしても上手くいかない。何もない所から攻撃が発生し衝撃で仰け反ってしまうからだ。R.E.0001に近付くことも出来ない。


「【再現(リムーブ)】」


アインは弾丸の軌道を再現しながら再び引き金を引く。すると空間に弾丸の軌道が2つ出来上がり、2つの軌道から不可視の弾丸が無制限に再現される。


その軌道線上に居る兵士のスーツは無視出来ないレベルのダメージが蓄積されてスーツの表面がヒビ割れる。そこでようやく周りの兵士達が状況を理解し始めた。


[ーーー素晴らしい R.E.0001は痛みというストレスにより能力者として大きく成長した]


マザーは兵士達に付けた装置からR.E.0001のベルガー粒子とスーツにダメージを蓄積させている兵士を観察していた。そしてR.E.0001が能力を成長させたことを見抜いた。R.E.0001以外が認識出来ない攻撃、彼だけが干渉出来る領域の能力。マザーはその全てが愛おしく感じていた。


[β部隊にはR.E.0001の能力を観測するために実験に付き合ってもらおう]


マザーはこの場にて実験を開始する。兵士達に送る命令はR.E.0001を捕まえる事でも殺すことでもない。その命を使って能力の正体を探ること。


「R.E.0001に何もせずに待機。」


「なっ!?マザー私は現在R.E.0001の攻撃に曝されています!」


マザーは無視して何も言わない。そして兵士達も何も言わず黙ってS.L0324の様子を見ていた。


「こんなことがあってたまるかッー!!」


スーツの耐久限界になりスーツが割れて筋繊維が外部へ漏れる。最早何も役に立たないスーツを脱いで男はショットガンを手に持つ。狙うのは自分を見捨てた仲間か、或いは自分を攻撃しているR.E.0001か……。


だがその迷いの時間が致命傷に繋がる。


「【再現(リムーブ)】」


不可視の弾丸は走り兵士の胴体に穴を開けた。傷口からは血が飛び出て体温が急激に低下していく。血流も早くなり心臓が大きく高鳴る。頭には血が上らなくなり意識が朦朧になっていく。


いくら薬で痛覚を麻痺させていても血液を大量に失えば人は動けなくなり死に至る。


「【再現(リムーブ)】!」


肉が千切れて飛び散る音が鳴った。血はまるで絞り出すような勢いになり押さえても止まることはない。兵士の口からも出血が始まり膝から崩れ落ちる。弾丸の軌道はちょうど男の額に合わさった。


「【再現(リムーブ)】!!」


額に2つの弾痕が発生し男の脳味噌が破壊された。弾痕が発生した頭部を見たマザーは弾丸が頭部に残っていない事をマイクロチップから得られる情報で知覚する。


[なるほど……現象のみを再現しているのか……! 実際には弾丸は出ていない 弾丸がもしその場にあり撃ち出されていた場合の可能性をR.E.0001は再現している!]

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