多勢に無勢
そこから敵の猛烈な攻撃に晒されてアインは苦悩する。まるで一つの生き物のように動く兵士達にアインは手を焼かされていた。
「クソっ、急に動き方が変わったぞ。」
敵は無意味で終わる銃撃戦を展開しこちらが近付けば引き、離れれば追従してくる。なんていやらしい立ち回りをするんだ。こいつらを無視して宇宙船へ行こうとすると更に能力による妨害まで来る始末だ。特にサイコキネシス達のバリアが厄介この上ない。
しかも恐らくだが3人はいる。進路を防ぐようにバリアを置かれるせいで余計な能力を使わされるし、時間稼ぎにも利用されている。僕が足を止めれば向こうは瞬時に陣形を変え360°から攻撃を浴びせてくる始末……。
こちらも銃撃による攻撃をするしかないか。リボルバー拳銃には銃弾が6発。自動拳銃に銃弾13発。外さなければ事足りるが、向こうも馬鹿ではない。僕が拳銃を持っていることは腰に付けたホルダーから分かるからね。
それでも中距離戦を維持していることから向こうも対策を講じている可能性がある。
(ならこれならどうだ?)
僕は地面に落ちている石を拾いベルガー粒子を纏わせる。そしてその石を思いっ切り固定されたモーションで敵に向けて投げ飛ばした。石の軌道を固定し空気抵抗と重力を無視した軌道を描く。時速200kmを超える拳大の石は真っ直ぐ敵に向かっていった。
(直撃コース……もらった!)
例え全身を包む外骨格のようなスーツでも軌道が固定された物体にぶつかれば吹き飛ぶ。多少なりともダメージはあるはず……っ!?
その時あり得ない光景がアインの目の前で起こる。投げつけた石が敵の肩に当たると弾かれたのだ。……いや、石が物体に衝突し弾かれるのは普通の挙動ではある。しかしアインの能力下でそれはあり得ない。アインがその因果を認めていないからだ。
なら何故弾かれた?そんな疑問をよそに現実世界は次の因果へと進んでいく。アインの能力を無視して……
「R.E.0001の脳波に乱れを確認。α波が激減し能力に対して集中力が切れている。全員一斉射撃。」
兵士達はこの機を逃さない。全員がアインに銃口を向けて引き金を引いた。アインにとって何度も見た光景だが何度見ても慣れない光景……。兵士達の握られたライフルの銃口から赤と白が混じった閃光と共に鳴る火薬が燃える音。そしてその標的とされて自身に向かってくる弾丸の雨。この全ての事象をアインは正確に知覚し能力を行使する。
アインの身体に触れるか触れないかの距離で弾丸はカクンと停止し地面へと落ちていく。だがアインの能力の精度に問題が生じる。今の今まで自身の能力を完全に無効化される経験が無く動揺を隠せない。
(……間違いない。僕の能力による軌道が途切れている。)
アインの目には自分が投げた石の軌道が見えている。この軌道が見えるのも干渉出来るのも特異点であるアインのみ。だからこそアインにはその軌道が途切れて自分の射程と効果範囲からその石が外れたことを知覚した。
そして思い出す。いや前にもこういう経験をした……と。あれは半年前の出来事。人型バグとの戦闘で自身のベルガー粒子のコントロールを奪われたあの時と状況が酷似している。
「まさか……僕のベルガー粒子を操作した?」
アインの呟きを高性能のマイクが拾いその音声をマザーが拾う。
[ーーー驚愕 R.E.0001は我々の行なった内容を理解している まさか地球に居るバグが同じ事を行なっていたのか?]
マザーは能力の研究を数百年以上も積み重ね能力の特性を理解した。ベルガー粒子は当人以外でも操作が可能。ただ能力者の脳があればベルガー粒子の操作は行なえる。
「R.E.0001は我々の装備の仕組みを理解している。ベルガー粒子のジャミングをどの装備で行なっているか気取られないよう立ち回りなさい。」
ネストスローク本部からの通信を聞き兵士達は銃撃を止めマガジンを交換する。R.E.0001には驚かされっぱなしだが、ここまで来れば腹をくくるしかない。α・βの2部隊はマザーの指示に従い次のフェイズへと移行する。
「今度は何を……」
考えがまとまらないうちに敵が動きを見せた。マガジンを交換し再び銃撃の雨を降らす者と少しその場から後方へ移る者達と別れる。
(能力は使ってこないが、温存しているのか……?)
先程から良くて妨害行為でしか能力を使ってこない。出来るだけ装備だけで僕の脳への負荷を掛ける算段か。やり方がいやらしいなさっきから。マザーの指示だとしたら勝機があっての行動なんだろうな。あれは無駄な事はしないとネストスロークでの生活で身にしみている。
だが僕の考えとは裏腹に向こうは能力による攻撃を仕掛けてきた。このタイミングで……?
敵のベルガー粒子がこちらへ飛来してきた。弾丸に比べれば遅いが僕の走る速度よりは速い。マズい……、逃げられ……
「ぐはっ!?」
敵のベルガー粒子が急激に赤く染まり炸裂した。まるで爆薬が爆発した時のような事象が近距離で引き起こされ僕の左半身を焼いてみせる。服は焦げて皮膚は赤黒く焼け爛れる。
[熱を防げなかった?衝撃も?]
マザーは意外な結果に見た光景を疑う。R.E.0001の能力自体に弱点はない。弱点があるとしたら能力を行使する側に問題がある。……予想出来ていない攻撃は難しいのか?観測していても次に何が起こるか想定出来ていないと完全には防げない?
もしそうならR.E.0001の脳はまだまだ成長しきっていない。まるで未完成なPCエンジンを積んだデータベースだ。データベースの中に入っていない事象は処理しきれない……!
「R.E.0001に対して能力による攻撃を行ないなさい。それで反応を見ま……」
兵士達のカメラを通して現場を見ているマザーの視覚情報から有り得ないデータがメインエンジンへ送り込まれる。なんとR.E.0001の傷が一瞬にして消え去った。恐らく自分の時間を戻したと推測出来るが速度が異常だ。時間が逆周りに戻ったというより、数秒間の時間が消え去り更新されたと表現するのが正しい。
[物体・無機質だけではなく生命そのものにも干渉出来るようになったのですね 素晴らしい……]
マザーはR.E.0001の成長を喜ぶ。例え今の現象でエラーとバグが発生しても構わないと切り捨てられる程の喜びがマザーの中で発生した。寧ろエラーやバグは貴重な情報として解析が行なわれる。
[彼は私のようなAIにも干渉している つまり私達にも時間・因果律に干渉出来るということだ]
逆説的な理論に過ぎない話ではあるが、無視することは出来ない内容でもある。R.E.0001の能力が我々のようなデータに干渉出来る事象は何度も観測されているし、逆に我々がアプリを通して能力者に能力を行使させることも今までで何度も観測された事象だ。
もし我々が能力者に能力を行使させてその因果律をR.E.0001が能力で干渉するという事象を観測することが出来、そのデータを解析出来れば……!
「追加の銃火器を送ります。R.E.0001の脳への負荷を継続してください。」
アイン達を囲むように着陸した宇宙船から2メートル程のポッドが射出される。そのポッドはα・β隊の下まで飛んでいき地面へ突き刺さった。戦いは更に苛烈さを増していく。




