機械に干渉せし能力
短いですがキリがいい所で
マイクロチップ…?そんなもので能力と身体を封じられるなんて…!最初からこうして僕達を捕まえる算段を立てて地球へ降りて来たたのか…。
「く、くそ…」
どうにか口を動かしうめき声のような一言を口に出来た。たった一言を言うためにヨダレが舌を伝って地面に落ちるぐらい無様な姿を晒してしまったけど、完全には行動を制限しきれていない。
「ほう。その状態で喋れるとはな。もう少し出力を上げてみるか。脳にダメージが入るかもしれんが多少は…」
「Z.Z.7889勝手な行動は慎みなさい。R.E.0001の脳にこれ以上の負荷を掛けるのは許容しません。薬を使用し意識を奪いなさい。」
男の耳の部分に備え付けられたインカムからマザーの指示が入る。男の装着しているスーツの頭部にはカメラが備わっており、そのカメラを通してマザーもこの状況を確認しているのだ。アインの脳の価値を正確に理解しているマザーは素早く薬を打ち込み昏睡させるよう指示を出した。
その指示を承諾した男はモニターから手を離し別の者に指示を出した。その者が薬を携帯しているからだ。そしてその一連の動きを見逃す程甘い経験をアインは積んできていない。
(【再生】)
現在の状態では射程距離と効果範囲は限られているが、僕個人程度の時間と因果なら逆行させられる!
アインは自身の時間・因果律を操作し脳内にあるマイクロチップが起動する前の状態まで逆行させた。その場合記憶まで戻ってしまう欠点はあるが、戻った状態のアインが考えていた事は目の前の男が付けているモニターを破壊、又は因果律をイジり操作する前の状態へ逆行させることだった。
(…相手と僕の位置関係がブレた?ということは【再生】を使ったのか?)
アインは瞬時に状況を理解しそのまま男目掛けて走り出した。するとZ.Z.7889は驚愕し行動がワンテンポ遅れてしまう。倒れていた筈のアインがいきなり立ち上がったモーションからそのまま自分のもとへ走り出したからだ。
「なっ!?これが時間操作型因果律系能力者の力かッ!」
こんなことはあり得ないっ!まさか出力が低かったか?だが出力の調整などはマザーが用意したプログラムを使ったもの。つまりこれぐらいの出力ならR.E.0001の能力を妨害出来ると計算されたものなのだ。それでも妨害出来なかったということは、マザーの計算を上回る成長を遂げている…?そんな馬鹿なッ!!
Z.Z.7889がアインに思考を費やしたせいでしなければならない行動が取れない。先ずはモニターで再度起動させるべきだったのを男は銃を構えてしまった。これは自然な行動ではあったがアインに銃火器の類は効かない。
咄嗟の行動だった為に失念してしまったのだ。アインは考え得る限り最強の能力を持った能力者。アインと真正面から戦える能力は存在しない。…そう、真正面からは戦えない。R.E.0001を誰よりも観測し記録していた者は誰よりもそれを理解していた。
なら真正面から戦わなければいい。マザーはそう判断しZ.Z.7789の脳内に入ったマイクロチップのアプリケーションを起動する。するとZ.Z.7889の様子が変わり先程までの焦りは消え失せ淡々とベルガー粒子の操作をし始めた。
(なんだ…、何かが変だ。)
アインは足を止め素早く後方へと飛びアネモネ達の側に寄った。そして周囲の空間を能力で固定し、すぐさまにアネモネ達の時間と因果律を逆行させる。
この一連のアインの行動は正しかった。あのままZ.Z.7889に近付いていたら射程距離に入ってしまっていたからだ。
「…あれ、何これ。」
アネモネ達が自分の見ていた景色と現在の景色に差異を感じ辺りを見回す。記憶を失って自分達がどういった状況なのか分からないのだ。アインは素早く状況を説明する。
「僕が能力でみんなの時間を戻したの。みんなの脳内にあるマイクロチップをアイツが持っているモニターで操作したんだよ。それで身動きが取れなくなって能力も上手く行使出来なくなっていたんだ。」
それを聞き状況を理解した面々はアインに礼を言いすぐさま臨戦態勢に入った。最早話し合いの段階はとうに過ぎ去っている。
「ネストスロークの戦闘部隊と戦うのか…。ヤベーなこれ。」
ディズィーは自分よりも体格の良いであろう兵隊達を見て弱気な発言を述べる。向こうは全員成人した能力者で構成されている。数も練度も上の相手とどう立ち回るか必死に頭を働かせる。
「というかアネモネの不用意な発言が原因でしょ。全員窒息させてよ。」
ナーフのからかい半分期待半分の言葉にアネモネは苦笑いを浮かべる。
「全員ネストスロークで標本にされるのが良かったの?それとも歓迎されてパーティーでも開いてくれるとでも?」
アネモネの言葉は誇張ではなく真実を述べていた。向こうの出方を見れば自分達を警戒し、まるで危険人物のように扱っていることが分かる。そしてマイクロチップを脳内に埋め込んで能力を使えないようにしたのも、このような事態を想定しているからなのは明らか…。
「でも私達の脳にマイクロチップがあるんだよね…?どうするの?」
フェネットは自身と仲間の頭の中にマイクロチップが埋め込まれている事を強く自覚し気持ち悪くなる。ずっと前から知っていたのに今になって恐怖を感じてしまう自分に嫌気を感じながら…。
「確か能力の測定とかにアプリで計測していたりしたよね?まさかこんな使い方があったなんて…。」
「それだけじゃないよユー。どうやら好きにベルガー粒子の操作をマザー側が出来るみたい。…あれを見て。あの男のベルガー粒子、なんか変じゃない?」
アインの言うとおり眼の前の直立不動の男から発せられるベルガー粒子の動きには違和感を覚える。あくまで感覚的なものだが、人間らしくないようなまるで機械が正確に動かしているような規則正しさを感じた。
「…俺達は能力を行使する機械かよ。」
エピの指摘は的を得ていた。まるで自分達を、能力者を機械のように動かしているネストスロークをアイン達は軽蔑の目を向ける。
「じゃああの人達も被害者?」
マイは一応という気持ちで聞いてみる。どうみても銃を構えてジリジリと間合いを詰めてきている時点で敵対関係であるのは覆しようがない。
「…被害者だけど、僕達を殺す者達だ。手加減出来るような相手じゃないよ。」
全員ベルガー粒子量が多い。自分やアネモネ程ではなくても近しい粒子量を持つ相手も居る。しかも向こうの装備は見たこともない程の最先端技術を駆使したもの。それに対して自分達の装備はボロボロの衣服に腰に仕舞った自動拳銃とリボルバー拳銃の2丁のみ。
「じゃあ殺すってことでみんな良い?少しでも気を緩めたら死ぬと思って。…自分じゃなくて周りの仲間がね。」
アネモネの怖い注意を聞けば全員気を張り詰めてベルガー粒子の操作を行ない始める。この空間に居続けてもいずれアインの限界が来てしまう。
「…準備は出来たようだし行きましょうか。」
無言のまま頷き僕達はネストスロークとの戦闘を開始した。




