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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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終わりの予兆

恐らく来月中にはこの章は終わります。そして次の章が最後の章(予定)となるのでどうぞ最後までお付き合いください。

アネモネとの談義は個人的にも興味のある話題はある。しかし日々の仕事に影響が出てくるのはいただけない。なのでいつものように適当な所で帰らせてもらうことにした。


「ということで今日はここまで。おやすみ。」


「あ、待って!ベルガー粒子の質量についての話が終わっていない…」


ガチャとドアを閉めて僕は自分のベッドがある部屋まで向かう。この家はそこそこ広いけど部屋数が限られているから僕とディズィーとエピは同室で部屋にはベッドが3つ用意されている。


(流石に寝ているか…)


部屋に入ると2人は寝息をたてて眠っていたので、僕は起こさないよう静かに自分のベッドへと向かった。最近こんな風に寝るのが増えたから、ディズィーとの時間が減ったような気がする。


そんなことを考えながら僕は靴を脱ごうとしていたら突然ドアが開き、アネモネが話し足りなくて来たのかな?って思ってドアの先を見ると…


「弟くん。少し話がある。」


モミジが感情を感じさせない真剣な表情で僕を外へと誘う。…少しでは済まなさそうだね。


「ゴメン急にこんな夜中に誘って。でも大事な話だから絶対に話さないといけなくて。」


「いや良いよ。モミジがわざわざこんな夜中に呼ぶってことはとても大事なことなんでしょ?」


「うん…とても急な大事な事。アインには絶対に話しておかないといけないこと。」


家を出て真夜中の道を進んでいく。この間灯りは無くとても暗い場所を彼女の背を追う形で歩いている。


「それで話って?アネモネのこと?それとも僕のこと?」


大体察しはついているつもりだったけど、モミジの口から語られる内容は全くといって違うものだった。


「ううん、()()()()()。それもとても…とっても大切な、本当はもっとみんなには普通の暮らしをさせてあげたかったんだけど、どうやらもう時間切れみたいなの。ごめんなさい…。」


モミジは本当に申し訳無さそうに僕に謝った。まるで話が見えてこない。何かあったのか?


「ごめんちょっと話が見えてこないんだけど、もう少し説明してくれる?モミジは未来を知ることが出来るんだよね?もしかして未来で何かあったの?」


「…アイン、あなたは当たり前のように明日が続いてこの星に生きている生き物もサイクルを重ねて生存し続けるって考えているかもしれない。それが頭の中にあって前提条件として未来を語っているのなら違う…。」


「…ごめん本当に意味が分からない。」


モミジの話は具体的な部分が欠如されている。話の流れも分からないし突然真夜中に呼び出されてこんな話をされても困るよ。


「私には制約があるの。だからあなたの分かることや理解しやすい表現では語れない。ただあなたに語らないといけないことを語るだけ。それが私がここに居る理由で、私という能力(そんざい)だから。」


「……」


返す言葉が見つからない。何かを隠しているとは思っていたけど想像していたものと違う。彼女の抱えていたものは僕の想像を絶するもので、どうやら今の僕には分かってあげられない代物のようだった。


「ごめんね…。謝罪されても、意味、分かんないよね?私はね、この時の為に配置された駒や歯車でしかないの。言ってしまえば道具みたいなもので、私個人には何も意味はなくて…。私以外でもこの配役はこなせてしまう。」


彼女は涙を溢しながら心の内を吐露する。まるで産まれてからずっと抱えてきたもの全て僕に話そうとしているみたいに。


「私の能力で過去・未来を知ることが出来るって言ったよね?でも私は今までこの能力に苦しめられてきた。この能力は呪いそのもので、私のやること成すこと全てを事前に知ってその道を寸分違わず歩む…。それが私の本当の能力。」


「…それってモミジは未来を変えられない。知っていてもその道を進んでしまうってこと?例えば目の前の小石に躓いて転び怪我をすることが分かっていても回避出来ないの…?」


もしそうならなんて能力なんだこれは…。知ることが出来る能力とは良く言ったものだ。()()()()()()()()()()()()()


「うん…数百年先の未来を知って私はその未来の通り歩いてきたの。でも…こんなの耐えられる訳ないっ!だから私は自分の記憶を穴だらけにして知らないふりをしてきた!そのせいで今日のことを知ることが遅れてしまった…!ごめんなさい…!本当にごめんなさい…。」


モミジが僕にしがみついて謝罪を述べる。顔は伏せてしまっていて見えないけど、悲しみでいっぱいいっぱいな顔をしていると思う。


だけど僕の心はまだ状況について行けなくて麻痺してしまっている。モミジを慰めたり何か行動をしないといけないのに何も出来ないでいた。


「う、うぅ…。でも、結局それも決まっていた道を進んでいることになるの。記憶を穴だらけにすることもずっと昔から知っていた。いくら記憶を削っても削らなくても私はここに立っていたに違いない。…私は、なんのために生きていたんだろうね?」


彼女の話している内容は真実なんだろう。こんなことを真実として認めたくはない。だってあまりにもモミジに対して世界は残酷すぎる。彼女は恐らくずっと1人だったんだ。こんな追い詰められる程に彼女の心はボロボロだったのに…僕は、半年も一緒に居て気付けず彼女に頼ってしまっていた。


「こんなこと、急に言われても困っちゃうよね…。アインには関係ないもんね…?でもね、関係あるんだよ?アインのおかげで私は私のしたいことや、やりたいことが出来たの。」


「モミジのやりたいこと…?」


彼女は顔を上げて僕の顔を見つめる。


特異点(弟くん)がこの世界に生まれてから世界と私を取り巻く環境は大きく変わったの。この世界は未確定な世界に変わり私は自由と呼べる人生を送れた。」


「僕が生まれてからってどういうこと?」


「未来が確定しない部分が生まれた影響で私が知った未来とは異なる道が出来た。私の知らない未来がこの世界に存在するってことは、私に選択肢が出来た事になる。つまりは私は私のやりたいことを選択出来るって意味。」


…なんとなくだけど理解し始めたぞ。僕の能力が時間と因果律に干渉した影響で確定した未来と別の確定された未来が同時に存在する世界になったんだ。つまりモミジはどちらかを選択出来るようになった…。でもたったそれだけなのに彼女はとても嬉しそうに語る。


僕がこの世界に存在しているから、2つしかない選択肢の人生を彼女は生まれて初めて経験したんだね。モミジにとってはとても重要なことだった。それだけ彼女の人生は過酷なもので残酷な仕打ちを受けていたことになる。


「弟くん達と暮らせてとても幸せな時間を過ごせました。お皿に盛られたご飯をどれから手を付けようか迷ったり、口に入れて何回噛むかも決められる…。そんな事すら選択することも出来なかったから本当に幸せだったよ。」


「…そんなこと、幸せでもなんでもない…当たり前な事なのに、なんで僕に謝ったりお礼を言ったりするの。」


僕もモミジみたいに涙を溢していた。彼女の存在はあまりにも可哀相なものだ。同情しようにも彼女の心の内を全て理解することは出来ない。なんて声を掛けてあげればいいのかも今の僕には出来なかった。


「ふふ、私がしたいからだよ。言ったでしょ?私は弟くんが居るだけで選択出来るの。私は君にお礼を言いたいし、君に謝りたい。…君は私よりも可哀相だから。」


「僕…が?」


モミジなんかよりも可哀相な人間が居るのか?想像もつかない。しかも僕が可哀相…?


「この1巡目にも2巡目にも君の幸せはない。私はこの一巡目で終われるけど、アイン…君は違う。終わりたくても終われない。あの子達のような道を進むことになる。」


「…能力に支配された存在として?」


モミジは僕の質問には答えず僕と離れて後ろを向く。そしてまた真夜中の道を進んでいくので僕は彼女の背中を追った。歩いている間ずっとモミジのすすり泣く声を聞こえたが、僕は何も声を掛けることができず彼女の背中を見続けるしか出来なかった。

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