組織の犬
明日は先生視点で1話に纏めて投稿します。
「え?じゃあ、これって台本があったのですか!」
「うん、あいの風さんが本当に処理課に相応しいかテストをする為にみんなで計画していたんだよ。」
「その割には炎天さん私に対してかなり当たり強かったですよ?」
「アイツは誰に対しても当たり強いのよ。」
あの炎天との殺し合いから30分が経っていた。その間みんなでお茶を楽しんでいた最中にネタばらしをされる。
「あいの風の仕事の報告書を読んでいたらね。死神と良く似た銃痕が現場に残されていたからさ、もしかしたら死神がやった仕事をあいの風がした事にしていたんじゃないかって話になってさ。」
「その確認とあいの風がどういう人物が見る為にみんなでひと芝居打ったという訳。」
なるほど私の能力はみんなに知られている通り探知系能力なのに死神と同じ弾痕があれば疑われるか。
「私の能力の詳細は先生から言わないように口止めされているので詳しくは話せませんが、処理課の仕事はちゃんと一人でこなしていますので安心してください。」
「あの動きを見ればコチラが邪推していた事が分かった。本当にすまなかった。謝罪を受け入れて欲しい。」
蜃気楼さんが頭を下げて謝罪する。年上の人に謝罪されるのは居心地が悪いよ。
「いえ、こちらこそやり過ぎました。ごめんなさい。」
お互いに頭を下げる事で不問にする文化を今ほどありがたく思うこともなかった。
「それであいの風は“先生”と仲が宜しいようですが、本当に脅されたり弱みを握られていたりしないのですね?」
薬降るさんが私と先生との関係性を気にして質問するが、それこそ邪推だ。健全で良好な関係を築いている。
「あの、この際はっきりと言いますけど皆さん先生をどう思っているのですか?まるで悪人みたいに捉えていますけど先生の何を知っているのですか?」
「何も知らない。だからこそあいの風、君を通して死神を知ろうと思ったのだよ。」
「それがさっきの茶番劇ですか?」
「そうだ。」
先生と意思疎通が出来ないから私を使って情報を得ようとした…ギリギリのラインだな。正体を知ろうとしたより人なりを知りたかったみたいな感じか。もし正体を探ろうとしていたならこの場の全員を相手にしなければならなかった。
「皆さん先生と連絡とか取り合わないのですか?同じ処理課ですよね?」
「文面上ではやり取りをした事があるけど殆どが事務報告の類でそこから分かる事なんて…」
「なるへそ…」
それはちょっと先生が悪いかもなぁ…報連相は大切なコトだけどコミュニケーションも大切だよね。まあ最近になってやっと分かってきた事だけど。
「結局死神より目の前の不思議ちゃんの方が知りたくなっちゃったよね。」
ちょい悪オヤジの蟄虫咸俯すさんが私にウインクしながら話しかけてくる…コードネームとキャラが濃くてお腹が一杯だ。
「そうですね。あいちゃん可愛いのに炎天さんに立ち向かってて凄かったです!色々と気になります!」
私より年上だけどかなり小さい女性の竜田姫さん。成人を迎えているらしいけどかなり童顔。着ているドレスがかなり可愛い系なのでとても似合ってる。しかしツインテールはやり過ぎだと思います。
「あいの風って組織の犬なの?」
「組織の犬?」
変な質問をしてくる天狼さん。一応は意味は分かる…組織に従順で命令を聞くみたいなニュアンスだよね?
「組織に傾倒し過ぎた奴らの総称だよ。あいの風は組織のあり方に妄信してるタイプなのか聞いてるの。」
テーブルに手をついて指をタンタンと叩く天狼さん。怖い怖い怖い!圧がすっごい!逆らえないと本能で理解する。敵に回しちゃいけない人だと脳に刻み付ける。
「そ、組織のやり方には文句ありません。でも組織に死ねと命令されても多分、命令違反しますね。」
「あー分かった。」
勝手に理解されてしまった。もしかしたらなんだけどこの人、コミュニケーション取るの苦手の人?
「じゃあさ“先生”に死ねって言われたら死んの?」
「死にますよ?」
ニヤニヤしながら質問をしてきた初凪さんに私はマジの返答を返した。
「やっば…組織の犬の方がマシだわ。」
たじろぐ姿を見れたので満足だ。
「彼女は組織の犬ではなくて“死神の犬”なんでしょうね。」
薬降るさんの発言に私を除いてその場のみんなが納得する。そんな事…あるワン!
「そうかもしれないワン。」
「炎天はああ見えてあなたの事を心配してたのよ。」
私の冗談を無かったことにされた!やめてよ!
「高校生がこの課で仕事をするのはおかしいって言っていたよ。あいの風を脅して処理課から特定課に行かせようとしていた。」
「不器用ですよね炎天さん。お家の事もありますし、死神が絡んだ問題ですから。」
そうかアイツ良い人だったのか…やっべ、どうでも良すぎて今更そんな事言われても先生の悪口言ったことは許さないよ?
「はあ?そうですか…」
「反応うっす!」
その後もお茶を楽しみながら会話を楽しんでいたら薬降るさんが退室を申し出る。
「そろそろお暇致します。お茶、御馳走様でした。」
「では、いい頃合でお茶会を終了しよう。」
蜃気楼さんの一言でみんなが席を立ち、各々の目的地に向かう為に奥に置かれたドアを開いて帰っていく。早業だった…私の認識より早く帰って行った。
「え?お茶の道具とか出しっぱなしだけど…?え?私が片付けるの?」
す〜〜〜
『せんせーーい!助けて〜!』
先生とのパスに意識を向けて先生を召喚する。
『どうしたミヨ?』
『処理課の人達とコミュニケーションとって下さーい!!』
『!?』
先生はさきほどまで行われていたお茶会の軌道を認識して大体の事情を理解してくれた。先生が処理課の人達の癖の強さを知ってくれたようで良かったです。
『なるほど 事情は分かった』
『ミヨと仲良く出来そうで良かった』
先生!?駄目だ…先生もコミュニケーション能力に欠点を持っていらっしゃる。
『先生…私と毎日お喋りしましょう。実践あるのみです。』
『毎日は厳しいな そうだ ミヨに新しい能力を覚えてもらう為にまた訓練を行おう』
『え!?まだ能力あるんですか!?またツーマンセルで教えてくれるんですよね!?嘘じゃないですよね!?』
『ああ本当だ 今回の能力は便利だぞ? その分扱いが難しいがな』
先生がニコニコと笑って約束をしてくれる。先生大好き!
美世の扱い方に慣れを見せた死神はこの問題児を容易にコントロールしてみせた。
『ではワタシは大事な用事があるので失礼するよ』
『はい!急な呼び出しに応えてくださってありがとうございました!』
最上階に一人残された私は雪さんが居る階にまで降りることにした。テーブルの上にはカップが並んだままで片付けていないが、先生が片付けの人を寄越してくれるって言っていたから大丈夫でしょ!
私はエレベーターがあるフロアまで歩き15階まで降りる。このエレベーター多分もう乗らない。絶対に乗らない。
キーン
扉が開き雪さん居る部屋まで一直線に向かう。
雪さ〜ん聞いてよ〜処理課の人達みんな社会不適合者の集まりだったよー!
特定課の休憩所があるドアを開くと雪さんと見たことが無い能力者が話し合っていた。
(【探求】に引っかかっていたけど、この人とは一応初めましてだよね?)
能力で一方的に相手を把握出来てしまう弊害で初対面の時ちょっと混乱しちゃうんだよね。
「あ!美世ちゃん♪」
雪さんの美世ちゃん呼び頂きました!ごっつぁんです!
「雪さ〜ん♪この人は?」
隣に居る男性は優しい表情で私達の会話を聞いている。まさか彼氏!?私の目が黒く濁る。
「この人はオリオンさん。フリーで活動している凄腕の情報屋であの死神に仕事を振られるぐらい凄い人なのよ♪」
「そうなんですか?」
「組織の為に働いているだけですよワタシは。」
独特のイントネーションだ。多分生粋の日本人じゃないね。見た目も髪が白髪…いや銀髪で地毛なのか分からないけど眉毛も銀色。顔立ちも日本人じゃないけどどこの国の人か分からない。何となくだけど色んな人種が入ったような感じ。譬えるとハーフとハーフとの間の子供って感じかな。
「そういえばオリオンさん。今日は仕事でこちらにいらしたのですか?」
「いえ、大事な用事がありましたので寄らせてもらいましたがもう済みました。それにこれからチュウゴクに向かわないと。」
そう言って私達の前から居なくなる前にチラッとこちらを見るオリオンさん。やっぱり私って組織の人達から気にされるのかな。
「なんの用事だったのかな?」
「先生も大事な用事があるって言っていたのでその関係かもしれませんね。」
オリオンさん…何処かで会った気がするんだよね。何処かのビルに居たのかもしれない。ピン刺せば特定しやすいんだけど先生からは能力者には禁止って言われているからな。
「美世ちゃんこれから時間ある?」
「偶然ですね。私も同じ事聞こうと思ってました。」
二人目を合わして互いに頷きあう。
「処理課の話聞かせて!」「処理課の話聞いてください!」
あのお茶会から私と死神の関係性や私の言動が組織中に広まり、この情報を知った海外支部の組織が私の事を死神の忠実なる犬と称し“死神の猟犬”と呼んだ事から“死神の猟犬”という通り名として敵対組織、もしくは私を恐れた人達の間で呼ばれることになる。
土日、作業に集中して2話投稿したいです。




