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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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問い詰め

僕達は狩りを中断し森で木こりをしているモミジの下へと向かった。そして周囲にフェネットが居ない事を確認したタイミングで僕はモミジに詰め寄る。


「雲を張っているのは人型バグの能力なんでしょ?」


「ん、そうだよ?あれ、言ってなかった?」


モミジの何も悪いところが無いような返答に僕達は早々に肩透かしをくらう。単純に報告していなかっただけらしいけど、それだとあの時の約束を反故しているようなものだ。


「雲が晴れたらネストスロークと連絡する約束はどうなった。」


「え、それは勿論守るよ。でもあの子の気まぐれだしな〜。」


「気まぐれ?モミジは関与していないの?」


「雲の上に居るあの子とどうコンタクト取るの?」


勢いで来てしまったから反論が出てこない。モミジの説明におかしな点も無いし、寧ろちゃんと約束を覚えてくれていた。


彼女とは一緒に住むにあたってネストスロークとの通信が出来る時になったらこちらの要望をネストスロークに聞いてくれる約束をしていた。僕達が生きているという情報を伏せておいてという前提条件でね。


「というか良く分かったね。あの距離でベルガー粒子なんて見えな…ああ、寒くなってきたから雲の位置が下がってきたからか〜。」


暖かい気候のときは上昇気流で雲の位置が高くなるが、寒くなれば雲の位置は低くなる。ディズィーの視力ならば今の距離は視認出来る距離になったらしい。


「…理由は分かった。疑うような言い方してゴメン。」


「ずっと疑われているのは知っていたし別に良いよ。私は何百年も前からアインのことを知っていたからね。」


モミジは特に気にした様子もなく木を切る作業を再開させようとした。だが僕はまだ聞きたい事があったのでまた声を掛けてしまう。


「ごめん、この際だから聞いておきたい…ハッキリとさせておきたい事があるんだけど。」


「私も今日中に3本の木を切り倒さないといけないんだけど…。」


モミジは心底困った表情を浮かべて「また今度にしない?」と加えた。だけどまたなあなあにされてしまうと思い僕はしつこく食い下がる。


「そこをなんとか。お願い。」


「俺からもお願いします。話を聞いてもらえませんか?」


僕とディズィーは真摯にお願いをした。これで駄目なら恐らくずっと聞いてはもらえないだろう。


「う〜〜ん…まあ、弟の頼みなら無下に出来ないか。言ってみそ。」


因みに弟と呼んでいるのはお互いの見た目の年齢差からで実際はどういう関係性なのかは分からない。本人の言いたいように言わせているが僕としては特に彼女に対し家族愛などの感情とかは感じていない。


「それじゃ、お言葉に甘えて…。一応聞いておくけどモミジは未来を知っているんだよね?ならこのやり取り自体も何百年も前から知っていたの?」


「何か勘違いしているようだから説明しておくけど私の能力はそこまで万能じゃない。前にも言ったけど私自身の人生はこれで3()9()回目。ある程度時間が経ったら私は自分の身体を捨てて新しい身体へ意識を移すの。」


「覚えているよ。記憶を全て小屋にある脳みそへ移し、新しく増殖させて創り出した身体に記憶を移すんだったよね?それがどう関係してくるの?」


一緒に暮らし始めて色んな事を彼女から教えられたがこの話を聞かされた時の衝撃は忘れない。彼女は身体が古くなるとその身体を捨てて何百年も生き続けてきたのだ。


「古くなったら捨てて新しい身体へと記憶を移すんだけど、全ての記憶をそのまま移さないんだよ。脳みそに蓄積出来る記憶の容量は決まっている。記憶の量が限界を迎えたらリセットするようにしているの。」


「…記憶に限界ってあんの?」


ディズィーの質問に対して僕からは答えられない。普通生きていて限界値を迎えることは無いからだ。その前に寿命を迎えて死んでしまうのが普通。彼女のようなケースは滅多にないどころか想定されていないケースに分類されると思われる。


「あるよ。その容量を超えてしまうとあの子達のように人としての身体を捨てないといけなくなる。だからその前に私は身体をリセットするの。」


モミジの話では記憶の容量が限界を迎えると人としての身体を維持できなくなるらしい。


「他人事みたいだけど、アインも気を付けないとだよ。君って能力で過去に逆行出来るんだよね?それって君しか体験していない時間を記憶していることになる。つまりアイン、君は人よりも記憶の限界値に辿り着くことになるんだよ。あまりその能力は使わないようにしないといけない。あの子達みたいになりたくなければね。」


盲点だった。そんなリスクがあったなんて知らなかったし、言われなければずっと気にもしていなかっただろう。頭の隅にでも置いておかないと…。


「それで話に戻ると、この身体の脳みそに入っている記憶は私生活を送るのに必要なものを私自身が選定して移しているから穴だらけなんだよ。だからアインの求める記憶は今の段階では持っていない。あの脳から私の脳へ移せば分かるかもしれないけど。」


モミジの話は理解できた。ディズィーはさっきから頭から湯気が出そうな感じでフリーズしている。彼には難しい内容だったかもしれない。


「で、他に聞きたいことは?」


モミジは木を切り倒すのに使う斧を木に突き立て僕と向き直る。僕との話が長くなるから本格的に話し合おうと思っているんだと思う。


「…まだモミジについて色々と聞きたいことはあるけど、ネストスロークが僕達を地球へと向かわせた理由を知りたいし、本当に地球を奪還するつもりがあるのかも聞きたい。」


「そりゃあるでしょ〜。地球の支配者になりたいから定期的にリスクを冒してでもこの現状のキッカケになった少女のDNAを使って能力者を造り出しているんだよ。向こうさん的には戦力を増強させて安全に地球を支配しようとしているからね。」


「…その尖兵が僕なの?」


「いやそれはどうかな。向こうも相当緊迫した状況っぽいしね。アインを送り込んだのは一種の賭けだったんじゃないかな。実際上手く行っていればあの子達の2人は現時点でどうにか出来ていたかもしれないし、まあ…悪くない賭けだったとは思うよ〜?」


今のところモミジの話に変な点は見つけられない。顔を見ても嘘は言っていなさそうに見えるが、どうかな…。


「私の予想ではアインの複製を造っているだろうね。戦闘力では並ぶものが無いし〜?能力の使用用途と自由性が異常だからね。」


「僕のクローンが造られている…?」


「うん、でもアインの能力は発現していない筈。そんな簡単には発生しないよ〜時間操作型因果律系能力はね。」


モミジは真剣なのかふざけているのか判断がつかない声色で言うからイマイチ信用しきれない。だけど嘘を言っている感じだけはしないんだよな。


「他には?」


「…アネモネが研究している内容は?」


「え、本人に聞けば?」


あ、失言だった。言ってから気付いたけど、モミジのニヤニヤした顔がムカつく。


「ん?ん?アネモネとは話していないの?ねえねえ?お姉さんに話してみ?弟の恋バナなんてたまんねえよ。お姉さん恋バナ初なんだけど緊張してきたわ〜〜。」


モミジがクネクネしだしたので僕はディズィーの腕を引きその場から離れることにした。


「ウザいウザいウザい!もう良いよ!ディズィー行こっ!」


「え、お、おう。」


熱が出てショート寸前のディズィーが反応遅れて歩き出し僕は狩りへと戻る。…また(はぐ)らかされたな。彼女と話していても目的の話題に辿り着けない。でも必要な情報は渡してくるから文句は言えないんだよな…。

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