繋がる世界線
大体ここで伏線回収しました
お茶を頂き喉を潤したタイミングで彼女は自己紹介を始める。彼女が何者なのか気になっていた僕達は彼女の話を静かに聞くことにした。
「私は…ん〜〜この場合なんて言ったら良いのかな?私でも私を正確に伝える事が出来ないの。ごめんね?」
何でもかんでもハッキリと言う彼女にしては珍しいというか初めて言い淀んだ。…自分のことを正確に伝えられないって何だ?
「えっとね。先ずは名前を言わないとかな?…あ、こっちもどっちの名前を言えばいいんだろう…?」
名前すら分からないって相当変ではある。しかも名前は複数あるとかどうなんだよ。
「…じゃあね、みんなには“モミジ”って呼んでもらおうかな?耀人からはそう呼ばれているしこっちのほうが名乗りが良いねっ!」
親指を立ててサラッとまた無視出来ない情報を言い放つ。…耀人とも交流があるのかコイツ。イマイチ立ち位置が分からないな。人間とは敵対していないのか?それなら何で人型バグ達とも交流があるのか。色々とあとで聞かないといけない。
「私が人間かどうかが気になるよね?それに関してはゴメン!私も良く分からない!そもそも人間かバグかの違いって定義が確立されていないからさ!ネストスロークの定義だと私って半々ぐらいなんだって!」
「いやいやいやいや!流石にそこは聞き流せないからツッコませてもらうけどどういうことなの!?」
僕は立ち上がり椅子に腰掛けお茶を飲みながら話すモミジを右手で制した。かなり重要な話がここで出てきたのに本人のノリが軽すぎる!
「え〜〜ま〜〜色々あるのよ女の子ってさ。これは口では説明するよりも見てもらったほうが早いかな?」
今度は何処へ連れて行こうというのか。木造建ての家を後にし僕達はモミジの後ろをまた付いていくことになった。まあ少しは座れたり飲み物を飲めたから多少は休めたけど、恐らくこの先はもっと疲れることになるだろうな…。
「モミジ…って名前?それとも耀人みたいに名字とかあるの?」
アネモネが変な質問をした。確かに僕達の名前のような響きではないし耀人に近い名前だと思うけど、もしそうなら名字があるはずだ。
「鋭いね〜〜。アネモネは私がネストスロークで生み出されたのか、この地球で生まれたのか気になっているんだね?それを悟られないようこんな質問をしたと思うんだけど中々やるね君。」
「…褒めてもらって嬉しいけど、質問の答えになっていない。」
アネモネの表情は険しい。かなりモミジを警戒しているのが分かる。みんなもアネモネにつられて警戒心が増したようだ。
「ウフフ。だから着いたら話すって。そんなに警戒しないでよ悲しいな。」
モミジはその場でくるりと回り少し悲しそうな笑顔を浮かべてまた歩き始める。…なんだかなぁ。彼女にも色々と事情がありそうに思えてきた。
「はい、別居中の私の家族を紹介するよ。」
モミジが僕達を案内して連れてきたのは最初に居た家より一回り小さい小屋のような建物だった。どうやらここに人かバグが住んでいるらしい。…家族が居たのか。
「あ、ちょっと先に言いたい事があるんだけどさ。見たら驚くと思うんだけど、あまり変な目線を向けないでほしい。それと言葉もね。本人が望んだ結果ではないからさ。」
そんなことを真顔で言うもんだから僕達は背筋を伸ばし小屋のドアをくぐるとそこには布の垂れ幕で隔離された何かが居た。垂れ幕のせいで見えないけど…生々しく、臭く、ベルガー粒子があるから生き物なのは分かったけど、人間とは思えない。
「臭うよね?ごめんね。でもどうしようもないからさ。たまに拭いてあげているんだけど漏れちゃうから。」
モミジは不安そうな表情で布を取り外していく。そしてそこには臓物と脳味噌を組み合わせて目玉を付けた生物が居た。そのあまりな見た目に僕達は何も言えず瞬きをするのも忘れてしまう。
大きさはモミジよりも大きく小屋の半分はこの生き物で占めている。…人間ではないよな。でもこんなバグは見たことが無い。
「…ありがとうね。気持ち悪いって一言ぐらい言われるかと思ったからさ。」
モミジはその生き物の傍らに寄り添い右手で撫でた。その撫でた時にベチョっと音が鳴った時にフェネットがビクッと身体を震わせたけど、それでもフェネットは何も言わなかったのをモミジは嬉しそうに見ている。
「本当にありがとう。この…人達は私の家族。そしてこの事態を創り出した張本人達でもあり最大の加害者で被害者でもある。」
モミジは何も声に出せない僕達に淡々と語り出す。この地球で起きた悲劇、そして自分達の正体を。
「千年前、あるところに少女が居た。その少女はこの世界に唯一の能力も持つ能力者で日本という平和な国で過ごしていたの。」
「でも彼女は不幸にも男の慰めものとして人生を狂わせてしまう。でも、それだけなら良かった…。彼女の転落人生はそこから始まったの。もう…本当にどうしようもなく落ち続けた。」
「彼女は元々母親は殺されて居なかった。一人娘として育ったけど一緒に暮らしていた父親とは血が繋がっていないし仲も良好ではなかったの。元々彼女の精神は不安定でね…ずっと幼い頃からこの世界を憎んでいた。」
「彼女は男の味を無理やり教えられ最後はミューファミウムという組織に飼われて子供を無理やり作らされたの。その子供は能力を持って産まれ、実験体として研究対象になった。…本当に酷い話だよね。昔は結構そんな話があったんだよ?信じられないというか理解出来ない話だよね。アナタ達は子供が持てないから。」
「その少女は男達の慰めものとして扱われ、実験体としても扱われ、到底人間としての人権は与えられなかった。それがこの世界の人間が絶滅するキッカケ。彼女には彼女しか持たない性質があったの。それが暴走した結果地球は一変した。」
「彼女の母親は能力者に殺されその魂が娘に乗り移ったていたんだけど…あ、魂ってね。人の意識や情報ね。私も良く分からないけどそれが少女の精神に干渉し、暴走した。人間への殺意…というよりは能力者達への殺意かな。それが産み出した子供たちにも干渉したの。」
「子供たちの精神はまだ形成されている途中だったのにそこへ溢れんばかりの殺意で塗り潰した。もう誰にも止められない領域だよ。その子供も母親である少女と同じく凄まじい能力を扱えた。たった3日でアメリカの死の大地に様変わり!私はざまーみろって思っている。」
「でもミューファミウムは生き残った。アメリカ大陸から子供たちが消えたタイミングを見計らって宇宙へ逃げ飛び、名前を変え組織としての在り方も変えた。ネストスロークって名前にね。死ねよあのゴミ共。」
「…ごめん話が脱線したね。話を戻すと子供達は人類を殺すというプログラムが書き込まれていた。能力と同じだよ。能力を行使したのは母親とその母親の母親。この2人の殺意は能力として変換され千年経った今も健在。能力は一度放たれたらキャンセル出来ない。その能力がその命令を終わらせるまではね。」
「もう分かっていると思うけどアナタ達が今までに戦ってきた人型バグがその子供達。今も母親とその母親の殺意に逆らえず今も地表を闊歩してる。もう母親達は死んでいるのにずっ〜〜とだよ?」
「で、私は何かになるんだけど、少女には妹が居たの。腹違いでね。その少女も未来も過去も知る事が出来るっていう凄まじい能力を持っていたせいで殺された。殺された後は少女の脳味噌が研究に利用されていたの。そして子供たちの一人に“増殖”っていう能力を持つ女の子が居たんだけど、その例の脳味噌を増殖させてしまった。能力を増強出来ると思ってね。その結果がこれ。目の前のこれがその成れの果てよ。」
「飲み込まれてしまった結果2人は融合してしまったの。知る能力と増強の能力の2つもね。その結果2つの能力を維持する為にもどデカい脳味噌が必要になり身動きが取れなくなった。だから増殖する能力を持つ女の子は思った。自分の代わりを増殖させて産み出そうってね。」
「それが私。あ、産み出された私は能力者を殺すっていう能力から逃れて生まれたから安心して。目の色も普通でしょ?まあ、それでも能力は使えるけれどかなり弱体された能力の規模だから気にしないで。」
「えーーおほん。長々となりましたがここまで清聴ありがとうございました。改めて自己紹介させてもらいます。私の名前は“イトウモミジ”私の母親は正直なところ誰になるかは分からないのですが、元を辿れば最初に話した少女になるのでその少女の名字を名乗らせて貰っています。」
彼女はまるで無表情のような、感情のない笑顔を浮かべてそう言い終えたのだった。




