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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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新たな異質

ディズィーが氷の塊を退かしてエピを救出する。バリアのおかげで押しつぶされることは無かったが、衝撃と身体が冷えた影響で意識はあるけどとてもぐったりとしている。


「立てるかっ!?」


「お、おう…死ぬかと思ったわ。」


そう答えるエピの唇は紫色まで変色し、肩を貸して立ち上がらせても身体にまるで力が入っていない。もしかしたらこの氷の塊はエネルギーを吸い取る特性があるかもしれないとディズィーは考えた。


「…ディズィー、エピ大丈夫?」


ユーが盆地になった地面から顔を出して2人の容態を確認する。そしてエピがぐったりとしているのを確認して急いでフェネットの所まで運ぶことにした。フェネットの炎なら冷えたエピの身体を暖める事が出来るからだ。


「フェネットの所まで連れて行ってエピを預けよう。」


「ああ。もう少しの辛抱だ。頑張れ。」


ユーが周りにバリアを張りエピとディズィーを誘導する。その間にも敵の攻撃は再開され氷の塊を撃ち出されバリアと衝突するたびに轟音を鳴らした。こんなものに押し潰されればひとたまりもないだろう。氷の塊の質量は重く異形能力者以外では持ち上げるのは不可能な質量を誇っている。


「みんな大丈夫!?こっちおいで!」


フェネットは炎を作り出して3人を迎い入れた。ユーが張ったバリア同士が接触すると泡と泡がくっつくように一つになり大きなバリアへ変化する。


「お、おお〜暖けえ〜〜助かる〜〜…」


エピは炎の近くに寄り身体を温める。バリアとユーの作り出した空気の層がエピの周りに存在するせいで中々温まらないが、それでも徐々に体温を取り戻すことに成功していた。


(マズいな…。)


その中でアインだけは冷静に事態を見ながら状況を理解していた。皆のベルガー粒子の動きと残された酸素量を鑑みても足りない。恐らくこちらが最初に底をつく。新たに酸素を補給しようにも周囲の空気に酸素は残されていない。燃焼に燃焼を重ねて酸素は二酸化炭素へ酸化してしまった。アネモネでもかき集めるには時間が掛かる。そしてその間に敵がまた温度を上げれば意味が無くなる。


本当はとっくに自分達が死んでいてもおかしくないのに今もこうして生き残っているのは能力による干渉によるもの。だが脳も限界に近付いてきている。もしこの中の一人が能力を使えなくなったらこの均衡は崩壊する。なのに敵はこちらのベルガー粒子を奪って自身の能力に反映出来てしまう。これが均衡を崩す要因となったと僕は考えている。


最早こちらが不利な状況に陥っているのに打開する方法が見当たらない。僕もそろそろ逆行出来るかどうかのラインまで来ている。これ以上能力を使うと脳の負荷が大きくて【逆行(リワインド)】が使えない。…みんなに相談するべきか。


「…ここで決めないとなんだけど僕が逆行出来るタイミングがここしかない。ここから先に進むともう【逆行(リワインド)】が使えなくなる。」


僕の言葉に反応してみんなが僕の方へ注目する。


「言いたくないけど多分間に合わない。アイツの攻撃を避けながら分子を一つ残らず消滅させるのは現状不可能と言わざるを得ない…。」


今も攻撃を仕掛けてくるせいでユーの表情が苦悶に歪む。相当無理をしているけど恐らくユーが最初にダウンするだろう。そうすればバリアは解除され凍死するか壊死するかの未来が待っている。


「でもここまでやって逃げんのかよっ!俺は嫌だぞッ!今までの頑張りやこの記憶までも無かったことになるのは嫌だッ!!」


ディズィーは声を荒上げて逆行するのは反対だと言い放つ。…本当にディズィーは頑張ってくれた。その努力や経験、記憶まで無かったことにするのは世の(ことわり)や道理から外れた行動なのかもしれない。


「なら私達がここで死んでも良いの?私達の次は耀人が狙われるかもしれない。ディズィーも聞いたでしょ?ここに来た耀人は一人として戻ってこなかったって。それはこのバグが能力者だろうが耀人だろうが殺しまくっているってことじゃない?」


「それは…、そうかもしれねえけどよ…っ!」


アネモネの言葉を否定する言葉を提示出来ないディズィーは項垂れて悔しそうに拳に握り締める。その手からは血が流れて地面を赤く染めた。


「ごめんアイン…。いつもお前だけに負担掛けてさ。でもまた再戦すれば勝てるかもしれないし、次に回すのは間違っていないと思う。」


「エピ…。」


エピも悔しそうにしていたけど次は勝つと意気込んでいた。だがそんな思いも無かったことになる。ここに居るみんなの葛藤も言葉も意思も全てだ。僕が記憶したものだけ前の時間軸に持ち込める。…なんて最悪な制約なんだろうか。


「やるなら早くやって。ユーがそろそろ限界そうだから。」


ナーフがユーの隣に寄り添っていたが、ユーの額には大粒の汗が浮かんでおり、ひと目でユーの体調がかなり悪いのが分かる。こんなに能力を同時に行使し続けるのは慣れていないせいか、皆の予想よりも早く限界になってしまったみたい。


「うん、分かった。昨日に戻ってやり直すよ。」


もしかしたらこのまま続けていたら勝てたかもしれない。でもやっぱり予想通り負けてしまっていたかもしれない。そんな可能性すら消え去り戦った事実も無かったことになる。


この能力は人間の考え方に悪影響を及ぼす類の能力だ。次があると心に余裕をもたらせてしまう。それが人間の心を踏みにじって腐らせる。


「…次は絶対に勝つ。絶対にこの選択が間違っていないって証明するから。」


みんなの目を見て僕は宣言する。必ず勝利を手に入れこの選択が間違っていないと……


「いや間違っているから待ってよ。」


バッと皆が声のした方向を振り返る。ここに居る誰の声でも無い。ましてやバグの声でもない。初めて聞くその声の持ち主は防寒対策で何枚もの服を着込んだ人間のような生き物だった。人間のような生き物と言ったのは服を着ているせいで全身を見れないからであって、そう表現するしかないからだ。


だが人とはまた違う…。間違いなく耀人ではない。ベルガー粒子がある。そして多分だが僕達のような人類とも違う。似ている生き物として比較対象に挙がるのは…バグだ。バグの発するベルガー粒子と良く似た色合いをしている。


「…誰?」


アネモネは手を構えていつでも能力を行使出来るようベルガー粒子を操作する。まだ能力の反動が残る状態でふらついていたが突然現れたその生き物に警戒しないわけにはいかない。


「えっと、ひーふーみー…うん、8人居るね。それじゃあ付いてきて。お茶でもご馳走するよ。」


アネモネの質問を無視し僕達の人数を数えだしたと思ったら手招きをして僕達を誘ってきた。何だコイツは…。


声からして相手は女だ。だが服のフードが邪魔で顔が見えない。だから人型バグの特徴である青色の瞳を視認して判別が出来ない…!


「ーーーフザケルナヨ」


バグが氷の塊を突然現れた女のすぐ真横に撃ち出し地面を抉る。だが女は驚いた様子もなくその場に立ち続けていた。


(…バグが反応した?)


「ふざけてなんかいないよ。じゃないとわざわざ東京になんか足を運ぶものか。」


(会話をしたっ!!?何者だアイツはっ!?)


あまりの衝撃的な展開に声が出ない。間違いなくあの女はバグの声を聞き取った。みんなにはバグの声は聞こえていないから突然女が喋りだしたように聞こえて理解不能な顔をしているが、僕はそれ以上に理解不能だ。


「ナラナゼキタ ナゼジャマヲシタ コレハオレノエモノダ」


「そこは仲間として私の顔を立ててよ。」


仲間、今仲間って言ったか?ならこの女はバグだ。だがフードから見える顔の下の部分は人そのものに見える。


「オマエハナカマトハチガウ キョウダイデハナイ」


「うん、確かにそうだけど姪じゃないか。少しは姪を可愛がってよ。」


女がケラケラと笑い人型バグを小馬鹿にしたような受け答えをする。…もう何が何だか分からない。コイツらは何なんだ?

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