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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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白煙の中で

ようやく敵の特徴を理解し始めたぞ。エネルギーの指向性を自身に向かわせる事で周囲の熱を奪うんだ。そうすると身体の構造を変えて結晶化する。逆に溜め込んだエネルギーを放出すると結晶体から粘土の高い液体状に変質し、更に身体を分散させ動かすことも出来て空中に浮遊も可能。これだけ制約の自由な身体…生き物として近いのは何だ?


アメーバとか単細胞生物に近いものを感じる。構造が単純な点を利用した不死に近い生物…。そんなのが能力を使い人間を遠くから探知して襲ってくるんだから異常だ。コイツはここで仕留めなければならない。僕の能力で完全に消滅させられるのは分かった。しかもああやって1つに固まってくれたのは追い風になっている。一回相手を射程に入れれば一瞬で片がつくからね。


「一瞬でいい…あの身体全体を射程に収めれば僕達の勝ちだ。」


みんなから闘気とも呼べるものが立ち上る。ベルガー粒子は激しく蠢きみんなの粒子が混ざり合う。まるで僕達が1つの個体となったみたいに。


「アインが射程に捉えるよう私達で抑える。やるよみんな!」


「「おう!」」


「うん!」


「やろう!」


「勝とう!」


「やってやる!」


アネモネの合図でみんながバグに向かって走り出した。足を出して踏み抜く度に冷気による痛みが全身を襲う。前髪の先端が凍りつく程の冷気に対してフェネットが最初に能力を行使した。彼女の周囲の温度は劇的に改善され真っ赤に燃え上がる炎の塊を作り出す。その炎はまるで自分達の姿を隠すように炎の壁に形を変えた。


「これで近付ける!」


「ナイスフェネット!」


フェネットの作り出した炎の壁はバグから発せられる冷気を緩和し身体の震えを軽減させた。


しかし敵は炎の壁で視界を塞がられようとも関係無しに僕達の位置を正確に補足していたのだ。そこを良く考えて行動するべきだったと後々に後悔することになる。


「えっ…?」


フェネットが訳も分からないといった声を漏らし吹き飛ばされた。


(これって…()?)


炎の壁から巨大な氷の塊が私の身体に衝突して真後ろへ吹き飛ばされる。これは最初に空から飛来してきたものと同じく正確な狙撃で、当てずっぽうな狙い方ではない。その証拠に私の横を並走していた仲間達も氷の塊で進路を阻害されてしまっている。


「ゴハッ…!」


バリアをしていても吹き飛ばされた際に地面へ叩きつけられた衝撃で肺に入っていた空気が抜けて呼吸が苦しくなる。氷の大きさは私の身長ぐらいあって避けようにも大きすぎて間に合わなかった。


しかもそのせいで能力の維持が出来なくなり炎の壁が消失する。つまり周囲の温度は急降下し生命の危機を感じる温度まで低下してしまった。


「チッ!」


だがアインだけは氷の塊が衝突しても行動を阻害されることはなくバグに対して右足による水平蹴りを放った。しかしその判断は結果として間違いであり、新たな情報を得るチャンスにも繋がった。


「なっ!?」


敵は分かっていたのだ。氷の攻撃ではアインを止められないことを。そしてアインが近付いてくるのを待ち構えていたのだ。バグは一気にアインの持つベルガー粒子に干渉し始める。


アインはまるで自分のベルガー粒子がバグに使われているような感覚に陥り距離を離そうとしたが、蹴りを放った足をがっしりと捕まれ振り解く事が出来ない。アインの足の周りには氷の枷が作り出され振り解こうとしてもバグの身体とくっついてしまっている。


なので地面に叩き付けるよう足を動かしても地面にへばりつくように身体の形状を変えたりして振り解く事が難しい。アインには炎を操ったりなどの能力は使えないので氷を消す手段が無いのだ。


しかもアインのベルガー粒子を利用して更に氷を強固なものへと変化させてくる。アインは人のベルガー粒子に干渉出来る事実にパニックを起こして冷静な判断が出来ずにいた。


「キサマハシラナイヨウダナ リヨウサセテモラウゾ」


相変わらずに頭の中に響くような声にアインは恐怖心を抱いた。このバグは自分達でも知らない知識を保有している。僕のベルガー粒子を利用するなんて…!!


「アインを離せやコラッ!!」


ディズィーが凄まじい速度で突進を仕掛けてバグの身体を粉砕する。それでアインも吹き飛ばされたが、氷の枷も破壊されてバグと距離を取ることに成功した。


「あ!わりい!」


「いや助かったよ…」


アインはショックで中々倒れた体勢から立ち上がれない。ベルガー粒子を少し奪われたせいで能力の規模が縮小してしまったからだ。脳が無事なら少量のベルガー粒子でも問題はない。だがベルガー粒子量は射程と効果範囲に関わってくるから非常にマズい状況に追い込まれてしまっている。


「アイン大丈夫!?」


みんなも吹き飛ばされてからやっと戻ってこれたようでアイン達に合流する。バグも砕けた身体が集合して再生を始めているので時間はあまり残されていない。


「バグが、僕のベルガー粒子を使って能力を行使した…。近付くと僕達のベルガー粒子を奪われる…!」


この事実は僕達に強い衝撃を与えた。もう話し合っている場合ではない。あの人類に対する深い殺意を宿した瞳がこちらを見ている。敵に近づき過ぎるとベルガー粒子を奪われる事を念頭に置いて立ち回るしかない。


「…距離を取って相手を削る。削って能力も使えないぐらいの破片から消していくしかない。」


僕はそう提案して立ち上がる。近付けば良いと考えていた思考は捨てる。この考えが混乱を僕達に持ちたらしているからだ。最初から敵を削っていって小さな方の分子から消滅させるのならこうはならなかった。


「…オッケー。なら先ずは私から仕掛けるからナーフは削っていって!」


アネモネは冷え切った空気を無理やり動かしてバグの周りにある気圧を変動させた。すると空気中に舞っていた塵などが結晶化した雪のような白い結晶がバグに向かって集まっていく。


「潰れなさい…!」


アネモネが両手で相手の首を握り潰すような動きに合わせてバグの身体に強烈な気圧が襲いかかる。


「コレハ…タイシタモノダ」


なんとバグは指一つ動かせなくなるがアネモネの目の血管は切れて次第に赤く染まり、鼻から流れてきた血は凝固して固まっていく。相当な負荷が掛かっているのは間違いない!


「早く…あまり保たないから…!」


話すのもキツそうな声が聞こえて僕達はすぐに動き始めた。


「アイツを地面に落とす!」


エピは白い息を吐き出し地面に手を当てた。ベルガー粒子を流し込み地面を柔らかくしてバグの足の部分を地中の中へ潜り込ませる。


「なら私がそれを固定するから!」


マイもエピの隣に座り込み地面へ手を押し当てる。そして地面とバグとの位置関係を固定しようとした。だがマイのベルガー粒子がバグに触れた瞬間に自分の手から離れていく感覚を覚えて慌てて手を離す。


「ベルガー粒子単体でも持っていかれるの!?どんな生き物なのよコイツっ!?」


遠距離からの干渉すらこのバグはベルガー粒子を吸収するかのように奪ってくる。これではアネモネが干渉している空気すらも奪ってくるのも時間の問題だ。アネモネはベルガー粒子で空気を操っているがバグに触れている空気やその層には何もしていない。バグから1メートル離れている空気を圧縮させて干渉していない空気を360度から押し固めているのだ。


「じゃあ私のサイコキネシスは駄目だね…。」


サイコキネシスはベルガー粒子そのものを対象に干渉させる能力。今のユーには何もできず皆に張っているバリアを維持するしかない。


「なら私がユーの分だけ働けばいいだけじゃん…!」


ユーの両手の中に凄まじい熱量を放つ光の塊が作り出されバグに放たれる。バグの身体にイオンビームが触れると氷が溶けるように融解しイオンビームが貫通した。そしてフェネットは炎をバグの周りを包囲するように作り出し炎の渦を形成する。


この炎の渦はアネモネの操る範囲と同じでバグに直接は干渉していない。干渉しているのは熱だけでバグの身体を徐々に溶かしていく。


「ユー…とびっきりのバリアを俺に張ってくれ。突っ込んでブチ壊してくる。」


ディズィーはユーにバリアを強化するように言った。勝機と感じディズィーは仕掛けようとしている。それにユーは反対した。


「それだと近付いた時にベルガー粒子を奪われる。」


「俺がそんな時間を与えると思うか?アインも頼む。俺の軌道を固定して走らせてくれ。」


「…うん、分かった。」


ユーとアインのベルガー粒子を纏ったディズィーがクラウンチングスタートのような体勢を取る。


「ふぅ、ふぅ、フゥー…。良し、行くぜ。」


様々な強化を施されたディズィーが全身の筋肉を膨張させ、神経を集中させた。そして彼の異形能力者として真価が発揮される。

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