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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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トウキョウのもう一つの顔

僕達は静かに地中の中を移動し様々な建物の中を探索した。その間に襲撃を食らうことは無かったけど、それが逆に不安を駆り立てる。僕はそっちの方に意識が向きすぎていて探索に集中出来ずにいた。


それに探索しても目的となる代物を見つけられなかったというのも大きい。そのせいで探索していても見つからないだろうと諦めてしまっている自分が居たのは否定出来ない。


千年という時間を僕達は甘く見積もっていた。千年もあれば建物は老朽化し、塵や埃、雨水が建物の中に蓄積される。僕達の欲している通信機は金属の塊。千年もあれば手入れのされていない金属はたちまちに腐食してしまう。建物の中にあった金属は全て錆びているか腐食していて使い物にはならなかった。


「多分だけどトウキョウ全てにある建物を探索しても私達の求める物は無いと思う。この辺で撤収したいと思うんだけどどう?」


アネモネはトウキョウには目的の物はここには無いと良い撤収を進言した。それに関しては誰も反論はせず僕達は建物の外へと向かった。その間は無言で何も結果を出せなかった事に対して憤りを感じている者も少なくない。


(撤収してもまたアマツへ戻ってどうするんだ?)


根本的原因はまるで改善されていない。本当に無いのか?どこかそういう対策が行なわれていた施設とか無いものだろうか。


「…みんな先に戻っていてくれる?ゲートまで送るからさ。」


言ってから「あ、ヤバい。これ怒られる。」ってことに気付いた。こんなことを言うから駄目なんだろうな僕は。


「ふっ!」


アネモネから鋭い蹴りがお尻にクリーンヒットし立てなくなる。蹴りの感触から手加減抜きの一発だってことが伝わってきた。


「痛い!」


「これで立てなくなったね。ディズィー、バカを運んでくれる?」


「あいよ。」


立つことが出来なくなった状態の僕をディズィーが脇に挟んで崩落寸前の階段を降りていく。僕の周りにある空間は固定されているから僕達が足を掛けても崩れることはない。だけどこうして誰かに運んでもらうと非常に恐怖を感じる。何故だろうか。


「次言ったら脊椎折るから。」


「…ごめん。」


こう言われたら返しようが無い。トウキョウの探索は諦めるしか無さそうだ。


「…なんか風が結構吹いているのか音がするな。」


ディズィーの優れた聴覚が建物の外の様子を聴き取った。無風とまではいかなくてもこの建物に入る前は特に風は吹いていなかったと思う。地中を移動中はたまに呼吸をするために地面から顔を出していたから分かるけど天候も悪くはなかった。


突然風が吹き出し始めたのならさっさと撤退しよう。突風なんかで崩壊してしまいそうな建物からはね。


だが出口に行く前に僕達は異変に気付いた。壁が崩壊し階段部が露出した階へ降りた時に真っ白に染まった階段を目にし、僕達は外の様子をやっと理解したのだ。


「…凍っているのかこれ?」


階段が白くなっている理由が凍っているからだと気付けたのは間違いなくゲートを通って一番最初の襲撃。あの大きな氷の塊が飛来してきた時を思い出し、それから連想したから気付けた。だがこんな一瞬で凍りつくとは予想もしていなかったし想定もしていなかった。


「待ってみんな…外を見てみて。」


マイが崩壊した壁の外を指差してみんなに注目させる。階段に目が行っていたが階段どころの騒ぎではなかった。視界に映る全ての光景が氷に凍てつくされていてトウキョウが凍土に成り代わっていた。


これは誇張でもなんでもない。見渡す限り全てが白く凍り付いていたのだ。この建物の中に入ったのは1時間前のことでその時は温暖な気候で特に異変は無かった。この現象に気付けなかったのは自分達の居る空間には氷が張っていないからだ。


「僕のコントロール化に入っている空間は能力による事象は受けない。だから気付かなかったんだ。とっくに外は凍てついていたのに僕の周りでは温度の変化を感じ取れなかったから…」


氷の塊を固定した時も冷気を感じなかった。冷気そのものが能力による干渉だからそれを排除してしまうと僕の周りでは変化が起きないんだ。やられた…敵はとっくに僕達を補足して始末しに来ている。


どうりでこの辺りには生き物が居ないはずだ。こんな超低温になればどんな生き物も住めない土地になってしまう。よくカイコガは生き残っていたな。もしかしたらあのフワフワな毛のおかげで平気なのか?それともカイコガは転移能力を使えるから危険な温度だと感じるとテレポートして避難しているとか?


いくら考えても正解は分からないけど、トウキョウに生き物が居ないのはこの気温の変化による死滅を経験しているからだろう。この土地は根本的に生き物が成長できる環境が崩壊しているんだ。


「ねえ、みんなって生き物は寒いと死ぬのは理解している?」


アネモネの質問は当然の事だった。僕達は生まれて一度も寒さで死にかけたことはない。ネストスロークでの訓練で寒い環境の中を過ごしたことがあるけど、あれは寒さを知るためであって、寒さの中で生き残る為の訓練とは言いにくいものだった。だから僕達1人ひとりが温度が低いと死ぬっていう事実をちゃんと理解しているかを確認するための質問だと僕は受け取った。


「理解しているけどどうなるかなんて覚えていないよ。私の能力ってパイロキネシスだし。」


フェネットはパイロキネシスを操れるから周囲の温度を上げられる。だから寒いということに危機感を覚えていない。…マズいかもしれないな。


「おいフェネット。冷気を甘く見るなよ死ぬぞ。」


エピがフェネットに忠告した。どうやら冷気がどのようなものなのか良く理解しているらしい。正直な話をすると氷すらマトモに見たことが無いから「寒いと凍死する」っていうことしか知らない。


「マイの能力って分子の位置やお互いの距離を固定してその場に滞留させるだろう?それはみんな分かるよな?」


エピは分かりやすいようマイの能力を例に出して教えてくれる。


「凍るって事は分子間の動きが鈍くなって凝固するんだよ。液体だった水は固体へと変化して白い氷になる。俺達の身体の殆どは水だ。見てみろよ周りを。凍っているだろう?俺達の身体が凍るって意味だぞ?」


うんこれは凄く分かりやすい。こうやって動いている僕達が凍ってしまうと分子が凍結して固定されてしまうってことだよね?


「しかもこんなに凍っているのなら空気はすっげー乾燥するんだよ。気体だった水分が凝固するからな。この氷を触れてみろ。手の水分が飛ぶからな。」


エピは素手で氷を触るなと最後に忠告し話を終えた。なるほどあまりに寒いものに触れると身体の水分が飛んでしまうのか。それってあれだよね、僕の周りはまだ乾燥しきっていないけど外に出れば乾燥した空気を吸うことになる。つまり身体の水分量を維持するのが難しくなるって認識で良いのかな。


「なんて生きづらい環境なの。これって自然的な事象じゃなくてバグによる攻撃と見ていいんでしょ?」


「ナーフの言うとおり敵の攻撃でしょうね。しかもあの人型バグレベルのとんでもないバグによる攻撃。射程なんてトウキョウ全てをカバーしているんじゃない?」


アネモネの推測が本当ならとんでもない射程を持ったバグだ。トウキョウの具体的な広さは知らないけど数十kmはあるんじゃないかな。


「みんなやけに落ち着いているけどヤベーから今!どうするんだよ!俺バカだから何も思い付かね〜!これどうしようもねえよな!?」


確かにディズィーは頭が良いかと言われれば違うと僕は答えるけど、だからといって事の本質を見抜けないかと言われるとそれは違うと答える。ディズィーはバカだからこそ余計な情報に流されない。


ディズィーの言うとおりどうしようも無いんだよ。こんな能力に対して対抗する術がない。僕の射程だってたかが知れている。フェネットのパイロキネシスも同じだ。対抗出来る限界はある。


それに落ち着いているのはそう見えているだけで視線がみんな泳いでいる。冷静に判断しないと死ぬって分かっているからだ。


「今回の場合は撤収出来れば僕達の勝ちだ。あのゲートまで行けばどんな能力であろうと干渉出来ない。あそこまで行ければ大丈夫だから落ち着いて逃げよう。」


そう言って僕達は階段を降りて地面へ向かおうとした。だがそこでアクシデントが起きる。僕の能力による干渉と現環境の事象が複雑に絡んでしまったのだ。


もう辺りは凍り付いて温度が急降下し非常に寒くなっている。これは能力による干渉が原因でこの影響を僕の周りだけは受けなかった。だが僕達の進む階段はとっくに凍り付いて能力による干渉が終わった後なのだ。


例え僕の創り出した空間の効果範囲に入ろうと凍り付いた階段は変わらずに冷気を放っている。つまり僕達は温暖な気候での活動を想定した服装だから尋常ではない冷気を階段から感じてしまうことになる。


「…戻って戻って!!凍死する!!」


僕は慌ててみんなを元いた場所まで引き帰らせた。これは別に寒さに慣れていない僕のオーバーリアクションではない。生命の危機を感じる寒さだったからだ。絶対に耐えられないぞこの温度は。燃え盛る火に向かって進む時と似た危機感を覚えた。


この時の僕達は知らなかったけど、現在のトウキョウの温度は−60℃以下。とてもではないが人間が耐えられる寒さではない。こんな寒い環境で行動すれば水の塊である僕達はたちまちに凍えてしまう。特に殆どが水で構成された脳は致命的だ。脳が凍れば能力が使えないどころか死んでしまう。


僕達は知らず知らずのうちにこの氷で覆われたトウキョウに閉じ込められていたのだった。

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