戻らぬ地
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トウキョウ…この島国にかつては栄えていた都で最も遺跡が残っている地の一つである。シルバーが持っていた手記の情報とミカエラから道中に聞いていた情報を組み合わけて考えると可能性が高いのはここしかない。
「アイン様!それは危険です!トウキョウへと繋がるゲートは存在しますが誰も使いません!一度通れば帰れないと言い伝えられているのですよ!?」
トウキョウの遺跡には耀人が欲しい情報と技術が遺されていると云われているので、昔はそれを求めてゲートを使用する者達が居たが、誰一人として戻ってくることは無かった。
「それっておかしくない?耀人はバグに襲われないんだよね?」
「それは分かりかねます…。戻ってきた者は1人としておりませんので。」
「オサ、のハハのハハ、イッテダメ、イッテタ。」
ミカエラとミミは変わらず反対している。バグに襲われない耀人ですらトウキョウは危険だと言っているんだから相当な場所なんだろうな。
「本当にそんな危険な場所へ行くつもりなのアインは?」
「なんでトウキョウなの?」
トウキョウである理由か…
「一番可能性が高いからかな。耀人の暮らしぶりを見ても機械なんて代物無かったし、人が介入しづらい環境のほうが機械が完全な状態で残っている可能性が高い。それだけだよ。でも、それしか無いと思っている。」
可能性が高いというよりそれしか可能性がないって言うのが正しいか。もうそこに賭けるしかない。ここに居てもバグを引き寄せるだけだ。
「危険な場所へ向かい、直るかもあるかも分からない通信機を使いネストスロークと連絡を取ってどうなるの?」
アネモネの問いはここに居るみんなを代表しての問いだ。希望が無いと分かっているネストスロークと連絡を取ってどうするかだ。
「…僕は戻る。僕のベルガー粒子はみんなの中で一番多いから僕の存在はみんなにとっても危険なものだから。僕はバグの居ない宇宙へ戻るよ。もし僕と戻ってくれるのなら僕がネストスロークの為に能力を使ってネストスロークを存続させる。でもここに残りたかったら残っていいと思う。」
言っていながら体調が悪くなる。だってみんなと離れるって言っているものだから。頭がズシッと重くなったみたいな頭痛がしてきた…。
「そんなのおかしい!アインのやりたいこと何も言っていないよね!?そうだよねみんな!?」
フェネットは皆の顔を見回しておかしいと言うが、これ以外やれることが無い。耀人の所で平穏に過ごせればとも考えたけどこのベルガー粒子が邪魔になる。
「というより私達の意志とか無視なのアイン。」
「いやナーフ、だから希望には沿うよ。みんなが残りたかったら残っていていい。僕だけでもトウキョウへ行くつもりだし。地球に残っていてもいい。」
僕の能力ならある程度のバグ相手でも対応出来る。1人のほうが見つかりづらいし別にバグと戦いに行くわけじゃない。それらしい機材を回収しに行くだけだ。
「おいコイツ何も分かっていないぞ。みんなも言ってやれよ。勝手に決めんなって。」
分かっていない?みんなの意思を尊重し、自分のやり方をみんなに押し付けたりするつもりはないのに、なんでそんな言われ方をされなければならないんだ。
僕は少しだけディズィーに対して苛つきを覚える。
「ディズィーの言うとおり。勝手に決めて勝手に宣言しているけど、なんで決定事項として話しているの。こういう時はいつも話し合いで決めるって約束でしょ。」
ユーまで…もう話し合いをしてる暇なんて無い。こうしている間にもバグに見つかる可能性だってある。わざわざ僕達を見つけ出して殺そうとするバグなんてあの人型バグみたいに人間に対して殺意を抱いている個体だ。また戦いになれば今度こそ全滅するかもしれない。
「アインは怖いんだよ。私達が死ぬのが。そうでしょ?」
アネモネにはいつも見透かされるな。…そうだよ。みんなが死ぬのが嫌だ。そうしないように手を尽くそうとしている。
「言っておくけどアインが私達にそう思うように私達もアインには死んでほしくないって思っている。その気持ちを無視して勝手に決めつけているのがムカついているんだよみんなは。」
みんなが…?皆の顔を見ていくと怒っているのが分かる。しかもこれかなり怒っているんだけど、そこまで怒られるようなことかな?
「自己犠牲なんて求めていないのに押し付けないでよ。頼んでいないのにそれが最も良い方法みたいに言ってさ、だったらその選択が正しいのなら私が1人でトウキョウへ行く。ミカエラ案内して。」
「え、は?ちょっとアネモネ!」
いきなりのことだった。いつも論理的な彼女とは思えない行動に意表を突かれてしまった。静止しても無視してアネモネはミカエラの手を取ってゲートのある建物へ向かって行ってしまう。
「…なら私もトウキョウへ行こうっと。この選択が正しいんだもんねアイン?」
「フェネット!?なんで君までっ!?」
次はフェネットまでもトウキョウへ行くと良いアネモネと一緒に行ってしまった。どうしてこんな流れになったんだ?女の子の考えることは分からないよ…
「私達も行く?」
「まあそれしか無いでしょ。私達全員ベルガー粒子あるんだし出ていくしか無いけど、はあ〜獣耳と尻尾とお別れか…。」
「いや、耀人の為にもあんたはここから離れた方が良いと私は思うわよ?」
ユーとナーフとマイまで…女性陣は勝手に全員行ってしまった。ミミもアネモネに捕まって行ってしまったし残っているのはディズィーとエピと僕の男性陣だけだ。
「…言ったろ?勝手に決めんなって。見ろよみんな勝手に決めて行動し始めた。お前がやろうとしたことはこんな感じだからな。」
「特に女子連中はこう決めたら曲げねえからな。後でフォローしておけよ。」
ディズィーとエピに背中をバシッて叩かれたと思ったら2人も僕を置いて行ってしまった。…なんでこうなった?トウキョウへ行きたがってなさそうな雰囲気じゃなかったの?
「ま、待ってよみんな!」
もうどうとでもなれと思い込む事で僕はどうにかみんなの背中を追い掛ける事が出来た。みんなが決めたのならもう何も言わない。だから置いていくのだけは止めて!
それから僕達はアマツに戻りミカエラとミミの助けを借りて食料や色々な物資を分けてもらい、翌日の朝にはもうトウキョウへと向かうことになった。善は急げだ。
「本当にお世話になりました。ろくにお礼も言えずに旅立つ事になりましたが、この恩は忘れません。」
「皆様が故郷へと帰れるよう尽力致しますは我らが悲願、なのでお気になさらず。いつでも皆様のご帰還を願っておりますので是非もう一度寄ってくださいませ。盛大に皆様を持て成す準備をしてお待ちしております!」
ミカエラはそう言って頭を下げて見送ってくれた。ここでは頭を下げて挨拶をする文化があって、相手に礼を尽くす場合などに使用される。…もっと彼女達の暮らしぶりや文化を知りたかった。
「ま、マチマス!」
「マチ、マチマ…ス…?」
「ーーーー。」
ミミ達キョウダイまで駆け付けてくれた。彼女達には本当にお世話になった。もっとネストスロークの話をしてあげたかったしアマツの話を聞きたかった。もし通信機を手に入れて余裕があればそれでコンタクトを取れたら良いな。
「ありがとうございます皆さん。」
ミミ達の顔を見ればとても心配そうなのが伝わってくる。トウキョウへ行くのだから仕方ないとしても、たった数日でここまで仲良くなれたのは彼女達の人間性が良かったからだろう。
「出来れば多くの者で見送りをしたかったのですが、皆様が必要無いとのことだったので私達のみですみません。ですが我々耀人は皆様の無事を毎日祈って待ち続けます。」
プレッシャーが最初っから最後まで凄いな。ミカエラの期待にも応えないか…
「うん。故郷へ帰る前には一度顔を見せに来るよ。」
心配させないよう出来るだけ笑顔でそう伝えるとミカエラの様子が変わっていく。…なんか頬が赤いような?
「…アイン様。一つ話しておきたい事があります。」
「はいなんでしょう?」
なんだろう改まって。何か重要な事柄だろうか?
「あの…もし宜しければなのですが…うちのムコに来ませんか?」
ムコ?ムコってなんだ?僕やディズィー、エピは分かっていないけど女性陣は察しがついていそうだった。なんか良くない空気だぞ?
「えっと、まあ…一度は(こちらに)来ますけど?」
「本当ですか!?リョウシンに話をしておきますのでその時になったら末永くお願いします!」
良く分からないまま答えてしまったけど、これって多分了承してはいけないやつだ。僕には分かる。だって後ろに居るアネモネから殺気を感じるから。
「行こうアイン。急がないと危ないから。」
「え、アネモネ!力つよ!ちょっと!」
アネモネに肩を捕まれ引きづられるようにトウキョウへ繫がるゲートへ入っていく。ちょっと能力を行使する準備ぐらいさせてほしいよ!
「アネモネ妬いた?」
フェネットはニヤニヤしながらアネモネに耳打ちをする。ユーやナーフも似たような表情だ。アネモネは出来るだけ視界に入れないようズカズカと進んでいく。
「…違う。」
赤い髪をなびかせてアインを引っ張るアネモネの頬はまるで自身の髪のような色付きをしていた。それをフェネットは目ざとく見つけるが、そのことは特に触れずに後ろを振り返りミカエラ達に手を振ってからゲートを通っていく。
「いつでも待っています!ですので必ず帰ってきてください!ここは皆様の故郷でもありますので!」
ミカエラ達に別れを告げたアイン達はゲートを通り抜け未開の地を進んでいく。遥か昔は世界でも有数な開拓が進んでいた大都市トウキョウへと。




