親子喧嘩
上手く区切れなかったので、2話投稿しようと思ったのですが1話に纏めました。なので内容が長いです。
今月で3度目となる任務を終えた私はシャワーを浴びる為にマンションに帰宅した。
「あ〜シャワー浴びる前にピアス取らないと化膿しちゃう…めんどっ。」
初任務を終えてから1ヶ月が経ち、梅雨の影響で湿気が強くなってきたこの季節。シャワーを浴びてからあの家に向かうのが当たり前となり、雨と血で濡れた髪を綺麗にしないと気が済まない程度には人間のメスらしくなってしまった。
シャーーと熱いシャワーが火照った身体に染み渡る〜〜♪あ〜〜気持ちいい〜♡仕事終わりのシャワーが最高すぎて癖になりそう。
シャワーを浴び終えた私は浴室から出て高級過ぎて逆に肌触りが良く感じないバスタオルで身体を拭き、それからプロテインを飲んでタンパク質を補給する。これぞ私の黄金ムーヴ!
このマンションは組織が用意してくれた私個人の部屋で家賃は組織が面倒見てくれている。対応がホワイトなのはいつもの事だけど直ぐに用意してくれたのは流石にビックリするよね。
マンションを用意してもらった経緯は和裁士さん達に作ってもらった服が多くなり過ぎてコインロッカーに入り切らない自体に陥って、その事を雪さんに相談したら翌日にはマンションの鍵を渡された。
このマンションは下部組織の管理に置かれている建物で申請すればすぐに入居が可能だとか。本当に驚かされるぐらいにデカい組織だよね…
その事を強く思った出来事がある。【探求】でビル全体を見た時に能力者を探していたら毎日最低でも10人は居ることが分かった。それからビル内部に私の視界でも認識出来ない領域があったのは予想外だった。
特に認識が出来ない領域は1番奥にあるエレベーターで内部の構造が視えないのだ。
その事実がどうしても気になって雪さんに普段は使用していないエレベーターの事を聞いた時は本当に驚いた。
「良し、着替えたら行こう。」
学校の制服に着替えてから気付いたけど今日普通に放課後に仕事の予定を組まれていたのは納得いかない。初任務は1日貰えたのに4度目になると数時間で対象を処理しろとか結構無理言ってるよな。
(まあ報酬はその分デカいから良いんだけどね。でも失敗のリスクとストレスがなあー。)
仕事の愚痴をこぼせる程にはこの生活にも慣れて、それなりに自立して生きていけるという自覚が芽生えた。だけど世間から見たら私は15歳のガキンチョだから完全に親元を離れて暮らす事は難しい。それとなく父に一人暮らししたい事を匂わせたら反対された。ファック!
だからあの家に行かないと行けない。親の許可が無いと一人暮らしは厳しい。組織のゴリ押しでやろうと思えば出来るらしいのだけど悪目立ちするからという理由で雪さんから反対された。
私の存在は出来るだけ秘密にしたいから表立って動き過ぎると敵対勢力に目をつけられる可能性が高くなるからだって。雪さんは過保護すぎる傾向があって困る。
スマートウォッチを見たらもう23時を過ぎてる。やっべ早く家に行かんと雷が落ちる。早く帰るために玄関ではないドアの前に立つ。
この部屋には特別なドアがある。このドアは部屋の奥にあり特別な電子鍵がかかっていて組織に所属している者以外が使用する事が出来なくなっている。
いやドアを開けようと思えば無理やり開けられるだろうけど開けた先は壁しかない。しかし私はこのドアを通って家に向かう為にスマートウォッチを操作する。指紋認識を行ない本人確認をしてからソプリを開きある機能を使用する。
[“あいの風”確認しました。目的地は履歴から参照しますか?]
あいの風は私のコードネームだ。私は結構カッコイイ感じのコードネームを期待していたから可愛い系の部類に入るこのコードネームは少し慣れない。
履歴から私の最寄り駅近くにあるマンションを選択する。そうするとガチャッと電子錠が外れる音が鳴る。ドアを開けると廊下が続いてる。因みに言うとマンションの構造上この先に廊下はない。
ドアを抜けると自動的に閉められ通れないように電子錠がロックされる。廊下を進んで曲がった先には自動ドアがあるのでそこを通ると道路に出れる。私が居たマンションの部屋は5階にあるのでかなり無理がある構造だ。
もう分かると思うが私はワープしたのだ。組織が保有している建物には私でも認識出来ないパスが繋がっておりそこを通る事でワープが出来る。最初は本当に目が飛び出るほどビックリして雪さんに笑われた。
このワープを利用出来るのは能力者と一部の無能力者だけで、能力者はこのパス間を良く通って移動すると教えられた。どおりで街中に張り巡らせた私のマッピングに今まで能力者が引っ掛からなかった訳だ。
このワープは瞬間的に移動出来るが距離があるほどラグがあるらしい。地球の反対側に行くと1分ぐらいのラグが発生する。私のマンションとここのマンションの間では1秒ぐらいだ。
このマンションから家までは10分ぐらいかかるので雪さんからは目立つ行動は気を付けて!と言われたけど仕方ない!建物の上を走って行こう!
最早帰宅路になっている建物の屋上を伝っていく。ここなら人の目をあまり気にしないで済むし私のマッピング内だから人の位置も把握出来ている。
普通に歩いていたら10分かかる所を2分ぐらいで到着する。セーフ!
ガチャとドアノブを捻って開くとギーッと音を立てて玄関の中を響く。
すかさずに部屋まで行こうとするがリビングから父が出てきて捕まってしまった。
「話があるから来なさい。」
「遅くなるって連絡したし話なら明日聞くよ。明日から土日だし。」
「いいから来なさい。」
こういう時の父はガスコンロの油汚れ並に頑固だ。早く掃除をしてほしい。
父に連れられて和室に入る。ここはお母さんの仏壇が飾られて大事な話をする際によく利用される。私の性質を良く理解している。ここでは嘘がつき辛い。
お互いテーブルの対面に座り、久しぶりのガチ親子喧嘩が始まろうとしていた。
「最近こんな夜遅くまで何をしているんだ。」
「バイトだけど?」
雪さん達を真似てとぼけた表情をする。しかしこれが父の逆鱗に触れた。
ガンッ!…テーブルに拳を叩きつける事によって家全体の空気が悪くなる。あの人達にも聞こえたのかこちらを気にしている事が能力で視認出来た。
「本当にバイトだけど何?私ぐらいの子ならバイトするの普通じゃない?」
「高校生のバイトは10時までだろ。何故帰宅する時間が23時を過ぎるんだ!」
「うるさいなあ…バイトの先輩達と喋ったりご飯食べてから帰るから遅くなるの。」
「ご飯ならいつも用意しているだろ!」
マジでこいつ頭湧いてるのか?それともワザと言っているの?
「なんで私がここでご飯食べないといけないの?」
「…」
流石に父も自分の失言に気付いたのだろう。私がそもそもあの人のご飯をあまり食べないのは分かっているはずなのに。
「はあ…その事は分かった。でもそれとは別に聞きたいことがある。ここ最近は風呂に入ってから帰宅しているみたいだが?」
私の髪を見ながら指摘してくる。面倒くさ!年頃の父親面倒くさ!
「それに急にピアスを開けたりアクセサリーを身に着けたりなんのつもりだ。」
じょ、女子高生の娘がオシャレしたらなんのつもりだってなんだよ!?お前の娘がオシャレに目覚めたらなにか問題があるのかよ!?
「年頃の女の子がオシャレを気にしたら何か貴方に不都合があるんですか!?泣くよ!?」
中々にヒートアップしてきた。お互いにヴァイブスが上がってきた事もあって強い言葉を使い始めた。
「限度があるだろう!担任からも電話で聞かされたぞ。学校でもピアスを付けて登校してくるってな!」
「もう付けてないよ!今も付けてないでしょ?」
自分の耳を見せつけるが父にとっては私の態度が気に食わないらしくてギアが更に上がる。
「先生にも同じ態度を取っているんだろ!!先生はお前の将来を心配してくださっているんだぞ!」
頼んだつもりがないって言ったら再びテーブルが殴られて可哀想だからぐっと堪える。
「将来なら心配しなくていいよ。高校卒業したら家出るしアルバイトから正社員にしてもらえるから。」
「そこだ!一体なんのアルバイトしているんだ!お前がそんな風になったのはバイトの影響だろ!」
遂に問い詰められてしまったか…一応言い訳は組織から用意してもらってる。そういう事が得意な下部組織があるのでアリバイは出来ているけど…言いたくない。
「バイト仲間の影響はあるけど無理やりしている訳じゃないし私個人では今の自分の姿は気に入ってるから。」
「はあ…お前が良くても周りが気にするんだ。」
髪先を弄りながらテーブルに反射した照明を見る。だるすぎて眠くなってきた。今日の能力者は簡単に処理出来たけど流石に脳が疲れてきた。
「周りって誰?世間体ってやつ?だったら家出るよ。家賃とかも自分で稼ぐし迷惑かけ…」
ドオンッ!…今日1番の台バンが響いてビクッとしてしまう。
「俺が心配しているんだ!」
この一言にカチンと来てしまった。
「今まで放置してきたくせに急に父親面してきてんじゃん。何かのドラマの影響?止めてくれないそういうの、ウザいよ。」
「…」
「ダンマリする癖に付き合うのも懲り懲りだからもう家出るよ。書類こっちで用意するからサインしてくれればいいから。」
「あまり世間を舐めるんじゃない。高校生のアルバイトで一人暮らしできる訳無いだろう!それとも…やっぱり如何わしいバイトに手を出しているんじゃないだろうな!」
「はあ〜〜〜〜!?」
もしかしてコイツ私が身体売ってると思っていたのっ!?ふざけるなよ気持ち悪い!お前にそんな想像されていたなんて考えただけで脳が腐りそう!
「してる訳ないでしょ!殺すぞ!」
左手に力が入りそう…!衝動的に殺すことが出来ればどんなによかったか。
「だったらどんなバイトか言ってみなさい。」
…クッソっ!もう使うしかないかあの手を。出来れば使いたくなかったのに…!マジで恥ずい!私のキャラじゃないのに!
「私がどんなバイトしてるか教えたらこの話終わらせていいよね…」
スマホを取り出してライブラリを開き黒歴史のアルバムを表示してテーブルの上に置く。そして父が私のスマホを覗いて目を見開く。
「こ、これは?」
そこにはバッチバチに決めてモデルのようなポーズを取った私が写り込んでいた。…死にたい!
「私のバイトってモデルなの。化粧もするからシャワーを浴びるし撮影すれば夜遅くまでかかったりするの。」
私の話を聞きながら父がスマホを横にスライドして私の黒歴史がががががが…それ以上見るなや!
「私が着てる服やピアスなんかも仕事で貰えたやつだからお金かかってないし給料も普通のバイトより良いんだよ。」
スライドした画像には雪さんや和裁士さんが私をメイクさせたりしている画像が表示される。このときの為に普段から私を着せかえ人形していた雪さんたちの写真を送ってもらっていたのだ。
「職場は女性ばっかりだし女性には女性なりのコミュニケーションがあるの。ご飯行くのも仕事の一部なの。」
そして最後にアニメのコスプレをした雪さんと私のツーショットが表示された。私も雪さんも凄く楽しそうにポーズを取っている。恥ずかしい!
「う、うちは!こういうコスプレ衣装も着るから恥ずかしくて言えなかったの!もう良いでしょ!?」
父からスマホを奪ってからポケットにしまって顔を下げる。絶対に顔が赤いよ…恥ずい恥ずい!
「そうか…知らなかったよ。こういうのに興味があったなんて。」
「…言える訳ないでしょ。自分から私は可愛いって言うもんじゃん。」
父は腕組みして考える姿勢をとる。1分か2分経ったぐらいに父が口を開く。
「…話は分かった。やるからには真面目に取り組みなさい。」
「いいの?反対されると思った。」
「あんなに楽しそうな姿を見せられたら反対出来ん。」
クッソ!ノリノリでコスプレしたあの時の自分を殴りたい…!
「この事は誰にも言わないで。誰にも迷惑かけたくないし…特にあの人には言わないで。」
「…分かった。但し条件がある。」
「なに?コスプレして欲しいの?」
茶化すように挑発したら予想外の返しを食らう。
「家を出るのは無しだ。高校生のうちは許可を出さないしちゃんと卒業することを条件にする。その後は好きにしなさい。」
父はそう言って先に部屋を出て行った。一人取り残された私はお母さんの仏壇を見ながら途方に暮れて…
「…父親面なんかして、カッコつけ過ぎ。」
こんな時にどういう顔をしたらいいのか分からなかった。
いつも読んでくださりありがとうございます!




