遥か彼方に分かれた同胞 ②
未知への遭遇って良いよね
人でも無ければバグでも無い。そんな生き物が地球に居た。ネストスロークでも知られておらず、現地で任務中のシルバー達も知らない生物と僕達は遭遇したが、向こうからしたら第一印象は最悪と言っていいだろう。なにしろアネモネが捕まっていた木こど吹き飛ばしたから…。
「…殺すの?私嫌だよアネモネ。」
「フェネット…でもこのままというわけにはいかないでしょう。」
フェネットがアネモネを止めようと腕を掴んでいるが、アネモネ本人にも判断がついていなさそうだ。これを殺すのは間違っている気がする。
「人と似すぎているけど、やっぱりちょっと違うよね。」
肌の色は日で焼けているせいか3人とも褐色で見たことのない服を着ている。先輩達が作っていたような服の材質に似ているが…
「私は無理。彼女達を殺すのは反対反対!」
「うん、あんなに可愛い生き物と戦うこと自体無理。」
「これ意見分かれる時点で戦闘は無いだろう。俺は戦わん。…見ろよ怯えてる。」
ユー達も戦うのは否定派で、怯えてる3人に同情心を抱いている。…多分だけどこの3人のうち2人は女で1人は男。胸の大きさと顔で判断した結果で本当にそうかは分からない。
「…なあアネモネ。あれってさ、俺の考える限り…生き残りだと思うんだけどどうかな?」
「エピ…何よ生き残りって。先輩たちには耳も尻尾もなかったでしょう?」
いや先輩たちにも耳はあるよ。ああいう獣みたいな耳は生えていないけど。それにエピの言いたい事はマイの考えているものとは違う。彼女達は…
「私達人類が宇宙へ逃げ出し、そこで生活し始めた時には地球に残っていた人類は絶滅したと考えられていた。でも…真実はどうやら違ったみたいね。」
アネモネの説明で皆が理解した。彼女達は地球に取り残された人類の末裔であると。千年以上も違う環境下で育った人類の間に変化という差が生じてもおかしくはない。
「というとあれか?人ってことで良いんだよな?俺の認識当たってる?」
「当たってるよディズィー。ベルガー粒子が無いのが気になるけど敵では無いし、元は僕達と同じ人類で間違いない。」
人類と思しき3人は僕達の声に反応して耳がピクピクと動かしている。こっちの言葉が通じるか、それともそもそも言語を使ってコミュニケーションをするのか分からない。言語を使って会話するのなら話し合いでこの場を収められる筈だ。
「あ〜〜えっと、はじめまして…」
僕は出来るだけ怖がらせないようにとゆっくり3人のもとに歩いて近付いた。
「シャァーー!!」
「あ、可愛い…」
威嚇をされてしまったからにはこれ以上は進めないので足を止める。…威嚇をするって事は僕達を怖がっている証拠、怖くないなら威嚇なんてしない。…ここは僕たちには敵意が無いっていうことを伝えるしかないか。
あとナーフ、相手のことを可愛いって言わないでくれ。さっきから彼女達にほだされていないか?
「大丈夫、大丈夫だよ。僕達は人間です…これ、通じてる?」
「シャァーー!!」
「本当可愛い。」
うるさいナーフ、集中出来ない。
「これ通じていない…?どう思うみんな?」
「ん〜〜聞いているけど聞く気が…「ヤバいヤバい可愛いよ。」
「「うるさい!!」」
ナーフは今回に関しては駄目だ…戦力にならない。ユーが引きずって向こうへ連れて行く。…ありがとうねユー。
「…聞こえているけど聞く気がないんじゃないか?あの状態って昔のユーとかと同じだと思う。」
「あーヒスったユーは人の話聞けないからね〜。」
「怒ったマイも聞けないけどな。」
「あ?」
「なんでもありません。」
落ち着いてもらうためには時間が必要かな。でもそのうち逃げ出したりしても困るしな…。
「敢えて逃して尾行する?多分他にも居ると思うけど。」
「アネモネ…ちょっと怖いよ。」
淡々と言うアネモネにフェネットが若干引き気味だ。まさか殲滅する気じゃないよね…?
「あーー、えーー僕達は人間。仲間、敵じゃない〜。」
「ーー、ーー!!ーーーーー、ーーーー!ーー!!」
「え、なに?」
間違いなく言語だったけど、なんの言葉か分からない。
「人型バグみたいに意味不明な言葉じゃないからまだマシだけど…。」
「人型バグ…?あれが喋ったの?」
アネモネに不可解そうに聞かれて振り返るとみんな同じ様な表情だった。ん?なんでそんな目で見られるんだ?
「いや、音のようで声のような意味不明な言葉を発してたよね。あいつ結構お喋りだったし一度は聞いたでしょ?」
「…ううん。私は一度も聞いていないし、多分みんなも聞いていないと思う。」
アネモネ以外のみんなも奴の言葉を聞いていないらしい。…僕しか聞いていない?僕しか聞こえていなかったのか?
何故か今になって変な事実に気付いたけど、今はそんなことに思考を割く時間はない。早く彼女達との間に信頼関係…は築くことは出来なくても、敵意が無いことは知ってもらわないと。
「…オマエ、タチダレ、だ?」
い、今!話したよね!?僕達が使っている言葉を使ってコミュニケーションを図ってきた!!
「話した…彼女達は僕達の言葉を知ってる。イントネーションとか違うしぎこちなかったけど間違いなく話したよ!」
「イッア…イッタワカラナイ。ワタシ、ソコマデハナセ…い。」
…僕の話した意味が分からない?そこまで話せないって言ったのか?あまり僕達の言葉を知っていないんだ。…でも知っている?どこで知った?誰かが僕達と同じ言語を使っているのか?
疑問が尽きないけど今はコミュニケーションを取れる術を確立させよう。
「僕、あなた、分かる?」
指を指してお互いの名称を確認する。…これは分かっているみたい。なら次は…
「あーー仲間、グループ、人間。」
僕と3人を交互に指し合い敵意が無いと伝えようとするけど…信じていない感じ。そりゃあアネモネが吹き飛ばしたからね。敵意があって当たり前か。…この事態ってもしかしてアネモネが悪いんじゃないか?
「アネモネのせいで敵意が薄まりません。どうしましょうか。」
…無言が続く。誰も何も言わない。だってそのとおりだから。アネモネなんて顔をそらして僕と目を合わしてくれない。
「…ごめんなさい。」
僕が謝ると向こうの警戒心が薄れる。あ、これは伝わるのか。この一言がまさか3人の警戒心を弱めるキッカケになるとは思ってもいなかった。アネモネもちゃんと謝れるようになろうね。…ね!
「……ーー、ーーーーーー、ーー?ーーーー。」
「ーー!ーーー!!ーー!」
「…ーーーーーーーーーー、ーー…ーーー。」
3人で顔を突き合わせて話し合っているけど耳はコッチを向いている。警戒しながらも建設的な話し合いをしてくれているようだ。
「…テキ、ナイなら、ボク、コチラコイ。」
敵…じゃないなら僕がそっちへ行くみたいな話か?
「…行ってくるよ。」
腰に巻いていたホルダーを外してディズィーに渡す。ホルダーの中には拳銃が入っているから敵意が無いと知らせるための演出だったけど、良く考えてみると彼女達は拳銃を知らない可能性が高いから意味が無かったかも。
「気を付けろよ。…何かあっても反撃はしすぎないようにな。」
アネモネが更に顔を背ける。…みんなの視線が痛そうだ。やりすぎは駄目だってディズィーに言われたけど、最悪の場合は逆行してやり直すか。こんな状況にすらならないように出来るかも。
「…えっと、こんにちは。」
「くんくん。」
鼻を近付けてきて身体の匂いを嗅がれる。まるで本当に獣みたいだ。…近くで見ると彼女達と僕達との身体的特徴の違いが良く分かる。耳や尻尾もそうだけど髪が真っ黒で目の色も黒い。彼女達が鼻をひくひくさせると口から牙がチラッとだけ見えたから歯も違うかも。
あと手足が長い。手も大きいし指先の爪が長くて頑丈そうだ。それに足の方も。…靴を履いていないのはアネモネが吹き飛ばしたからじゃないよね?もしそうなら探さないと…
「…バグ?…ニンゲン?」
なんだその質問は。どう見ても人間だろうに。…頭に耳は生えていないけど。
「人間だよ。宇宙から来た。」
空の上を指差して僕達が宇宙から来たかつての隣人であったことを告げる。これが僕達の進む道を決める出会いだったと、遥か先に居る私達はこの出会いをそう語るのだった。




