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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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再出発

シルバーを生き返らせる事が出来ないと分かった次の日の朝、僕達は基地の瓦礫を掘り起こして手に入れた物資を車に詰め込み、崩落して住めなくなってしまったこの基地を去った。ここに居てもバグに見つかりやすいし、何よりも先にここを離れた先輩達のところへ向かわなければならないからだ。


先輩達には丘の方へ避難してもらっていて、もしその夜になってもシルバーが迎えに行かなかったら別の基地へと向かうよう指示が為されている。その基地は昔使っていた仮拠点で、定期的に整備がされていてるから未だに使えるらしい。


僕達も地図を頼りにそこへ向かった。…シルバーを置いて。


彼女の遺体は丁寧に埋葬した。地球で死んだ場合は埋葬するらしく、その時に頭だけ切り取ってネストスロークへ送るのが通例と教わったけど、僕の意見で全身を埋葬することにした。彼女の仲間達が眠っているこの地球で一緒に眠りについてほしいという僕のワガママで…


「アイン運転出来たんだね。あ、教わってたんだっけ…」


「うん…1回しか運転したことないけど大丈夫だよ。」


フェネットは何気なく聞いてしまったが、アインが前回の時に教わって後ろから拳銃で撃たれた時の記憶から運転が出来ると言ってから気付いて、申し訳無さそうに語尾を萎めた。


それに対しアインは気にしていないと教えるために語尾を強め明るめに返した。これぐらいの気遣いが出来るぐらいにはアインはもう回復している。能力の使い過ぎによる障害は見られない。


「地図によると先輩達との合流地点ら丘を越えた先の…山…かな?」


「山だと坂道だよね。燃料保つかな…」


人型バグの最後に放ったあの一撃で車の燃料を保管していたタンクのバルブが破壊されて燃料の補給が出来なくなったせいで、今僕達が乗っている車には燃料の蓄えはあまりない。


しかも8人と物資を運ぶために車の荷台にはぎっちりと人が敷き詰まっているし、車の後ろにはロープで牽引している荷台車もあって非常に燃費が悪い。最悪途中から歩きになると思うから前もってみんなにはそう伝えている。


「そんなのはいつか分かるでしょ。今は確実に辿り着けるよう考えましょう。」


地図を回し見をしながら丘を越え山を登り、夕方になった時に僕達は目的地である仮拠点に辿り着く。


「…嘘、でしょう…」


そこには無惨に殺された先輩達が、崩落した仮拠点の基地の中で2日間以上も経過した状態で発見された。先輩達の身体はバラバラに切断されており、ここにあの人型バグが来ていた事は間違いない。奴はここに先輩達が居たことを知っていたのか?


じゃないとこんなピンポイントに人間の居る場所を襲撃出来ない。僕達が奴に襲われてから2日後にここに来ていたのはせめて方角が分かっていないと不可能だ!


「…どうする?先輩達も殺されて、基地も仮拠点も壊されているけど、俺達このあとどうしたらいい?」


聞いたディズィーも本当は分かっている。その質問に答えられる者は居ないことを。奴が人の位置を正確に認識して襲ってくるのならここに居続けるのは危険だ。僕は見逃されるかもしれないが、他のみんなはどうなるかは分からない。


「…ここを離れよう。2日間で奴がここに来た事を考えると僕達の歩く速度より早い。僕達は休憩したりも寝たりもしないとだけど、奴が人と違って休憩を取らなくても良かった場合は1日も掛からず追いついてくる。」


車は燃料が尽きてもう使えない。物資も食料が少なくなってきていてあと数日で底がつく。寝るところも休むところもないこの地球で、過酷なサバイバル生活を強いられる事になった僕達はただ行く宛もなく放浪の旅に出た。


バグから逃げるという目的と、生き残る為に食料調達という課題がある間はまだ良かった。みんながそれに向かって協力し合って悲観する暇も無かったから。でも人型バグの影も見えない日が20日間も続けば集中力や意識が薄れて暇になる。暇になればろくでもないことを考えてしまう。


食料の問題は先輩達に教わった方法で解決したが、味付けなどの調味料が無いため味気ないものばかりでストレスが溜まる。


予想していたよりも平和な時間が過ぎていくが僕達の精神は限界に近付いていた。特に僕の精神状態が一番酷かったかな。どこに居てもあの人型バグのことを考えてしまい寝ることが出来ない。


寝てしまうと夢に奴が現れて死んでいった先輩達の光景が出てくる。エピの話ではPTSDという症状で、過去のトラウマがフラッシュバックしたりする障害だとか。


下手に落ち着いた環境に身を置かれたせいで疲れとストレスが一気に出てきてそれを知覚してしまったのが原因だと思うけど、今の僕にはどうしようもない。


昼間はみんなが起きているのでその時間に眠りにつくせいでみんなとコミュニケーションが取れないのも原因だと思う。僕の寝ている間にみんなが死んでしまう想像や、僕のことを邪魔だと思っているんじゃないかっていう被害妄想までするようになってしまい気が狂いそうだ。


「そんなこと思うわけ無いじゃない。アインが居たからみんなこうして生きていられるんだから。」


アネモネはいつもそう言って僕が寝るまで傍に居てくれるが、彼女もツラいだろうに気をかけてくれている。それが本当に申し訳無くて、甘えるわけにはいかないと分かっているのに何も出来ずに今日も惰眠をむさぼっている。


「このままだとアインを休ませてあげられない。ちゃんとした拠点を作ろう。」


アネモネの提案で川の近くに仮住まいの家を建てることになった。今までも移動しながら休めそうな木陰や能力で穴を掘ってそこで休んでいたりしたけど、移動しながら食料を探すのを止めて完全にそこに拠点を置き、そこで食料の確保やこれからの行動方針を話し合ったりするらしい。僕はその話を後で聞かされていたから詳しい経緯は知らない。


…みんなが気を遣って僕が寝ている間に決めたのだろうけど、それがまた距離感を感じさせて不安な気持ちになってしまう。…考え過ぎだって分かっているのにどうしても卑屈というかマイナスな思考になるのが苛ついて仕方ない。


「アインは休んでていいぜ。」


「うん…分かったよ。」


ディズィーは元気そうに拠点造りを始めて僕は邪魔にならないよう静かにしていた。ディズィーの身体にはまだあの時についた傷跡が残っていて痛々しいけど、本人は気にしていないのか、それとも気にしていないよう見せる為に表面に出さないようにしているのか分からないけど、僕よりも元気そうではある。彼はサバイバル耐性があって羨ましいよ。


…妬ましい気持ちで見ている自分に気付いて嫌な気持ちになったけど、それ以上に彼の姿には元気を貰えて幸せな気持ちになれる。ディズィーにはずっとあんな風に過ごしてほしい。そう思えば僕のやってきた事に自信が持てるから。


「…人の声が聞こえた。」


大木を持ったディズィーが突然そんなことを言って周囲を警戒し始める。人の声はさっきから聞こえるけど、それはみんなの声であってディズィーの言っている声とは違うらしい。…僕達以外に人が居る?


「…バグじゃない?人の声を真似るタイプのやつ。」


「みんな固まって、バリアを張るから。」


ナーフとユーがいち早くディズィーの元へ集まり、それにつられてみんなも集まってきた。…戦闘なら今の僕でも役に立つ。迷惑を掛けてきた分ここで頑張らないと…

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