再起からの終着
アインは淡々と能力の行使をし続けて一言も説明をしてはくれなかった。私の覚えている事は人型バグを倒し、みんなの元へ走り出したところまでで、そのあとは何故か夜になっていたりアインがボロボロだったり、あとは………みんなが死んでいたり、ね…
こんなの誰でも見れば状況が分かる。こんなこと…説明する必要も無かったよね。だってアインが今もやってることを私にもしてくれたのは明白だし、私達はアインを残して殺されてしまったのは疑いようがない。
地面の傷跡からあの人型バグによる攻撃でバラバラにされたと思うけど、倒せていなかった…んだよね。周りの木々や基地の崩壊を見ればどれだけ凄まじい戦いがあったのかは想像に難くない。寧ろ良くアインは生き残った。
アインの様子から敵を倒した訳では無さそうだけど、なら敵はどこへ?聞きたいことがいっぱいあるけど、アインはアインでいっぱいいっぱいになっているし…。
今も黙々とみんなを生き返せているけど、この私達を生き返らせる能力は本当に凄い。かなり脳への負担も多きそうで集中する必要がありそうだから声は掛けない。そうしてほしいから喋らないんだと思う。
「あ、あれ?なんで暗いんだ?」
「…へ、な、なんかおかしくない…?」
次々とアインは蘇生に成功し、生き返ったみんなは死んだ仲間を見て状況を理解していき周囲の警戒に移っていく。何も言わなくてもこういう行動に移せるのはさっきまで戦っていた記憶と、ネストスロークで受けた訓練の賜物だと思う。
そして遂に最後の蘇生を終えたアインは気絶するようにその場に倒れ深い眠りに入ってしまった。とうに限界を越えていただろうに…私達を生き返らせる為に無理をしてそれが祟ったんだろう。もう休ませてあげないと…彼は私達の知らない間もずっと戦い続けていたんだから。
アインを寝られそうな場所まで運んで私達も仮眠を取ることにした。敵がまだ周囲に居る可能性が残るが、その点について特にアインが言わなかったということはもう敵の心配はしないでよいと、みんなで話し合って明日のために休息を取ったのだ。
皆の顔色も悪かったし、脳への負荷も相当なものだからここで脳を休ませてあげないと最悪脳が潰れて廃人になってしまうか、そのまま死んでしまう。私達はアインを囲むように横になり眠りについた。
疲労が限界だったからみんなすぐに眠れたけど、どうしても寝る事に集中出来なくて私だけ早く目が覚めてしまった。まだ日が昇り始めた所で朝日が眩しく、私は周囲の確認とアインの様子を見てみる。
周囲は相変わらず木々が倒れていて視界が良好で、よく考えてみると私達は丸見えの状態だったみたい…昨日は相当疲れていたらしくこんなことにも気付かなかった。
「アインは…昨日と変わらずに寝てる。呼吸が浅い…。」
私はアインの肺に空気を送り込んで脳へ酸素が供給されるよう手助けをして顔色を見る。…唇の色が青っぽい。体調が悪そう…まさか病気になっていないよね?
地球には病気を引き起こす病原菌が存在すると聞いた。ネストスロークではそんな菌が存在しないから私達には耐性が無いらしい。最悪の場合は命に関わる事もあるから抗生物質などで対処するって…
「…基地内にあったはず。物資も掘り起こさないとね。」
太陽が真上に昇った時にアイン以外のみんなが起き始めたから私は食料、医療品などの物資と…シルバーの遺体を掘り起こすためにみんなで協力して崩落した基地の中へと進んでいった。願わくば、彼女も生き返れるよう遺体が必ず見つかって欲しいと思って…
「う、げほっげほっ…ヤバい、気を失っていた。」
能力を限界まで使った影響で意識を失ってたらしく、毛布を掛けられて寝かされていた。まだ辺りは暗いからそこまで時間は経っていないはずだ。それならシルバーの蘇生に間に合う。
ガシャンッと、何かを落としたような音がしたのでそちらを見ると、アネモネが水の入った容器を落として僕の顔をまじまじと見ていた。
「アイン…良かったっ!目が覚めたのねっ!」
「アネモネ、良かった…ちゃんと生き返らせ…!?」
アネモネが駆け出して起き上がったばかりの僕に向かってダイブしてきた。あまりのことに僕は反応出来ずもろに彼女タックルを受けてしまいそのまま後ろへ倒れてしまう。かなり痛い。
「ありがとう…あなたが居なかったらこうやって話すことも出来なかった。アインが頑張ってくれなかったらみんなとお別れの言葉も言えずに死に別れてた…本当にありがとうっ…。」
どうしよう…泣き出しちゃったんだけど、今はお腹空きすぎて頭が動かないんだよね。だから優先事項を立てて最も優先すべきことから片付けていかないと…
「あの、アネモネ?シル…」
「アイン!?起きたのねっ!」
「うおお!!やっと起きたか!お互いに死に損なったな!」
「心配させて…!」
うわぉ…いっぱい来ちゃった。一気に騒がしくなって色んな所から色んな事を言われるけど全く聞き取れない。聞き取っても頭が動かないから処理出来ないよ。
「こら、アインが困っているでしょ!」
「いやお前が一番困らせてるだろ。そろそろ離してやれよアネモネ。」
ナーフの言うとおりもっとアネモネに言ってほしいよ。僕にとって都合のいい事はすんなりと聞こえるね。
「そうだね、ちょっと重いし苦しい。」
「…分かったわよ。」
「ふぅ…それでどれぐらい僕は意識を失っていた?」
「えっとね、アインは…」
1〜2時間は気を失っていたかな?
「3日間も眠っていたんだよ。」
………え、聞き間違いか?3日間って言った?
「嘘、だよね?3日も眠っていたなんて…」
「ううん。アインずっと起きなくてみんなで交代して看病したんだよ。特にアネモネが頑張ってくれたから顔色も良くなって…」
フェネットが言い終わる前に僕は立ち上がって駆け出した。走り出すと足がもつれて3日間も寝ていたのが真実だと良く分かる。
(シルバーの遺体を見つけないと…!)
基地の方へと走っていくと布を被せられた人の遺体らしきものが視界に写って進路を変える。ヤバい…これは結構時間が経っているぞ!
「アイン待ってっ!」
待てないよ!僕の射程はそこまで長くない。3日間なんて時間はとてもじゃないが生きていた軌道まで創り出せない!
「頼む、逆行していけ!」
布を被されたシルバーの身体に触れて軌道を創り出す。…彼女の遺体がここに置かれたまでの一連の流れが手にとるように分かる。ここに安置されたのは1日前で…クソっ!これ以上は創り出せない!
「…無理そうなの?」
アネモネ達は一向に動き出さないシルバーを見て僕が彼女を蘇生出来ないことを察していた。みんなは僕がどこまで逆行出来るか知らないから安静に寝かせていたのだろうけど、本当は無理にでも起こしてほしかった…。
「…僕の射程は1日までなんだ。24時間以上前には戻れないし、戻せない。」
「そんな…!」
アネモネ達はシルバーを生き返らせれると思って彼女の遺体を瓦礫から掘り起こしたのに、それが叶わないと知りショックを受ける。彼女達にとって死というのはあまりに遠い出来事であり、経験のない喪失感に襲われた。アインとは違い人の死を見るのはこれが初めての事だから尚更だ。
(僕自身が逆行しても2日は経っているから完全に射程圏外だ。…ごめん、ごめんよシルバー。)
人型バグに襲われた際に僕は彼女に庇われて生き残った。彼女は僕に後で生き返らせてもらえると考えての行動だったかもしれないのに、僕は彼女の期待を最悪の形で裏切ったのだ。




