貫通の痛み
今回はセンシティブな内容があったりなかったりする可能性があり寄りのなしです。
初任務から一週間が経ち、報酬として組織から私の銀行口座とクレジットカードを与えてもらった。普通は審査とか色々必要なのだろうけど“組織”の下部組織にそういった手続きをしてくれるところがあるらしくて気付いたら私名義で作られていた。
結構な恐怖だったよ。完全に私の個人情報やら色んなものが把握され管理下に置かれているって事だもん。
でもそんな事を気にしていたらそもそもこの仕事を受けるなよって話だからね。切り替えて考えると初任務を終えたからには報酬がある訳で、しかも銀行口座も出来ている…後は分かるね?
「うまぴょいうまぴょい♪」
女子高生に大金を与えたら駄目だって!使い方知らないし下手くそなんだから!
自分と同い年ぐらいの女の子が徒競走する姿を後方で腕を組みながら見守るゲームに諭吉を注ぎ込んでいた私は生を実感していた。
高校のお昼休み、スマホと対面する事しかやる事がない陰キャである私は教室にも学食にも居場所が無い。女生徒1人だと何であんなに注目されるんだろ?こういう時ばかりは男子生徒が羨ましい。
あ、突然話は変わるけどイルカはポッドと呼ばれる群れを作って一緒に行動する動物で、これは外敵から身を守る為でありコミュニケーションを大切にする彼等の生き方には美しさすら感じる。
それに比べて人間のメスはグループという群れを作って一緒に行動する動物である。これはグループ内部に敵を作らない為でありコミュニケーションを強制させる彼女等の生き方には醜さすら感じる。
以前、私もこのグループに誘われた事がある。あれは入学してすぐの出来事だった。
「ねえ伊藤さん一緒にご飯しない?」
そこでふたつ返事で返したのが私の過ちだった。高校生になってちょっとだけ浮かれていた私は久しぶりに誰かとの繋がりを求めてしまった。
みんなで教室の隅を陣取り各々の弁当や購買で買ったパンやおにぎりなどを持ち寄り密集体制をとったのだけど、ここでもうかなり後悔した。私はあまり人に近付かれるのが好きでは無くパーソナルスペースが人一倍敏感だったからだ。
「伊藤さんってコンビニで買ってきたの?」「あ!私もそれ好き〜。」「伊藤さん誘うの緊張したよ〜。」「来てくれて良かったね。」
もう出来上がったグループに異物である私が加入したことによって話題が私中心になるのは仕方ない。そこを前もって予想出来なかった私のミスだった…完全に立ち回りミスだ。
その後は女の子が好きそうな話が続きマウント合戦にまで発展した。なんで人間のメスは序列つけたがるの?
マウント合戦にすら参加出来なかった私は間違いなく最下層扱いでこき使われると思い2度とそのグループとご飯を一緒にする事は無かった。誘われる事も無かったよ。
…まあ〜別に良いし?こっちから願い下げだったし?こっち見ながら耳打ちしてるのも気にしていないし?お前達が私を下に見て陰口を言っても?私はお前達がどの時間にどのトイレを使ってトイレットペーパーをどのくらい使うのかを把握してるんだぞっ!
それに〜?私は敢えて1人を選んだんだし!普通に忙しいしね!遊びでやってるんじゃないんだよ!
「テイオー!」
私はこれに命をかけていると言っても過言では無い。遊び感覚でやっている奴はここから出て行ってほしいよ全く…。
鞄からパンを取り出して口に運ぶ。
「やった!一着!!!」
私の大音量の歓声がトイレの中を響き渡る。ここのトイレは棟の隅っこにあって誰も来ない為、基本的にお昼をここで過ごしている。いや身を隠しているという表現が正しい。
「あ、トレーニング失敗した…運命を仕組まれた子供たちか。」
どこぞの副司令みたいな発言してから私はトイレから出ることにした。そろそろ午後の授業の予鈴が鳴るので早めに教室に行きたい。ギリギリで教室に入ったときのクラスメートの視線といったら…
ガラガラ ヒソヒソ
いや、だから見るなっておい!お前あからさまに見るなよ!…だから遅くには入りたくないんだよ。みんな居るし…。
「最近伊藤さん可愛いよね?」「あまり興味無いと思っていたけど」「元の素材が良いから羨ましいね」
何かまたあのグループ言ってるけど怖いから止めてほしい。早く放課後にならないかな〜雪さんとの約束が楽しみ過ぎて授業が辛い。
そして放課後、私は約束通りの時間に第一部ビルへとお邪魔していた。
「雪さ〜ん!来たよ〜!」
「美世ちゃ〜ん!おかえり〜!」
放課後に第一部ビルに帰宅した私を雪さんが温かく迎い入れてくれる。
「それで何故和裁士さん達が居るんですか?」
「それはね美世ちゃんの貫通式だからだよ!」
貫通式って何だよ。私はトンネルかな?
「止めてくださいよ見世物じゃないんですよ?」
「「「「「見世物だよ!」」」」」
「違うよ!」
もうヤダこの人達…普段からお世話になっているから強く追い出せない。絶対に分かっててやってるな。みんなの足元に私の衣服が入ったケースが置かれているもん!いつもありがとうね!?
「でもね?ここに集まってもらった和裁士さん達はみんなピアス開けているからサポートで来てもらったの。みんなとても詳しいから安心して!」
「はあー分かりました。こちらがお願いした立場なのでそちらにお任せします。」
「だってさ♪じゃあ約束通り1人1つずつでお願いします!」
「「「「やった!」」」」
ん?1つずつ?何が1つずつ?
そこからは敵の思う壺だった。オシャレお姉さんズの包囲網は強固で私はすぐさま白旗を上げることになる。
「いや、ちゃいますやん…」
雪さんを含む全員の手にはピアッサーやら色んな器具が握られている。私の耳は2つしか無いのにピアッサーの数が私の耳よりあるのは違いますやん。
「大丈夫ちゃんと似合うと思うよ。」「美世ちゃんの耳薄いから軟骨でも痛くないよ。」「もうピアスいっぱい持ってきたから諦めよう?」「清潔第一でやるからさ。」「軟骨いけるの!?」
「あの軟骨って何ですか?」
私の一言で皆の時間が止まる。そして円陣を組むように円になって私抜きで話し始める。止めろ!教室でも似たこと起きてるんだよ!
「嘘でしょ!?」「え?軟骨ピアス知らない女子高生この世に居るの!?」「無知の娘を貫通させるなんて性癖歪みそう!」「ヤッちゃおう?ヤッちゃおう?」「背徳感がエグいって!」「元々は私に話来たから私最初ね!」
チラチラと血走った目でこちらを見てくるハイエナ達。この世は弱肉強食だ。
「先ずは穴位置を決めるね!」
ピアッシングと呼ばれる器具類を使って穴を開ける位置を決めていく。位置が決まったら印を付けてそこの厚みをノギスで測る。
「あの〜私の感覚が正しいなら印の位置が左右で3つずつあるんですけど…」
「え?ピアス穴を開けに来たんでしょ?」
雪さん達のとぼけた顔に軽くイラッとする。ノリが完全に学生で現職の私でもついていけない。
「はあ〜もういいですよ。痛くしないでくださいね。」
その後は保冷剤で耳を冷やして痛覚を鈍らせてくれる。後は出血を防ぐためだとか?…血が出るの?
その間ピアッサーの除菌やら色んな準備をしてくれる。何か病院に居る感じがしてきて緊張してきた。
「本当に痛くないんですよね?」
にっこりと笑うだけで誰も喋らない。あれ?歯医者かな?
最後に私の耳も除菌してくれて後は貫通させるのみ…ヤバみが深い。
「優しくするからね?」
はい初めてだから優しく、優しくしてね?
ギギィーギギィー
バネが軋む音が耳元で響く。もう音が痛い痛い!私の表情をおかずにするな!写真を取るな!肖像権を守れ!
ガッシューン!
「あああああああああああああああ………」
貫通済みの女子高生になってしまった…ううぅサヨナラ…昔の未開通の私よ。
ギギィーガッシューン!…ギギィーガッシューン!…ーン…ン
サヨナラ何も知らなかった私。軟骨ピアスって耳の部位の事だったのね…
その夜は耳が気になり過ぎてろくに寝ることが出来ず、翌日に父と学校の担任にピアス穴を見られてしこたま怒られる事になったが、この話はまたの機会に話すとしよう。
後3話あたりで二章を終わらせたいですね。
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