再生の兆し
誤字脱字を直すために前の話を読んでいると「あ、ここでこの伏線張っていたのか、ちゃんと回収しないと」って気付けるのでやっぱり定期的にやらないとですね。
どれぐらい泣いていただろうか。辺りはもう随分と暗くなり夜になっていた。これからどうするかを決めなければならない。
ーーー逆行するか、しないか。
この2つのどちらかを選択するにあたって考えなければならない事はあの人型バグのことだ。逆行をすれば……また戦わなければならない。逃げてもこの攻撃範囲を見れば逃げ切れないことは分かりきっている。また僕だけ生き残れてもこの惨劇を繰り返すだけだ。
そして逆行しない場合、僕は奴から逃れる事が出来る。奴は僕のことを見逃したこと、その理由を記憶している。もう襲ってくるという事は考えづらい。
なら逆行しないという選択肢も充分に考慮するべきことのように思える。その場合は仲間が死んだという事実をやり直さないという事になるが……僕はそんな選択肢は絶対に選ばない。
僕の取る選択肢は逆行せず、この事象を固定することだ。だがそれでは先述語った通りみんなが死んだままになる。だからその事実のみを捻じ曲げよう。
ネストスロークでは僕は時計の針を逆行させてみせた。あれは無機物であったが、人の身体は有機物だ。違いはあれど僕自身が逆行出切るのだからみんなも逆行させられるはずなんだ。
ディズィーの軌道を捻じ曲げた感覚……あれは彼自身が僕の効果範囲に居たってことで、僕が生き物に対して逆行させられる根拠になっている。
「みんな……」
みんなの身体がバラバラになった血溜まりの所で膝を付きベルガー粒子を纏わせる。……先ずは1人だけ、1人だけ生き返らせてみる。何があるか分からないから。
先ずは誰を生き返らせるか考えた。……うん、彼女しかいない。アネモネを一番最初に生き返らせる。彼女の意見が欲しいし、もし失敗しても怒ったりしなさそうだ。
……いや、怒るのかな?それで結局は最後に許してくれたりね……
この能力が失敗し誰も生き返らなかったら僕もここで朽ちよう。そのぐらいの気合いで挑まないと何も成せない。
(軌道を創って、生きている時間まで逆行出来るか調べるんだ。)
どこまで遡れるかが鍵だ。生きている時間まで遡れないのなら射程圏外に居ることになる。でも、遡れたのなら可能性は出てくる!僕はアネモネの身体に触れて軌道を創り出した。
アネモネの身体はとっくに冷えていて、まるで彼女の身体は土や石のような無機物の温度だった。……頼む。軌道が創り出せればいけるはずなんだ……!
軌道を創り出していくとあることに気付く。彼女が死んで時間が経っているから、同じ姿勢であり続けたアネモネの軌道を創ると軌道同士が重なっていくのだ。つまり軌道は重なっても良いもので、それらの1つ1つに僕が干渉する事が出来る事が分かった。
そしてそういった事実を知り、自分の能力について理解を深めた僕は遂に望んでいた軌道に辿り着く。アネモネが生きていた軌道を創り出す事に成功した。この軌道まで逆行させてアネモネを生き返らせる。だが事はそう簡単にはいかないようで、創り出し続けた軌道が邪魔になっているのだ。
どの軌道も事象であり因果であるから、その前提がある限り僕の望む軌道まで逆行させようにも他に創り出した軌道が邪魔になる。これを無視して逆行は無理だ。
僕自身が過去へ逆行するのとは訳が違う。僕は僕という個体の時間は止めずに過去へ行くけど、今回のようなパターンはアネモネという彼女自身を逆行させないといけない。僕が過去へ逆行する場合はあの空間が勝手に時間の流れを創り出してくれているが、今僕が居るこの空間は常に一定に進んでいる。
それが干渉してしまい上手く彼女が生きていた軌道まで逆行させられない……時計みたいに上手くいかないのはアネモネが生き物で、生きている時間と生きていない時間との間に差があるからなのか……?
どうしよう……失敗出来ないのに上手くいかない。この生きていない時間の軌道が邪魔だ。同時に軌道を創り出せてしまっているせいで彼女の時間が複数重なってしまってる。この世界で複数の断続的な時間の状態なんて想定されていないから事象として発生させられないみたい。
……なら、このアネモネの生きていない軌道そのものを削除出来れば、彼女の最も新しい時間の状態は死ぬ直前の軌道ってことにならないか?
試す価値はあると思う。でも削除する能力が僕に備わっているのかが分からないから試しながらでいくしかない。先ずはこの無駄な軌道を削除してみるか。
アネモネの死んだあとの軌道に触れて削除出来ないか試してみるが中々上手くいかなくて焦りが生まれる。時間が経てばみんなの生きていた時間が射程圏外に行ってしまうから早くこの軌道を削除しないと……!
軌道を押し潰すようなイメージで削除しようとしても軌道を創り出した能力を解除してしまうだけで、目的である軌道の削除とは全く異なる結果になってしまう。
「ハアッ……!ハアッハア……これかなりキツいぞ。」
脳への負担が馬鹿にならない。ここまで能力を使った経験が無いからどこまで脳が保つか分からないけど、結構限界が近い筈。……だからといって出し惜しみはしていられない。
「壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ……っ!」
爪を突き立てて引き裂くように軌道に干渉したりしても軌道は消えない。……消せないのか?生き返らせる事は無理?……逆行すればまたみんなに会えるが、みんなは記憶を失い経験のない状態でまたあんなのと戦わなければならなくなる。
ディズィー、ナーフ、ユー、マイ、エピ、フェネット、そしてアネモネ……。またみんなと会うためなら戻るのもいいのかもね。
「くっそ……またみんなを死なす為に戻るのか。」
僕の逆行は1日以上先までは戻れない制約の為、戻れてもまたあの夜にしか行けない。あの時間に戻って無理やりみんなだけを連れて逃げれば助かるのか?いや、それを助かったと言えるのか……?
逃げただけで助かってなんかいない。問題の先送りで、殺される時期をずらしたに過ぎない。
「アネモネ……」
アネモネの死ぬ直前の軌道が目の前にあるのに届かないなんて…………………いや待てよ。届かない?届いているから軌道が生まれているのに?それはおかしい、届いてはいるんだ。
ならそもそもの話、アプローチの仕方が間違っているんじゃないか?
僕は立ち上がり軌道を様々な角度から眺めて頭の中で整理する。軌道を創り出した【再現】と逆行する能力の【逆行】
この2つの能力の捉え方が間違っていたかもしれない。【逆行】はあくまで時間の流れを逆らう能力で、削除とは関係ない。削除する能力は【再現】に干渉しないといけないんだ。時間の流れは一旦忘れていい。軌道を削除してしまえば結局生き返れるんだから!
頭の中が晴れていくような確かな感触に僕は自然に能力を行使していた。特に何も考えずやるべきことが分かったからやってみたような軽い気持ち……でも確信はある。間違いない。これが正解だ。
触れた軌道が次々に消えていき、必要のない軌道が無くなる度にアネモネの時間が勝手に逆行していく。……やっぱりそうだ。軌道を創り出す際には逆行する必要があるが、それ以外は必要ない。必要なのは【再現】だ。再現するのは生きていた時間のアネモネで、それ以外は軌道を創り出す必要性がない。
つまり生きていた軌道までは逆行させるが、その軌道を再現出来れば【逆行】の能力は行使しなくていい。同時に能力を行使し始める必要があるが、し続ける必要はない。
この工程を一つの能力として表すのなら……そうだな、削除する工程でもあるから……【削除】……か?
必要のない工程を無くして必要のない事象すら削除する。それがこの能力の使い方。僕の新しい能力だ。
能力の行使がし終わって確かな感触を得た僕はアネモネの軌道が無くなった事を確認し、彼女の身体を観察する
「みんなー…………へ?な、なんで急に暗くなったの?え、みんなは?アイン……?」
「……おかえり。戻ってくれて良かった……っ。」
彼女を生き返らせる事に成功した僕はアネモネに泣き顔を見られないようすぐに他のみんなの蘇生に取り掛かった。もうイチから説明していられるほど時間も余裕もない。僕の脳が潰れてしまう前に早くみんなを生き返らせないと……!
この蘇生方法は美世のやり方……というよりあの時代とは違います。その理由は後に分かると思いますが、書き忘れるかもしれません(笑)




