能力限界地点を越えて
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空気と光が遮断されたこの地中で対抗策を考えねばならない。だが、それ以上に精神的問題を解決せねばならないという問題が残されている。
「ご、ごめんなさいっ。私の能力のせいでみんなに迷惑掛けて…っ。」
ナーフが自身の判断のせいで仲間を危険な目に合わせてしまった事を深く後悔し、失敗した自分を追い詰めているような言葉を口に出してしまう。その彼女の普段から考えられない言動に、ナーフの心に傷付いた傷の深刻さが良く伝わってくる。
「…後悔は後、先ずはここから脱出する方法を考えて。それ以外は考えては駄目だし口にしないこと。」
話しているだけで息苦しさが増していく。ここに残された酸素なんて殆どない。人は吸った空気の酸素を全て取り込めない。だから吐き出した空気はまた吸って酸素を取り込めるが、しかしそれにも限度はある…、あと何回呼吸出来るものか…。
(…敵はすぐ頭の上に居て、ここにはあと数分も居られない。)
アネモネは思考する。この状況を招いたのはナーフではなく私だ。私の浅い考えと経験不足からこの致命的な状況を招いた。…ディズィーもアインも良くやってくれた。私はろくに役に立たず彼らに負担を掛けてしまったのに、また負担を他の仲間に掛けようとしている。
考えないと…考えて考えてすぐに行動に移さないと駄目。みんなの能力を使ってここから安全に出れないものか…。
「あの、俺あいつの能力分かったんだけど話していいか?」
エピが小声で出来るだけ空気を使わないよう口にした。その情報がこの状況をどうにか出来るかはエピには分からない。だが他のみんななら思い付くかもしれないと思い貴重な酸素を使ってでも発言する。
「…言って。」
コンパクトに伝えるがその声からいくつもの決心を決めた者にしか出せないものがあった。恐らくこれでこの空間にある酸素は無くなってしまう。だがアネモネはエピに賭けて情報を聞き取る選択を取ったのだ。
「あいつはただの光だけを操っているんじゃない。ナーフのおかげで分かった。」
ナーフは顔を上げてエピの声のする方を凝視する。光も届かない地中の為、大体の方しか見えていないが間違いなくエピはナーフに向けて話していた。
「光って粒子と波長の要素を持った相補性があるよな?光ってエネルギーが物質に当たると原子が振動して熱が生まれるけど、奴は光ではなくそのエネルギーを操る能力だと思う。」
光だけならあんな瞬間的に動ける能力が説明出来ないが、エネルギーの指向性を変えられるのなら話が変わってくる。
「あいつはナーフの創り出した光だけじゃなく熱やそのエネルギーすら吸い取ったよな。それで分かった。あいつは自分の持っているエネルギーを粒子か波長として発して動いているんだ。電波と同じだよ。光速で動いている。」
それなら奴が人に精神攻撃を仕掛けられる事にも根拠が生まれる。人型バグは光のエネルギーを利用して様々な攻撃に転用出来る能力を持っている事が仮定出来るから。
「…それで?ここから出れる話に繋がるんだよね?」
少し無言の時間が続いたのでマイが声を出して反応を伺う。今の話は確かに重要な内容だったが、この状況と何か関係あるのかとマイは疑問を感じている。こんなモヤモヤした気持ちで窒息死するのはゴメンとエピの脇腹を肘でついた。
そしてその話を聞いたアネモネが一つの提案を口にする。
「…ナーフ、もう一回能力を行使してアイツにぶつけてみましょう。」
「はぁっ!?アネモネどういう意味よそれ!?」
流石にこれにはナーフも大声を出してアネモネの提案に反応した。また失敗し仲間に迷惑を掛けるのはゴメンだとばかりに否定的な声を出す。
「ごめんこればかりは賭けになるんだけど、敵はダメージを負っていて能力の行使に制限が出来ているかもしれない。」
本当に勘でしかない。でも精神攻撃をするには奴の目を見ないといけない制約があるけど、奴の目は血が流れていたように見えた。チラッとしか見ていないけどもし見ていたなら私も精神攻撃を受けていたはず。でもアインの攻撃でそれが出来なくなっていたなら能力の行使に問題が生じているかもしれない。
「…根拠は?これに賭けてもいいっていう根拠を見せて。じゃないと私のせいでみんなを失ってしまう。」
ナーフは自分の能力と相手の能力の相性が最悪であると考えている。自分の能力を利用してあの斬撃を出してきた。ディズィーもあの斬撃で弱っている。もう仲間が傷付くのは見たくない…!
「…無い。そんなものを証明する時間もないからやるしかない。もし間違ったら私のせいでみんな死ぬことになる。でも、私は死ぬならみんなとがいい。」
危険すぎる賭けだ。正気とは思えない。今までアネモネの作戦は失敗に終わっている。それは彼女自身が骨の髄まで理解しているが、それでも決断をするしかないのだ。全ては皆で生き残る為に。
「…ナーフの光って気体がイオン化してプラズマを生じたものだよね?つまりは燃焼している。さっき煙出てたもんね。」
フェネットが自分の能力とナーフの能力を比べて頭の中で理屈を立てていく。こんなことはネストスロークでもしたことが無かったが、何故か頭が自分でも信じられない程に回転して思考が出来ている。
「じゃあさ、私の能力でもイケるんじゃない?」
光ではなく熱などのエネルギーを操る能力なら自分の能力も奴にとっては効果範囲になる。フェネットはナーフとアネモネに提案してみて作戦の強度を上げられないか持ちかけだ。
「…イケると思う。それしかない。もし駄目なら…」
「ぼ、僕が防ぐ…。」
「「「「アインっ!?」」」」
突然聞き覚えのある声がして皆がアインの声だと気付き大丈夫なのか心配そうな雰囲気を醸し出した。
「…お、俺もイケるぞ。少し、寝てたら治ったわ。」
終いにはディズィーまで身体を起こし参戦する。また盾になれると口にしたが、この2人が居るのなら敵の攻撃は防げて作戦の成功率はグンと上がる…しかしそれは本当に鵜呑みしていいものなのか判断がつかない。もう2人は能力の行使する余裕は無さそうだからだ。
「…本当に大丈夫なの?大丈夫だって、信じていいんだよね?ふたりとも…。」
信じたいし心強い。だがこの2人は特に仲間思いで自分よりも仲間を優先する。…自分の命を投げ売ってでも私達を助けるんじゃないかって疑いの目を私は2人に向けている。それは私が許さない。誰かを犠牲にするぐらいならみんなで死んだほうがマシだ。
私は2人を亡くしてこの地球に残されたくなどない。
「…ヤバかったらユーに任せる。」
「俺も…。」
「え、あ、うん。ま、任せて!」
突然振られたユーはプレッシャーに押し潰されそうになりながらも返答した。…そこでユーはここにはもう吸える酸素が残されていない事に気付く。タイムリミットはもう過ぎていた。もう行動するしかない。いくら呼吸しても息苦しさが改善されず、寧ろどんどん苦しくなって頭痛が進行していくのだ。もう皆が腹を括っていた。
「ふぅ…行くよっ!」
始めに仕掛けたのはユーだった。バリアを張り膨張させ地面を全て吹き飛ばしていく。そして傾いた日から注ぐ光が見えた瞬間にアネモネは空気を操作して皆の口元に運んで酸素を吸引させた。能力を使うには脳のコンディションを整えてあげなければならない。いま自分達に必要なのは酸素と敵の位置を探ること。
アネモネは空気を取り込むと同時に押し出した土が舞った大気を吹き飛ばして視界を確保する。今現在の自分の能力が機能するとしたらこれぐらいの雑用しかないと認めてプライドを捨てた。もうナーフ達に任せるしかない!
「ナーフ!フェネット!決めちゃってっ!」
ユーが叫んだ。ヒステリックを起こして叫んだのではない。ナーフのことを鼓舞するような期待しているような咆哮だ。それを聞いたナーフはまだ自分を信じてくれているユーに驚き、そしてそんな自分すら信じられなくなっている自分に恥を感じた。
(失敗したなら取り返すだけでしょうがっ!!)
メソメソしているのは性に合わない。もう止めだ。ここは開き直って失敗したら謝ろう。どうせここで何もしないって選択なんて取れないんだから期待に応えるだけのことなのに、なんで傷心なんてしているんだろう。
そんな考えすら振り切って能力に全てのリソースを割く。手の中にさっきよりも大きな光を発するプラズマが発生してイオン化した空気の匂いが鼻孔をくすぐる。あまりの熱量に構えた手のひらが熱く感じる程で次第に皮膚が焼けて火傷してしまったが、ナーフは止める気は一切無い。寧ろどんどん熱量は強くなりまるで人型バグを誘っているようだった。
「私も行くよ!」
フェネットの手の中にベルガー粒子が溜まり赤い陽炎が生まれる。その陽炎は炎と変わり空気が燃焼した。フェネットの能力の一つであるパイロキネシスはあの空気の無い地中の空間では使用できないし、酸素量が管理されているネストスロークでは使用制限が存在してその効果を発揮する場面も評価されることも無かった。
しかし大気の星である地球では別だ。この星には燃焼する物に溢れており、地球上に存在するどんな生物も2000℃を超える炎には耐えられない。
「任せたぜ、みんな…。」
「はぁ…はぁ…」
ディズィーもアインもああは言ったものの限界はとうに越えている。人型バグの攻撃は防げてもあと一回…これで仕留めれなければ敗北は免れない。
アイン達は準備万端で奴が姿を現すのを待ち続けた。そして遂に人類の敵であるバグが姿を現した。…正面だ。ナーフとフェネットの創り出したエネルギーが正面に向かって吸われていき、あの青い瞳がアイン達を睨む。
「これで終わりにしましょう。人類と人類の敵との因縁を!」
地球で行なわれたアイン達の初めての戦いが今、ここで決着がつこうとしていた。
長かったような短かったような戦いが終わりそうです。




